異なる雇用形態のメンバーをまとめるには? チームの目線を揃えるマネジメントのコツ/SHE

女性管理職登用に注力する企業が増加し、リーダーや管理職に任命される20、30代の女性も増えてきた。しかし、会社から抜擢されても「スキルも経験も足りないのに、私が管理職なんて……」と不安に感じてしまうこともあるだろう。
そこで今回は、急成長中のベンチャー企業3社の女性マネージャーにインタビューを実施。彼女たちの失敗談や、経験から得たマネジメントノウハウの中から、新米管理職が今すぐに実践できる教訓を学んでいこう。
今回お話を聞いたのは、女性のためのキャリアスクール事業を展開するSHE株式会社でPRグループのマネージャーを務める大原 光保子さん。
マーケティングの部署を経て、2024年春からPRチームに配属された大原さん。PR領域の仕事は未経験から始め、年齢も年次も上のメンバーが所属するチームを率いている。
業務委託や副業で携わっているメンバーも多いというSHE。このような環境下で、チームを一つにまとめるために大原さんが心掛けてきたこととは?

SHE株式会社 マーケティングユニット PRグループマネージャー
大原 光保子さん
前職ではリクルートで結婚情報誌『ゼクシィ』の営業を担当し、副業で『WeddingNews』のクリエーティブディレクターを経験。その後、SHEのマーケティングチーム でクリエイティブプランナーを経て、現在はPRグループのマネージャーに。オウンドメディア『SHEshares』の編集長も兼任
スキル・知識不足を痛感した管理職1年目
——大原さんは今、未経験でPRチームを率いながらオウンドメディアの編集長もやられているんですよね。
はい。自分よりも年齢も年次も上の、経験豊富なメンバーが6名いるPRチームでマネージャーをしています。
編集長としては、SHEが運営するキャリアスクール『SHElikes』の受講生で副業や業務委託で携わっている20名ほどのチームを見るかたちです。

大原さんが編集長を務めるWebメディア『SHEshares』
——業務委託や副業の方がいるとなると、SHEの仕事に100%の力を注げる正社員と、例えば20%や40%しか関われないメンバーなどがチーム内にいるわけですが、皆の目線をどのように合わせるようにしていますか?
まずは全メンバーの「ゴールの解像度」を上げることを重視しています。
私たちが何を目指していて、どんな目的を持っていて、なぜやるのか。それらの全てをフラットにメンバーに共有することで、「チーム単位でゴールから逆算して何ができるか」を皆が考えられるようにするんです。
そうすることで、ゴールに向かう気持ちはみんな一緒だけど、違いは業務に割ける時間だけという状態になります。
割ける時間が多くある人に手を動かす仕事をより多く担当してもらうようにすればいいというスタンスです。
チームメンバー全員に、仕事のゴールや背景を共有して目線をそろえよう
——なるほど。PRチームでは、未経験の仕事ながらマネージャーとして組織をまとめているんですよね。そこに難しさはありませんか?
そうですね。業務知識がほとんどない状態からのスタートなので、自分のリードする企画がなかなか社内で最終承認がおりなかったり、メンバーのアイデアが正しいのかどうか判断ができなかったり、自身のスキルや知識不足を日々痛感しています。
——スキルや知識不足はどのようにカバーしているのでしょうか?
普段の業務内で分からないことは周りに聞いたり、外部の勉強会に参加したりしてスキルアップを目指しています。
ただ自分のスキル不足と、会社から求められていまやるべき仕事は別の話ですよね。
いま会社で求められるレベルを「まだ勉強中」と言ってはやっていけないので、どうすれば最短で到達できるのか、上長や周りの力を借りながら進めています。
「勉強中」をいいわけにしない
——「自身のスキルアップ」と「いま会社でやるべきこと」を切り離して考えるべきだと。
ただ管理職って「会社としてやるべきこと」と「メンバーがやりたいこと」にはさまれて、自分の目指すところをおざなりにしてしまいがちです。
でも自分が心からやりたいと思えていない仕事をしても、もやもやするし成果にもつながりづらいですよね。
——まずは自分のことは置いておいて、チームの成果に振り切ってしまいたくなります。
私もそう思っていたのですが、チームの目標を立てるときに上司に「会社に求められることか自分のやりたいことかで、0か100かを決めるんじゃなくて、プロジェクトごとにバランスを取っていけばいいんじゃない?」と言われたのが印象的でした。
それからは会社観点も、自分のビジョンも、どちらの観点も大切にしつつ、目的を考えていこうと思うようになりましたね。
目的設計では自分のビジョンも大切にしよう
「自分の基準」をメンバーに押しつけないために

