あんじゅ先生「1ミリも興味ないことをやったら、漫画家人生が変わった」成長し続けるフリーランスの条件

あんじゅ先生「1ミリも興味ないことをやったら、漫画家人生が変わった」成長し続けるフリーランスの条件

フリーランス→会社員、5年で転職3倍 安定求め回帰」──フリーランスの会社員回帰が話題だ。(日本経済新聞より)

収入の安定性や、働き方改革による会社員の労働環境の変化など、さまざまな要因が考えられているが、その背景の一つとして「スキルアップ」の問題も無視できないだろう。

フリーランスは、会社員と比べると耳が痛いことを直接フィードバックされる機会が減ったり、自ら求めなければ新しい情報が入って来づらかったりと、成長が頭打ちになるという話を耳にすることも多いが、はたしてこの定説は本当なのか。

そこで、2015年に独立し、フリーランス生活12年目にして今もなお成長カーブを描き続ける人気漫画家・あんじゅ先生に、成長し続けるフリーランスと、成長が止まってしまうフリーランスの違いを聞いた。

【聞き手】

横川良明

横川良明

1983年生まれ。テレビドラマから映画、演劇までエンタメに関するインタビュー、コラムを幅広く手がけるフリーライター。著書に『自分が嫌いなまま生きていってもいいですか?』(講談社)、『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』(サンマーク出版)、『役者たちの現在地』(KADOKAWA)など■X

【話し手】

あんじゅ先生

若林杏樹/あんじゅ先生

1988年生まれ。神奈川県出身。新卒で私立大学の職員として就職し、超ホワイトな環境で5年間勤務。その後、長年の夢だった漫画家の道を目指して脱サラ。ツテも知名度もゼロの状態からSNSを営業ツールとして活用し、“天才美少女漫画家”として注目を集め、幅広く活躍中。 国家資格キャリアコンサルタントの資格も保有し、キャリア支援にも関心が深い■X

興味がなくても学んでみたら、世界が開けた

横川

「フリーランスは成長できない」という話を巷でよく耳にします。あんじゅ先生は、この言説についてどう思いますか。

あんじゅ先生

正直に言うと、ピンと来てないですね。私はここ数年、ずっと右肩上がり。成長できていないなんて思ったことなくて

横川

実は僕もそんなにピンと来ないんですよね。フリーランスになって成長できる人と、成長できない人って、どんな違いがあると思いますか?

あんじゅ先生

一つは、常に新しいことを学び、自分の知識やスキルを更新し続けているかどうかじゃないですか。

私で言うと、昨年、キャリア迷子の女性たちに向けた書籍『今の働き方、ホントにそれでいいの?』(高橋書店)を出すにあたって、キャリアコンサルタントの資格を取ったんですけど、それまでキャリア支援とか全然興味なかったんですよ。私、漫画家だし、そんな資格別にいらないし、みたいな。

横川

まあ、それはそうですよね。

あんじゅ先生

でも、一緒に企画を動かしていた人たちに「やりましょう」って説得されるうちに、根負けして「じゃあ、やってみるか」ってなって。

キャリアコンサルタントって、受験資格を取得するのに150時間の講習を受けなきゃいけないんです。そんな時間ねえよって思ってたんですけど(笑)、いざ勉強してみたら面白かった。

結果、国家資格が取れたし、本も出せたし、いいこと尽くめ。でも、もしあのとき「できません」って断ってたら、こうはなってなかったんですよね。

横川

確かに。興味がなくても学んでみたからこそ、開けた世界ですね。

あんじゅ先生

『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』(サンクチュアリ出版)を出したときもそうでした。

私、本当にお金のことが何にも分からなくて。フリーランス一年目のとき、「確定申告しなきゃ」と思ったのが6月だったんですよ。

横川

ん? 確定申告の締め切りは、その年度の3月ですけど(笑)

