【浪川大輔】役者一本で食べていけず会社員に…彼が声優界のトップランナーに返り咲いたワケ

【浪川大輔】役者一本で食べていけず会社員に…彼が声優界のトップランナーに返り咲いたワケ
一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。

長く働いていると、誰しも一度や二度は壁にぶつかることがあるだろう。

そんな時、「別に壁は乗り越えなくていい」と話すのは、芸歴40年になる声優・浪川大輔さんだ。

子役時代から声優としてキャリアを築く彼は、『ルパン三世』の石川五ェ門をはじめ、『ハイキュー!!』『呪術廻戦』『鬼滅の刃』など話題作に引っ張りだこの、まさに声優界のトップランナー。

しかしその道筋は決して順風満帆ではなかった。かつて夢みていたスポーツ選手の道はけがで断たれ、役者の道に進んだものの生活ができなくなり、アルバイトや会社員を経験したこともあった。

そんな彼が、今プロフェッショナルとして声優界をリードする存在となれたのはなぜなのか。その理由をひも解いていくと、壁にぶつかった時の独自の思考法が見えてきた。

先代のコピーではない「石川五ェ門」への挑戦

2025年6月に公開される『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』。

『ルパン三世』で三代目『石川五ェ門』を演じる浪川さんにとっては、2作目となる『LUPIN THE IIIRD』シリーズ作品だ。

映画『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』場面画像

2025年6月に公開される『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』は、『ルパン三世』シリーズにおいて、約30年ぶりの2D劇場版アニメーション完全新作。テレビシリーズのスピンオフ劇場用作品である『LUPIN THE IIIRD』シリーズにおいては4作目となる。『LUPIN THE IIIRD』シリーズは、モンキー・パンチの原作に漂うアダルトかつハードボイルドな世界観を引継ぎ、若きルパンたちの邂逅や軌跡を描く。

浪川さん

僕は『LUPIN THE IIIRD』シリーズでは3作目の『血煙の石川五ェ門』から参加させていただいてるんですが、今回は集大成ということで、伏線回収がすごいんです。

これまでの話が全て繋がった壮大なストーリーになっていて、衝撃を受けました。

映画の大きなテーマの一つが、「不死身」「不死」。「不死身である」ことは、良い面も悪い面も持ち合わせているが、本作は「生き続けることは幸せなのか」を、ダークに問いかけてくる。

2011年から石川五ェ門を演じている浪川さんだが、『LUPIN THE IIIRD』シリーズは、五ェ門を演じる上でターニングポイントになった作品だという。

浪川さん

これまでのテレビシリーズでは、ポップなルパンの世界観に合わせて、先代の石川五ェ門のイメージを崩さないように、いわば「どれだけ似せられるか」を意識していました。

でも、『LUPIN THE IIIRD』は、キャラクターそれぞれの個性と背景に深く切り込んだストーリー展開が特徴の一つ。

テレビシリーズのルパンでは「表面的な表現」をより重視していたけれど、前作の『血煙の石川五ェ門』では、役の内面をゼロから作っていけたので、「先代のモノマネではなく、自分らしさで勝負してもいいのかな」と感じられるようになったんです。

インタビューに答える浪川大輔さん

同じ役を演じながらも、心構えが大きく変わったという浪川さん。

前任の演技をどれだけ引き継ぎ、どれだけ自分らしさを出すか。そのバランスを模索していくのは、本作でも大きなチャレンジとなった。

浪川さん

あまりにも僕の顔が見えすぎてもいけないと思うので、バランスは難しかったです。

でも今回は、「これは先代と似てるのかな」とか、「過去にこういう言い方はしてたのかな」なんていうことを気にしすぎず、自分なりの五ェ門を作り上げていけることに、少し心の軽さもありました。