画像はイメージ(以下同)
——マネジメントをする中で、失敗や後悔していることはありますか?
数年前までは、自分の中である程度知見があることだと「こうしていくのが正解だよな」という基準があって、それに沿わない意見を否定してしまうことがありました。
でも、仕事って誰も悪くしようとはしてなくて、それぞれ個性があるだけなんですよね。
「仕事で意見が合わないことはあるけど、それはその人の立場や大事にしている目的によってベストが違うだけだ」と、私自身も上司に言われて心に残っています。
——納得感があったんですね。自分の基準を相手に押し付けないために、その後はどうしたのでしょうか。
1人1人の意見の背景までヒアリングして、どういう視点で見てるからその意見になっているのかを考えるようにしました。まずはそれから、チームとしてのベストを探っていくようにしています。
それぞれの意見の背景、立場や視点を考えよう
——ただその方法だと、なかなか工数もかかりそうです。
効率で考えると以前より時間はかかるかもしれないですが、そうすることで「自分の意見は大事にされてる」とメンバーが感じられますよね。
さらに「自分はこのチームで存在意義がある」と思ってもらえたら、それぞれの当事者意識も高まります。
結果的にみんなの意識を高めながら企画の質も高まっていくし、自分自身で想像できるアウトプットではなくて、想像できないレベルの結果まで高めていけるんじゃないかなと感じています。
——なるほど。とはいえメンバーの意見をすべて受け入れるわけにもいかないときもありますよね?
そのときは意思決定や取捨選択の基準を、事前に言語化して伝えておくことが大事だと思います。
会議やブレストの前に認識を揃えておくと、「今回は基準に達しないから取り入れないけれどこの意見はとても良かったよ」と、前向きなフィードバックをすることができますから。
意思決定の基準は言語化して伝えておこう
役職は「人としての優劣」を示すものではない

——女性管理職の登用を進めている企業が増えていますが、中には「管理職になりたくない」と考える20代女性も少なくない印象です。大原さん自身は、管理職になってよかったと思うことはありますか?
自分で決められる範囲が広がるので、納得できないのにやらなきゃいけない仕事が減り、ストレスが少なくなることですかね。
責任範囲が広がり、育成やサポートの役割ができるようになったことで、大好きなチームメンバーを守りながら一緒に成長に向き合えることがすごく楽しいです。
——もし若手で「スキル・経験不足なのにリーダーになってしまった」と悩んでいたら、何と声をかけてあげたいですか?
管理職になることに自信がなくて躊躇してしまう人もいるかもしれないけれど、もしそういう人がいるなら、「役職はあくまで役割であって、人間としての優劣を示すものではない」と考えてみてほしいです。
自分はその役割に対して必要なスキルや経験が不足しているだけだと捉えられたら、あとは周囲に頼りながら、自分のペースで補っていけば良いだけですから。
そう思えるようになったのは、私が入社当時に、経営陣の一人から「自分は経営の視点から見る必要があるので、成果については厳しく言うこともある。でも、あなたは現場の肌感を持ちながら成果に向かうなど、それぞれの立場で守るべきことがあるでしょう。お互いの視点から、それをすり合わせていけば良いんだよ」と言われて、とても納得できたんですよね。
そうやって相手の立場や目的を想像しながら、自分がブレずに守るべきポイントをうまくすり合わせていくことが、まずは何よりも大事なのだと思います。
取材・文/大室倫子(編集部)