
花江夏樹「完璧な準備より、現場の化学反応を信じる」トップ声優のチームで成果を出す仕事術
いま日本各地で熱烈に「推されている」注目の人に、仕事に対する知られざる努力とこだわりをテーマにインタビュー。彼・彼女たちがファンから「激推し」される理由を探ります!
社会現象を巻き起こした『鬼滅の刃』の竈門炭治郎役をはじめ、数々の人気作品で唯一無二の存在感を放つ声優・花江夏樹さん。
彼が次なる作品で演じるのは、2025年8月22日に公開する『映画 おでかけ子ザメ とかいのおともだち』で、主人公の「子ザメちゃん」を見守る「とかいではたらくおにいさん・はると」だ。
ほんわかした優しいキャラクターのはると。作品ごとに全く違う顔を見せる花江さんの表現力は、どこから生まれるのだろうか。
今回のインタビューで見えてきたのは、チームで化学反応を生み出すための、彼ならではの仕事のスタンス。花江さんが多くのファンを魅了し、「推される」理由がそこにはあった。

花江夏樹さん
1991年6月26日生まれ、神奈川県出身。声優として活躍。2013年に『断裁分離のクライムエッジ』の灰村切役でテレビアニメ初主演を務める。以降、アニメ「鬼滅の刃」の主人公・竈門炭治郎役をはじめ、数多くの話題作に出演。また、自身のYouTubeチャンネルで行っているゲーム配信も人気を博している。主な出演作に、テレビアニメ「東京喰種」(金木研/佐々木琲世)、「四月は君の嘘」(有馬公生)、「斉木楠雄のΨ難」(鳥束零太)、「東京リベンジャーズ」(九井一)、「サマータイムレンダ」(網代慎平)、「ダンダダン」(オカルン〈高倉健〉)など。X、Instagram、YouTube
オーディションで掴んだ「当たり前にいる」存在
もともと子どもが好きな作品だったので、『映画 おでかけ子ザメ とかいのおともだち』のオーディションの話が来た時は「受かったら嬉しいな」と心から思いましたね。
すごく癒される世界観ですし、親子で見ることができる。そんな作品に携われるのは、すごく幸せな機会だなと思いました。
そう屈託のない笑顔で語る花江さん。花江さんが演じるはるとは、都会で子ザメちゃんと出会い、子ザメちゃんにパンケーキを作ってくれる青年だ。
キャラクター資料を見た当初、その可愛らしい絵柄から「てっきり未成年だと思っていた」と笑う。
台本を読んで、居酒屋でビールを飲んでいるのを知って「大人だったんだ!」と(笑)。子ザメちゃんが当たり前にいる世界で、彼自身もごく自然に受け入れている。その“当たり前”の空気感を大切にしたいと思いました。

演技で意識したのは、作品全体を包む「ぬくもりのあるトーン」だ。
はるとは仕事を頑張る青年ですが、家に帰ったら力の抜けた優しい感じになる。オーディションの時から「もっとふわふわ、ほわほわした感じで、ゆっくりしゃべるように」というディレクションがあったので、本番でもそれは意識しました。
「自分のため」から「誰かのため」へ。キャリアを変えた人生の転機
本作では、慣れない都会にやってきた子ザメちゃんが、はるとや、他キャラクターとの出会いをきっかけに新しい世界に触れていく「出会い」の物語。
多くの声優が専門の養成所を経てデビューする中、高校卒業後すぐに事務所に直接応募し、単身で業界に飛び込んだ異色の経歴を持つ花江さん。
右も左も分からない状態でキャリアをスタートさせた自身の経験と、本作のテーマが重なる部分もあるのではないだろうか。
誰しも、新しい環境に行く時のドキドキやワクワク、不安な気持ちはあると思うので。僕も上京した時のことなどを思い出しながら、子ザメちゃんたちに共感して見ていました。

孤独と不安が渦巻く新天地。そんな当時、花江さんの支えになったのは仲間や先輩の存在だった。
事務所も当時は今より大きくなかったので、その分ファミリー感が強くて、先輩にアドバイスをもらったり、助けてもらったり。お世話になった分、自分も周りに還元したいという気持ちでやっています。
がむしゃらに走り続けた若手時代。そんな花江さんの仕事への向き合い方を大きく変える転機が訪れる。それは、自身の家庭を持ったことだった。
昔は「自分のために」と頑張っていた感覚が強かったんです。でも今は、「人のために」という気持ちで仕事ができるようになりました。
自分のためにできることって、どこか限界がある気がしていて。でも、「誰かのために」って思うと、もっと視野が広がるし、より頑張れるなと感じています。
その言葉を語る表情は、どこまでも穏やかで優しい。守るべき存在が、彼をより強く、しなやかにしていることが伝わってきた。
“完璧なプラン”より「現場の化学反応」を信じる

