「やりたいことが見つからない問題」に悩む女性が見落としていること【福田恵里・金井芽衣・秋本可愛】

【写真左】ポジウィル代表取締役 金井芽衣さん
1990年群馬県生まれ。埼玉純真短期大学で保育士・幼稚園教諭の免許を取得した後、2010年に法政大学キャリアデザイン学部に編入。13年、リクルートキャリアに入社し、法人営業を経験。17年に国家資格キャリアコンサルタント登録。同年8月にポジウィルを設立し、同社代表取締役に就任。キャリアのパーソナルトレーニングを提供する『POSIWILL CAREER』などを運営。一児の母'
【写真中央】Blanket代表取締役 秋本可愛さん
1990年生まれ。大学時代に認知症予防につながるフリーペーパー『孫心』を発行し、全国の学生フリーペーパーコンテストで準グランプリを受賞。2013年4月の大学卒業後にJoin for Kaigo(20年、Blanketに社名変更)を設立し、若者が介護に関心を持つきっかけづくりや、若者が活躍できる環境づくりに注力。超高齢社会を創造的に生きる次世代リーダーのコミュニティ『KAIGO LEADERS』を運営。一児の母
【写真右】SHE代表取締役 福田恵里さん
1990年生まれ。大阪大学在学中、サンフランシスコ・韓国に留学。帰国後、ウェブデザイナーとして制作会社でインターンをする傍ら、初心者の女性限定のウェブデザインスクール「Design Girls」を立ち上げる。2015年リクルートホールディングスに新卒入社。ゼクシィやリクナビのアプリのUXデザインを担当。17年、SHEを設立。女性向けキャリアスクール『SHElikes(シーライクス)』は累計受講者17万人以上を突破。20年、同社代表取締役/CEOに就任。二児の母
前回の記事に引き続き、ポジウィル代表取締役の金井芽衣さん、SHE代表取締役の福田恵里さん、Blanket代表取締役の秋本可愛さんの3人にインタビューを実施。
「やりたいことが分からない」ことに悩む女性たちに向けて、3人の経営者たちが自身の体験を踏まえて対処法を紹介してくれました。
やりたいことなんて、なくていい
前回の記事では、妊娠出産などライフステージの変化を見越したキャリア不安について主にお話を伺いました。その他にいまの20〜30代女性に顕著な悩みは何だと思いますか?
「やりたいことがないんだけど、このままでいいのか」という悩みですね。
やりたいことが見つからず、みんなのように熱中できることがない……。そういう自分に納得感が持てずにいる方からよく相談をいただきます。
「自分らしく働く」っていう言葉も世の中に溢れているけど、「自分らしく」が分からないから悩みますよね。
SNSやメディアで情報発信をしている人たちって、意思を持って何かに取り組んでいる人やポジティブな雰囲気をまとっている人が多い。
だから、「自分はなんでそうなれないんだろう」ってつい比較してしまうんだと思います。
でも、私自身も「やりたい」からポジウィルを創業したわけでもないし、この仕事をしているわけでもないんですよね。
そうなんですか?
はい、「やりたいこと」かと言われると正直違う。
どちらかと言えば、課題があって「やらなきゃいけないこと」で、他にやる人がいないなら私がやるべきなんだろうなという感じです。

