“平成女児”世代が発案で2025年大ヒット商品に!『ボンボンドロップシール』開発の裏側
今、SNSを中心に爆発的な話題を呼び、「どこにも売っていない」「やっと見つけた!」と投稿が相次ぐ大ヒット商品がある。
株式会社クーリアが販売する『ボンボンドロップシール』だ。
2024年の発売以来、累計出荷数はまたたく間に1300万枚を突破(2025年11月末時点)。『日経トレンディ』の「2025年上半期ヒット大賞」を受賞するなど、文具業界の枠を超えた社会現象となっている。
画像はボンボンドロップシール公式X(@bonbon_drop)より引用
シールの主なターゲットは幼・小学生の女児たち。しかし、このブームを牽引しているのは、実はかつてシール交換に夢中になった「平成女児」世代の大人たちだという。
なぜこの小さなシールが、アラサー女性たちの心を揺さぶるのか?その裏側には、自身の「好き」を信じ、妥協なきこだわりで形にした女性開発チームの奮闘があった。
開発のキーパーソンとなった、株式会社クーリアのデザイナー・山﨑菜央さん、山脇優美さん、片山美沙さん。
今回は皆さんのイメージ画像で登場
熱量の高いプロダクトのヒットの裏側にある「徹底したユーザー目線」と「フラットなチームワーク」の秘訣を紐解く。
大人が熱狂する『ボンボンドロップシール』の正体
『ボンボンドロップシール』の最大の特徴は、その圧倒的な厚みと透明感。硬質な樹脂で固められたシールは、ぷっくりと立体的で、光にかざすとキラキラと輝く。指でつまむと、まるで本物のドロップ(飴玉)のような存在感がある。
発案したのは、開発デザイナーの山﨑菜央さん。「最初は『デコパーツ』のようなシールを作りたいと思ったのがキッカケでした」と開発当初を振り返る。
当時、Z世代を中心に流行していた『トレカデコ(トレーディングカードのデコレーション)』を見て、推しのアイドルやキャラクターのカードをケースに入れてシールで飾るカルチャーが素敵だなと思って。
ここで透明感があって、立体的で、デコパーツのようなシールがあったら、手軽に可愛く盛れるんじゃないか。そう思ったのが始まりでした。
単に「立体的なシール」であれば、過去にも類似商品は存在した。しかし、ここで終わらないのがプロの仕事だ。
山﨑さんたちが目指したのは、そこから一歩踏み込んだ「圧倒的なリアリティー」と「没入感」だった。
物語を生む“2層印刷”への技術
その「リアリティー」の象徴が、開発チームが最もこだわった「2層印刷」という技術。
通常、シールの印刷は1回で済ませることが多いが、この商品では「天面(表面)」と「底面(裏側)」の2箇所に印刷を施し、その間に透明な樹脂を流し込むことで物理的な奥行きを生み出している。
ただ絵柄が印刷されているだけじゃなくて、カプセルの中に本当に何かが入っているように見せたかったんです。
例えば、キャラクターの顔を天面に印刷して、底面にはその子が食べた「お魚」を印刷する。そうすると、見る角度によって物語が生まれますよね。この「2層ならではのデザイン」には、チーム全員で徹底的にこだわりました。
この原案を、さらに爆発力のある商品へと押し上げたのがチームの力だ。先輩デザイナーである山脇優美さんは、商品を包む「パッケージ」の革新を提案した。
通常のシールは平らなビニール袋に入っていますが、この商品は立体感が命。その魅力を店頭で一瞬で伝えるためには、おもちゃのような『ブリスターパッケージ(プラスチックの成型ケース)』に入れるべきだと考えました。
通常のシールのように平らな袋ではなく、おもちゃや化粧品のようにプラスチックの立体ケースに封入するアイデア。そのパッケージは、手に取るだけで幼い頃のワクワク感を呼び覚ますのだ。
さらにネーミング会議も白熱し、チームで何案も出しながら「飴玉のようなつやつやとした可愛さ」を表す「ボンボンドロップ」という名前に決定。
一人の天才が作るのではなく、それぞれの得意分野を持ち寄りアイデアを磨き上げることで、商品の世界観は強固なものとなった。
「平成レトロ」×「推し活」の融合で大ヒット
発売当初から好調な滑り出しを見せていた同商品だが、2024年12月、決定的な転機が訪れる。
