もずく「働くのがつらい…」会社員歴10年、共感求めてSNS漫画を描き始めて起きた変化

SNSを開けば、今日もどこかで誰かが「仕事がつらい」とつぶやいている。
そんな「仕事がつらいけれど、頑張って働いている」人たちの気持ちを、クスっと笑える4コマ漫画で表現し、SNSで多くの女性たちから共感を集めているのは、アラサーの現役会社員であり、漫画家でもあるもずくさん。

「私はきっと労働に向いてないんです」と笑うもずくさんだが、新卒の頃からもう10年も会社員として働き続けている。
彼女が「がんばってはたらく」を続けられるのはなぜなのだろうか。

もずく@がんばってはたらく
SNSを中心に、「仕事がつらいけど、がんばる」日常を描いた漫画を発信し、多くの共感を集める漫画家。会社員として働く傍ら、自身の経験に基づいたリアルな描写と、クスッと笑えるユーモアが人気。著書に『毎日がんばってはたらく、えらい』(KADOKAWA)『毎日がんばっていきる、えらい』(KADOKAWA)などがある
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新卒の頃から「仕事が楽しい」時期は一度もなかった
「がんばってはたらく」をテーマにした漫画が多くの人の共感を呼んでいますが、もずくさんが「働くのがつらいな」と思うようになったのはいつ頃からですか?
新卒で入社したときからずっと、何となく働くのがつらいなと思っていました。
仕事がいやになるきっかけがあったわけではないんですね。
そうですね。職場がブラックなわけでもないし、むしろホワイト寄りな会社だと思うんですけど、「会社に行きたくないな」「働きたくないな」ってずっと思っていて。
単純に私が労働に向いてないだけなんだと思います。
そもそも働くことが好きじゃない?
就職活動の時は「大学で学んだことを活かせそうだし、面白そうな業界だな」と思って今の会社に入社したんです。
でも、実際に働き始めると、当たり前のことではあるんですが、興味のあることばかりができるわけではないですし、もともと不得意だった人とコミュニケーションを取らなければいけない場面も多くて。
毎日そういうちょっとした「いやなこと」が積み重なっていって、少しずつつらくなっていった感じです。

「がんばってはたらく」をテーマに漫画を描き始めたきっかけは何だったのでしょうか?
きっかけは、コロナ禍で同僚と気軽に話せなくなったり、仲のいい同僚が異動してしまったりしたことでした。
以前は、お昼休みなどに同僚と「今日、朝からこんなことがあってさ……」「仕事だるいよね」「早く帰りたいね」なんて愚痴を言い合って共感してもらうことで、ストレスを軽減していたんですよね。
でもコロナ禍になりリモートワークが中心になってからは、そういう機会が減ってしまって。
気軽に話せる相手がいなくなって、「誰かに共感してもらいたい……!」という気持ちがあふれ出した結果、「SNSで発信してみたら、共感してくれる人がいるかもしれない」と思ったのが、漫画を描き始めたのがきっかけです 。
気持ちを言葉にしてポストするのではなく、漫画で表現しようと思ったのはなぜですか?
子どもの頃から、絵を描いて人を笑わせるのが好きで、4コマ漫画をたまに描いてたんですよね。
そんな経験もあり、ただ「仕事がつらい」という内容では終わらせたくないなと思った時に、漫画が合うかなと思ったんです。
少しお笑いも交えて、「まあつらいけど、ちょっと笑えるよね」っていうトーンにしたくて、ギャグ要素のある4コマ漫画のかたちになりました。
あんまり「つらい、つらい」って言うとどんどんつらくなっちゃいそうだったから。

漫画を描き始めて、どんな反響がありましたか?
最初の方はなかなか反応がもらえなかったのですが、だんだんと「分かる!」「私も!」という共感のコメントが増えていくのがすごくうれしかったですね。
自分の気持ちを吐き出すことができて、その気持ちにたくさんの人たちが共感してくれる。SNSが少しずつ、私にとって大切な拠り所の一つになっていきました。
つらい出来事をネタにすることで起きた変化
漫画を描き始めてから、「仕事がつらい」という気持ちに変化はありましたか?
共感していただく機会がすごく増えて、少しつらい気持ちは軽くなったように思います。
Xで吐き出す度にたくさんの方から反響をいただけるようになったので、いやなことがあっても、「これはネタにしてみんなに見てもらおう!」と思えるようになって、いやなことの受け止め方も少し変わった気がします。
漫画を描くようになって、今までただただ「いやだったこと」をポジティブに変換できるようになったんですね。
そうですね。例えば、以前は上司の言葉にいちいち落ち込んだりモヤモヤしたりしていたんですが、「これを漫画にしたら面白いかも」と思えるようになったことで、ダメージが軽減されたというか。
「つらい」感情だけで終わらせずに、笑いに変えられるようになったのは、大きな変化でしたね。

