北川景子「時間を無駄にしたくない」完璧主義だった私が、母になって捨てた三つのこだわり

北川景子「時間を無駄にしたくない」完璧主義だった私が、母になって捨てた三つのこだわり

「昔は、人に頼らないで自分で全部やりたいって思っていたんです」

かつて完璧主義だった自分を、俳優・北川景子さんはそう振り返る。そして、「そういうこだわりは、もう捨てました」と晴れやかな表情で続けた。

11月28日(金)公開の最新作『ナイトフラワー』で演じたのは、社会の淵に立たされた母親。その役柄は、自身が「働く親」として日々直面する葛藤と、奇しくも重なるものだった。

俳優として、母として。限られた時間、思い通りにならない現実の中で、彼女はなぜプロとして結果を出し続けられるのか。

完璧を手放した先に見つけた、新しい「いい仕事」のつくり方に迫る。

北川景子さん

北川景子さん

1986年8月22日生まれ、兵庫県出身。2003年にデビュー。モデルとして活躍後、俳優として活動を開始。以降、数々の映画やドラマで主演を務める。近年の主な出演作に、映画『スマホを落としただけなのに』シリーズ、『ラーゲリより愛を込めて』、ドラマ『リコカツ』、『あなたを奪ったその日から』、『どうする家康』などがある。X

“ドラッグの売人”になった母親が問いかけるもの

映画『ナイトフラワー』で北川さんが演じたのは、借金取りに追われ、二人の子どもを抱えて東京へ逃げてきた主人公・夏希。

昼も夜も必死に働くが暮らしは一向に楽にならず、追いつめられた彼女は、子供たちの夢を叶えるために、ドラッグの売人になることを決意する。

映画『ナイトフラワー』の場面写真

内田英治監督からオファーを受け「ドラッグの売人の役」だと聞いた時、社会に馴染めないアウトローな女性を想像していたという。しかし実際に脚本を読んで、その考えは覆された。

北川さん

夏希はもともとアウトローな考えを持っていて売人になったわけではなく、本当に普通の人で、毎日を一生懸命頑張って生きている人でした。

ごく普通の母親が、なぜ道を踏み外してしまったのか。その背景にあるやるせなさに、北川さん自身も心を揺さぶられた。

北川さん

もちろん、彼女が売人になったのは絶対的にダメなことなんですけど、「なんでそんなことをしたの?」と一方的に責めきれるかというと……。「夏希なりに、すごく頑張ってたよね」と、彼女に寄り添いたくなる気持ちにもなりました。

映画『ナイトフラワー』の場面写真

だからこそ、演じる上で大切にしたのは、夏希が決して特別な人間ではないということだ。

北川さん

夏希はベースとして、すごく子どもを大切にしていて、楽しい家庭を築いていきたいと思っています。普通の頑張り屋のお母さんなんだということを、ぶれないように演じたいと思っていました。

その言葉通り、劇中の夏希の姿は、多くの働く母親たちの日常と重なる。仕事で疲弊しても、子どもの前では笑顔でいたい。そんな切実な思いが、物語に深い共感とリアリティーを与えている。

映画『ナイトフラワー』の場面写真

完璧主義だった私が捨てた、三つのこだわり

「働く親としてのリアルな気持ちを役に投影できたら」。そう語る北川さん自身、二児の母として仕事と家庭の両立に悩み、試行錯誤を続けてきた一人だ。

「どうやって仕事と家庭を両立されていますか?」というインタビュアーからの問いに、彼女は少しも飾らない、率直な言葉で答えてくれた。

北川さん

私自身は、両立なんて全然できていないな、と思っていて。両方を100%でやろうとすると、結局無理なんだな、と日々実感しています。

北川景子さん

ヘアメイク: SAKURA(makiura office)、スタイリスト:多木成美(コンテンポラリー・コーポレーション)/Narumi Oki(CONTEMPORARY CORPORATION)

その境地に至るまで、彼女はいくつかの「こだわり」を手放してきたという。

かつては、何事も自分一人で完璧にこなそうとしていた。しかし、母になってからは 「仕事に関しては、今までどおり100%の力を注ぐことはできません」と、自身の限界を素直に認めるようになったという。

北川さん

昔は「仕事に全力投球」「時間を無駄にしたくない」という気持ちもありましたし、「人に頼らないで自分で全部やりたい」とこだわっていましたが、それはもう捨てました。

共働きなので、私が家庭の全てを担うことはできません。幸い、夫はすごく協力的ですし、周りも助けてくれる。子どもを一人で育てるのは本当に大変なことなので、うまく人に頼らないとやっていけないな、と思うようになりました。

