
【GENERATIONS 小森隼】「自分には武器がない」焦りと劣等感を救った“がむしゃら精神”の真意
「なりたい自分」になるために、嫉妬心はエネルギーに変えよう。逆境を乗り越えた経験こそが、自分を強くする──。そんなキャリアの「正論」に、少しだけ疲れてはいないだろうか。
そんな働く女性たちに、この人の言葉を届けたい。GENERATIONSのパフォーマー、小森隼さんだ。
2012年、17歳でデビュー。パフォーマーとして活動する一方、ラジオやバラエティー番組での快活なトークで、24年には所属事務所・LDH内でのテレビ出演本数ランキングで1位を獲得するなど、今やLDH随一の人気者だ。
しかし、その裏側には「自分には武器がない」という焦りと劣等感に苛まれた日々があったという。彼が上梓した初のエッセイ『「大丈夫」を君に届けたい』(KADOKAWA)で綴られた言葉、そしてインタビューで語られたのは、“きれいごと”ではないリアルな生存戦略だった。

小森 隼さん
2012年にGENERATIONSのパフォーマーとしてメジャーデビュー。MC力に定評があり、バラエティー番組をはじめ、様々なTV番組で活躍。『SCHOOL OF LOCK!』(TOKYO FM)パーソナリティー、『AMAZING COFFEE AICHI NAGOYA』プロデューサーなど、多彩な才能を発揮している。俳優、タレント、単独トークライブ、舞台などマルチに活動を行う X、Instagram
「自分には武器がない」焦りと劣等感から見つけた活路
書籍では、メンバーへの嫉妬や焦りを感じる時期があったと率直に語られています。常に明るいイメージの小森さんからは少し意外でした。
GENERATIONSは、本当にすごいメンバーだらけなんですよ。映画の主演を務めたり、ヒット作に関わっていたり。そんなメンバーと比べて「俺には武器がないな」と焦ってしまうことは多々ありました。
僕って、嫉妬とか劣等感みたいなもので出来ているんです。
その嫉妬や焦りを、どのように乗り越えていったのでしょうか?
嫉妬がパワーになったという感覚はないんです。ただ、他の人に負けたくない、できないヤツだと思われたくないという気持ちが、物事を動かす「歯車」にはなったのかもしれません。
どこでその「歯車」が動いたのを感じましたか。
転機になったのは、メンバーの一言でした。僕が焦りで苦しんでいた時期に、グループの冠番組が始まるタイミングで、メンバーが「隼がMCやればいいじゃん。グループでいる時、一番しゃべってるんだから」と言ってくれて。
それまで自分では話すのが得意だとは思っていなかったんですが、その時初めて「ああ、俺ってメンバーの会話を繋げていたんだ」と気付かされて。そこから、テレビやメディアに出る道が拓けました。
メンバーの一言が、今のバラエティーやラジオで話す仕事のきっかけになったんですね。
はい。ただ、もちろんすぐに上手くいったわけではありません。任せてもらったからには結果を出したくて、とにかく必死でした。
放送回は全部見返して「今の言葉はいらなかった」「ここはカットされてる」と細かくチェックしたり、いろいろなバラエティー番組を見てMCの方の言葉を勉強したり。話がうまくなるために、できることは何でもやりましたね。

武器はなくても道は拓ける。「がむしゃら」を支えた行動哲学
「話す」という新たな道を見つけられてからは、自分に自信がついたのでしょうか?
最初はそうでもなかったですね。GENERATIONSは、音楽だけじゃなく、俳優やタレント活動など、いろいろなことをエンタメに昇華するポップスグループ。その中で「君は何がしたいのか」と問われ続けて、僕自身も分からなかったんです。
僕は、自己プロデュースで自分をどう見せたいとか、戦略的なプランを考えるのがすごく苦手なタイプなので……。
できることをとにかく片っ端からやるしかないと思って、「言われたことは、がむしゃらにやる!」と決めていました。それが僕の正解だったのかなと思います。
まさかのがむしゃら精神!
そうです。そうしたら、グループ内でテレビの出演本数が1位になったり、新しい番組に繋がったりという結果が出たんです。
結果が出て初めて、「何も分からなかったけど、やり続けていたら結果に繋がるんだ。このままでいいんだな」と思えたのが、自分を肯定できるきっかけになりました。
目標が見つからずに悩んでいる読者にも、勇気を与えてくれる考え方ですね。
やる気はあるのに、何をしていいか分からなくて何もしないって人は多いですよね。でも実は、それが一番もったいない。
分からないなりに、目の前のことを「やっておく」ことが大事だと思うんです。何かやった経験って、絶対にそのあとゼロにはならないですから。
ゼロにならない、というと?
人の経験って縦の棒グラフのように増えていくものじゃなくて、円が年輪のようにどんどん大きくなっていくものだと思っているんです。だから、一見全然違うことをしても「ゼロから経験を積まなきゃ」と考える必要はなくて。
例えば、本当は接客業がやりたいけど、今はデスクワークをしている人も、一生懸命やっていればPCスキルが身に付きますよね。それって、いざ接客の仕事に就いた時に、プレゼンや資料作成で必ず活きてくる。あの時やっていたから、今こうなっているな、ということに繋がるはずなんです。

