「忙しくなるから、妊活を3カ月待って」上司の指示、これってアリですか……?【弁護士監修】

ベリーベスト法律事務所
これってアリ?を弁護士が回答!
お仕事トラブル法律相談室

セクハラ、パワハラ、不当な扱い。もしかしてコレって違法では……? 働く女性が抱える仕事・職場のモヤモヤを、弁護士が法律のプロの視点から徹底解説。長く心地よく働き続けるための知識を身に付けよう!

今回、読者から寄せられたお悩みに回答してくれたのは、ベリーベスト法律事務所の河野翔平 弁護士。

上司から「妊活を待って」といわれた相談者のお悩みに答えながら、仕事と妊活を両立する女性が備えておきたい法律知識を教えてくれました。

回答してくれた弁護士 ベリーベスト法律事務所 河野翔平 弁護士

【回答してくれた弁護士】ベリーベスト法律事務所 河野翔平 弁護士

九州大学法科大学院卒業。弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 労働事件や離婚事件などの一般民事から、少年事件などの刑事事件まで幅広い分野を扱う。依頼者への真摯な対応および最適な解決策の提案力には定評がある

【お悩み】上司から「妊活するの待ってくれない?」と言われた

30歳/営業事務

仕事をしながら妊活をすることになり、「通院のため遅刻・早退が増えるかもしれない」と上司に相談して承諾を得ました。

しかしその数週間後に、同じ部署の人の退職が決まったため、上司から「3カ月くらい忙しくなるから、妊活するの待ってくれない?」と言われてしまいました…。

これってさすがにアウトでは?

——上司からの「繁忙期だから妊活するのを待って」という指示は、法律的な観点から見て正当なのでしょうか?

法律的な観点から見て、この指示は正当とは言えません

妊活自体に関しては、個人の自己決定の範囲内であり、上司からそれを待つように指示することは、使用者の権限を超えるもので、正当な業務指示とは言えないからです。

他方で、他の会社の制度自体、例えば有給休暇の利用を繁忙期であることを理由に時期の変更を求められることはありますが、これは「会社がずっと有給休暇の利用を制限できる」というものではなく、例外的な対応といえます。

また、妊活それ自体ではなく、妊婦検診などの検診の日を具体的な日程を挙げ、「調整してもらえないか」と確認することは、業務上の必要性が肯定される可能性が高いと考えられます。

このようにある程度調整が可能な休業などについて、その時期をずらすことが可能か労働者の意向を確認する行為自体は禁止されないものと考えられます。

――妊活に対して部下にあれこれいうのは、セクハラやパワハラに当たらないのでしょうか?

前提として、妊活をしていることを上司に打ち明けているかという点でも異なってきます。

知らせていないのに、妊活についてあれこれいうのは、プライバシーの侵害に当たること、内容によってはセクハラ、パワハラに該当する可能性は高いと言えます。

他方で、知らせている状態で、労働者の意向を確認するという程度であれば、セクハラ、パワハラにはならないと考えられます。

ただ、それを超えて強制する、業務上不必要な範囲で開示をするということはセクハラ、パワハラと判断される可能性があります。

――妊活に関して、アウト/セーフのボーダーラインはどこにありますか……?

内容が多岐にわたるため、一概には言い難いですが、言動の態様(労働者への強制力の程度)、業務上の必要性が大きな判断の要素となると考えられます。

また、明確に拒否や嫌悪を示しているにもかかわらず継続する、というような継続性や毎日やってくるという頻度も大きな要素だと考えられるでしょう。

会社が労働者に確認・調整を求めること自体は、禁止されていない

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――そもそも「妊活の通院のために遅刻・早退する」というのは、法律的には認められているのでしょうか?

「妊活の通院のために遅刻・早退する」ということそのものは、現時点の法律では定められていないと考えられます。

もっとも、雇用契約や就業規則において、妊活のための通院や休息時間を認めている会社もあり、その場合は法律ではないですが、会社のルールとして認められています。

また、年次有給休暇を利用し休日として対応する方法や、年次有給休暇を時間単位で利用し、遅刻、早退するという方法も考えられるでしょう。

年次有給休暇の取得理由については、どのような場合であっても理由を話す必要はないため、妊活の通院であることを伝える必要もありません

他方で、できる限りの配慮を求めたり(繁忙期等の有給休暇の取得の調整など)する場合には、取得理由を伝えるということも考えられます。

――今回上司の発言に対し、相談者はどんな態度や反応をすればよかったのでしょう……。

今回の上司の発言については、「なんでそんなことを会社に言われなきゃいけないんだ」と思うような内容だと思われます。

ただ、会社にその発言が問題であると指摘しても良い方向にはいかない可能性が高いため、相談や調整を継続するのが良いのではないでしょうか。

会社側も、業務の繁忙期などの事情において、労働者に対応の確認や調整を求めることは禁止されていません。

ただ、妊活を行わないこと自体を会社は求められませんので、あくまで「遅刻や早退をさせにくい状態になってしまっている」という確認を行い、有給休暇を使う、遅刻や早退の頻度を会社と相談するという方法があると考えられます。

妊活中に知っておきたい法律や労務の制度

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――そのほか、妊活中に知っておきたい法律や労務の制度はありますか?

労働に関係するものでお伝えすると、法律というよりもまずは会社にどのような制度があるかをということを確認することをおすすめします。

例えば、冠婚葬祭と同様に不妊治療をしている労働者に、有給や公休を付与する制度を設けているケースも。 年次有給休暇を時間単位で取得することを認めている会社も、今後増えていくと考えられます。

また、妊娠し、休職する場合などに不利益取り扱いは認められないという法律もあります。

――まずは法律ではなく、会社の制度をしっかり確認することが大切なのですね。

妊活について、会社が協力的な制度や態度を取ることは、労働者に対してのメリットだけではないと言われています。

その会社では妊活を行えない、調整できないとなれば、妊活を諦めるか、転職や退職をするかという選択肢が生まれます。

それは会社としても、従業員を失うという大きなデメリットがあるため、少子化を防ぐなどの単なる社会的意義以上にも、現在取り組みが進められています。

そのため、会社にもそのような制度がない場合でも、何らかの調整が会社としても行いたいため、できるケースも多いと思われます。まずは上司に相談してみるなど、対応を検討してみましょう。

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