「壁は乗り越えなくていい」視点を変えることで見えてくる突破口

本作において、ルパンたちは「不死身の敵」ムオムを相手に、度々窮地へと追い込まれる。

しかし、真正面から挑むのではなく、「視点を変える」ことで、局面を打開していく。

浪川さん自身も、長いキャリアの中で高い壁にぶつかった時、「視点を変える」ことの有効性を実感する場面は多かったと語る。

浪川さん

目の前に高い壁が立ちはだかった時、「どうやったらこの壁を越えられるか」って考える人は多いと思うんですけど、別に越えなくてもいいと思うんです。

もしかしたらその壁は、下に穴が空いているかもしれないし、横幅もそんなに広くないかもしれない。

それなら、くぐったっていいし、横から回って行ったっていい。それすらも大変なら車に乗って行こうが、ヘリコプターに乗って行こうが、向こう側に行ければ何でもいいですよね。壁の向こう側への行き方は別にキレイじゃなくていいと思います。

インタビューに答える浪川大輔さん

「真正面から立ち向かわなければ」という考えにとらわれずに、少し視点を変えてみると、異なる立ち向かい方が見えてくる。

浪川さんがこのスタンスにたどり着いたのは、過去にたくさんの失敗、挫折を繰り返してきたからに他ならない。

子役時代に映画『E.T.』やOVA『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』映画『ネバーエンディング・ストーリー』をはじめとした作品での演技が評価され、声優人生のスタートは華々しいものだった。

しかし、年齢を重ねるにつれて、声優の仕事は減っていった。

浪川さん

学生時代はスポーツ選手を目指すようになったんですが、けがにより断念。その後、再び役者の道に戻ってきたものの、声優一本では生活ができず、会社員になりました

浪川さん

スポーツで挫折したのも、役者で食べていけなくて会社員になったのも、全部「壁」だと思うんですよね。でも、心だけは折れないようにしていて。

どうしていたかというと、少しかたちを変えることになっても「今できること」をやるようにしていました

プロのスポーツ選手にはなれなかったけれど、社会人リーグに入って競技は続けていたし、役者一本で食べていけなかったけれど、会社員をやりながら声優の仕事もできる範囲でやってました。「もしかしたら売れるかもしれない」なんて思いながら。

浪川さん

会社員の仕事も、一生懸命やっていたら昇進もできて。

これらは全部、進んではいるけれど、壁は乗り越えてないんですよね。何一つ成し遂げていない。ただ、何とかして壁の向こう側に行こうとはしていた。

最終的に壁の向こう側に行けたかどうかではなく、たどり着くために頑張り続ける過程がかっこいいといいなと思います。

カメラに向かってポーズを取る浪川大輔さん

「壁を越えても、くぐっても、その先にゴールはない」と、浪川さんはきっぱりと言い放つ。あるのは中継地点に過ぎない。

それでも、壁の向こう側に行こうと、泥くさくもがいてきた過程こそが、浪川さんの可能性を広げてきた。

浪川さん

『LUPIN THE IIIRD THE MOVIE 不死身の血族』で敵として立ちはだかるムオムは不死身・不死を手にしています。でも、それってもしかしたらすごく苦しいことかもしれない。

人はいずれ死ぬし、終わりがある。そのゴールを目指して頑張り続けるからこそ、人生はおもしろいし、美しいし、かっこいいんじゃないかな。

夢や目標に到達できなくても、到達するための過程が輝いていればそれで充分。

そんなスタンスで一歩ずつ前に進んできた浪川さんの考え方は、高い壁を前に途方に暮れる私たちの気持ちを、軽くしてくれる。

100円でも、1000円でも、「対価を払う価値」があればプロ

40年にわたり、キャリアの荒波に身を置いてきた浪川さん。彼にとって「プロ」とは一体何なのか。

浪川さん

僕はプロとは「価値」だと思っています。価値があるものには必ず「対価」がついてくる。

その価値が100円でも1000円でも、1万円でも1億円でもプロだと思います。価値が違うだけで、お客さまが「お金を払いたい」と思った時点でもうプロなんです。

インタビューに答える浪川大輔さん

プロの中にもレベルがある。自らの価値を高め、対価を高めていくことが、プロの仕事だと浪川さんは続ける。

浪川さん

よく養成所の生徒に、「君のお芝居は今いくらですか?」と問いかけるんです。

みんな謙遜して「500円です」とか「1000円です」とか言うんですけど、「それじゃ多分売れないよ」と伝えています。

浪川さん

声優って、資格を必要とする仕事ではないですし、レベルを示す級のようなものも特にありません。声を出せて、文字が読めれば誰でもできてしまう。

だからこそ、「プロって何だろう」っていうのはよく考えていて。明確な基準がないからこそ、「お客さまがいくら払いたいと思うか」がプロとしての基準になるんじゃないかと思っています。

