女優・夏帆が語る “ネガティブモード”脱出法「仕事の向き不向きで悩むよりも、『好き』かどうかをシンプルに考える」
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
11代目リハウスガールとしてブレイクしたのは今から13年前のこと。以降演技派女優へ着実にステップアップし続ける女優の夏帆さん。映画『22年目の告白 -私が殺人犯です-』でも、その確かな演技力で衝撃のサスペンスに肉厚な人間ドラマを盛り込んでいる。まだ25歳ながら、既に芸歴は10年以上。本人自ら「私はこの世界しか知らない」と語る女優としての仕事人生を、振り返ってもらった。
難しい仕事にチャレンジする時には、過去の自分の経験が支えてくれる
映画『22年目の告白 -私が殺人犯です-』は、時効を迎えた未解決連続殺人事件の犯人が突如名乗りを上げるという衝撃の展開から幕を開ける。なぜ男は、突然表舞台へ現れたのか。美しき殺人犯・曾根崎(藤原竜也)と彼を追う刑事・牧村(伊藤英明)の攻防。そして異様なカリスマ性を放つ曾根崎に熱狂する大衆の姿を描いた緊迫感溢れるサスペンスエンターテイメントだ。
「普段台本をいただいたときって、演じる側の目線で読んでしまうんですけど、この作品は別。読み物として面白くて、すぐに引き込まれてしまいました。台本を見た段階で、『これはきっと面白い映画になるだろうな』という予感がしたんです」
その中で夏帆さんが演じるのは、曾根崎に父を殺された被害者遺族の美晴。犯行の一部始終を綴った告白本を出版し、世間を騒がせる曾根崎に怒りを燃やす役どころだ。
「美晴は、22年前の事件以来、ずっと心に深い悲しみと憎しみを抱いている女の子。台詞も多くはないので、短い登場シーンの中で佇まいからも彼女の『心の傷』を観る人に伝える必要がありました」
そんな難しい仕事に取り組むにあたって、夏帆さんを助けたのはこれまで重ねてきた経験値だった。
「実はこの作品に入る前に、別のドラマで境遇は違うけれど、家族を殺された女性を演じていて。そのときに、いろいろな本を読んだりして、被害者遺族の心情について調べていたんです。おかげで気持ちとして入っていきやすい部分はあったかなと思います」
「もうこの仕事は続けられないと思った時期もありました」
今、20代の女優は百花繚乱の時代を迎えている。原則として、オファーがあって初めて成立するのが役者の仕事。「この人でなければ」という個性がなければ生き残ることはできない。“会社に依存しない生き方”が求められるこれからの時代、普通に働く女性たちにとっても、自分の強みや個性を意識した仕事をする意識はますます必要不可欠だ。
「私も自分の強みって何だろうということはよく考えます。この世界には素敵な女優さんがたくさんいるので、その中で輝くにはどうすればいいんだろう、と。『私にしかできないこと』についての悩みは常に尽きないですね」
そう控えめるに語る一方で、夏帆さんの立ち位置は極めて独特だ。主演・助演に縛られる様子もなければ、作品の規模も大小さまざま。話題の映画からコアな人気を集める深夜ドラマまでフットワークの軽さは群を抜いている。
「普段から『いろいろなことにチャレンジしてみよう』という気持ちは大きいです。新しい作品や、これまでのイメージと違う役に挑戦すると、必ず何かしらの反響が返ってくるのが面白いので。その中にはポジティブなものだけでなくネガティブなものもありますが、周囲の批判を怖がっていたらどこにも進めません。大事なのは、変化を恐れないこと。まだ20代ですし、若いうちこそ自分の可能性を探るためにもあらゆることに挑戦してみたいと思っています。そういうフレキシブルさは、私の強みになっているかもしれません」
実際、ここ数年の夏帆さんの仕事ぶりは実に多色多能だ。ドラマ『みんな!エスパーだよ!』で清純派の印象を覆す不良ギャル役に挑戦したかと思えば、主演映画『パズル』では血まみれの熱演で観客の度肝を抜いた。また、映画『海街diary』では個性派の三女を演じ、第39回日本アカデミー賞優秀助演女優賞を受賞。テレビでの活躍も目立ち、現在放送中のドラマ『架空OL日記』では平凡なOLの日常をリアリティーたっぷりに好演している。