あんじゅ先生

そうなんです。3カ月も過ぎてて(笑)。それくらい1ミリも興味がなかったんです。

そんな私が税金に関して勉強をして、あの本を出したことで、漫画家としての人生が一気に変わった。学ぶことで、自分でも想像していなかった道が開けていったんですよね。

自分の強みは、他人の方が見えている

横川

あんじゅ先生って、お金の本も出していれば、膣ケアの本まで出しているじゃないですか。

多くのフリーランスは仕事の幅を広げられなくて、手づまりになっていくと思うんですけど、どうしてあんじゅ先生はこんなにも多岐にわたるテーマで描き続けることができるんでしょうか。

あんじゅ先生

実は私、全部、誰かから「やってみたら」と言われてやってるだけなんですよね。自分から企画書を出したことがない。

横川

それはすごい話だ。

あんじゅ先生

仕事の幅を広げていく上で大事なことは、他人の「やってみたら?」に対し、否定せずに乗っかってみること前回の記事で「偶発性理論」の話をしましたけど、まさにそれですよね。

誰かが持ってきた、自分では思いつかないアイデアやチャンスが、ブレイクスルーのきっかけになることもある。

「自分には向いていない」「自分にはできない」という思い込みを捨てて、柔軟にトライできる人は、フリーランスでも成長できるんじゃないでしょうか。

横川

ただ、何も持っていない人にそんなうまい話がコロコロ転がってくるとは思えないんですけど……。

あんじゅ先生

それは絶対にそうです。誰かに「やってみたら?」と声をかけてもらえるのは、その人ならではの強みや武器を見いだしてもらっているからだと思うんです。

私の場合は、難しいことを分かりやすく面白く描く能力が、他の人よりも高かった。そこに価値を感じて、いろんな出版社の人たちが「じゃあ今度はこういうテーマで描かせよう」と企画を立ててくれました。

横川

なるほど。あんじゅ先生なら、税金のこともキャリアの話も分かりやすく面白く描けそうだというオリジナリティーは、第三者が客観的に見いだしてくれたものだったんですね。

あんじゅ先生

まさに。『お金のこと何もわからないままフリーランスになっちゃいましたが税金で損しない方法を教えてください!』を描いてるとき、実は「これ、仕事になるのか……?」って半信半疑だったんです(笑)

それまで私はギャグ漫画やレポ漫画を描いていたので、税金のことを勉強しながら“面白くアウトプットする”のは初めての挑戦でした。その結果、本はすごく売れたし、評価もいただけた。そこで「あ、私ってこういう力があるんだ」って気付けて。

第三者の「やってみたら?」に乗っかることは、決して博打ではなくて、自分では気付けない可能性に出会うチャンスなのかもしれないなと思います。

計画通りで達成できるものは「目標」じゃなくて「予定」

横川

フリーランスには、会社員のように上司や人事とキャリア面談があるわけではありません。

誰も査定してくれないし、厳しいことも言ってもらいにくいし、今後のキャリアプランも練ってもらえない。スキルが目減りしていても気付かないフリーランスは多そうです。

あんじゅ先生

そこで言うと、私はフォロワーさんの反応を一つの指標にしていました

私みたいな漫画家は、フォロワーさんが私に何を求めているのか、私自身がどういうふうに見えているのかを知ることがすごく大事なんですね。

だから、本の部数はもちろんですけど、運営しているオンラインサロンの会員数やSNSのインプレッションは常に意識していました。ある意味、フォロワーさんが上司代わりみたいなものかもしれません。

横川

なるほど。ただBtoBのクライアントワークがメインのフリーランスだとフォロワーの反応は見えづらいですが、何を指標にしたら良いでしょうか?

あんじゅ先生

その場合は、長くお付き合いのあるクライアントが評価基準になるのではないでしょうか。

ファンやクライアントを通して、常に自分を定点観測していくのは大事だと思います。

横川

では、目標設定や課題設定については、どういうことを考えていますか。

あんじゅ先生

そこは自分でちゃんと決めていく必要はあると思います。私が意識しているのは、予定の範囲外に点を置くこと。

横川

予定?

