08 AUG/2017

【女優・土屋太鳳】ひたむきな努力家が掴み取った夢――「私の代わりはいくらでもいる。その気持ちが自分を奮い立たせる」

Another Action

一つ一つの質問に対して、自分の言葉を一生懸命探しながら話す。コメントの最後には、「ありがとうございます」の一言を忘れない。その謙虚でひたむきな横顔を見ているだけで、なぜ今、彼女がこれほど多くの映画やドラマのヒロインに選ばれているのかがよく分かる。

女優・土屋太鳳さんが、2017年8月12日から公開のアニメ映画『フェリシーと夢のトウシューズ』で初の洋画吹替&主題歌の作詞と歌唱に挑戦した。逆境に負けず、バレエダンサーの夢を追いかけるヒロイン・フェリシーの姿は、土屋さんの人柄にぴったりと重なる。「初めてチャレンジすることばかりでした」と語る今回の仕事に、土屋さんはどんなふうに向き合ったのだろうか。

土屋 太鳳

土屋 太鳳(つちや・たお)
1995年2月3日生まれ、東京都出身。2005年『スーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックス』で最年少にして審査員特別賞を受賞。08年に『トウキョウソナタ』でスクリーンデビューを果たす。15年、NHK連続テレビ小説『まれ』のヒロイン役で一躍国民的女優に。以降、『orange-オレンジ-』『青空エール』『PとJK』『兄に愛されすぎて困ってます』など主演映画が多数公開。この後も『トリガール!』『8年越しの花嫁』などが公開予定

慣れない仕事に苦戦!「最初は打ちのめされました」

アニメの声優にチャレンジしたことはあったが、洋画の吹替は今回が初挑戦。普段のお芝居とはまったく違う世界に、土屋さんも「最初は打ちのめされました」と懐かしそうに振り返る。

「私には本職の声優さんのようなテクニックはありません。だから、とにかく練習を重ねることがすごく大事で。ル・オー夫人役の夏木マリさんがおっしゃっていたのですが、洋画の吹き替えでは普段のお芝居の2~3倍の予習が必要なんです」

慣れない仕事に苦戦する日々。その中で、一番意識したのは、“呼吸”だと言う。

土屋 太鳳

取材当日は、バレリーナのような華やかなドレスで登場した土屋さん

「フェリシーと一体になるためには、字幕版でフェリシーの声を担当しているエル・ファニングさんの“呼吸”に合わせることが重要でした。その感覚を掴めるよう、家で何度も何度も同じ場面を巻き戻しながら、ひたすら練習を繰り返しました」

3歳の頃からバレエと日本舞踊を習っていた土屋さん。高校では創作ダンス部で全国大会に出場し、大学でも舞踊学を専攻した。それだけに、踊ることを愛してやまないフェリシーの気持ちには自然とシンクロすることができたという。

16歳の時に決意した手術。コンプレックスを乗り越えて掴み取った「夢」

さらに今回、土屋さんにとって大きなチャレンジとなったのが、主題歌の作詞とボーカルだ。「このお話をされた時は、驚きの方が大きかった」と語る。その言葉の裏側には、ある小さなコンプレックスが秘められていた。

幼い頃から正確な発音が苦手で、声が出しにくかったという土屋さん。女優デビューから間もない時期は、タ行やラ行がうまく発声できず、悩みを抱えていた。原因は、舌小帯という舌の裏側にあるヒダが生まれつき短かったため。女優の夢を掴むべく、土屋さんは16歳のときに手術をする決意をした。

土屋 太鳳

「手術をしてから少しずつ声が出るようになって、正しい発声のためのトレーニングを受けられるようになりました。そんな私が主題歌まで担当するなんて、まるで夢みたい。この映画は、フェリシーが夢を掴む物語。私自身も、また1つ夢を叶えることができました。その姿に、見る人が何か感じてもらえたら、とても嬉しいです」

日頃からブログや『Instagram』で想いのこもった文章を綴っている土屋さん。それだけに、初めての作詞にも自然と気持ちが入った。

「単純に歌うだけなら、本職のアーティストの方にお任せした方が絶対に素晴らしいものになる。その中で私が歌わせていただくなら、やっぱり自分と重なる言葉でなければいけないと思ったんです。だから今回は私自身の言葉を歌詞にさせていただきました。伝えたかったのは、私自身がこれまで生きてきた中で感じた夢への想い。夢を追いかけていれば、オーディションに落ちて挫折を味わうこともあるし、周りのアドバイスを素直に受け入れられず揺れ惑うときもある。それでも、夢を見つけることは生きることにつながると思いますし、夢を見失うことは自分自身を見失うことよりも苦しいこと。そんな私自身の想いと、聴いてくださる方へのエールを歌詞にしました」