仕事であったつらい出来事の受け止め方が変わったこと以外に、何か変化はありましたか?
働くのがつらいなと思う理由の一つに、「ここであと30年、40年働き続けなければならない」というこの先の長さに対する絶望感があったんですけど、それも少し軽くなった気がします。
というと?
うちの両親が少し堅い考え方を持っていたこともあって、「社会人たるもの、新卒で入社した会社で定年まで働き続けるべきだ」という考えを、子どもの頃からずっと持っていたんですよね。
「この会社でそんなに長く働けるのかな」と考える度にすごく不安になってたんですが、今はもずくのお仕事で本を出版したり、連載の依頼をいただいたりと、そこまで多くはないですが少しお金が入ってくるようになって。
「多少年収が下がっても今よりちょっとゆるく働けるところに転職してみてもいいかも」とか、「そんなに根詰めて40年もここで頑張らなくてもいいのかも」と思える余裕が生まれました。

本業以外に軸ができたことで、将来の選択肢が広がったんですね。
そうですね。ただ、自分の能力ではイラストレーターや漫画家一本で生きていけるとは思っていないので、あくまで「もう一つ柱がある安心感」という感じです。
「もう本当に無理……!」ってなった時に、今より少しゆるい職場に行く選択肢が持てるだけでも、気持ちはずっと楽になりましたね。
「心の逃げ場」をつくれば、長く働ける
もずくさんが最近、社内で部署異動をしたというポストを見ました。SNSでの発信から、慣れない環境で大変そうな様子が伝わってきます。
仕事内容も一緒に働く人たちも全てがガラッと変わって、なかなかそれに適応できず、漫画を描き始めた頃より今の方がしんどいかもしれないです。

転職を考えたりは?
転職も含めて、今後どう働いていくかは今まさに悩んでいるところです。
本音を言うと、漫画家活動の方にもっと比重を置いていきたいなと思っていて。
もずくがもっと人気者になれば一番いいですけど、もずくだけにこだわらずに他のキャラクターを作ってみるとか、イラストの世界で新しい道を模索していくとか、いい方法がないかなというのは考えています。
今すごくしんどい時期に入ったからこそ、「もずく業」というもう一つの足場を作っておいてよかったかもしれないですね。
本当にそう思います。
漫画家活動一本でやっていくなんていう大きな決断をしなくても、「もう一つ収入源はあるし、いざとなったらもっとゆるい仕事に転職すればいいや!」と思えるだけで、心の平穏につながります。
どんなにしんどくても、「生活していくためには、絶対にここを辞められない」と思うと、さらにしんどくなっちゃいそうですもんね。
そうなんですよ。何十年先の未来を想像して選択肢がないと、絶望するしかなくなっちゃうので……。
私は新卒から10年以上同じ会社で働いているので、転職への恐怖心も少しあって。新しい環境に飛び込むハードルが高くなっているのを感じるので、そのハードルを下げる意味でももう一つ「足場」があって良かったなと思っています。
「いま仕事がつらいけれど、辞めるわけにはいかない」と踏ん張っている人がいたら、もずくさんのようにもう一つの足場を探してみるのも一つの手かもしれないですね。
「これで食べていく」なんていう覚悟を決める必要はないと思うので、心の逃げ場を持っておくくらいの気持ちで、興味のあることを何か始めてみてもいいかもしれません。
長く働き続けていくことに対する心の負担は少し減ると思います。
今後について本気で考えている話…
そのいち
現状維持正直これをあと30年どころか3年続けられる自信もない(›´ω`‹ ) pic.twitter.com/2cFqPjWk2t
— もずく@がんばってはたらく (@mozuku_zqu) March 21, 2025
「長く働く」というと、本業でやりがいを持って働かないと……と思いがちですが、もずくさんのように「自分が無理なく働けるように選択肢を持つ」ことも一つのサステナブルな働き方だなと感じました。
私もまだまだたくさん悩んでいますし、今後のことは分からないけれど、どう働いていくかを迷えるくらいの選択肢を持てたのは、幸せなことだなと思います。
今はよく考えて、自分らしい働き方を見つけられるといいなと思っています。
取材・文/光谷麻里(編集部)
書籍情報
『毎日がんばってはたらく、えらい』(KADOKAWA)

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