あんじゅ先生

たとえば、今、5万人のフォロワーさんがいたとします。毎月1000人ずつ伸びている人が、じゃあ年内にフォロワー6万人を目指しますと言っても、それは目標ではなく予定。計画通りに進めば達成できるものを、目標とは呼びません。

私にとっての目標は、自分にちょっとストレスをかけないと到達できないもの


予定と目標をすり替えないことは、自分の成長スピードを緩めないためにも大切かなと思います。

横川

たとえば、最近どんな目標を立てましたか。

あんじゅ先生

昨年、『今の働き方、ホントにそれでいいの?』を出したときにオンラインサイン会をやったんですよ。それが、「300冊売れるまで帰れまテン」という企画で。あれは本当にキツかったです。


最初はファン向けに100冊という話だったのに、いつの間にか300冊という話になって。夜の21時から始めたんですけど、結局、なんとか300冊完売したのはてっぺん(0時)ギリギリでした(笑)。

必要なのは、意識的に自分に負荷をかけること

横川

目標を達成できた要因はなんだったんでしょう。

あんじゅ先生

とにかくオンラインサイン会の当日までの間にいろんな人に会いました。

で、一人ひとりに買ってくださいってお願いして。そういう泥臭い努力の積み重ねですね。

私、飲み会が苦手なんですよ。普段誘われても断っちゃうくらい、ずっと家にいる人間なんですけど、あの時はとにかくいろんな飲み会に顔を出して、みんなに「本を買ってください」ってお願いしていました。

あんじゅ先生

私にとってそれはストレスのかかることだけど、でも、そうやって恥ずかしくても面倒でも行動を起こしていかないと、誰も買ってくれない。

フリーランスってほっとくと自分にとって快適な場所にこもりがちだから、意識的に自分に負荷をかけることは重要です

横川

あとは、フリーランスって、会社員以上にやってることも置かれている状況も十人十色だから、なかなかロールモデルを見つけられないという話もよく聞きますよね。

あんじゅ先生

ロールモデルって一人である必要はないと思うんです。

「この人のここは見習いたいけど、ここは自分と違うしな……」って細かく見ていったら、自分にぴったり来るロールモデルなんて見つかりっこない。

だから、「Aさんのここがいい」「Bさんのここがいい」ってロールモデルを複数設定して、それぞれのいいところをうまく組み合わせて、将来的に自分はどうなりたいか可視化していったほうがいいんじゃないかな。

横川

確かに。ピッタリな人を見つけようとするから見つからないのかもしれないですね。

あんじゅ先生

あとは、ロールモデルは随時更新すること。自分のフェーズが上がれば、目指す姿も変わる。なのに、いつまでもロールモデルが更新されていないと、それは成長できないし、現状の自分に満足して終わりになっちゃうと思います。

ひとつ何かできたと思ったら、そのたびにロールモデルを設定し直す。そして、その人と自分の何が違うのか。今の自分は何が足りていないのかを分析し、ギャップを埋める努力をする。

あんじゅ先生

フリーランスが成長できないと感じるのって、要は受け身で、知識やスキルをアップデートしようとせず、コンフォートゾーンで落ち着いているからなんですよね。

でも、そういう人はそもそもフリーランスであっても会社員であっても成長できないと思います。

ちゃんと自分で目標を決めて行動を起こせる人は、フリーランスでも成長できる。だから、「フリーランスは成長できない」という言葉に惑わされる必要はないと思います。

カメラに向かってポーズを取るあんじゅ先生

取材・文/横川良明 写真/あんじゅ先生ご提供 編集/光谷麻里(編集部)

書籍情報

『今の働き方、ホントにそれでいいの?』(高橋書店)

『今の働き方、ホントにそれでいいの?』書影

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主人公は、29歳の会社員・まつこ。
かつての“好き”を見失い、自分の強みにも自信が持てない彼女が、キャリアコンサルタント〈あんじゅ先生〉との対話を通じて、自分らしい働き方を探していきます。

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