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JAN/2021

“推し”とは何か。イケメン俳優オタクの僕が本気で考えた「推しがいる人生」の幸せ

ドラマ、演劇、映画を中心に多数のインタビューやコラムを手掛けるフリーライター横川良明が、「推し」が人生に与えてくれたものを紹介。“推し”に出会って変わったこととは……?

推しとは何か 横川良明

突然ですが、皆さんは「青学」という2文字を見たとき、何と読みますか。

これを「あおがく」と読んだ方、分かります。いいですよね、青山学院大学。今年の箱根駅伝の復路の追い上げには感動しましたし、桑田佳祐からにしおかすみこまで輩出した有名人は数知れず。

表参道でキャンパスライフというだけで、地方出身の僕からするとひれ伏したくなるオーラがあります。

にもかかわらず、「青学」の2文字を見て、つい「せいがく」と読んでしまうのが今の僕。

それだけではありません。「OL」は「オフィスレディ」ではなくて「おっさんずラブ」だし、「審神者」なんて難読漢字をさらりと「さにわ」と読めてしまうのです。

なぜなら僕はオタクだから。

推しとは何か 横川良明

僕は、いわゆる若手俳優オタク。芝居に情熱を燃やす若手俳優を追いかけて、ドラマから舞台まで首を突っ込む節操のない毎日を送っています。

そんな僕にとって青学(せいがく)はミュージカル『テニスの王子様』の青春学園だし、OLは教典。審神者と聞けば、「刀剣乱舞 つ〜よくつ〜よく〜♪」と歌いだしてしまうのは必然のことなのです。

と言っても、僕のオタク歴はざっくり数えてまだ6年ほど。いわゆる“沼”にどっぷり漬かることになったのは、“推し”と出会ってからでした。

僕の推しは、とある舞台俳優さん。そこをきっかけに、いろんな俳優を軽率に推し始めるようになり、気づけばその月振り込まれた原稿料がそのままチケット代やらグッズ代やらに消える毎日に。貯金は貯まりませんが、幸福度指数は爆上がりしている。

なぜ推しがいる人生は幸せなのか。推しと出会って変わった3つのことを紹介します。

【1】不毛な比べ合いをしなくなった

売れている同業者の活躍を見るたびに「明日から手に取るサランラップの切れ目が全部くっついて剥がれなくなりますように」と呪いをかける。

数年前までの僕はとにかく人の成功をひがんで、妬んでばかりの人生でした。

Twitterを開くと、次々溢れてくる同業者たちの仕事充実系ツイート。負けじと僕も「こんな仕事をしました!」とアピールしてみるものの、なんだかむなしい。

思わずFacebookに避難したら、今度は地元の同級生が出産報告をアップしている。僕がベートーヴェンなら「地獄」ってタイトルで1曲作れそうな気分です。

推しとは何か 横川良明

とにかくいつも誰かと比べては、自分に足りないものばかりを数え、みじめな気持ちになっている。自分は自分でいいものを持っているのに、周りの評価にばかり気がとられて、ちゃんと目を向けられない。

底の破れたバケツに水を注ぎ続けるような徒労感が常に体の内側に張り付いていました。

それが、推しができてからというもの、まったく比べ合いをしなくなった。なぜなら、そんなことに時間と労力を使っている余裕などないからです! 

他人のSNSを見てしょげている時間があるなら、やたら更新頻度の高い推しのストーリーズをチェックするし、過去の出演作を掘り起こしたりインタビューを読み返すのに必死。

いつまでもあると思うな、親と推し。競争の激しい芸能界で、いつ推しがステージから降りる日が来るかなど、僕たち一般人にはあずかり知らぬこと。

ならば、推せるうちに推すのがオタクの務め。不毛な嫉妬や劣等感に振り回されている暇などないのです。

推しとは何か 横川良明

推しという大切なものができたことで、逆に大切でないものが明確になった、と言った方が正確かもしれません。そして、自分が今までさして大切でないものにどれだけメンタルを削られていたかを知った。

ネガティブな感情に身を浸して自分を痛めつけるくらいなら、好きという感情に身を委ね推しを愛でよう。僕が比べ合い地獄から脱出できたのは、そうやって気持ちを切り替えることができたからでした。

【2】仕事のモチベーションが明確になった

皆さんは「なぜ働いているの?」と聞かれたら何と答えますか? 自己実現や自己成長のため? 事業への貢献や社会課題の解決のため? あるいはシンプルに、生活や家族のため?