それは、サンスター文具との共同開発による「キャラクター版権商品(ディズニー、サンリオキャラクターズ、スヌーピーなど)」の発売だった。
もともと人気のあるキャラクターたちが、ボンボンドロップシールの姿になったことで、認知が一気に拡大しました。SNSでの拡散スピードが桁違いでしたね。
時を同じくして、世の中では「平成レトロブーム」が到来。
2000年代初頭、「シール帳」を持ち歩き、友達とシール交換に明け暮れていた当時の小学生たちが、今は購買力のある20代〜30代になっている。
かつてお小遣いを握りしめてファンシーショップに通った彼女たちが、今度は「大人買い」する。そんな熱狂が生まれたのだ。
ブームの渦中にいる開発チームも、この熱狂には驚きを隠せない。
ここまで話題になるとは、正直チームの誰も予想していなかったんです。最初は『新しくて面白いシールができたね』と社内で盛り上がっていたくらいで。
まさかこれほど幅広い年代の方に反応をいただけるとは思っていなかったので、本当に驚いています。
『ボンボンドロップシール』が持つ、どこか懐かしい「平成感」と、現代のトレンドである「推し活」や「スマホデコ」の文化。この2つが奇跡的にリンクしたのが、今回のメガヒットの要因と言えるだろう。
取材中に、同じく開発デザイナーの片山美沙さんが、自身のスマートフォンを見せてくれた。クリアケースの裏には、びっしりと「ボンボンドロップシール」が貼られている。
実はこれ、私も自分で貼ってるんです。SNSを見ていると、ユーザーさんがピアスに加工したり、シール同士を貼り合わせてチャームにしたり、私たちの想像を超える使い方をしてくれていて。
逆に私たちが「あ、そんな使い方があったんだ!」と学ばせてもらっています。
作り手自身が、誰よりもその商品のファンであること。その熱量の高さもまた、ヒットの隠し味なのかもしれない。
「先輩・後輩は関係ない」 ヒットを生むチームの秘訣
クーリアの低年齢層をターゲットにしたシールを開発しているLOWシールチームは、現在デザイナー6名、プランナー2名の計8名体制。
全員が女性で、年代は20代から40代までと幅広い。 一般的に、世代が違えば「可愛い」の感覚もズレが生じがちだが、彼女たちのチームにその壁はない。
私はチームの中で年次が低い方なんですが、先輩・後輩関係なく、企画への意見がすごく言いやすいんです。
私がポロッと言ったアイデアを、先輩たちが「それいいね!」と拾ってくれて、さらに「こうしたらもっと良くなるよ」と肉付けしてくれる。否定から入ることが絶対にないんです。
長く仕事をしていると、どうしても経験則でブレーキをかけてしまいがちです。でも、若いメンバーはそれを知らない分、純粋な「やりたい!」をぶつけてくれる。それが私たちにとっても凄くいい刺激になるんです。
月に一度の企画会議では、全員でアイデアを出し合う。担当が決まっても孤独に作業するのではなく、デザインのラフ段階からチーム全体でチェックし、「こっちの色の方が今っぽい」「このタッチなら大人の女性も手に取りやすい」と、細部まで全員の感性を注入していく。
みんなのイメージがズレないように、最初の段階でかなり綿密に話し合います。だからこそ、出来上がった時に「これじゃない」となることがない。全員が納得して世に送り出せるんです。
この「心理的安全性」の高さこそが、1300万枚という数字を叩き出したクリエイティブの源泉だろう。
インタビューの終盤、山﨑さんは「私自身、1990年代後半生まれの、まさに『平成女児』世代なんです」と語ってくれた。
「マーケティングだけでなく自分たちが可愛いと思えるものを作る」。その純粋な動機は、嘘のないプロダクトとして結実し、同世代の女性たちの心にダイレクトに届いた。
懐かしい気持ちと一緒に、進化した令和のシールを楽しんでもらいたいです。仕事で疲れた時、手帳やスマホに貼ったシールを見て、ふとときめいてもらえたら……開発者としてこれ以上の喜びはありません。
取材終了後、画面越しにシールを見せ合いながら「えー! その貼り方可愛い!」と、まるで放課後のように盛り上がるチームの姿があった。
彼女たちが楽しみながら生み出す「ときめき」は、これからも世界の「かわいい」を更新し続けていくに違いない。
取材・文/大室倫子