その感覚、よく分かります。
私は学生起業だったので「やりたいことをやっている人」という見られ方をすることも多いんです。
でも、介護・福祉の世界で働く人の現状に対して「なんでこんな状態なんだ」っていう怒りや課題意識があったからこういう働き方にたどり着いただけで、全然ポジティブな入り方じゃないんですよね。
ただ、私はそっちの方が仕事に対するエネルギーが湧いてくるタイプ。
「楽しいこと」や「やりたいこと」をやるよりも、「変えていくべき」だと強く思う課題の解決に取り組んでいるときの方が夢中になれるんです。
だから、「やりたいことがない」ことに悩む必要はないとも思います。それより大事なのは、自分が何のためなら自然と頑張れるのか知ること。
今までの経験を振り返ったときに、どんなことなら夢中になって取り組めたのか、力を発揮できたのか。
そういうことを考えてみると、いまよりも迷わず仕事に取り組むためのヒントが見つかるかもしれません。
やりたいことより、得意なこと探しをやっていくといいですよね。
実際、やりたいことが分からないと悩んでいる女性の多くが、苦手なことを無理してやっていたり、親に言われるがまま「いい会社」に就職はしたけど全く興味を持てていなかったり……みたいなことがよくあるんです。
例えば以前、親に勧められた大手の証券会社に新卒で入社した女性から相談を受けました。
その方は仕事で飛び込み営業をやっているんだけど、実は対人恐怖症でドキドキして不安でしょうがないって言うんです。
逆に、一人で黙々と作業するような仕事の方が好きで、苦じゃなくできるというんですよ。
その場合、自分が得意な仕事で成果をあげられるようになれば、「やりたいこと」まではいかなくとも、仕事が楽しくなったり熱中できるようになったりする可能性があります。
「やりたいこと」はなくても、いまいる会社のビジョンややっていることの方向性には共感する、チームメンバーが好き、お客さまに貢献できるのがうれしい、など人それぞれ仕事に対する熱が湧くきっかけになるものって全然違うものですよね。

私が経営する会社にはいま社員が10名ほどいます(2025年3月時点)が、みんなそれぞれモチベーションが上がる瞬間はさまざまです。
モチベーションの源泉は過去の経験の中に隠れていることが多いはずなので、自分のキャリアを振り返ってみる時間を持つことは大事だと思います。
それでも思い当たらないなら、選り好みせずにもっといろいろな経験を増やしていけば、「心が動く」瞬間に出会えるのかもしれませんね。
私も自分の過去を思い返すと、学生時代には「何者かにならなきゃ」みたいな焦りがあったんですよ。
偏差値の高い学校に行って、知名度の高い会社で働くことが正義という価値観の中で育ったから。
大学には「意思のある人」がいっぱいいてすごく輝いて見えたし、「あ、高校までとは違うゲームが始まった」みたいな感覚があって。
私もやりたいことを見つけなきゃ、何者かにならなきゃという焦りが募っていきました。
転機になったのはアメリカ留学。起業家という存在をその時に知り、猛烈にインスピレーションを受けました。
それこそ、パソコン1台でアイデアを形にして何かサービス作ろうとしてる大学生の子たちがたくさんいたんですよ。
それを間近で見て「私もそっち側に行きたい」っていうふうに強く思って、技術を勉強し始めました。
そういう意味では、不安や焦りがあるなら思い切って環境を変えてみるのも一つの手。どんな人たちと一緒に過ごすかで、価値観も変わってくると思うんですよね。
女性にとってはロールモデルになる人の存在も大事ですよね。
女性の場合、出世してポジションを上げたり、年収を上げ続けていったりするような「山登り型のキャリア」には憧れない人も多いと思うんですよね。
逆に、今できることや人の役に立つことをコツコツやっているうちに自然としっくりくる場所にたどり着いていたと感じるような「川下り型のキャリア」の方がしっくりくるし頑張れる人も多いかもしれない。
いま周りの人を見て「うらやましいな」「いいな」と思うことがあるなら、そういう人たちと一緒に過ごす時間を増やしてみてほしい。
その中でなりたい自分になるきっかけを集めながら、仕事を通してなるべくいろいろな経験を積んだらいいのかなと思いますね。
「自分の強み」は身近な人こそ知っている?
皆さんはメンバーマネジメントに携わる立場だと思いますが、その人ごとの「熱」のありかをどのように見つけていますか?

