時間と場所の制限がなくなれば働きやすくなる? テクノロジーで変わる女性の働き方

女性活用が叫ばれるようになり、国や企業が何やらいろいろやっているらしいのは分かる。でも、働く女性たち自身の意欲やモチベーションはどこか置いてけぼりではないだろうか。

「管理職になってもらわないと」と思われているけど、「そんなの私にはできない・・・」。「育休後の復職はどうする?」って言われても、「家庭との両立をしたいからゆるめに働きたい・・・」。

世間と自分の意識とのギャップにもやもやを感じている女性は多いのが現実。“活用”という言葉は、「自力で動かないものを他者がうまく使う」という響きに聞こえてしまうもの。

もっと女性たち自身が「働きたい!」と思う社会になるには何が足りないんだろう。その答えを探るべく、さまざまな切り口から識者に聞いてみた。

Google

グーグル株式会社 執行役員CMO アジア太平洋地域Googleブランドディレクター
岩村水樹さん

東京大学教養学部卒業後、スタンフォード大学大学院ビジネススクール修了(MBA)。株式会社電通、経営コンサルティング会社を経て、IT企業の経営、ラグジュリーブランドのマネジメントに携わった後、2007年にグーグル入社。アジア太平洋地域におけるGoogleブランドと日本のマーケティングを統括しながら、女性とテクノロジーの持つ可能性とをつなぐ『Women Will』をローンチ。アジアのワークスタイルの変革に取り組んでいる

今回お話しを伺ったのは、グーグル株式会社の岩村水樹さん。テクノロジーの活用で女性の働き方はどう変わるのだろうか。

「時間」と「場所」の制限が
働き続けることを阻害する最大の要因

私たちGoogleは「スマートな働き方」というキーワードを掲げて、女性がもっと輝ける働き方を提案しています。その柱となるのが、「『職場の制度やカルチャー』と『テクノロジー』の両方を支えに、時間と場所にとらわれずに自分のライブニーズに合わせて働こう」という考え方です。

女性とテクノロジーの持つ可能性をつなぐプロジェクト『Women Will』で、25歳から49歳の女性を対象に行った調査によると、離職予定者に「働き続けることが難しい理由」を尋ねたところ、過半数の人が「通勤に長い時間を掛けられない」「自分が働きたい勤務エリアが限られる」「子どもに手が掛かり、十分な時間を確保できない」「子どもの病気など緊急対応に備える必要がある」といった理由を挙げました。

つまり、「時間」と「場所」に関する制限が、女性が働き続けることを阻害する最大の要因になっているということ。そして、これを解消する可能性を持つのが「テクノロジー」なのです。実際に7割以上の女性が、働く場所・時間を柔軟にするテクノロジーについて「働き続けるのに役立つ」と答えています。

インターネットを通じたクラウド型のワーキングスタイルが広まれば、働く時間や場所に制限がある人でも仕事がしやすくなります。

自宅から会社のメールやデータにアクセスできたり、外からアプリケーションを操作できれば、オフィス外でもできる作業はぐっと増えます。しかもクラウド型なら、共同作業も可能。

例えばチームで資料を作りたい時とき、メンバー同士が別々の場所にいても、パソコン上で作成中の資料を共有すれば、お互いに修正や加筆をしながら仕上げていくことができます。

これまでも「いつでも、どこでも仕事ができる」という取り組みを進める企業はありましたが、「テレワーク」や「在宅勤務」という名前でオフィスから切り離され、あくまで個人的な作業を自宅でやるという形に留まっていました。

しかし、クラウド型のワーキングスタイルなら、チーム作業においても「いつでも、どこでも」が可能になるのです。

会議や打ち合わせについても、手軽に利用できるビデオ会議システムが普及すれば、時間と場所の制約は解消できます。

弊社の「Google+ ハングアウト」というサービスは、手元にパソコンやタブレットとwebカメラがあれば、複数の人たちとフェイス・トゥ・フェイスで会話ができるというもの。

一般向けなら最大10人まで、法人向けなら最大15人までのビデオ会議が可能になります。私は今アジア・パシフィックのチームをマネージしていて、時にはアメリカ、インド、日本の三箇所をつないで会議をする、といったことも少なくありません。

私は小学生の子どもが2人いるので、三者の予定が合うのが日本時間の夜遅くだった場合、オフィスに残るのは難しいこともありますが、ビデオ会議なら自宅から参加できるので本当に助かっています。

