原田泰造が30年以上「第一線」を走り続けられる理由。いつの時代も求められる人のシンプルな仕事論

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
芸歴30年以上。お笑い芸人として、俳優として、第一線を走り続けてきたネプチューンの原田泰造さん。
長い月日をへる中で、コンプライアンスを重視する風潮も強くなり、お笑いを取り巻く環境も大きく変化した。
昔は強い言葉を使ったツッコミとか、ちょっと暴力的な芸がウケたりしていたけれど、世の中の「おもしろい」の基準が時代とともに変わってきているのを感じます。
世の中の価値観が変わっても、私たちを楽しませてくれている原田さん。彼が「いつの時代も求められ続ける」のはなぜなのか。
その背景には、原田さん流のプロフェッショナリズムがあった。
プロとは、変わり続けることができる人
原田さんにとって、「プロとして仕事をする」とはどういうことなのか。
そう問い掛けると、「いつも行き当たりばったりだからなぁ(笑)」と人懐っこい笑顔を見せつつ、「変わり続けることができる人が、プロだと思う」という答えが返ってきた。
俳優の仕事だったらその時の監督や作品によって求められることが変わってくるし、芸人の仕事でも番組によってネプチューンに求められることや僕自身に求められることも変わってくる。
だから、一概には言えないんですけど、その都度変化する「自分への期待」に応えていける人がプロなんじゃないでしょうか。

一つ一つの現場で求められることに目を向け、それに応えていく。原田さんが30年以上にわたりやってきたことは非常にシンプルだ。
プロとして長く仕事を続けるためには、日々刻々と変化するニーズを捉え、それに合わせて自らを進化させていく必要がある。
常に現場のニーズ、世の中のニーズにアンテナを張り、すぐに取り入れていく姿勢こそが、彼が「いつの時代も求められる人」たるゆえんだ。
気づけば、「どの現場にいっても一番年上」なんてことが多くなったんですけど、若い方たちの仕事ぶりから吸収することもすごく多い。
今の若い世代が「面白い」と感じることについて知らないこともいっぱいあるし、後輩たちからいつも変化するきっかけをもらっています。
「今から変わる」と自分で決めれば、人は変われる
柔軟な姿勢で変化を続けてきた原田さんだが、若手の頃はプライドが高く、周囲の声に耳を傾けられる人ではなかったと明かす。
若手の頃は、自分の中にすっごい可能性を感じていて「俺なら何でもできるぞ」と思っていました。
だから後輩から学ぼうなんて姿勢はまったくなかったんです。でも、経験を重ねるごとに知らないことやできないことがいっぱいあることを理解していった感じですね。
昔は僕らも、芸人たちがみんなでバーッと前に出ていって「我こそは!」と目立とうとするような番組によく出ていた時期がありました。
でも、そういう時に全く目立つことができなかったり、一言も発せなかったりすることが多くて。
収録が終わって「ああ、自分はダメだなぁ」って落ち込むんだけど、オンエアを見て「そこはそのワードじゃなかったよなぁ」なんてさらに落ち込む。
そんなことを繰り返していく中で、自信満々だった自分が崩れていくんです。

自分の実力を正しく把握するのは、進化の第一歩だ。
できない自分と向き合った上で、先輩や後輩、世間の人たちの声を取り入れながらアップデートしていくために重要なのは、行動に移すタイミングを決めることだという。
人は自分の課題と向き合ったタイミングから、いつでも変わることができると思います。だけど、そのために必要なのは「よし、今からやろう!」と自分で決めること。
僕も少しずつだけど、周りからアドバイスをもらったり、後輩から学びを得たり、仕事を通して新しい価値観を知ったりする度に、それを「今から自分の仕事に取り入れよう!」と意識できるようになっていきました。
「変化することの大切さ」を知るきっかけになった「おっパン」
原田さんが、自分の価値観をアップデートし続けていくことの重要性を再認識するきっかけになったのは、2024年に放映された大ヒットドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(以下、おっパン)への出演だ。
絶望的な“昭和脳”により、偏見まみれの言動・行動を繰り返していたおじさんが、ゲイの友達・大地(中島颯太)と出会ったことをきっかけにアップデートしていく──。原田さんは、主人公の「おじさん」沖田誠を演じた。