プロフェッショナルとして自らの価値を高め続けてきた浪川さんが次に目指すのは、エンタメ自体の価値向上だ。

浪川さん

アニメはもちろん、エンタメがもっと世界共通のものになっていくといいなと思っています。

国境を越えて交流できるような世界にしていくことに、少しでも携わることができたらいいですよね。

自分のためというより、これからの時代を担う人たちがもっともっと楽しめる世界にしていくため、僕ができることはやっていきたいです。

浪川さんが見据える未来も、彼にとっては「中継地点」に過ぎない。

キレイじゃなくてもがむしゃらに走り続けるエンタメ界のプロフェッショナルは、これからも私たちを楽しませ続けてくれるのだろう。

カメラに向かってポーズを取る浪川大輔さん

浪川大輔さん

声優、歌手。1976年4月2日生まれ。ステイラック代表取締役。子役時代より声優として活躍し、『ネバーエンディング・ストーリー』『E.T』などの主人公の吹き替えを務める。2011年のテレビスペシャル「ルパン三世 血の刻印 ~永遠のmermaid~」より石川五ェ門の声を引き継ぐ。「ハイキュー!!」(及川徹役)「君に届け」(風早翔太役)「ババンババンバンバンパイア」(森蘭丸役)のほか、『ロード・オブ・ザ・リング』シリーズ、『スター・ウォーズ』シリーズの吹き替えなど、話題作の声優を務め様々な役柄を演じる実力派声優として活躍中。6月25日にベストアルバム「N.D.」を発売

XInstagram

取材・文/光谷麻里(編集部) 撮影/竹井俊晴 ヘアメイク/鈴木和花 スタイリスト/村田友哉

作品情報

『LUPIN THEIIIRD THE MOVIE不死身の血族』2025年6月27日(金)全国ロードショー

映画『LUPIN THEIIIRD THE MOVIE不死身の血族』メインビジュアルポスター

<あらすじ>
世界地図に存在しない“謎の島”を目指し、ルパン三世たちはバミューダ海域へ向かう。目的は、これまで彼らに刺客を送り続けてきた黒幕の正体と、隠された莫大な財宝を暴き出すこと。しかし島に近づいた瞬間、狙撃によって飛行機は撃墜され、一行は死の島へと不時着する。 そこに広がっていたのは、朽ちた兵器や核ミサイルが山のように積まれ、かつて兵器として使われ、捨てられた“ゴミ人間”たちが徘徊する、世界の終わりのような風景だった。霧に覆われたその島には、24時間以内に死をもたらす毒が充満し、逃げ場はない。 島の支配者・ムオムは不老不死を掲げ、世界を選別と排除で支配しようとしていた。銃も刀も通じない“死なない敵”を前に、ルパンは過去と誇り、そして盗人としての矜持を賭けた知略の戦いに挑む。 果たして、ルパンは24時間以内にすべてを盗み出し、生きて島を脱出できるのか──。

原作:モンキー・パンチ
監督:小池健
脚本:高橋悠也
音楽:ジェイムス下地
クリエイティブ・アドバイザー:石井克人
主題歌:B’z「TheIIIRD Eye」
アニメーション制作:テレコム・アニメーションフィルム
製作・著作:トムス・エンタテインメント
配給:TOHO NEXT

キャスト
声の出演:栗田貫一、大塚明夫、浪川大輔、沢城みゆき、山寺宏一
声のゲスト出演:片岡愛之助、森川葵、空気階段

公式サイト公式X公式Facebook

モンキー・パンチ©TMS