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NOV/2017

「SOGIハラ」って知ってる? あなたの悪気ない“冗談”が職場の生産性を下げ、LGBTの同僚を傷付けている【増原裕子さん】

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ここ数年で定着しつつあるLGBTという言葉。では、「SOGIハラ」というハラスメントのことはご存知だろうか。

「SOGI」とは、好きになる人の性別(Sexual Orientation)と自分の性別の認識(Gender Identity)の英語の頭文字をとった言葉。SOGIに関連して、差別的な言動や嘲笑、いじめや暴力などの精神的・肉体的な嫌がらせをすることがSOGIハラにあたる。

「LGBTは性的マイノリティーの総称で、『どんな人なのか』を指す言葉。それに対してSOGIは性的指向や性自認という、『誰もが持っている特性』を表す言葉。SOGIに関するマイノリティーであるということを、LGBTと総称しているイメージです」

こう話してくれたのは、「なくそう!SOGIハラ」実行委員会のメンバーで、東京ディズニーリゾートで同性カップルとして初めて挙式を上げたことでも知られる増原裕子さん。

増原裕子さん
株式会社トロワ・クルール
代表取締役
増原裕子さん

1977年、神奈川県横浜市生まれ。慶應大学大学院修士課程、慶應大学文学部卒業。ジュネーブ公館、会計事務所、IT会社勤務を経て起業。ダイバーシティ経営におけるLGBT施策推進支援を手掛ける。経営層、管理職、人事担当者、営業職、労働組合員等を対象としたLGBT研修の実績多数

「『SOGIハラ』はLGBTコミュニティーの中から今年生まれた言葉。これまでは仕方がないと思って諦めていたことに対して、一部の当事者が動き始めました。マタハラと一緒で、被害を受けている当事者が『もうやめてください』と言うためにつくった言葉なんです」

これまでは「あっち系?」といった同性愛をからかうような言動が一種の冗談としてよく使われ、時には会話の潤滑油になることさえあったが、世の中は確実に変わり始めている。職場でのSOGIハラ問題は、一人の大人としてはもちろん、これから組織でリーダーや管理職になる人にとって欠かせない教養だ。

SOGIハラの分類は大きく5つ。
セクハラがある職場にはSOGIハラも多い

職場でのSOGIハラにはどのようなものがあるのか。大きく分けると、次の5つが上げられる。

・差別的な言動や嘲笑、差別的な呼称
・いじめ、無視、暴力
・望まない性別での生活の強要
・不当な異動や解雇
・人のSOGIを許可なく公表する(アウティング)

「一番頻繁にあるのは『お前ってそっち系じゃないの?』のような、差別的なニュアンスを伴ってからかう言動。また、『ホモ、オカマ、オネエ、レズ』といった言葉も当事者にとっては差別的な呼称です。日常会話やメディアでもまだ普通に使われることが多い言葉ですが、当事者の約6割がこういう言葉などでいじめられた経験があるという調査もあります。また、面接の途中でカミングアウトをしたら選考を打ち切られたり、内定を取り消されたりといった不利益は、特にトランスジェンダーの場合に多く起こっています」

さらに問題なのが、人のSOGIを本人の許可なく公表するアウティングだ。

増原裕子さん

「カミングアウトを受けた人がネガティブな気持ちとともに言いふらしてしまうこともありますが、良かれと思って広めてしまうこともあります。一橋大学の生徒がゲイであることを同級生にアウティングされたことが引き金となって、自殺してしまった事件が裁判になっていますが、それだけ当事者にとって影響が大きく深刻な場合が多いんです。もちろん人によりますが、一般的に女性たちが噂話の中でやってしまいがちなSOGIハラといえるかもしれません」

他にも「結婚するのはいいこと」という前提で結婚を執拗に勧めるような発言を繰り返すのもSOGIハラに当たる。女性へのセクハラと重なる部分も多い。

「SOGIハラとセクハラは性別に関わるという意味で構造が共通する部分があり、セクハラがある職場にはSOGIハラも多い。『結婚しないの?』という言葉は異性愛者でも不快な思いをすることがありますが、同性愛者の場合だと自分のアイデンティティーを偽って異性愛者のふりをしている上に、さらに嫌なことを言われるという二重の苦しみがあります。長く付き合っている同性のパートナーがいたとしても、とくに職場では不利益を恐れて言い出せない人がほとんどですから。さらにいうとSOGIハラには“憶測の差別”もあって、『あっち系』みたいに言われている人が必ずしも全員ゲイとは限らない。憶測で嫌がらせを受けるケースも含まれるので、LGBT当事者だけに向けられたハラスメントではないんです」

13人に1人はLGBT。SOGIハラのある職場で生産性は上がりにくい

SOGIハラに限らず、あらゆるハラスメントは人のモチベーションを下げ、生産性を下げる。さらにメンタルヘルスに悪影響を及ぼし、帰属意識の低下を招き、離職率も高まる。

増原裕子さん

「安心して自分のことをさらけ出せるような信頼関係がある、『心理的安全性』が担保されているチームは生産性が高いことがGoogleの調査で分かっています。そういう意味で、あらゆるハラスメントがない職場をつくっていくことは、会社としても利益に直結する重要な課題です」

