芸人・友近のブレない信念「自分が面白いと思うことをやる。ただそれだけです」
詐欺師まがいの古美術商・小池(中井貴一)とうだつの上がらない陶芸家・野田(佐々木蔵之介)の“骨董コンビ”によるだまし合いが魅力の映画『嘘八百』シリーズ。
最新作の『嘘八百 なにわ夢の陣』では、夢とロマンをキーワードに、太閤秀吉が残したとされる幻のお宝<鳳凰>をめぐる大騒動が描かれている。
最近ではちょっとめずらしくなってきた、昭和の香りがする映画。ロマンなんて言葉を使うのが昭和やなって思います(笑)
ちょっとうさんくさい中にも人情のある映画で、そこがホッとするんですよね。
出演者の友近さんはそう作品の魅力を語る。
確かに夢やロマンなんて、人によっては口にするのもはばかられる言葉かもしれない。でも友近さんは違う。
私は常に夢を持って生きていたいタイプかな。
やりたいことがあるのでこの仕事をしてますし、やらされてる感は一切ないですね。
常に、こういうことがやりたい、こういう表現がしたいって、頭の中で考えていますね。
26歳の時にローカルテレビ番組のリポーターの仕事を手放し、芸人の世界へ。20年以上の芸歴を持ちながら「やりたいことはいまだに尽きない」と友近さんは声を弾ませる。
そのあせないモチベーションの秘密はどこにあるのだろうか。
みんなに認めてもらわなくてもいい
友近さんが映画『嘘八百 なにわ夢の陣』で演じるのは、野田の妻・康子。夫はくすぶりながらも “産みの苦しみ”と向き合う陶芸家だ。
友近さんもまた“産みの苦しみ”と戦いながら、精力的に新作ネタを発表し、舞台に立ち続けている。
まったくアイデアが出てこなくてネタづくりに苦しむことは私もあります。
ネタのヒントになっているのは、人間観察。人間にめちゃくちゃ興味があるんですよね。
人とすれ違った瞬間に面白い会話が聞こえてきたら、戻って聞いてしまいますから(笑)
特に企画・クリエーティブ系の職に就いている人であれば、上司から「もっと人間を観察しなさい」と言われたことがあるかもしれない。
だが、漫然と人を見ているだけではヒントは盗めない。大事なのは、どこまで貪欲に面白がれるかだ。
タクシーに乗ったときも、運転手さんから何か面白い一言があったら、どんなに疲れてても食いついちゃいます。
で、こっちから話し掛けて、質問して、ネタになりそうなものを引っ張り出していく。
普通にしていると見逃しそうなことに、どれだけ違和感を持てるか。
そこの感度みたいなものは、昔からあったかもしれないですね。
そんな嗅覚によって生まれたのが、演歌歌手の水谷千重子や中高年プロアルバイターの西尾一男といった濃いキャラクターたち。
プロ顔負けの歌唱力に、豊富なモノマネのレパートリー。友近さんを「器用」と評して疑問を挟む人はいないだろう。
だが、器用なことはいいことばかりではない。器用な人は何をやってもできて当たり前とみなされ、不器用な人の方が周りからかわいがられやすいのが世の常だ。
それはめちゃくちゃ分かりますね。
私で言うと、水谷千重子や西尾一男というキャラがあるんですが、テレビ番組から生まれたわけでもない、単独ライブでやっていた一つのネタなんです。
それが明治座や博多座の座長になってるって冷静に考えると頭おかしい(笑)
というか、われながらすごいことやってるなぁと思うんです。
でも、あまりに自然にやりすぎているからか、そんなふうには見られていないという。
自分で「こんなすごいことやってるんですよ」なんて言いたくないし。たまにモヤモヤするときはありますね。
まぁ、今言いましたけど(笑)
だけど、そこで友近さんは腐ったりしない。周囲からの評価に対する不満を、どうやって友近さんは乗り越えているのだろうか。
みんなに認めてもらわなくてもいいって割り切ることは大事です。
自分は誰に評価されたいのか。そこをぶらさない。
私の場合は、バッファロー吾郎Aさん。
私にとってバッファローさんは、ずっと「この人にネタを見てもらいたい」と思っていた人。