「迷わなければ、迷路からは出られない」その言葉に救われた

土屋さんが女優の夢に目覚めたのは、小学4年生のとき。学芸会で酔っ払い役を演じ、演技の楽しさを知った。デビューのきっかけは、小5で受けた『スーパー・ヒロイン・オーディション ミス・フェニックス』。あの日から今も土屋さんの夢物語は続いている。

「お仕事をしていると、悩むことはたくさんあります。いつも家に帰って、1日を振り返っては『もっとああした方が良かったかな』って一人反省会。落ち込んだり不安になったり、マイナスな気持ちに覆われてしまうことも多いんです」

だが、ネガティブな気持ちにとらわれていては、いい仕事はできない。「辛いことをエネルギーに変えて、プラスの方向に持っていくことが大事なんだと、最近はよく考えています」と心の変化を打ち明ける。

土屋 太鳳

「そこで私のパワーになっているのが、応援してくれる人たちの声です。私がSNSを通じて何か発信すると、いろいろな人がコメントをくれます。その言葉が力になっていますね。特に心に残っているのが、『まれ』をやっていたときのこと。すごく迷いながら仕事をしていたんですけど、『迷わなければ、迷路から出られない』とブログにコメントをくださった方がいたんです。それを読んだ瞬間に、『ああ、これでいいんだ』って気持ちが楽になりました」

芽生え始めたプロとしての自覚
「どこかで自分を女優と認めることから逃げていた」

映画では、フェリシーは「なぜ踊るのか?」というテーマにぶつかる。同じように「なぜ表現するのか?」と尋ねてみると、土屋さんは少し困った様子で俯いて、じっくりと考えた末に、「女優だから」とまっすぐに顔を上げた。

「最近、ようやく自分のことを女優と言えるようになってきたんです。それまで私はずっと『夢は女優さんになることです』って言って、どこかで自分を女優と認めることから逃げていたんですね。でも、去年、エランドール賞をいただいたとき、いつまでも『女優さん』って言ってたら他人事だなと思って。ちゃんと一つ一つのお仕事にプロとして臨む責任を持とうと思って、自分を『女優』と言うようになりました。表現をするということは、やっぱり大変です。でも、せっかく表現の場に立てるのであれば、もっと私の表現を通じて、人に何か少しでも勇気や元気を与えられる存在になりたい」

その新しい一歩が、この『フェリシーと夢のトウシューズ』となった。夢のトウシューズを履いて、土屋さんは軽やかに次のステージへとジャンプする。

「新しい挑戦をするときは、すごくドキドキします。緊張もするし、怖いなとも思う。でも、そんなプレッシャーに気持ちが負けそうになったときは、『私の代わりはいくらでもいるんだ』って考えるようにしています。そうしたら、他の誰にもこのチャンスを渡したくないし、絶対に自分がやりたいって思える。できないなんて言ってられなくなるんです」

土屋 太鳳

そう語る土屋さんは話すのが苦手だといい、これだけ多忙な毎日の中でもちゃんと自分の気持ちを届けられるよう、準備を欠かさない。決して驕らず、常に一生懸命に。成長著しい22歳の“Another Action”は、そんなひたむきな姿勢に支えられていた。

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
スタイリスト:KOSEI MATSUDA (SIGNO)
ヘアメイク:永瀬多壱(VANITES)


映画『フェリシーと夢のトウシューズ』2017年8月12日(土)新宿ピカデリーほか全国ロードショー
◆声の出演:エル・ファニング、デイン・デハーン、カーリー・レイ・ジェプセンほか
◆日本語吹替え:土屋太鳳 黒木瞳 花江夏樹 / 熊川哲也 / 夏木マリ
◆監督:エリック・サマー、エリック・ワリン
◆脚本:キャロル・ノーブル、エリック・サマー、ローラン・ゼトゥンヌ
◆振付:オレリー・デュポン、ジェレミー・ベランガール
◆配給:キノフィルムズ
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