フリマアプリ『フリル』Web版リニューアルでオーガニックユーザー数が約7倍に! 「いいデザインには数値的な裏付けが必ずある」 /Fablic デザイナー・山口 有由希さん

話題の“あの商品・サービス”を生み出したのはどんな人?
今をときめく!“ヒットgirl”の頭の中

働く女性たちに愛されているヒット商品やサービスを生み出した女性たちの頭の中を大解剖! 彼女たちがこれまで築いてきたキャリアや、仕事ノウハウを徹底インタビューしていきます。
話題の商品・サービスの「生みの親」「育ての親」から、ワンランク上の仕事をするためのノウハウや、モチベーション高く仕事を続けるコツを学びましょう!

やりくり上手な節約女子の間で今や必須アプリとして人気を集めるフリマアプリ。その中でも、日本初のフリマアプリとして先頭を走るのが、株式会社Fablicが運営する『フリル(FRIL)』だ。2012年7月のリリース以来、順調にユーザー数を増やし、今や累計650万ダウンロードを突破。俳優の山田孝之さんが出演するテレビCMも記憶に新しいところ。

この『フリル』の快進撃を担ってきたのが、同社デザイナーの山口有由希さん。大人気のサービスを支える“ヒットガール”の仕事への取り組み方を覗いてみよう。

Fablic

株式会社Fablic
デザイナー
山口 有由希(やまぐち・ゆうき)さん

システムエンジニア、webデザイナーを経て、2014年、Fablicに入社。Android版『フリル(FRIL)』のリニューアルに携わり、Google Best App 2014を受賞。さらにゲーム部門以外では日本で初めてとなるBest Developerにも選出される。15年からはWeb版フリルのグロースを担当。プロダクトオーナー兼デザイナーとして月間オーガニックUU数の増加、購入/出品機能の導入に貢献した

「人を動かすデザイン」に必要なのは、緻密なデータ分析力

――まずは山口さんがWebデザインに興味を持ったきっかけから教えてください。

昔からインターネットが大好きで。それこそ高校生くらいの頃には自分たちで好きなアーティストを応援するホームページをつくって遊んだりしていましたね。

――いわゆるホームページビルダーを使って、という感じですか?

そう、当時は阿部寛さんのホームページみたいものが主流で、これにさらにアクセスカウンターがついていて、「ようこそ! ◯◯のファンサイトへ!」って文字が横に流れていくようなものを作っていました。

――懐かしい(笑)

今もネットの海にひっそり残っているんでしょうね……(笑)

――いま現在はWebデザイナーとして活躍なさっている山口さんですが、大学卒業後はエンジニアとして就職されたと伺っています。

Fablic

はい。本当は当時からWebデザイナーになりたいという思いはあったのですが、まだそのころはインターネット黎明期で求人が少なく、一度はエンジニアとして就職しました。ただ、やっぱりとにかくWebデザインと近いところで働きたいと思い、福岡のWeb制作会社に転職したんです。10年くらい福岡で働いて上京し、Fablicに入社しました。

――山口さんが担当されているフリマアプリ『フリル』は650万人以上の方が使っているそうですね。『フリル』が多くのユーザーに選ばれてきた理由はズバリ何だと思われますか?

「新しい経験」の場を提供できたという点でしょうか。『フリル』が登場するまでは、一般の方が見ず知らずの人と安心して「売り買い」できる場ってすごく限られていました。ネットオークションはありましたが、特に若い女性は、入札金額がどんどん吊り上がっていく仕組みに難しさや心理的な恐怖心を感じてしまうことがある。『フリル』なら、あらかじめ決められた金額で気軽に売買ができるし、それまでのネットオークションの仕組みと違って、エスクローサービス(※1)が導入されており購入者と出品者の間で直接的に金銭ををやりとりすることもありませんから安全です。そんな特徴があったからこそ、順調にサービスが広まっていったんだろうなと思います。

(※1)商取引の安全性を保証する仲介サービス

――山口さんはプロダクトオーナー兼デザイナーとしてWebサイト版『フリル』のリニューアルに関わられています。何でも、この「Webサイト版のリニューアルオープン」がさらにユーザー数を伸ばす起爆剤となったそうですね。

Fablic

『フリル』Web版のTOPページ

はい。リニューアル以前もWebサイト自体はあったんですけど、商品詳細が見られるだけで、購入機能や出品機能が付いていなかったんです。そこでまずWebブラウザからも購入できるようにリニューアルしたのが、2015年12月のこと。あわせてSEO(※2)を意識したサイト構造の改善などを行った結果、約8カ月でオーガニックユーザー(※3)がだいたい7倍になりました。

(※2)YahooやGoogleで検索をしているユーザーに向け、ページを最適化し検索結果で多く露出をすることでアクセスを集める一連の流れのこと
(※3)検索エンジンなどの検索結果からサイトに入ってくるユーザーのこと

――7倍ですか! それはすごい……! ご自身はリニューアルの際にどんなことを工夫されたのでしょうか?

まず、それぞれの情報が適切な構造になるようなサイトの設計をしっかり行いました。その上で、そうやって自然検索で入ってきたユーザーをいかにそのまま直帰させず、サイト内を回遊してもらうかという点について数字を見ながら改善を繰り返せる体制を整え、地道に改善していきました。

――Web版ならではの工夫ですね。具体的に、アプリとWebでは何が違うのでしょうか?