「自分らしさ」がないから、何でもできた
ジャンルを超えて活動している小森さんだからこそのお話ですね。ただジャンルレスにいろいろな方と関わることの難しさは感じませんか?
仕事をする上で人との調和って大事ですよね。それこそWoman typeを読んでいる会社員の方とかだと特に。
僕もそこはすごく重視していて、その時は「ご都合主義」を意識しています。
ご都合主義?
これはその場にいる人や状況に合わせて、自分の在り方を柔軟に変える、ということです。
極論かもしれないですけど、人と関わる上で「自分らしさ」って1ミリもいらないなと思うんですよ。自分らしさと自分らしさがぶつかり合ったら、絶対にハレーションが起きるじゃないですか。自分らしさと自分勝手って、紙一重ですから。
お互いが自分のことばかり気にしていたら、我のぶつかり合いになってしまうと。
はい。だから、僕の場合は目の前の人と円滑に仕事をするために、その場の最適解を出すようにしています。これがその場その場の「ご都合主義」ですね。
逆に、もし僕が「自分らしさ」なんて主張していたら、「この番組には出れない」「これはやれない」ってなっちゃいますよね。でも、僕はある意味で“らしさ”がないから、何でもできたんだと思います。
「自分らしくあらねば」と思い過ぎなくていいんですね。ものごとを柔軟に進める上で、壁や逆境を感じたことはないのでしょうか? よく「壁や逆境を乗り越えてこそ成長する」なんて言われますが。
そもそも僕、逆境がないですね! 17歳でデビューしてからずっと右肩上がり、コロナ禍になって仕事が増えた奇跡の男なんで(笑)。
奇跡の男!(笑)
……と、これは半分冗談で。正直に話すと、ずっとしんどかったから「逆境なんてなかった」って言えちゃうんだと思います。僕らって、EXILEさんや三代目J SOUL BROTHERSさん、先輩方のようなヒット曲もないし、気付けば30歳になっているし、お金持ちってわけでもない。毎日が逆境みたいなもんですから。
でも、そんな言葉ばかりを使っても、シンプルにしょうもないし、おもしろくないでしょ?
それは……ネガティブだなとは思いますね。
ですよね。これはMCの仕事を通して、お笑い芸人の皆さんが自虐的なエピソードも最終的に笑いに変える姿を見て、いいなと思って実践しているんです。

そうやってご自身の在り方を柔軟に変えたり、逆境を笑いに変えたりする姿勢が、書籍のタイトルにもある「大丈夫」という言葉に繋がっているように感じます。最後に、その言葉に込めた意味を教えていただけますか。
僕、この言葉が昔から好きなんです。でもそれは、誰かにかける肯定的な意味だけじゃなく、「大丈夫だよな」って自分に言い聞かせるように使ってきたなと。
だから皆さんにも、呪いのようにではなく、自分自身の願いとして「きっと大丈夫」と安心させるお守りのような意味で届けばいいなと思います。
言葉のお守り。素敵ですね。
……とまあ、いろいろとえらそうなことを言いましたが(笑)、皆さんに一番言いたいのは「もっと適当に生きていた方がいいんだよ」ってこと。
なりたい自分を決めつけて進むより、周りの声に耳を傾けたり、目の前のことにがむしゃらになったりする中で、勝手に進んで行った方向にやりたいことがあって、なりたい自分に会える。そっちの方が近道だと思うんです。
もし進んでみて方向性が違ったなら、進路を変えちゃえばいいだけ。人っていつでも、何でも辞められるし、始められるので。
君なら「大丈夫!」。そう自分に言い聞かせていきましょう。
小森隼 1st エッセイ『「大丈夫」を君に届けたい』好評発売中!

GENERATIONS・小森隼、30歳の節目に初の著書!
ラジオでの素顔、そのままに――悩むあなたに寄り添う言葉たち。GENERATIONSのメンバーであり、TOKYO FM「SCHOOL OF LOCK!」でメインパーソナリティとして10代に圧倒的な支持を受ける小森隼。
そんな彼が30歳を迎える2025年、自らの言葉で今を生きる人々に届けたい想いを1冊に込める。
友達との距離感、叶うかどうかわからない夢、家族とのすれ違い、恋のこと、自分自身が嫌いになりそうな夜――。誰もがぶつかる“モヤモヤ”に、同じように悩んできた著者がそっと言葉を添えます。
ラジオでは語りきれなかった本音、ステージとは違う素顔の小森隼が詰まった、写真付きエッセイ。「1人じゃないよ」と伝えてくれる、心の応援本です。
取材・文/於ありさ 編集/大室倫子