29 NOV/2017

下北沢で本格派エンターテイメントに触れる夜。見応え抜群な今週の1本【連載:ふらり~女の夕べ】

NO残業デーは劇場で“非日常”な体験を。
ふらり~女の夕べ

プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?

横川良明

演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長


大人になると、趣味や嗜好が変わるなって感じませんか?

10代の頃はあんなに楽しく見ていたラブコメディーや学園モノが何だか物足りなく思えてしまったり。気づいたら、毎クール欠かさずチェックするドラマはTBSの日曜劇場。あるいはNHKやWOWOWのドラマに思わず釘付け。なーんて、女性たちもそこそこ多いはず。

「大人の鑑賞に耐えうる」という常套句がありますが、緻密な取材のもと、手練れの俳優とスタッフによってつくられた本格派エンターテイメントは、まさに大人の女性だから楽しめる至高の世界。目の前で繰り広げられる熱のこもったお芝居に自分の体温まで上昇していくのを感じたり。見終わった後、しばらく席から立ち上がれないくらい放心状態になったり。ライトなエンタメももちろん素敵ですが、たまにはそんな見応え抜群の骨太な舞台にふれてみるのも、大人の嗜みと言えるのでは。

そんなひと味違う体験をしてみたい女性たちにオススメしたいのが、風琴工房の最新作『ちゅらと修羅』です。

風琴工房『ちゅらと修羅』

風琴工房『ちゅらと修羅』

Point1:独自の視点で現代を描く社会派・詩森ろばによる渾身の力作

風琴工房とは、1993年旗揚げのベテラン劇団。その最大の特徴は、思わず唸るような題材選び。前作『アンネの日』では生理用ナプキンを開発する女性たちの奮闘と葛藤を、2016年に上演した『4センチメートル』では新型福祉車両の開発に携わる人々たちの舞台裏を描き、好評を博しました。常に現代を見据え、社会の片隅で生きる人々を、丹念に、力強くデッサンする詩森ろばさんは、今や演劇界を代表する社会派作家として確かな地位を築いています。

風琴工房『ちゅらと修羅』

風琴工房『アンネの日』より

そんな詩森さんが今回選んだ題材は、「オキナワ」。多くの人にとっては、癒しの楽園というイメージの強い「沖縄」ですが、今なお基地問題が盛んに議論されるなど、「オキナワ」には決して一言では片づけられない難題が残り続けています。セクシャリティ、老人問題、少年犯罪、終末医療など、これまで様々な社会問題と向き合っていた詩森さんが、この重大なテーマにどうメスを入れるのか、注目です。

Point2:過去の沖縄へタイムスリップ? シリアス一辺倒にはならない風琴工房ワールド

と言っても、基地問題なんてワードが出たら、つい難しそうと腰が引けてしまう人が多いのも事実。仕事終わりに、せっかくの休日に、あまり疲れるものは見たくないという気持ちも、よくわかります。

ですが、そこが風琴工房の手腕が光るところ。題材はシリアスなものが多いのですが、その描き方はポップで活気に満ちあふれています。たとえば車いす利用者と共生できる社会を問うた『4センチメートル』は、硬派な題材とは裏腹に、何と作品そのものはミュージカル。また、アイスホッケーというマイナースポーツの厳しい現実と、そこで戦う男たちの活躍を扱った『penalty killing』は、氷上の格闘技とも評されるアイスホッケーの熱気と興奮を、俳優たちのプレイを通じて迫力たっぷりに再現しました。いずれも演劇ビギナーでも楽しめる間口の広い作品ばかり。

風琴工房『ちゅらと修羅』

風琴工房『penalty killing』より

今回も題材そのものは非常にデリケートですが、その展開は、沖縄の地に降り立った青年が突然タイムスリップする、という意表を突いたもの。随所に笑いもまじえながら、「オキナワ」を取り巻く問題について鋭く描写します。

Point3:徹底した取材力から浮かび上がる、私たちの知らない「オキナワ」の現実

見る人に深い感動をもたらす沖縄の海。しかし、その透明な海も赤土により汚染され、サンゴが年々激減していることを、あなたは知っていますか。こうした環境破壊も根本を辿っていけば、1972年の沖縄返還から始まる諸問題に深く関連しているのです。

これまで多くの社会派エンターテイメントを生み出してきた詩森ろばさんの武器は、徹底した取材力。自ら足を運び、人々の話に耳を傾け、自分の目で真実を見極めた上で、想いを筆に乗せていきます。その圧倒的なリアリティこそが、観客の心を揺さぶる情熱の発火点。今回は詩森さんはもちろん、俳優たちも自腹で「沖縄」に赴き見聞を広めるなど、気合いの入り方も並ではありません。

風琴工房『ちゅらと修羅』

風琴工房『4センチメートル』より

「沖縄」は働く女性たちにとっても大好きな観光地のひとつ。「沖縄」の美しい海とゆったり流れる時間に、明日へのエネルギーをもらっている女性もたくさんいるはず。だからこそ、日頃から無意識に蓋をしている「オキナワ」の現実にも目を向けてみては。私たちの知らない「オキナワ」が、ここにあります。

<公演詳細>
■あらすじ

青年はトウキョウである映画を観てやむにやまれぬ感情に囚われ、オキナワの地にやってくる。基地闘争の現在を目撃した青年はある瞬間、時空を飛ばされ、オキナワの過去の時間を体験することになる。

そして、彼は知る。オキナワは自分のソトにあるものではなく、ウチにあるものであり、自分もまた虐げられる者であり、虐げている者であると。

■脚本・演出
詩森ろば

■出演
田島亮、坂元貞美、西山水木、中野英樹、井上裕朗、林田麻里、杉木隆幸(ECHOES)、熊坂理恵子、佐野功、岩原正典、ししどともこ(カムヰヤッセン)、藤尾勘太郎(犬と串)、白井風菜

■日程
2017/12/07 (木) ~ 2017/12/13 (水)

■会場
ザ・スズナリ
〒155-0031
東京都世田谷区北沢1-45-15


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