01 NOV/2024

【ジェーン・スー】28歳は第二のスタートライン。損得勘定せず働いた先に持ち味を生かせる仕事がある

Woman type13周年特集
28歳、これからの私。

もうすぐ30歳──「素敵な大人」になるために、28歳の今からやっておきたいことって何? サイトオープン13周年を迎えたWoman typeが、「なりたい自分」になるための“28歳のこれから”を一緒に考えます

コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家として、女性から熱い支持を集めるジェーン・スーさん。

『ジェーン・スー 生活は踊る』(TBSラジオ)ではあらゆる年代、属性の人からの相談に答え、『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』(TBS)では同年代の堀井美香さんと共に、「楽しく生きるおばさん」の姿を見せてくれている。

そんなスーさんに「28歳」をテーマに話を聞いてみると、「注意書きを入れてほしいんですけど」とこんな前置きをした。

スーさん

これから私が話すことは、仕事で満足したい、稼ぐ力を手に入れたいといった気持ちが強い人に向けたものです。

でも、仕事との向き合い方は人それぞれ。仕事にそこまで重きを置かなくてもよいという人が「こうはなれない」と負い目に感じる必要はありません。

それはもう、太字で強調していただきたいですね。

さて、あなたの仕事との向き合い方はどうだろうか。

取材を通じて見えてきたのは、どうやら28歳は仕事へのスタンスを見直す良いタイミングでもあるということ。

「私にとっての仕事とは?」を考えながら、スーさんの言葉に耳を傾けてみよう。

ジェーンスーさん

コラムニスト、ラジオパーソナリティ、作詞家
ジェーン・スーさん

1973年、東京生まれ東京育ちの日本人。TBSラジオ『ジェーン・スー 生活は踊る』、ポッドキャスト番組『ジェーン・スーと堀井美香の「OVER THE SUN」』のパーソナリティとして活躍中。『貴様いつまで女子でいるつもりだ問題』(幻冬舎文庫)で第31回講談社エッセイ賞を受賞。著書に『生きるとか死ぬとか父親とか』(新潮文庫)、『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)、『闘いの庭 咲く女  彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)など多数■XInstagram

28歳は「仕事の現実」に気付く時期

28歳は大卒の人が新卒で社会に出て6年目。自分の仕事や会社、社会がどういうものなのか、うっすら見えてくる頃だと思います。

自分を振り返ると、新卒で入ったレコード会社にいた20代前半は、経験がないからこそ、何でもできると勘違いしていた時期。

だから「私の方がかっこいい音楽を知っている」「もっとこうした方がいいのに」というようなことばかり考えていて。

でも、20代後半に差し掛かるとだんだん当たり前の現実に気付き始めるんですよね。

「給料は売上から出るものだ」
「私がかっこいいと思っているものが売れるわけではないんだ」
「私個人の能力ではなく、会社の看板で仕事をしているだけなんだ」
「昇進したいわけじゃないけど、そもそも女性のキャリアパスが多いわけでもないな」

実際にやってみたら、簡単なことなんて一つもありませんでした。

願望だけではやっていられない。何でもできると思っていた新人時代をへて、そんな現実が分かってくるのが28歳頃ではないでしょうか。

現実的に考える女性

いわば第二のスタートラインに立ったわけで、この先は見えてきた現実を朗らかに受け止めながら、とにかく課されたことをコツコツやって、自分の力を培っていく期間だと思います。

会社員なら、目の前のタスクを120%で打ち返すのが最も頭角を示せる働き方です。

会社の看板があるうちにできる仕事は全部やるつもりで、目の前の業務で成果を出すことを考えながら、手持ちのカードを強くできるといいんじゃないかな。

学生気分が抜けないと「こんなに一生懸命頑張っているのに評価してくれない」という発想になりがちだけど、頑張りにお金は払われないのが会社。大事なのは売り上げだってことはもう理解できるはずです。

やりたいことを口に出すのは大切かもしれませんが、実績が伴っていなければなかなかチャンスは巡ってきません。悔しいことに、期待だけでチャンスが巡ってくる層もいるにはいるのですが、それはごく一部。

だから自ら何らかの結果を出して、それを武器にチャンスを自分で取りに行きましょう。その先に、自分のやりたい仕事があるのだと思います。

何より成果を出すと、意見が通りやすくなるんですよ。ぜひ会社が自分の言うことを聞いてくれる快感を覚えて、ネゴシエーションできるようになってください。

「損したくない」は大損!

