完璧なロールモデルは必要ない! 坂東眞理子さんが語る・女性が「長く働く」に不安を感じたらすべきこと
今の職場に「私もこうなりたい!」と思えるロールモデルがおらず、これから長く働いていくことに不安を感じている女性は多いだろう。
だが、長期的なキャリアを描き、自信を持って働いていくためには、必ずしもロールモデルがいなければいけないものだろうか?
働く女性のための『キャリアカレッジ』を開講している、昭和女子大学 坂東眞理子学長にお話を伺った。

坂東眞理子さん
富山県生まれ。1969年東京大学卒業、総理府入省。内閣広報室参事官、統計局消費統計課長、男女共同参画室長、埼玉県副知事、ブリスベン総領事などを経て、2001年 内閣府男女共同参画局長。2004年から昭和女子大学大学院にて教授・女性文化研究所長、2007年から昭和女子大学学長。2014年4月から学校法人昭和女子大学理事長に就任し、現在に至る。『米国きゃりあうーまん事情』『副知事日記』『女性の品格』『働く女性が知っておくべきこと』『ソーシャル・ウーマン』など著者多数 ■昭和女子大学HP: http://swu.ac.jp/ ■昭和女子大学 キャリアカレッジHP:http://career-c.swu.ac.jp/
理想どおりの完璧な人を探すのは難しい
社外で活躍する人にも目を向けて
私自身は、必ずしもロールモデルが必要だとは思っていません。
でも、20代~30代の働く女性たちが、ロールモデルだと思える女性を身近に見つけられないことで、将来に不安を感じてしまう気持ちもよく分かるんです。私もかつては、まだ自分が経験していない未来に対して、漠然とした不安を抱えていたからです。今では、さまざまなことを経験してきたので、ちょっと視点や考え方を変えれば、ロールモデルはすぐに見出せると考えています。
例えばロールモデルというと、自分の理想的な働き方、生き方をしている女性をイメージすると思います。でも、そんな完璧な女性を自分の半径5メートル以内で見つけるのはとても難しい。そこで、男性にまで視野を広げてみてはどうでしょうか。複数の男性から一部分ずつ良いところを抜粋して、ロールモデルにするのもあり。女性のロールモデルが欲しいなら、社外にも目を向けて。仕事のやり方、キャリア形成、仕事と育児の両立の仕方、生き方など、いろんな人の良いところを見つけて、
真似をしていくと良いと思います。
女性同士の横のつながりが
新たなロールモデルを生み出す鍵に

ロールモデルを社外で探す方法としては、社外で女性同士のネットワークを作っていくのが最もお薦めの方法。最近ではWeb上での働く女性同士の交流も活発に行われていますし、横のつながりを作れる機会は広がっていると思います。
また、キャリアセミナーのような勉強会に参加して、女性同士のネットワークを築くのも一つの手です。
昭和女子大学でも『キャリアカレッジ』という働く女性のためのビジネススクールを開講していますが、さまざまな企業で働く幅広い年代の女性たちと出会えるので、ロールモデルに出会える確率も高いはず。参加者同士がお互いのキャリアに関する悩みを共有することもできるし、意欲の高い女性たちから刺激を受けることもできる。
「男性が多い職場で女性がどう自己肯定感を持って働くか」や、「ロールモデルがいなくても悩まない方法」などについても話し合う方が多いようです。ソフトスキルというのかしら。女性ならではの悩みや壁を乗り越えるためのスキルを、女性同士のネットワークの中で習得できるのです。
これから長く働いていくことに不安がある人、自信が持てないという人こそ、どんどん社外に出て情報収集したり、意見交換を交わすべきです。同じ悩みを共有する仲間がいることによって、自分たちの中から「こういう新しい働き方って素敵だよね」などの意見も出てくるでしょう。
そうすれば、完璧なロールモデルを探す必要もなくなります。自分たちが、新しいロールモデルを作れるようになるはずです。
今の時代、女性はまだパイオニア
悩みすぎずに目の前のことを楽しんで
身近にロールモデルがいなくて不安になっている女性のなかには、「将来的に子どもができたら、育児と仕事を両立していけるか不安」という人が多い印象です。
でもね、『Facebook』のCOO(最高執行責任者)であるシェリル・サンドバーグさんが「女性たちは目に見えない子どもを背負って、ジョブハンティングしている」とおっしゃっています。
“存在しない子どもを背負っている”、という言葉がおかしかったのですが。これはずばり、日本の若い女性たちにも当てはまると思います。まだ結婚や出産の予定がないうちから、「子どもが産まれたらどうなるのかしら」といつか分からない出産後の働き方を心配している人が多い。
でも、いざ出産して当事者になれば、両立できるような制度やロールモデルがなくても、やるしかないんです(笑)。
それと同時に、どういう制度があれば女性が長く働き続けられるか、といった視点も自分の中で具体的になります。そうなったときに、会社に希望を伝えたり、アクションを起こすこともできます。
「前例が無いから自分にも無理だろう」と考え込んでしまうと、自分を追いつめて会社を辞めるという選択につながってしまう。それは本当にもったいないことです。
女性たちは、今なおさまざまな職場でパイオニア。女性の活躍の場を、自分たちで作っていかなければいけない立場です。だからこそ、受身の姿勢で完璧なロールモデルが現れるのを待っているだけではダメ。
自分一人でパイオニアになるのが不安なら、仲間を作って「自分たちで新しいロールモデルを作る」「まだ見ぬ未来に悩まず今を思いっきり楽しむ心を持つ」、そのような気概を持って自身のキャリアを切り拓いていってほしいですね。
取材・文/岩井愛佳 撮影/赤松洋太