そんな人が、NSC(吉本総合芸能学院)に入って半年くらいの時に、私のネタを見て面白いと喜んでくれた。
そして、バッファローさんのライブに呼んでくれて。バッファローさんのお客さんが私のネタを見て大笑いしてくれた。
あの体験が、私の芸人としての原点です。
自分の目指すお笑いは間違っていない。そう確信できたことで、「バッファローさんの言葉を信じて頑張っていこう」と思うことができた。
だから、もし若い頃の私のようなモヤモヤを抱えている人がいるんだとしたら、評価して認めてくれてる人は絶対にいるぞって言いたい。
そういう人が一人でもいるだけでもいると信じていれば、突き進めると思います! へこたれずぜひ頑張ってほしいですね。
大事なのは、どこを見て仕事をするか
20年余にわたって芸人として一線を走り続けていられるのも、ブレない信念があるからだ。
時代の流れによって笑いは変化する。特に近年は「誰も傷つけない笑い」がトレンド。女性芸人をめぐる立ち位置もセンシティブになってきた。
だが、友近さんはそうした世の中の動きに一切影響されることなく、自分の笑いを貫いている。
私はネットでエゴサーチなどはしないし、男芸人がどうとか女芸人がどうとか考えたこともないですね。
だから逆に、女芸人と言われても何も違和感ないです。
呼び方は自由、ただ自分が面白いものをやる。あるのは、その純粋な気持ちだけですね。
バラエティー番組に出れば、いわゆる“テレビ的なこと”も求められる。だが、それも自分のポリシーに合わないものは跳ねのけてきた。
バラエティーではよく「こういう発言をしてください」ってカンペが出たりするんですけど、自分の意思に反したことは言わないようにしています。
例えば、コレ面白いと言ってください! って言われても、自分が面白いと思わないなら言いたくない。
スタッフの人からしたら、言うことを聞かない、頑固な芸人だと思いますよ(笑)
そう笑って認めてから、まっすぐに前を見据えてこう続けた。
要は、どこを見て仕事をしているかなんですよね。
乱暴な言い方をしますが、人の顔色をうかがって仕事するのか、自分のスタンスを守りテレビの向こう側にいるファンを見て仕事をするのか、です。
私は、ファンに向けて仕事がしたいんです。
今は何となく周りの人の顔色をうかがって仕事をしてる人が多いような気がしますが、それも間違いじゃないです。
単純に番組を盛り上げたいから指示通りするのも正解だと思いますし、テレビ的にそうした方が盛り上がるのであればそっちの方がいいですよね。
ただ、やはり、私はテレビの向こうのファンの方を意識して笑いをお届けしたい。
立ち位置がどうとか、この要因で呼ばれてるということだけにとらわれて、自分らしい発言ができないのは残念すぎる。
らしく振る舞えて、第一はテレビの向こうのお客さまを見て仕事をする。これに尽きますね。
もちろん言うこときかない人だと思われるのは私もいやですよ。
でも、自分の意思に反した発言をして今まで積み上げてきたものが崩れる方がもっといやだし、ファンの人にガッカリされるのもいや。
それなら私は「言うこときかないな」と思われてもいいから、自分が面白いと思うことを守りたいなって思うんです。
近年、友近さんはテレビの仕事と並行しながら、年に50〜100本ものライブに出演し続けている。それもまたファンを第一に考える友近さんらしい仕事のスタイルだ。
テレビはやっぱり多くの人に見てもらえるチャンス。
地方に行くと、おじいちゃんおばあちゃんが「テレビに出てる友近さんが来てくれた」と喜んでくれるので、やっぱりテレビは出続けないといけないなぁと思う。
テレビもやりながら、水谷千重子もやるし西尾一男もやるしコントもやるし、こうやって映画のお仕事もやらせてもらう。
昔も今もやりたい仕事をやる、が私のモットーです。
ベテラン芸人でありながら、『有吉の壁』や『千鳥のクセがスゴいネタGP』では、若手芸人に混じってネタを披露している。
