日本人が知らない「年齢と妊娠・出産」の真実。20代、30代、40代で不妊治療の効果はどう変わる?【国立成育医療研究センター医師監修】

妊娠・出産

「妊孕性(にんようせい)」という言葉をご存知だろうか。この言葉は、「妊娠しやすさ」を表す言葉だ。年齢を重ねれば重ねるほど、この妊孕性が下がっていくことは何となく理解できる。だが、どれくらいの人が正しい知識を持っているだろうか。

「日本では、妊娠出産の基本的な知識を全く教育で伝えてこなかった」と指摘するのは、国立成育医療研究センターの齊藤英和医師(周産期・母性診療センター/副周産期・母性診療センター長)だ。


図1【妊孕性の知識(国・男女別)】

Human Reproduction,28:385-397,2013

Human Reproduction,28:385-397,2013

このグラフを見ると、妊孕性に関する日本人の知識水準が、世界の国々に比べていかに低いかが分かる。

「産む」「産まない」選択は個人の自由。しかしながら、後悔しない選択をするためには正しい知識を持っていることが大前提だ。日本人があまりに知らない“妊娠・出産”の基礎知識を、齊藤先生に伺った。

齋藤英和先生

国立成育医療研究センター 周産期・母性診療センター 副センター長
齊藤英和さん

山形大学医学部付属病院講師、山形大学医学部助教授を経て2002年より現職。専門は生殖医療、不妊治療。白河桃子さんとの共著に『妊活バイブル』(講談社+α新書)、『後悔しない「産む」×「働く」』(ポプラ社)など

不妊治療をしても40代で子どもを持てる人は1割

日本における第1子出生時の母の平均年齢は、年々上昇傾向にある。2010年に初めて平均が30歳を超え、今では31歳だ。父の平均年齢も同様に、2000年では30.2歳だったが15年には32.7歳となっている。父母の高齢化が進行する中、日本では不妊治療を行う医療機関も爆発的に増えた。だが、「不妊治療をすれば必ず子どもが持てるわけではない」と齊藤先生は警鐘を鳴らす。

「30代前半で不妊治療に来れば7~8割の確率で妊娠できるんですが、それが40代になってしまうと不妊治療をしても子どもができる確率は1割くらいなんです」

父母の加齢と妊娠は密接に関わっている。下記のグラフは、女性の結婚年齢と生涯不妊率の関係を表したものだ。

図2.【女性の結婚年齢と生涯不妊率の関係】

生涯不妊

30~34歳で結婚した女性と35~39歳で結婚した女性とを比較すると、生涯不妊率は35~39歳で2倍に増えている。40~44歳で結婚した女性では、半数以上が生涯不妊という結果だ。

「目をそらしたくなるかもしれませんが、生物として出産に適した時期は20代。妊娠にはタイムリミットがあります。いつでも産めると簡単に考えることは非常にリスクが高いことです」と齊藤先生は明言する。女性の体内にある卵子の数は、排卵がなくとも加齢とともにどんどん減少していくからだ。

図3.【女性の年齢と卵子の数の変化】

卵子

1人の子どもを作るためにかかる費用は2億円以上!?

また、不妊治療には高額な費用がかかるケースもあることを覚えておきたい。

「先ほども申し上げた通り、40歳を超えると、不妊治療を始めても妊娠できる確率は1割程度。そのため、治療期間も長引きます。すると、20~30代前半までなら500万円以下で済んだ治療も一気に跳ね上がり、1人の子どもを作るために2億円以上の費用がかかることもあるんです。しかも、40代と言えば自分の親の介護も必要になる時期。ようやく子どもを持てたと思っても、最も大変な子育ての時期と親の介護が重なり、疲弊してしまう方も多いんですよ」

高額の不妊治療を終えても、子どもの教育費や親の介護費が重なり、経済的に困窮してしまう人も少なくないそうだ。

「20代の夫婦は『まだ子どもを産めるような金銭的余裕がない』とよく言いますが、『産むための治療』が必要になってからでは、余計にお金がかかるということも知っておくべきです。通常は、自治体の補助や会社の手当てなどもあって出産自体にそんなにお金が必要になることはないですし、若くして産めば、お互いの祖父母も元気で子育ての手伝いをしてくれるかもしれない。何が経済的なのか、よく考える必要がありますね」

父母の年齢が上がると子どもの健康に影響する?

また、「産みたいのに産めない」というリスク以外にも、父母の年齢が上がるにつれて子どもの健康にも影響が出やすくなるという。

「母親の年齢が35歳以上になる頃から、明らかに生まれてくる子どもに染色体異常が出やすくなります。それ自体が病気というわけではありませんが、ダウン症などの何らかの染色体異常を持ちやすくなると言われています」

図.4【女性の年齢と子どもの染色体異常リスク】

卵子

上のグラフからも分かるように、20歳~31歳の妊娠適齢期に出産した場合、子どもの染色体異常はほとんど見られない。30歳で子どもを産んだ場合、ダウン症の子が生まれる確率は952分の1だが、35歳で産むとその確率は385分の1。40歳なら106人に1人と確率が高まっていく。

「いつか子どもは欲しいけれど、今は仕事が楽しいしそれどころじゃない」
「若いときにキャリアが途絶えたら、将来が心配」
「金銭的に子どもを育てられるような余裕がない」

20代~30代前半の出産適齢期に子どもを持たない理由は、今の時代を生きる働く女性たちには山ほどある。

齊藤先生も「今の社会では、若いうちにキャリアを中断してしまうことのデメリットの方が大きく感じてしまうかもしれない。女性が『産みたいときに産める』社会になるよう、仕組みを変えていく必要がある」と問題意識を語る。

不妊の原因は男性にもある。自宅でできるセルフチェック法

不妊や子どもの染色体異常は女性側の加齢だけが原因で引き起こされるわけではない。実は男性の加齢もそれらの原因になり得るし、「流産や子どもの先天性異常に影響を及ぼす」と齊藤先生。

図5【男性の年齢と流産リスク】

流産

齊藤先生は「安易に子どもを持つタイミングを先送りしない方がいいと思います。このことは女性だけでなく、男性にも知っておいてもらいたい」と話す。

「不妊の原因は妻にある」と考えている男性も多いそうだが、男性側に問題がある場合も大いにある。そこで、「最近は病院に行かなくても簡単に精子の状態をチェックできるんですよ」と齊藤先生が紹介してくれたのが、『seem』というアプリだ。

seem

なんと、スマホとキットを用意すればすぐにセルフチェックができる。

女性も男性も、まずは正しい知識を持つことから。その上で、後悔のない選択を下したい。

※この記事は、2017年4月17日に公開し、2022年10月27日に内容を更新しています

取材・文/栗原千明(編集部)

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