その人の「強み」を見つけることから始めますね。
例えば、やめろって言われてもついやっちゃうようなこと、放っておいても「そこまでやっちゃう!?」って思うくらいその人が自然とできちゃうことは何なのかを一緒に見つけていく。
他の人は全然気にしないんだけど、1ミリの細部にまでこだわってプレゼン資料きれいにしちゃうとか、自分が人からどう思われるとかじゃなくてこだわりたくてこだわっちゃう部分ってありませんか?
そこにその人の「熱」が湧き出す源泉みたいなものがあるなって思っていて、SHEではそういうものを「最高価値」と呼んで全社員分リスト化しています。
すごいですね。例えばどんな「最高価値」がありますか?
ちょっとユニークなものだと「祭」というフィルターを通すと、何でも最高に盛り上げられて成果を出せるという子がいます。
例えば、社内イベントを企画するにしても、「祭にする」というフィルターを通して仕事をすると、その人にしかできない最高の仕上がりの仕事になるんですよね。
そうやって「自分の最高価値は『祭』だ」って気づいてからはどんどん仕事でも成果が出るようになって、役職も上がって、キャリアを積んでいった人がいます。
だから皆さんも、人はそんなにこだわらないのに、自分はついノリノリでやれちゃうようなことを探してみるのはいかがでしょう?
もし自分で分からなければ、身近な人が「得意なこと」「楽しそうにやっていたこと」を見ていて分かってくれている可能性もあります。上司でも同僚でも、遠慮せず聞いてみたらいいと思いますよ。
「強み」の発見を阻む「呪い」

方で、マネジメントをする立場から、メンバーの「熱」や「強み」を見つける難しさを感じたことはありますか?
ありますね。
これは私の失敗談でもあるんですけど、「期待をかけ過ぎる」のは本人にとってプレッシャーになって、相手を苦しめてしまうこともあるんだなというのがここ数年で得た学びです。
個人的には、責任ある仕事を任せてもらったときに燃えるタイプですけど、そうじゃない人ももちろんいる。
自分のミッションが大きくなったときにやる気が出るタイプなのか、期待が大きすぎるとつらくなってしまうタイプなのか、そこは見極めてあげないといけない。
そうじゃないと「熱」を見つけるどころか、逆に自信を失わせてしまうこともあるなって思うんですよね。
あとは、その人にとっての「呪い」が強すぎるとなかなか強みを発揮できないし、最高価値を爆発させられないということもあります。
“呪い”ですか?
“呪い”はいわゆる、無意識バイアスみたいなもののイメージです。
例えば、「人に認められなければ私は無価値だ」とか、「人の役に立つことをしなければならない」とか。
そういう思い込みがみんなあって、それを否定されたり傷つけられたりすると、一気に心を閉ざしてしまって「自分を守る」ことに必死になってしまうんですよね。
そうなってしまうと、最高価値はなかなか見つからないし、発揮もできない。
しかも、こういう呪いって長い人生をかけて積み上げてきたものだったりするから、呪いが強い人はそれを開放するのにすごく時間がかかるんですよ。
上司や他の同僚から見たら、その人を苦しめてるのはその呪いだって明らかなんだけど、本人はもうその呪いすら自分の一部になっているから、なかなか手放せないんですよね。
「もっと楽に考えていいよ」っていう言葉すら、「自分を認めてくれないんだ」というふうにとらえられてしまうこともあって。
その人の強みを引き出してあげるどころか、呪いに触れると関係がうまくいかなくなってしまうこともあり、難しさを感じるところですね。
それでいうと、20代で自分の呪いが何なのか気付くことって大事ですよね。なるべく早いうちの方が、思い込みを外しやすい。
もし仕事がうまくいかなくて悩んでいたり、頑張っているのに空回りしているような感覚があったりしたら、できるだけ素直になって周囲の人の声に耳を傾けてみることをおすすめします。そこから打開策が見つかるかもしれませんから。
【中編】「やりたいことが見つからない問題」に悩む女性が見落としていること
【後編】自分らしく働き続ける秘訣は“呪い”の開放? 20代で捨てたいキャリアの思い込み
取材・文/栗原千明(編集部)撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)