その理由も「ネタがやりたくてお笑いの世界に入ったわけですから」とシンプルだ。
周りが若手やからって遠慮する必要はないと思います、オファーをいただいている以上は必要とされているってことなので、出させてもらいます。
ダメなのは、見ている人から「友近、やってることブレてきたな」って思われること。
だからといって、はやりの笑いを入れ込んだりはあえてせず、自分の笑いを変える発想もないですけどね。
自分が面白いと思うものをやって、若い層のファンもつくりながら、お年寄りのファンも増やしていけたらと思ってます。
面白いことをやり続ける。そのスタンスをぶらすことはない
2020年からは吉本の女性芸人としては初のエージェント契約に切り替えた。
自由度が上がった今は週3〜4日ペースで地方ロケの仕事を入れ、テレビ出演のほか、定期的に全国でライブを行うなど、自分らしい働き方を実践している。
この2〜3年は特に自分のやりたいことができている実感がありますね。
そういう意味では、今の働き方が自分にとっての最適解なんだと思います。
ただ、舞台はどうしても劇場に来る人にしか観てもらえない。「もっといろいろな人に自分のネタを見てほしいという欲はある」と続ける。
そのための一つとしてSNSに力を入れる方法はあるのかもしれないですけど、めちゃくちゃ良い作品をつくっても、それよりお弁当の中身を見せる動画の方が再生回数が上がるのであれば、YouTubeも考えものやなと。
面白いと思うものをやり続けるというスタンスは、この先もぶらすことはないと思います。
仕事をしていると、時に自分の信念を曲げたり、やりたいことをがまんしたりしなくてはいけない場面も多い。どうして友近さんはこんなにも強くいられるのだろう。
それはやっぱりバッファローさんのおかげです(笑)
自分の単独ライブで、自分の笑いを愛してくれるファンのみんなの前でネタをする。
そういうバッファローさんの姿をカッコいいと思って芸人をやってきたので、今こうしてライブができていることがうれしいんですよね。
笑いの価値観は人それぞれ。だからネタですべっても落ち込まない。
「落ち込めよって感じですよね」と笑いながら、「相性が合わなかったか……と思うだけ」と友近さん。
でも、単独ライブは別です。
単独ライブのお客さんは私の笑いが好きで、お金を払って来てくれてる。
絶対この人たちは笑かさなっていう責任感はあります。
なぜ友近さんのモチベーションは尽きないのか。その答えはシンプルだ。
常にやりたいことをやる。そうすると、またそこから新しくやりたいことが生まれる。
その好循環が、芸人・友近を突き動かすエンジンになっている。
今のところ、たぶん死ぬまで芸人をやっているんだろうなという気がします。
私、年齢も芸歴もあんまり考えたことがなくて。
次はあれしよう、これしようって思ってたら、いつの間にか日がたっていた感じなんです。
だから、これからも誰に向けて芸を披露するかを忘れずに、自分のやりたいことをどんどんやっていけたら、幸せやろうなって思います。
取材・文/横川良明 撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER) 編集/天野夏海
作品情報
映画『嘘八百 なにわ夢の陣』
2023年1月6日(金)TOHOシネマズ 日比谷ほか全国公開
監督:武正晴
脚本:今井雅子 足立紳
音楽:富貴晴美
出演:中井貴一 佐々木蔵之介
安田章大 中村ゆり 友近 森川葵
前野朋哉 宇野祥平 塚地武雅 吹越満 松尾諭
酒井敏也 桂雀々 山田雅人 土平ドンペイ Blake Crawford 高田聖子
麿赤兒 芦屋小雁 / 升毅 / 笹野高史
配給:ギャガ
Ⓒ2023「嘘八百 なにわ夢の陣」製作委員会
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