職場の雰囲気や評価制度が変わらなければ
テクノロジーの活用は進まない

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また、「Google カレンダー」というクラウド型サービスを使って、チームメンバーとスケジュールの共有もしています。ポイントは、仕事だけでなく、子どもの送り迎えなどプライベートの予定も書き込むこと。

ある日の予定に「15時から子どもの保護者会出席」と書いておけば、それを見たメンバーは「だったらこの日のミーティングは午前中にやろう」などと調整がしやすくなります。

ワーキングマザーであれば、家族ともカレンダーを共有するといいですよ。夫婦間で「この日は早く帰れないから、あなたがお迎えね」といった確認がしやすくなるので、「お迎え担当なのを忘れていた!」といった漏れもなくなります。

テクノロジーをフル活用すれば、女性はワークとライフの両方をマネジメントしやすくなるのです。

こうしたテクノロジーを活用し、時間と場所にとらわれず働くことができれば、現在働いていない日本女性の77%が復職できて、出産後に退職が見込まれる女性の62%が会社を辞めずに働き続けられると見積もっています。

ただ、テクノロジーさえあればそれが実現できるかというと難しい。現状でもインフラの面だけ見れば、自宅から会社のリソースにアクセスできる人は約1900万人に上りますが、そのインフラを実際に活用しているのは900万人に留まっています。

その最大の理由は、会社のカルチャーと会社の制度、特に評価制度にあると考えています。職場の雰囲気や評価の仕組みを変えなければ、いくらインフラがあっても積極的に使おうとは思えない。

だから冒頭でお話しした通り、「職場の制度」と「テクノロジー」の両輪が必要なのです。

特に日本の会社では、「出社しなければ他の人に迷惑を掛けてしまう」「オフィスに長くいた方が高く評価される」と考えるカルチャーが根強く、それが女性たちにとって大きな障害になっています。

スケジュールを共有する際も、本当は子どものお迎えのために早く帰るにも関わらず、他のメンバーに気兼ねして「取引先に立ち寄ってから直帰」などとごまかしながら、何とかやりくりしているというワーキングマザーの話もよく耳にします。

思い切って誰か一人が行動を変えれば
職場の雰囲気はがらりと変わる

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しかし、多様な生き方や働き方を認め、一人一人が自分らしく働き続けることを日本社会が受け入れなければ、誰もがハッピーに働けるようにはなりません。

そのためには、評価制度の整備など会社側の努力も必要ですが、働く個人ができることもたくさんあります。例えば、勇気を出して共有スケジュールに「子どものお迎え」と書いてみるだけでも、周囲にポジティブな影響があるかもしれない。

同じように遠慮していた他の人たちも、「プライベートの予定もオープンにしていいんだな」と思い、職場の雰囲気を変える第一歩になるかもしれません。

私自身、いつも「チームを家族に、家族をチームに」というフレーズを使いながら、周囲の人たちに「チームメンバーの家族の状況も理解して、必要ならお互いにサポートしよう」と提案しています。

家族の予定をカレンダーに書き込むだけで、メンバーと「明日はお子さんの運動会なんだ。だったら早く帰ってお弁当の準備をした方がいいよ」といった会話ができる。

それだけでチームの雰囲気はがらりと変わります。ですから、たった一人でも行動を変えることは大きな意味がある。一人一人のアクションが、新しい働き方につながっていくのです。

女性は男性と比べてテクノロジーを活用するのが苦手のように思われていますが、女性は身近な人が使っているものなら、あっという間に取り入れて自分のものにする能力がとても高いですよね。

『Women Will』でも働く女性が情報交換をできるようなコミュニティーを用意していますが、女性の場合、友達から「これって便利だよ」と紹介されると、自分も同じように使ってみて、また誰かに紹介するという形でその輪が広がっていくことが多い。だからこそ、まずは誰か一人が行動することが大事なのです。

そしてテクノロジーを使う側はもちろん、作る側にも女性が増え、女性の意見がもっと反映されていってほしいと思います。その結果、面白くて使いやすいサービスがたくさん生まれて、日本の競争力にもつながるはず。

テクノロジーは女性にとって強い味方です。それをもっと活用しながら、より多くの女性が活躍できる環境を、皆さんも一緒に作っていきませんか。

取材・文/塚田有香 写真/赤松洋太