一見すれば順風満帆に見えるキャリアだが、折々のインタビューで夏帆さんは女優業について「向いていないと思うこともある」と語っていた。
「向き不向きで言えば正直今もよく分かりません。ただ、キャリアで言えば10年を迎えた今、仕事について、向いているか、向いていないかで考えること自体が違うのかなって感じ始めています」
自分の想いにフィットする言葉を慎重に選びながら答える夏帆さん。「一時期は本当に悩んでいて。もうこの仕事は続けられないと思った時期もありました」と打ち明ける。1つの仕事を続けていく中で、一度も「辞める」という選択肢が浮かんだことがない人の方がきっと少ない。ネガティブモードに陥った夏帆さんを救ったのは、見栄や意地とは対極にある、シンプルな感情だった。
「仕事の向き不向きで悩んでいたときは、この仕事が『好き』という気持ちをどこかに忘れていました。でも、ふっとあるとき、仕事をしていて楽しかった瞬間のことを振り返って、『やっぱりこの仕事が好きだ』という気持ちに気付けたおかげで、もう一度立ち上がることができたんです。月並みですけど、好きなことを仕事にするということは、長く働き続けていく上ですごく大切なことだと思います」
周囲の人が定義する「自分らしさ」から脱皮できた時、仕事の幅がさらに広がった
向き不向きや人の評価に振り回されることをやめ、もう一度立ち返った仕事の原点。すると、仕事の取り組み方にもある変化が生まれたのだそう。
「20代に入った頃から、自分で仕事を選ばせてもらうようになったんです。10代の頃はずっと周りの皆さんが選んでくれた仕事をしていたので、ある意味ずっと受け身でした。それをやめて、自分で自分のやりたい仕事を選ぶ機会も持てるようになったら、演技の幅も広がったし、一つ一つの役に対する覚悟も変わった。昔よりもっと前向きに仕事に向き合えるようになったんです」
誰かが定義する「自分らしさ」から脱皮して、自分で自分をきちんとプロデュースする。「向いていない」、「続けられない」と悩んだ仕事に今こうして主体的に取り組めているのも、夏帆さん自身が自分のキャリアを自分でコントロールしようとしているからに他ならない。
「今はとにかく自分が面白いと思う感覚を大事にしています。自分が面白いと思う役や作品なら、どんなに自分のイメージと違っても、とにかくまずはやってみる。自分の人生の当事者になれるのは、自分だけ。誰かに決めてもらうんじゃなく、自分で自分の人生の決定権を持つ。それが、一番大事なことなのかなと思います」
「もちろん今も悩むことはたくさんあります」。そう付け加えながら、夏帆さんはその大きな瞳ですっと前を見据えた。
すっかり大人っぽく成長した夏帆さんもまだ25歳。一般的に言えば、まだまだ若手だ。今後の生き方、働き方について悩むのも当然。しかし、たとえどれだけ悩んでも、夏帆さんならもう進むべき道を見失うことはないはずだ。なぜなら、「自分の人生のハンドルは自分が握る」という人生で最も大事な法則を、夏帆さん自身がよく理解しているから。分岐点だらけの人生を、これからも自分で選び、進んでいく。
取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴
映画『22年目の告白 -私が殺人犯です-』2017年6月10日(土)全国ロードショー
監督:入江悠
脚本:平田研也、入江悠
出演:藤原竜也、伊藤英明、夏帆、野村周平、石橋杏奈、竜星涼、早乙女太一、平田満、岩松了、岩城滉一、仲村トオル
配給:ワーナー・ブラザース映画
©2017 映画「22年目の告白-私が殺人犯です-」製作委員会
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