『フリル』を使ってくれるユーザーの「目的」ですね。アプリの場合、ダウンロードをしてくださった方がトップからあれこれ見ながら自分の欲しいものを探して回ります。だけど、Webの場合、「黒のワンピース」とか「赤のバッグ」とか、具体的なキーワードで検索してきたユーザーが、ダイレクトに商品詳細ページや商品一覧ページに入ってくるんです。だから、自分の欲しい情報がそこに載っていないと、すぐに別のサイトにいってしまうリスクがあります。

そこで必要となるデザイン上の工夫はというと、関連商品の情報を見えやすいところに掲出して、ユーザーが「欲しい」と思っていたものに近い物をなるべくたくさん見せてあげるようにすることです。『フリル』の場合は、たくさんの商品の中から1つでも気に入ったものがあれば、ユーザーはどんどん次のページへ飛んでくれるので。

――Webデザインをする時って、サイトを使う人の動きを細かく考えながらしていくものなんですね。

Fablic

はい。私も含めて、Fablicのデザイナーは定性的なユーザーの声はもちろんのこと、定量的なデータを大事にしながらデザインしています。職種名に“デザイナー”とついているので「感性」がすごく大事な仕事のように思われることも多いですが、実はUIデザインって、緻密な検証や分析ができるかどうかが大事だと思うんですよ。ボタンの配置だったり、導線だったり、ユーザーが使いやすいと思うものには必ず理由があります。私はその理由を数字という客観的な事実をもとに裏付けして、デザインを考えていくタイプです。こういう価値観は、10年近くエンジニアをしていたキャリアも影響しているかもしれません。

気になったデザインはすぐにスクショしてスクラップ!
10年分のログが、「今の私」を支えてくれている

――山口さんは、普段からヒット商品を生み出すために心掛けていることってありますか?

意識しているのは友人や家族との会話ですね。特に最近買ったものやハマッているテレビ番組なんかは要チェック。「どこでそれ見つけたの?」、「何で買ったの?」って質問攻めにすることもあります(笑)。

――その姿勢が、仕事の成果にどうつながっていくのでしょうか?

先ほど、数字やデータが大切だという話をしたものの、やっぱり「数字だけでは見えないこと」があります。それを補ってくれるのが、こうした生の声です。例えば、サイト内で購入促進のキャンペーンを行うとします。そのときに、周りから「今、こういうものが友人同士の間で流行っている」とか、「この間見たテレビの特集が面白かった」とか、どんなことに人の気持ちが動いたのかという情報を仕入れているだけで、これから伸びるアイテムや、商品カテゴリーが見えてきます。

――確かに。数字だけでもダメだし、感覚に頼りすぎてもダメだし、バランス感覚が大切ですね。

そうですね。今日も周りのみんながトレンドの情報源としてチェックしているあるテレビ番組で、ブルックリンインテリアの特集をやっていたんです。じゃあ、こちらもそれに合わせて「ブルックリン風インテリア」のバナーを貼ってみようか、と考えたり。周りの声に耳を傾けながら、皆が気になっているものに自然と辿り着けるように道標を立ててあげるのが、デザイナーの役目かなと思っています。そうやって回遊率を上げることで、購入促進へとつなげていくんです。

――そのほかに、デザイナーとしての感覚を磨くためにしていることはありますか?

Fablic

自分がいいなと思ったものや嫌だなと思ったものを、その場限りにせず、なぜそう感じるのか納得するまで噛み砕いて考えることは意識しています。例えば、ある広告を「いいな」と感じたのなら、それはレイアウトがいいと思ったのか、キャッチコピーが胸を打ったのか、あるいは単にモデルさんが綺麗だったからなのか、自分の中で落とし込む作業はとても大事。私の場合、目に留まったデザインはすべてスクリーンショットして残すようにしていて、自分が何を感じたのかコメントを添えて、年月日も明記した上でPCにスクラップしています。

――それを見返すことってあるんですか?

ありますよ! 人って年齢を重ねるにつれて感性も好みも変わりますよね。でも、デザインをするときは、どうしても今の自分の感覚が正しいと思いがち。そうやって自分の体験を集積・整理しておけば、過去の自分が何をいいと感じていたのかすぐにわかるので、たとえば若者向けのデザインを考えるとき、すごく役に立つんです。

――それっていつ頃から始めたんですか?

いつからだろう……。ざっと10年分くらいはスクラップがたまっていると思います。

――すごい! 山口さんだけのデータベースがあるんですね。

そんなふうに過去の自分が今の自分を助けてくれるんですよね。これは、キャリアを重ねた人間の特権だと思います。

――「キャリアを重ねた人間の特権」って、いい言葉ですね。では、最後に山口さんの今後の目標を聞かせてください。

まずはフリマアプリといえば誰もが『フリル』を連想するようなプロダクトへと規模をスケールさせていきたいというのが、当面の目標。その上で、私個人で言えば、とにかく好き嫌いせずいろんなことに挑戦していきたいと思っています。今、チームマネジメントの仕事もやっていますが、これも最初はまったく自信がありませんでした。でも、苦手な分野であったとしても、あらゆる経験が、デザイナーとしての感性を肉付けする栄養分になる。正直、Web業界ってまだまだ働く女性のロールモデルがいないのが現実。後輩たちが希望を持ってこの世界に入ってきてくれるように、私がロールモデルになっていけたらいいなと思っています!

取材・文/横川良明 撮影/吉永和志

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