たぶん答えは十人十色だと思いますし、そのどれ一つとして間違いではないと思います。

僕自身は、長らく自己実現派でした。もっと売れたい。もっとこんなことができるようになりたい。そのためにもっと成長して、もっと大きくなりたい。次々と溢れる「もっと、もっと」。

もちろんそうした野心は分かりやすいエネルギー源となりますし、実際、むき出しの向上心が原動力になっていた時期があることは間違いありません。

けれど、あるタイミングからちょっとずつ常にガス欠状態になっていた。無理やりぶち込んだ少量のガソリンでこれまでと同じエンジンをまわしている感じ。

だからすぐに息が上がるし、どんどん疲れてくる。その時、知ったのです。人は、ずっと自分一人のためだけに頑張れないということを。

もちろん個人個人で違うと思いますが、少なくとも僕の場合はある段階で自己実現とか自己成長という人参をぶら下げるだけじゃ走れなくなった。

正直、30を過ぎていつまでも限界突破とか新しい挑戦とか求められても、「オッス、オラ悟空じゃねえ」って気になる。強いやつがいっぱいいてもワクワクしねえ。

推しとは何か 横川良明

そこで取って代わるように現れた新しいモチベーションが、推しのためでした。

締め切りが続いて昼も夜もないときも、原稿料をチケット代に換算して、「これでチケット3枚分……!」と唱えれば踏ん張れたし、「このあとソワレなんで!」と思うだけでハードスケジュールな1日も鼻歌で乗り越えられた。

人によっては、「知り合いでもない推しのために働いてどうするの?」とお思いになるかもしれませんが、モチベーションが何だろうとちゃんと税金も収めてるし経済もまわしてるし、ほっといてほしい。

人は自分のためじゃなく、他人のために動いた方が、より大きな力を引き出せると知ったのは、推しと出会ってからでした。

【3】自分のことを好きでなくてもいい、と思えるようになった

とにかく自尊感情の低い僕。「自己肯定感」という言葉が巷に広まるようになった頃から、もっと自分を好きにならなきゃ、もっと自分を認めてあげなきゃ、と暗示をかけ続けていました。

その結果、どうなったか。余計にしんどくなった。

自分のことを好きになろうと言って好きになれるぐらいなら、こんな何十年もこじらせ男子をやっていない。むしろ好きになりたいのに好きになれなくて、どんどん自分の嫌なところばかり目について、自己肯定感が自家中毒を起こしてる。

そんな中、推しができて分かったんですけど、僕、自分が褒められるより、推しが褒められる方が何十倍もうれしいタイプ。

自分のことを褒めてもらうと、もちろんありがたいとは思うのですが、それと同時に「いやいや、自分なんて鼻クソ以下なんで」と相手が返答に困るレベルで強烈に自分を卑下してしまうし、「褒められたからって調子に乗るべからず」と謎の鬼コーチが木刀を振ってくる。

挙げ句の果てには「こんな褒めてくれた人を、いつかがっかりさせるようなことをしてしまったらどうしよう」とまだ起きてもいないネガティブな状況を勝手に想像して恐怖に震える始末。

一回の褒め言葉に対して起きる感情の情報量が多過ぎて、僕がMacなら確実に虹色のカーソルがクルクルまわってる。

推しとは何か 横川良明

一方、推しが第三者から褒められるとシンプルにうれしい。「ありがとう!」って本人でもないのにお礼を言い、「やろ?」って関係者ヅラでドヤってしまい、「ちなみにこの作品ではね」と頼まれてもいないのに別作品をあつかましくも布教する。

自分が褒められると挙動不審になりますが、推しが褒められると純粋にホクホクするし、気持ちが満たされる。そして気づくのです。無理に自分を好きにならなくてもいいんじゃない? ということに。

そりゃ自分を好きになれた方がいいはいいでしょう。でも、それが容易くない人が無理に頑張っても、しんどくなるだけ。

だったら自分のことはさして好きにはなれないと見切りをつけ、自分より大切な存在ができたことに感謝する人生というのも悪くない気がするのです。

誰かの人生にのっかかっていると言われたらそれまで。依存していると指摘されたらぐうの音も出ません。

でも、そのことをちゃんと自覚した上で、バランスさえ間違わなければ、それも一つの生き方なのかなと。愛されるよりも愛したい真剣(マジ)で。その愛の対象が、僕は推しだったということ。

そして、そうやって推しに全力で愛を注いだお釣りがちょこっと自分に返ってきて、少しぐらいは自分のことも悪くないなと思えたら。こんな僕でも、それなりに良かったと言える人生なのではないでしょうか。

僕の場合、推しは若手俳優でしたが、その対象は人それぞれ。電車や車が推しの方もいれば、漫画やアニメのキャラクターが推しの方もいるでしょう。

何を推すかもまた、その人らしさが見える目安。まだまだ不安の多いご時世ですが、そんな暗い日々を照らす一番星が、推しなのです。

書籍紹介
『人類にとって「推し」とは何なのか、イケメン俳優オタクの僕が本気出して考えてみた』

推しとは何か 横川良明

思わず「わかりみが深い」とうなずいてしまうオタクあるあるから、今これだけ多くの人が「推し」を求める時代背景の考察まで、「推し」に関するあらゆることを凝縮! 推しがいるすべての人に贈る、笑って、うなずいて、考えて、ちょっと胸が熱くなる1冊です。

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【執筆者プロフィール】
横川良明(よこがわ・よしあき)
1983年生まれ。大阪府出身。番組制作会社のAD、求人広告の営業を経て、2011年よりフリーランスのライターとして独立。現在、ドラマ、演劇、映画を中心に多数のインタビューやコラムを手掛けている
Twitter:@fudge_2002

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