さらに厚生労働省が示す「セクハラ指針」が2017年1月に改正され、セクハラの対象にはLGBTも含まれることが明記された。LGBTの割合は約8%と言われ、13人のチームであれば1人は当事者がいる計算となる。こうした時流と割合を考慮すると、SOGIハラは「うちの職場では関係ない」と無視できる問題ではない。そこで、対応策として誰でも取り組めるのが、アライであることの表明だ。

「『アライ』はLGBTの支援者を意味する言葉です。アライであることを可視化するのはとても大事なことで、『何か困っていることがあればいつでも助けますよ』という意思表示になります。例えばステッカーを貼るのが分かりやすいですが、LGBTに関する映画のチラシや関連書籍を職場に置いておくなど、やり方はいろいろあります。会話の中でアライであることを公表したり、 『アメリカで同性婚できるようになったよね』といった前向きな話をしたり、SNSでシェアしたりといった行動も、安心感につながりますね」

増原裕子さん
増原さんの携帯には「Ally」ステッカーが貼ってある。その他、さまざまな企業が独自に作っているAllyシールなど

ハラスメントに過敏になり過ぎて息苦しい?
大切なのは相手の『その人らしさ』を尊重した発言・行動を心掛けること

これまで意識していなかったことに気付くのは難しい。無意識のうちにSOGIハラをしてしまっていることもありそうだが、アライを示すステッカーなどで可視化することで自分へのリマインドになる。さらに周囲の人への認知を広める効果もあり、全体の意識を変えていくことにつながっていく。

「いきなり完璧を求める必要はありません。『アライになりたいけど、よく分かってないから表明するのは申し訳ない』『ステッカーを貼っているのにSOGIハラをしてしまったら逆に傷つけるんじゃないか』と心配される方が多いですが、少しずつ変えていければいいんです」

だが、あらゆるハラスメントは気にし始めるときりがなくなる。がんじがらめになって、何も言えなくなってしまうような、そんな不自由な気持ちになる人もいるだろう。増原さんは「とてもよく分かります」と少し考え、こう話してくれた。

増原裕子さん

「相手の『その人らしさを尊重している』ということがとても大事だと思います。知識がなかったとしても『どうやったら尊重できるのかな?』と考えることはできると思うんです。そういう姿勢を大事にして、お互いにリスペクトがあれば、たとえSOGIハラに当たるようなことを言ってしまったとしても致命傷にはならないというか。その人の背景にもよりますが、セクハラや職場の中でマイノリティの経験をしてきた女性だからこそ、敏感に感じ取れる部分があるのではないでしょうか」

17%が変われば社会が変わる! 働きやすくなるのはLGBT社員だけじゃない

たとえ自分が意識して気をつけていようと、他の人がSOGIハラをしている場面に直面することはある。職場でSOGIハラに気付いた時、同じチームメンバーとして何ができるのだろう。

「直接本人に言えるのがベストですが、それは難しいケースも多いですよね。人事に報告するにしても、材料がないと軽んじられてしまうと思うので、例えばSOGIハラに関する記事をプリントアウトして持っていく。これはハラスメントの一つで経営課題だというのを知ってもらうきっかけになると思うんですよね。ティッピング・ポイントといって、17%の人が変わると社会にその変化が加速的に広がっていくと言われていますが、当事者とアライが全体の17%になれば、きっと職場も社会も変わっていく。今は過渡期で一部の当事者とアライの人が問題を認識して行動してくれている状況ですが、管理職と一般の社員、トップダウンとボトムアップのどちらの方向もあるといいですよね」

職場が変わっていくことで影響があるのは、LGBT当事者だけではない。全ての人にとって、SOGIハラがない職場には大きなメリットがある。

増原裕子さん

「SOGIハラの対策を取ることは『見えない違いにも配慮している』というメッセージになるし、一人一人の違いを尊重することにつながる。これはLGBT当事者に限らず、全ての社員に安心を与えることだと思うんです。アライを表明するのは小さなアクションですが、それは安心の種を蒔くこと。最終的には、例えばワーキングマザーの肩身が狭いとか、結婚していないと職場で居心地が悪くなってくるとか、そういうのも『それぞれなんだからいいよね』という風に、違いをリスペクトして力に変える方向に変わっていくと思うんです」

「もしアライを表明したことでカミングアウトを受けたら、それは『うれしいこと』として捉えてほしい」と増原さんは続ける。

「信頼の表れですから、ぜひ前向きに受けとめてください。難しく考える必要はなくて、『理解したいから教えてほしい』『嫌なことがあったら言ってほしい』と、本人とのコミュニケーションを丁寧に、寄り添う姿勢を見せてあげてほしい。職場ではLGBTの本人が誰にカミングアウトしているかの範囲を確認して、アウティングには十分に気をつけてくださいね」

「職場でカミングアウトをしている人は5%以下で、LGBT社員の中で20人に1人」だという。悪気のない、冗談のつもりだった言動が、“見えない当事者”を傷つけている。その相手はもしかしたら、尊敬している上司や、大好きな同期や、かわいい後輩かもしれない。そう考えてみれば、SOGIハラの問題はけして他人事ではない。自分も含めた全ての人が安心して働ける環境をつくるためにも、アライとしてできることを考えてみよう。

取材・文/天野夏海 撮影/栗原千明(編集部)

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