もがきながら自分を変え続ける誠の姿は、原田さん自身にも大きな刺激になったという。
誠は昔気質の本当にどうしようもないおじさんだったけど、「いいと思ったことをすぐやろうとする」のが、かっこいいんですよね。
ゲイの友達の大地くんや、奥さん、娘さんに息子さん。いろいろな人たちの話を聞いて、反省して、「アップデートしよう」と自ら望んですぐ動く。この姿勢は、まねしたいなと思いました。
誠は、子どもたちや奥さんの好きなものや趣味を、「自分の価値観では理解ができないから」と頭ごなしに否定していましたけど、アップデートしていく中で、好きなものにまっすぐな家族を応援するようになっていきます。
僕も新しい価値観に触れた時に、どこかで「自分には理解できないこと=ダメなこと」と思っていた節があるように思います。
「おっパン」に参加するようになって、「それじゃダメなんだ」というのを腹落ちさせることができて。この歳になって、アップデートしていく大切さを再認識させてくれた「おっパン」には感謝ですね。

驚異的な変化を見せた誠の姿が反響を呼んだ「おっパン」が、2025年7月に映画化される。
ドラマ版の中で、昭和的な考え方を改め、見事に価値観をアップデートした誠だが、今回の映画では、それ以前にパワハラまがいの言動で傷つけてしまった元部下が顧客として現れる。
「過去の失敗」といかに向き合い、さらなるアップデートを遂げられるのかが、本作のテーマの一つだ。
ドラマの中で、昭和脳から令和脳へと価値観のアップデートを遂げた誠が、先輩である古池さんと「過去の失敗」について話しているシーンがありました。
ですが、このテーマに関しては、ドラマ版の中で解決できていなかったんですよ。
アップデートを終えたと思っていた誠が、この問題とどう向き合っていくのかを表現するのは、今回難しかったポイントの一つです。誠の心境をイメージしながらいろいろと考えました。

映画の序盤で、かつての部下が「人はそんな簡単には変われない」とつぶやくシーンがある。これに対して原田さんは「人は変われる思う」と、希望をにじませる。
誠のように「今から変わろう!」と覚悟さえ決めれば、人は何歳からでも変わることができると思っています。
今回の映画でも、知らなかった価値観とたくさん出会い、また一つアップデートできました。
こうやって50歳を超えた僕でも、今なお変わり続けることができているんだから。
いつの時代も求められる芸人・俳優、原田泰造のアップデートは、これからも続いていくのだろう。

原田泰造さん
1970年3月24日生まれ。トリオ「ネプチューン」のメンバー。バラエティー番組では『ネプリーグ』(フジテレビ)や『ジョブチューン 〜アノ職業のヒミツぶっちゃけます!』(TBS)『しゃべくり007』(日本テレビ)『ナニコレ珍百景』(テレビ朝日)などMCを中心にレギュラー出演。俳優としても、NHK大河ドラマ『篤姫』(2008年)、『龍馬伝』(2010年)、『花燃ゆ』(2015年)やNHK連続テレビ小説『ごちそうさん』(2013年)、テレビ東京『サ道』(2019年・主演)、東海テレビ・フジテレビ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』(2024年・主演)、映画『ミッドナイト・バス』(2018年・主演)、『スマホを落としただけなのに』シリーズ(2018年、2020年)など多数の作品に出演
取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/竹井俊晴
作品情報
『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』2025 年7月4日(金)新宿ピカデリー他全国ロードショー

■出演:原田泰造
中島颯太(FANTASTICS)、城桧吏、大原梓、東啓介、渡辺哲、曽田陵介、井上拓哉、芦原優愛、堀丞、ゆうたろう、工藤綾乃、山崎紘菜、池田朱那、赤ペン瀧川、鳥居みゆき、徳重聡、雛形あきこ
トータス松本 / 松下由樹 / 富田靖子
■原作:「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」練馬ジム(「LINEマンガ」連載)
■監督・二宮崇
■脚本・藤井清美音楽・鈴木ヤスヨシ
■主題歌:「青春」ウルフルズ(Getting Better / Victor Entertainment)
■オープニング:「アプデライフ」FANTASTICS(rhythm zone)挿入歌:「おっさんのダンスが変だっていいじゃないか!」ウルフルズ(Getting Better / Victor Entertainment)
■製作:『映画 おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』製作委員会
■制作:東海テレビ放送 The icon
■制作協力:ヒューマックスエンタテインメント
■製作幹事・配給:ギャガ
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©練馬ジム| LINEマンガ・2025映画「おっパン」製作委員会
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