「自分のため」という意識を手放した時、見えてきた新しい景色。家族の存在が仕事への向き合い方を変えたと語る花江さんが思う「良い仕事」とは、一体どのようなものなのだろうか。
家で自分なりに考えてきた「こう演じるといいんじゃないか」といったプランを、現場での共演者との掛け合いを経て、より良いものにできたと感じられる時ですね。その瞬間にすごくやりがいを感じますし、それが「いい仕事」なのかなって。
個人の力には限界がある。だからこそ、彼は「自分だけで決めすぎない」ことを大切にする。
もちろんしっかり準備はしますが、この仕事は瞬発力がすごく大事。だからこそ、あんまりガチガチに固めすぎないようにしています。
それよりも、現場で相手の芝居をしっかり「聞く力」や、そのキャラクターの気持ちに「寄り添う気持ち」の方が重要だと思っているので。
その根底にあるのは、共に作品を創り上げるクリエーターたちへの、深いリスペクトだ。
アニメは“監督の作品”という意識が僕の中にあって。僕らが台本を受け取るまでに、監督や原作者の方は、僕らの想像を絶するほど何度も何度も考え抜いているはずです。
だから、その意図にできる限り寄り添いたい。その上で、自分のニュアンスを乗せて、作品全体が良くなるようなパフォーマンスができたら最高ですね。
それは、声優という仕事に限らず、チームで何かを成し遂げようとする全ての働く人にとって、重要なヒントになるはずだ。
長く続ける秘訣は「自分が楽しむこと」

多くのファンから熱烈に「推される」存在である花江さん。しかし、意外にも彼自身は「人生で“推し”ができたことがないんです」と明かす。
何かに熱中できる対象がいるのは、少し羨ましいなと思います。これから探していきたいんですけどね。
特定の「推し」を持つことはなくても、彼の心を動かし、仕事への情熱を燃やし続けるもの。それは、自分自身の「楽しい」という純粋な感情だ。
やっぱり、自分が楽しんでいることが一番。好きでやっているからこそ、続いているんだと思います。
僕は休みを意図的に取るようにしていて、この業界では珍しく毎年夏休みも取るんですけど、そうやって数日休んでいると、逆に仕事が恋しくなってくるんですよ。そんなふうに思える仕事ができていることが、ありがたいですね。
少し休んで、また仕事に向き合う。そのサイクルが、結果的により質の高い仕事につながり、長く第一線で活躍し続けるための原動力になっている。
全力で頑張ることも大切ですけど、自分をいたわってあげることもすごく大事。休んでいる時も、仕事をしている時も、両方楽しめる。そんなバランスが、理想かなと思います。
最後に、本作を楽しみにしているファンに向けてメッセージをもらった。
日々お仕事を頑張っている皆さんの、ちょっと疲れた心をそっと癒やしてくれるような、そんな優しさが詰まった映画です。
慣れない場所で頑張る子ザメちゃんの姿に、きっと共感したり、応援したくなったりするはず。ぜひリラックスして、子ザメちゃんたちの冒険を楽しんでください!
仕事に、家族に、そして作品に。全てのことに愛情を持って向き合う花江さん。彼が多くの人から「推される」理由は、その技術だけでなく、温かな人間性そのものにあるのかもしれない。
作品情報
『映画 おでかけ子ザメ とかいのおともだち』2025年8月22日(金)全国公開

八魚駅前にやってきた子ザメちゃんは、 ベンチで悲しそうにうつむく女の子・そらに出会う。
都会の高校に転校することになったと話すそらは、 ひとりぼっちになってしまうかもしれないと落ち込んでいた。
楽しい都会の様子が載っている雑誌を見ながら、 きっと都会でも新しいお友達ができると元気づける子ザメちゃん。
そらと別れ、歩き出した子ザメちゃんの目に、 キラキラした都会のポスターが飛び込んでくる。
そのとき子ザメちゃんの上をサメの形をした雲が通り過ぎていく。
そしてその雲に誘われるように、子ザメちゃんは都会へ向かう電車に乗り込むのだった。
輝くネオン、人々が行き交うスクランブル交差点、 たくさん人たちが揺られる満員電車。
“とかい“を舞台に子ザメちゃんの小さな大冒険が始まる!
キャスト:
花澤香菜、潘めぐみ、久野美咲、梅原裕一郎、花江夏樹、宮田俊哉、高野洸、杢代和人、石見舞菜香、来栖りん ほか
原作:ペンギンボックス(「おでかけ子ザメ」/KADOKAWA「キトラ」刊)
監督:熊野千尋
コンテ・演出:熊野千尋
脚本:長嶋宏明
キャラクターデザイン:竹内あゆみ
色彩設計:西詠仔
美術監督:北島雅代
撮影監督:佐々木明美
音響監督:小泉紀介
編集:小口理菜
音響効果:武藤晶子
音響制作:dugout
音楽:藤澤慶昌
アニメーション制作:ENGI
配給:角川ANIMATION
製作:KADOKAWA
©ペンギンボックス・KADOKAWA/おでかけ子ザメ
『推しのお仕事!』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/oshinoshigoto/をクリック