その際に間違えちゃいけないのが、職域を超えた仕事はしないってこと。

「あの部署が機能していないから、別部署の私が気を使って手を回している。それなのに評価されない」

あるあるの不満ですけど、これって当たり前のことなんです。

大きい会社ほど社員をできるだけ公平に評価するように基準が設けられていて、「その人が所属している部署でどれだけ貢献したか」が基本の評価軸です。

それはそろそろ理解した方がいい時期。他部署の手伝いをしても、そこを評価する軸が考査表になければゼロになってしまいます。

評価がされないことに不満を抱き、パソコンを前に頭を抱える女性

ただし、職域内の仕事に関しては、損得勘定を走らせない方がいいと思います。

「損したくない」という気持ちの人が得することはなかなかありません。長期的に見ると大損です。コスパやタイパといった発想も、自分が担当している仕事に関してはやめた方がいい。

例えば『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』で紹介した神崎恵さん。今は美容界のトップランナーですが、美容の仕事を始めた当初は小さい仕事もたくさんしていたそうです。

来た仕事に対しても、求められてることをしっかり考えて、彼女の性格を考えるとおそらく120%の準備をしているはず。実際に使われたのが10%だけだったとしても、損をしたとは思わないでしょう。

これ以上やることはないと思えるまで準備をすれば、不安が減ると同時に自信にもなります。使わなかった準備も、その後生かせるタイミングが絶対に来ますから。

「子どものお弁当、ママファッション、プチプラの時短メイク……神崎さんの発信は全て『今何が求められているのか』を考えた結果だと思います」(スーさん)/イラストは『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』より引用

「子どものお弁当、ママファッション、プチプラの時短メイク……神崎さんの発信は全て『今何が求められているのか』を考えた結果だと思います」(スーさん)/イラストは『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』より引用(イラストレーション:那須慶子)

筋トレと一緒で、コツコツ積み上げた力は絶対に人から奪われません。人から盗まれないものを蓄え、その上で「この仕事はちゃんと実績として積み上がるものか」を見極めるのは大事だと思いますね。

30代は「好き・嫌い、得意・苦手」を見極める時期

何より損しないことだけを考えていると、得意なことは見つかりません。

損得勘定を抜きに与えられた仕事をコツコツやっていくからこそ、自分の好きなこと・嫌いなこと、得意なこと・苦手なことが見えてきます。かつ、得手不得手は人それぞれ全然違うことも分かってくる。

「好きなことと、それ以外」とざっくり考えるのではなく、それぞれ四つを意識して、うぬぼれたり過度に悲観的になったりせず、冷静に自分の特性を見極めましょう。それができれば、30代後半からの仕事に広がりが出ます。

つまり、好きなことや得意なことが分かるのは30代後半でいい。自分を振り返っても、やりたくないことが明確に分かったのは40歳頃でした。

信頼できる人から言われた「向いているんじゃない?」を信じるといいことが分かってきたのもこの頃です。

自分の方向性を見つける女性

今の私はやりたくないこと、苦手なことをやらなくても食べていけているけど、それは私に「どうしてもやりたいこと」がなかったからだとも思っていて。

例えば、ラジオ。私はしゃべる仕事に携わりたいとは思っていなかったけど、信頼できる人から「やってみたら?」と勧められて、やりたくないことではなかったから、ひとまず一生懸命やってみた。

そうしたら意外と成果が出たし、今では文章の仕事よりもしゃべる仕事の方が明らかに売り上げは大きいんです。

28歳で初めてした転職もそう。やってみたいと思っていたプロジェクトにお誘いいただいて同業他社に行きましたが、当時転職は全く考えていなくて。

ちょっとおじけづいたんですけど、それも信頼している人が「やってみた方がいい」と言ってくれたから、それならやってみようと思えました。

ちなみに「信頼できる人」は、全て仕事関係の人です。

定義は明確にあって、一つは周囲で働いてる人から「あの人はズルをする」「成果を横取りする」といった悪口がないこと。

もう一つは、その人が残してる実績に、自分が尊敬できるものがあること。

皆さんも信頼できる人を見つけてください。仕事は座組が全てであり、「誰と仕事するか」を自分で選べるようにネゴシエーションすることも、この先は必要になってくると思います。

選んだ道が正解であり続けることはない

28歳だと、結婚の一次ブームが来たり、早い人だと子どもを産む人もいたりする。それでいて仕事もバリバリできる人が稀にいて、「それに比べて自分は……」と気圧されてしまうこともあると思います。

