中川大志「世間からの評価が怖い」過剰な自意識に縛られた過去を乗り越え、失敗を恐れない自分になれるまで
日々の暮らしの中で、ちょっとしたチャレンジをすること。それが、Woman typeが提案する「Another Action」。今をときめく人たちへのインタビューから、挑戦の種を見つけよう!

「新しいことにチャレンジして失敗したときに、周囲の人から『ダメなやつ』のレッテルを貼られるのが怖い」
「『これはできないんだ』と他人からジャッジされるのが嫌だ」
「自意識がもたらす恐怖」はチャレンジを阻む障壁になる。では、そんな恐怖はどのように乗り越えればいいのだろう。この悩みに対してヒントをくれるのは、俳優の中川大志さんのストーリーだ。
26歳にして芸歴は17年になる中川さん。コメディーからシリアスな役柄まで演じ分け、恋愛ストーリー、ミステリー、ファンタジー、時代劇とあらゆるジャンルにチャレンジしていく姿勢が印象的だ。
しかし、かつては「周囲の人や世間からどう思われているのか」ばかりを気にして、チャレンジを怖れていた時期もあると明かす。
彼が過剰な自意識を手放し、失敗を恐れず新しいことにチャレンジしていけるようになったのはなぜなのか。中川さんのチャレンジマインドの源泉をひも解いていく。
「周囲からどう見られるか」ばかりを気にしていた
2025年3月14日公開の映画『早乙女カナコの場合は』で、橋本愛さん演じる主人公・カナコの恋人、長津田啓士役を演じている中川さん。本作では、カナコと長津田の10年が描かれている。
最初は脚本家になる夢を語りながらも、臆病でなかなか行動に移せなかった長津田が、年齢を重ねるとともに少しずつ変化していく様子を演じるのは「チャレンジングな経験だった」と、中川さんは撮影を振り返る。
長津田は、一見すごく奇抜で独特な世界観を持っているキャラクターなんですが、作品の中で年齢を重ねるにつれて、だんだんと人間味を帯びてきて、愛おしく思えてくる。気づいたら、長津田という人物を好きになっていました。
長津田の根底には繊細さや弱さがあるんですよね。一方で、そんな自分にふたをして、目を背けている一面もある。
見たくない自分から遠ざかるために、言葉づかいやファッション、髪型などを自分なりに作り上げて、「どう見せるか」にこだわっているのかなと。
そんな弱さやもろさ、臆病な心との付き合い方が、年齢を重ねるごとに変わっていく様子を表現できるよう意識しました。

長津田という役柄を分析していく過程では、過去の自分に思いを馳せたこともあったという。
やっぱり彼の人間くささというか、等身大の若者らしさが魅力だなと思いました。生きている世界は全然違うんですが、彼の揺れ動く感情はすごく理解できました。
長津田がどれくらい苦しいのか、どれくらいうれしいのか。自分の感情と重ね合わせて演じた部分もあります。
長津田の年齢は、大人と子どもの狭間だと思うんです。
僕は今26歳ですが、自分が通ってきた道でもあるから、振り返ってみて、「あの時の自分はこうだったんだろうな」という感覚が蘇ってきましたね。
中川さんが俳優デビューしたのは、小学5年生の頃。
子役としてデビューした翌年には映画デビューし、さらに翌年に放映された大ヒットドラマ、『家政婦のミタ』で一家の長男を演じてブレークした。
まだ精神的に未熟な頃から芸能界でもまれてきたからこそ、若かりし日の長津田の揺れ動く感情や苦しさに共感する部分も大きかったという。
僕自身も、かつて周りの目をすごく気にしていた頃もあるので、若き日の長津田の気持ちがよく分かるなと思って。
「あの人はもうこんなに成功しているのに」「周りの人は今こんなことをやっているのに」と、同世代と比べて劣等感を抱いてしまうこともありました。
自分に自信が持てないからこそ、周囲の目を気にしてしまっていたなと思います。

「チャレンジをしてきた道筋」こそが自分の価値
周囲の目が気になり始めると、新しいことにチャレンジして失敗することが怖くなる。挑戦することを恐れると、成長の機会も失っていくーー。
中川さんが、そんな悪循環にのまれずにチャレンジを積み重ねてこられた背景には、過剰に膨らんでいた「自意識」を手放すきっかけがあったという。
芸歴が10年くらいになった時、お仕事の関係者から、それまで積み重ねてきたキャリアそのものを評価してもらえたタイミングがあったんです。
一つ一つの作品への評価ではなく、俳優として築いてきた軌跡を評価してもらえたというか。「他の誰とも同じではない、自分だけの道筋」に価値があることに気付けた瞬間でした。
チャレンジして失敗することで評価が下がるのではなく、チャレンジしてきた道筋そのものが「自分だけの価値」として評価される。
これは中川さんにとって新たな気付きになっただけでなく、「新しいチャレンジ」への恐怖心を払拭するターニングポイントとなった。