年齢を重ねて、いろんな現場を経験して「なんとかなる」って思えるようになったのも大きいですね。

北川景子さん

プロとして、準備に時間をかけるのは当然。その思い込みも、限られた時間の中で考えを改める必要があった。

北川さん

以前は、長い時間をかけて仕事の準備をしないと安心できなかったのですが、今はそこまで時間をかけられないので、集中してできる範囲でやっていくように切り替えました

どちらも中途半端に思えるかもしれませんが、不思議と今はそのやり方でうまくいっています。

仕事の顔と、母の顔。その境界線を明確に引くことも、子どもと向き合うための、彼女なりの誠意だ。

北川さん

最近は「子どもに余計な苦労や心配はかけたくないな」という気持ちがすごく強くなりました。だからこそ、子どもが起きている時間に家で仕事をして、子どもはずっとTVを見ていて親子の会話がない……といった状況は避けたくて。

私の場合は、「北川景子」は仕事の時の名前なので、家に入ったらその話はしない、と自然と決めました。だから、私が仕事の準備や台本を覚えている姿を、子どもは見たことがないと思います。

母から“プロの俳優”にスイッチが入る瞬間

「両立はできていない」と語る一方で、彼女の仕事は常に一級品だ。その秘訣は、オンとオフを切り替える、長年の習慣にあった。

北川景子さん
北川さん

家を出る直前までは、本当に普通のお母さんなんですけどね。ご飯をつくって食べさせて、「いってらっしゃい」と送り出して。夫が子どもに優しく接している姿を見て、いつも怒ってばかりの自分を反省したり。

芸能界に身を置いているとは、自分でも思えないような生活をしています(笑)

そんな日常から、プロの俳優へと瞬時に変身する儀式。それは、17歳でデビューして以来、ずっと変わらない。

北川さん

私は結婚して名字が変わりましたが、仕事の名前を名乗っているときは、やはり仕事の顔になるんです。

17歳でデビューしてからずっとそうですが、仕事場に一歩入って、お仕事をご一緒する皆さんに「北川景子です」とご挨拶した瞬間に、スイッチが入ります。「よし、今日も仕事だ」と。

北川景子さん

プライベートの名前から、仕事の名前へ。この感覚は、多くの働く母親たちにも通じるものかもしれない。

家での顔とは違う「仕事の顔」。私たちも日々、オフィスに入るとき、PCを開くとき、自然とそんなスイッチを入れているはずだ。

この潔い切り替えこそが、限られた時間の中で最高のパフォーマンスを生み出す秘訣なのだろう。

「タイパ」の時代だからこそ非効率を大切にしたい

そんな彼女が今、仕事をする上で最も大切にしていること。それは、効率やスピードが重視される時代とは、少しだけ逆行しているように見えるかもしれない。

北川景子さん
北川さん

最近、コスパやタイパ、効率化に関することがテレビや雑誌でもよく特集されていると思いますが、私たちの仕事は、本当にたくさんの「人」と一緒につくっていくものです。

だからこそ、彼女は一見「非効率」にも思えるコミュニケーションを重視するという。

北川さん

「今の時代に非効率」という方もいるかもしれませんが、私は人とのコミュニケーションを重要視しています。挨拶から始まって、撮影の中で「もっとこうした方がいいんじゃないかな」と思うことは、「言ったら面倒くさいかな」などと考えず、提案してみるとか。

古い考え方かもしれませんが、気持ちが通じ合った状態で働けることを、すごく大事にしています。

完璧な両立を手放し、人に頼ることを選んだからこそ、他者との対話の価値を、より深く理解しているのかもしれない。その揺るぎない信念こそが、北川景子という俳優を、唯一無二の存在たらしめているのだろう。

仕事と人生の狭間で揺れる私たちに、彼女の生き方は教えてくれる。

完璧じゃなくていい。全部自分で背負わなくていい。

大切なのは、自分なりのスイッチを持ち、目の前の人と真摯に向き合うこと。その先にきっと、「いい仕事」への道は続いている。

映画『ナイトフラワー』2025年11月28日全国公開!

映画『ナイトフラワー』ポスタービジュアル

借金取りに追われ、二人の子供を抱えて東京へ逃げてきた夏希は、昼夜問わず働きながらも、明日食べるものにさえ困る生活を送っていた。ある日、夜の街で偶然ドラッグの密売現場に遭遇し、子供たちのために自らもドラッグの売人になることを決意する。そんな夏希の前に現れたのは、孤独を抱える格闘家・多摩恵。

夜の街のルールを何も知らない夏希を見かね、「守ってやるよ」とボディーガード役を買って出る。

タッグを組み、夜の街でドラッグを売り捌いていく二人。ところがある女子大生の死をきっかけに、二人の運命は思わぬ方向へ狂い出す――。

【作品概要】

原案・脚本・監督:内田英治
音楽:小林洋平
エンディングテーマ:角野隼斗「Spring Lullaby」(Sony Classical International)
出演:北川景子 森田望智 佐久間大介(Snow Man) 渋谷龍太 / 渋川清彦 池内博之 / 田中麗奈 光石研
配給:松竹
©2025「ナイトフラワー」製作委員会  
公式サイト:https://movies.shochiku.co.jp/nightflower