「ライスワークで60年働ける?」 ミレニアル世代の女性起業家が語る、“私らしい仕事”の見つけ方/中山 紗彩さん
“人生100年時代”ともいわれる現代。女性の生き方もますます多様化している中、長い人生を豊かなものにしていくには、“自分らしさ”と向き合うことがキーになる。これまでの常識に縛られず、長く楽しく続けられる仕事を得るために。あるいは、心から納得のいく選択を積み重ねて、自分らしい人生を歩んでいくために。
そんな21世紀を生きる“ミレニアルミューズ”の豊かな人生づくりをサポートするべく「学び」と「社交」をテーマにしたレッスンクラブ『SHElikes(シーライクス)』を立ち上げた、SHE株式会社代表取締役の中山紗彩さん。現在26歳、起業家として活躍する彼女に、 これからの時代を幸せに働き続けるためのスタンスについて聞いた。

SHE株式会社
中山 紗彩さん
1991年生まれ 26歳。早稲田大学在学中、コンサルティング事業を経営。 2014年リクルートキャリア社に新卒入社。
社内新規事業提案制度にて教育サービスを立ち上げ、後リクルートマーケティングパートナーズに事業売却。2016年2月スタートアップ取締役を経て、17年4月SHE株式会社設立。同年7月より『SHElikes』をリリース。8月より、コワーキングスペース『SHEworks』の運営もスタート
「女性は働かないもの」という思い込みと、現実のギャップに戸惑った
大手人材系企業に新卒で就職し、いまでは若手起業家として注目されている中山さんだが、10代の頃は「女性は働かないもの」だと思っていたという。
「小学校から高校まで一貫教育の女子校に通っていて、そこでは『女性は短大や大学を卒業したらどこかほどよい会社で数年働いて、いずれ家庭に入るもの』という価値観がありました。だから、私も周りの友達も、“ずっと働き続ける”イメージが持てていなかったんです」
そんな空気の中で、中山さんはこれからの生き方に違和感を覚え始める。エネルギーを持て余しているようなモヤモヤが、常につきまとうようになった。

「本心ではバリバリ働くのも素敵だなって思ったり、世の中的にも女性が働くことが求められているって分かっていました。でも、自分が十数年思い込んでいた“女性らしい生き方”と、現実とのギャップが大きくて戸惑いましたね。でも、どうしたらいいか分からない。ロールモデルになる存在もいなくて、どんなふうに一歩を踏み出せばいいか分かりませんでした」
中山さんが就職する頃には、“人生100年時代”という言葉も囁かれ始めた。想像していたよりずっと長く職業人生が続く可能性もある。これまでのように、食べるためだけに働く“ライスワーク”思考では、到底モチベーションが保てない。さらにIT化が進めば、単純な仕事は機械に取って代わられていく。自分にしかできない、楽しんで続けられる“ライフワーク”を探すことが、これからの時代に必要なのではないだろうか。モヤモヤと考え続けていたことが、明確な課題意識に変わっていった。
「就職活動をしていたとき、女友達の多くが『結婚したら仕事は辞めて好きなことをやりたい』って言っていました。でも、その真意を探っていくと、ただ遊んで暮らしたいと思っている人は少なくて、みんな好きなことをしながら誰かの役に立ちたいとは思っているんですよ。だったら、好きなことを仕事にできる人をもっと増やしていけるような仕組みをつくりたいと考えるようになりました」
女子会は愚痴って終わり。必要なのは“真面目なこと”を本気で語れる仲間
そうして形になったのが『SHElikes(シーライクス)』だ。一人一人が本当に好きで、熱狂できる何かを見つけるためのきっかけ。次に、それを深掘りして知識を磨く機会。そして、本当に好きなことを仕事にして生きていくためのモチベーションや、人とのつながりを生む場所。それらを総合的に提供する21世紀を生きる女性のためのレッスンクラブだ。料理やビジネス、Webデザイン、ヘルスケアといったさまざまなレッスンの中から、興味のあるクラスを選んで受講したり、参加者との交流会が楽しめる。

「従来のお稽古ごとは、何か1つを選んでそれを深めていく形しかありませんでした。その仕組みだとさまざまなカテゴリーを比較検討しづらく、自分が何が好きなのかを発見しにくいし、モチベーションを保っていくのも難しい。『SHElikes』は月額制でバラエティー豊かなレッスンをつまみぐいするように試せるのがポイントです。来てくださった方々の意見や国内外のトレンドに応じて、カリキュラムも追加していく予定になっています。だから、とりあえず興味のあることを試してみて、自分の心が何にどれだけ躍るのかを見て、自分が何が好きなのか何に熱中できるのかを発見してみてほしいんです」
もう1つ特徴的なのは、参加者同士の交流会が必須参加であること。同じ悩みを持った仲間との出会いやコミュニケーションが、人生を変える大きなきっかけになるのではないかと、中山さんは言う。
「プライベートで友達同士で集まっても、キャリアの話を真面目にする機会は意外と少ないですよね。会社の愚痴や上司への愚痴を言って発散して、女子会って終わっちゃう。でも、学ぶことをテーマに知り合った仲間となら、ポジティブにこれからの仕事のこと、生き方のことが自然と話せるからお互いを高め合える良い循環が生まれます」
好きなことがあるからといっていきなりフリーランスになるのはハードルが高い。だが、レッスンなら今の仕事をしながら気軽に通うことができる。
「今は副業がOKになったり、労働時間が短縮されたり、誰もが自分の興味を追求しやすい風潮もある。そこに生まれるエネルギーを効率的に使って、きちんと未来への投資にできたら良いなと思いますよね」
自分がどういう状態なら幸せでいられるかを考える
ただし、誰もが絶対に好きなことを仕事にするべきだとは、中山さん自身まったく考えていない。自分に合ったライスワークを持っているからこそ、お金のことばかり考えずに心から好きなことに打ち込める、といった側面もある。

「どんなふうに生きていても、常に納得感のある選択ができていれば、豊かな人生が送れると思うんです。例えば、まじめで優しい人ほど、親や上司の期待に応えることを志向してしまいがち。でも、そうやって選んだ道だって、自分が納得できていればいい。自分がどういう状態なら幸せなのかってことを考えたり、知っていることが大事なんだと思います。そのためにも、いろいろなコミュニティーやロールモデルに出会ってほしい。選択肢を広げた中から素敵な仕事が見つかれば、飛び込んでみることだってできます。そんな前向きさが満ちていくと、私たちみんなでいい方向に進める気がしているんです」
『SHElikes』のサービスを開始してみると、子育てがひと段落した40代以上の女性たちからの反響もあったという。中山さんにとってそれは想定外の反応だったが、“自分の好きなこと”が女性にとっての第二の人生を生きるための道しるべになるのだと感じさせてくれた。
「好きなことを見つけて、それを仕事として深めていく」というスタンスは、21世紀という激動の時代を生きるすべての人たちにとっての、新しいスタンダードになりそうだ。
取材・文/菅原さくら 撮影/赤松洋太