それからは、他の人と比べるのではなく、過去の自分と比べるようになりました。
「あの時の自分よりも成長できているか」と自問自答することで、モチベーションを維持するようにしているんです。 周りの評価に左右されることなく、自分自身の成長を実感できるようになったことは、大きな変化でしたね。
もちろん一つ一つの仕事における評価も大事ですが、新しいことに挑んでみて、それを続けていくこと、積み重ねていくことも同じくらい重要です。
僕は10歳で芸能界に入ったので、人生の比較的早い段階でこのことに気づけたのは、幸運だったかもしれません。

「うまくいかない経験」こそが未来を開く
チャレンジをすること自体が価値であり、評価につながる──。
そんな気付きを得て、チャレンジへの向き合い方が変わった中川さんだが、常に人から注目される職業だからこそ、周囲の声に惑わされそうになることもある。
「失敗したらどうしよう」「世間からの評価が怖くて一歩を踏み出せない」そんな気持ちになってしまうときは、発想を転換するようにしていると明かす。
ずっとお世話になっている方から教えてもらった言葉がすごく印象に残っていて。
「その方法でうまくいかないことが分かったんだから、それは失敗じゃなくて成功なんだよ」と。この言葉が、当時の自分にすごく刺さったんです。
この言葉のおかげで、ついチャレンジが怖くなってしまう時も、冷静に取り組めるようになった気がします。

うまくいかなかった経験は「このやり方はハマらなかった」という一つの学びとして、次の選択に役立てることができる。
そして、その積み重ねが「キャリア」という軌跡となり、未来を切り開く武器になる。
若いうちから自分のキャリアを俯瞰する術を身に付けているからこそ、中川さんは軽やかにチャレンジを続けられるのだろう。
極論、俳優という職業を手放さなければいけないほどの失敗をすることなんて、そうそうないですから(笑)
そう思うと、楽な気持ちでチャレンジができます。
そんな中川さんが目指す次のステージは、「世界」だ。
日本の作品をどんどんアップデートして、世界のマーケットで届けられるようにしていきたいなと思っています。
日本を一歩出たら、僕の顔や名前を知っている人なんていない。そういうことに危機感を持って、チャレンジを重ねていきたいですね。
中川さんが見据える世界は、限りなく広い。自分の軌跡を自信に変えて、挑戦を続ける彼の姿は、私たちに「一歩踏み出す勇気」を与えてくれるはずだ。

中川大志(なかがわ・たいし)さん
2009年俳優デビュー。11年日本テレビ「家政婦のミタ」で一家の長男役を演じ、注目を集める。以後、NHK大河ドラマ「真田丸」、TBS「花のち晴れ〜花男Next Season〜」、NHK連続テレビ小説「なつぞら」等、数多くの話題作に出演。19年には「坂道のアポロン」、「覚悟はいいかそこの女子。」(主演)で第42回日本アカデミー賞新人俳優賞を受賞。22年には本格的舞台初出演にして初主演を務めた「歌妖曲〜中川大志之丞変化〜」を成功させた。また23年にはNHK大河ドラマ「鎌倉殿の13人」、TBS「オールドルーキー」での好演が評価され、エランドール賞新人賞を受賞。その後も映画、ドラマ、舞台等幅広いジャンルで注目作への出演を続けている■Instagram
取材・文/安心院 彩 撮影/竹井俊晴 編集/光谷麻里(編集部)
■作品情報
映画『早乙女カナコの場合は』2025年3月14日(金)全国ロードショー
就職活動を終え、念願の大手出版社に就職が決まる。長津田とも3年の付き合いになるが、このところ口げんかが絶えない。⻑津田は、口ばかりで脚本を最後まで書かず、卒業もする気はなさそう。サークルに入ってきた女子大の1年生・麻衣子と浮気疑惑さえある。そんなとき、カナコは内定先の先輩・吉沢から告白される。
編集者になる夢を追うカナコは、長津田の生き方とだんだんとすれ違っていく。大学入学から10年―それぞれが抱える葛藤、迷い、そして二人の恋の行方は―
●キャスト
橋本愛、中川大志、山田杏奈、根矢涼香、久保田紗友、平井亜門、吉岡睦雄、草野康太、のん、臼田あさ美、中村蒼
●スタッフ
監督:矢崎仁司
原作:柚木麻子『早稲女、女、男』(祥伝社文庫刊)
脚本:朝⻄真砂 知 愛 音楽:田中拓人
主題歌:中嶋イッキュウ「Our last step」(SHIRAFUJI RECORDS)
製作:石井紹良 髙橋紀行 宮⻄克典
プロデュース:中村優子 金 山 企画・プロデューサー:登山里紗 プロデューサー:古賀奏一郎
撮影:石井勲 照明:大坂章夫 音響:弥栄裕樹 美術:高草聡太 装飾:杉崎匠平
編集:目見田健 衣裳:篠塚奈美 ヘアメイク:酒井夢月
キャスティング:北田由利子 助監督:古畑耕平 制作担当:福島伸司 宣伝協力:FINOR
製作幹事:murmur KDDI 配給: 日活/KDDI 制作:SS 工房 企画協力:祥伝社
公式サイト / 公式X / 公式Instagram
(C)2015 柚木麻子/祥伝社 (C)2025「早乙女カナコの場合は」製作委員会
『Another Action Starter』の過去記事一覧はこちら
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