でも、みんなと同じようにしなくていい。仕事を人生の中心には考えられない、結婚に前向きになれない、子どもが欲しいと思えない、みたいなことを気に病む必要もないですよ

悩みすぎず、前を向く女性

同時に、周りの人に対しても「自分と同じ」を求めないこと。

特に仕事の場で「なぜちゃんと働いてくれないんだろう」と不満に感じることもあるでしょうけど、いろいろな人が混在しているのが会社です。

仕事への向き合い方は千差万別ですから、自分と他の人たちとの人格の境界線はしっかり引きましょう

あとは、SNSにあおられないこと。会社のシステムや従来の働き方を「古い」とあおる層が一定数いますけど、あまり気にしなくてOK。

どの道を選んでも、それがこの先ずっと正解であり続けることはまずありません。28歳でどれだけ賢い選択をしたとしても、そのまま最後まで全てがうまくいくことはない。

つまり正解は選ぶ前に決まるものではないんです。自分で選んだ道を自分で正解にしていくしかない。

だから「間違えたらどうしよう」っていう不安は持たなくて大丈夫

私は31歳の時に大失恋をして、おまけに仕事も家も変わる大きな変革期を経験したんですけど、その時に「お天道様の下を胸をはって歩ける人生を生きたいな」と思って。

それ以来、「自分で選んだ道を正解にする」ことを意識してきました。だからもし28歳に戻ったとしても、選択はさほど変わらないと思います。

自分の道を見つける女性

自分で選んだ道を正解にするには、まずは自分で決めることが大切です。

他に選択肢がない状況にある人がプレッシャーを感じる必要は一切ないけれど、もし恵まれた環境にいるのであれば、生き方はちゃんと自分で選んだ方がいいと思います。

特に誰かが反対してるわけでも、何かに阻害されているわけでもないのに、「私にできることなんかないから、これしか選べなかった」っていうのは、全部自分で禁止しているだけ

「私なんか」を辞めるには、自分で訓練するしかありません。「どうせ私なんか」と思ってしまったら、「ダメダメ!」って軌道修正をする。柔軟体操みたいなものですから、地道にやっていきましょう。

一番良いのは、「もし親友が今の自分と同じ状態におちいっていたら」と想像すること。あなたは親友に「あなたなんかが」って言いますか? 自分の親友にしないことを自分にやっちゃダメですよ。

それに、自分が自分を見限ったら、もう誰も助けてくれません。

まずは自分を認めてあげることから始めないと、周りからも認めてもらえないんじゃないかな。そこは学生時代や面倒を見てもらえていた新卒の頃との大きな違いだと思います。

50歳になって分かった真実「楽して稼ぎたい」は無理!

以前イベントで「人生100年時代の40歳は、新時代の20歳」と話したことがあります。それで言えば、28歳はまだ14歳

それなりに仕事ができるようになったからこそ、思うようにできない自分への無力感があるかもしれないけど、焦らなくて大丈夫。まだまだこれからですよ。

「自分にしかできないことを見つけたい」という思いが強まることもあるかもしれませんが、50歳になった今、そんなものは世の中にほとんどないってことがはっきり分かりました。

でも、それでいいんです。

がっかりするでしょうけど、結局のところ目の前のことをコツコツやっていくことが、満足感につながる方法です。

よくある「仕事によって自分が輝く」みたいなメッセージ、あれは眉唾ですよ。輝いている人はみんな裏で泥臭い努力をしています。責任はとりたくないけどやりがいは欲しい、というのも無理な話。そこはセットなので。

この間友達と話していたんですけど、20代で「5億円もらえないかな〜」「楽して稼ぎたいわ〜」と言ってた人で、50歳の今楽をしている人は一人もいないんです。

つまり、どこかで人より楽しよう、ズルしようと考えている人たちが一時的に得をすることはあっても、ずっと楽に何かを得続けることはない。それが50歳になるとはっきり分かります。

本当に、人生はシビアです。真面目にやればすべてうまく行くわけではないけれど、うまくいってる人は真面目にやってきた人たち。

28歳は実績を積み上げるスタートの時期ですから、焦らず地道にやっていきましょう。

書籍紹介

『闘いの庭 咲く女 彼女がそこにいる理由』(文藝春秋)

戦いの庭 咲く女

よく知られている13人の女性たちが歩んだ道について聞いた、初のインタビューエッセイ。
つまずきにもめげず腐らず、自分らしい花を咲かせた女性たちに、初めから特別な人はいませんでした。

*毎日働いて、明日にバトンをつなぐだけで精一杯
*「自分なんて」とつい諦めてしまう
*人生が上手くいく人は自分とは違う人
*自分を信じることができない人…

そんな女性にもぜひ読んでほしい1冊です。

■お話を聞かせていただいた13人
齋藤薫/柴田理恵/君島十和子/大草直子/吉田羊/野木亜紀子/浜内千波/辻希美/田中みな実/山瀬まみ/神崎恵/北斗晶/一条ゆかり

スーさん

自分の居場所を自分で作って花を咲かせた人達の話なので、何かしらインスパイアされると思います。ぜひ読んでみてください。

取材・文・編集/天野夏海