40代になった黒谷友香が今、思うこと――「人生を誰かと比べた時点で負け。“好きな自分”でいられる生き方を選びたい」
三部けい原作のコミックから出発し、アニメ・映画と多彩なメディアミックスを展開してきた『僕だけがいない街』。原作の完結を経て、いよいよNetflixによる実写ドラマ版も全世界に向けて配信を開始。主人公・悟の母役を演じるのは女優の黒谷友香さんだ。
今回の撮影で特に印象的だったのは、北海道・苫小牧でのロケだと言う。原作でも丹念なタッチで描かれた苫小牧の街並みが、そのまま目の前に現れたことに感動したのだとか。
「透明感があって、空気が綺麗で、とても素敵な街でした。ロケ地も原作そっくりで、スタッフの皆さんはどうやって探してきたんだろうってビックリしました(笑)」
メガホンを握った下山天監督とは、映画『SHINOBI-HEART UNDER BLADE-』(05年)で現場を共にした間柄だ。「自分をよく知る方と一緒にお仕事ができるのは、一つの仕事を長く続けてきた私の強みですね」と言って柔らかく笑った。
「初めてづくし」の20代、「自分の色が見え始めた」30代
17歳でモデルデビュー。短大在学中に映画『BOXER JOE』でヒロイン役を射止め、女優としてのキャリアを歩み始めた黒谷さん。以降、コンスタントにドラマ・映画と出演を重ね、現在42歳。健康的な美しさが印象的な黒谷さんも、すっかり母親役が似合う年齢になった。黒谷さんにとって、20代、30代はそれぞれどんな時期だったのだろうか。
「20代は、何もかもがフレッシュ。取り組むもの全てが初めてで、いつも新しいことの連続。私の場合で言えば、いただく役がどれもやったことのない職業や性格ばかりで、常に刺激を受けていました。それに対して、いろいろな経験を積み重ねて自分の色が見え始めてくるのが30代。それまでは恋愛ドラマが多かったのが、刑事や弁護士を演じる機会が増えたり。お仕事の内容も年齢に合わせて少しずつ変わっていったのが面白かった」
30代は女性にとっても節目の年代。29歳から30歳に移り変わる瞬間は、いつも不安や焦りで複雑に揺れ惑っている。
「私の場合は、特に自分ではそんなに意識していなかったんです。むしろ印象的だったのは周りの反応かも。『いよいよ三十路だね』なんて言われて。『あ、やっぱり女性ってそういうふうに言われるんだ』と驚いたのを覚えています(笑)」
「三十路」の三文字は、何だか心を苦しくさせる。だけど、黒谷さんはごくごく自然体。周囲と自分とを比較して、気持ちが揺れることもあまりなかったのだそう。「生き方に関して、人と比べることはない」とさっぱりした表情で答えてくれた。
「生き方なんて人それぞれなのに、それを他人と比べている時点で、たぶんもう自分にも相手にも負けていると思う。そうやって劣等感に襲われそうになったときこそ、考えてみるんです。人と比べてウジウジしている自分と、本当にやりたいことをやっている自分とどっちが好きかって。悩むのもいいけれど、だったらそれよりやりたいことを見つけることに自分の時間を使いたいって私は思うタイプ。劣等感がバネになるならそれもいいと思いますが、そうでない限りは人生の良し悪しを他人と比べても仕方ないかな、と思います」
そう黒谷さんが胸を張って言えるのは、黒谷さんの中にブレない大切なものがあるからこそ。
「私は仕事をしているときが一番楽しい。この感覚は20代の頃から今もずっと変わらないんです。仕事がなぜ好きかというと、自分の内面をどんどん探検していく面白さがあるからかな。こんなに楽しいって思えるものが一つでもあることって、すごく幸せなことだと思うんです」
「40代になった今、最も自分らしく働いている」
一方で、40代を迎えたときは、30代になるときには感じなかった心境の変化を自覚したのだそう。
「『ついに40代か』という思いはありましたね。と言うのも、自分の人生がいつまで続くかは分からないけれど、数字的に見れば40歳ってほぼ人生の折り返し地点。自分の人生はあと残りどれくらいなんだろう。その中で私はどんなふうに年齢を重ねていくんだろうって、そういうことはすごく考えました」
そうして黒谷さんが出した結論は、とことん自分らしさを追求していくことだ。
「40代は、自分の考え方や価値観が自分でもよく分かってくる年代。周りも、私が積み重ねてきたものを見て仕事のオファーをくださるし、私自身も自分の色を活かせる役柄をどんどんやっていきたいなと思うようになった。そういう意味でも、今回下山監督ともう一度お仕事をさせていただけたことは、私にとって大きな意味のあることでした」
年齢を重ねるということは、決して輝きが錆びつくことでも、ましてや色褪せることでもない。経験という名の絵の具を何度も何度もパレットの中で混ぜ合わせ、ようやく他の誰にも真似できない自分だけの色になるのが、40代なのだろう。ここからキャンバスに向かって、自分にしか出せない色で絵を描いていくのだ。
「縦」のつながりをつくりましょう
素敵な先輩方の存在が安心をもたらしてくれる
だが、年齢を重ねることをそんなふうにポジティブにとらえられる人ばかりではない。「劣化」なんて言葉が当たり前に使われるようになった時代。年を取ることを恐れる人は少なくない。
「そんなときは、自分より年上の素敵なお姉さま方と知り合うのが一番。私もこの間、お仕事の関係である年上の女性の方と出会ったのですが、その方がすごく魅力的で。私もこんなふうになりたいなと素直に憧れました。加齢に逆らうことはできません。だからこそ、自分の人間関係を横だけじゃなく縦にも広げてみることが大切。尊敬できる先輩を見つけられたら、だいぶ安心できるんじゃないかなと思います」
そんな黒谷さんのストレス発散法は「水回りを掃除すること」。綺麗な洋服を身にまとった姿からはシンクやお風呂をぴかぴかに磨いている姿は想像し難いけれど、掃除が終わって最後に水で洗い流すと、自分の心にたまっていたものもすーっと流れていくような気がするとのだとか。こうしたごく普通の生活感覚も、黒谷さんの魅力の一つ。
「こんなふうに年齢を重ねてみたい」と思える先輩を、今目の前で見つけた気がした。
取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太
■配信情報
Netflixオリジナルドラマ『僕だけがいない街』
2017年12月15日(金)より、Netflixにて全世界配信中
出演:古川雄輝、優希美青、白洲迅、内川蓮生、柿原りんか、矢野聖人、江口のりこ、眞島秀和、戸次重幸、黒谷友香 他
原作:『僕だけがいない街』三部けい(KADOKAWA/角川コミックス・エース)
監督:下山天
脚本:大久保ともみ
製作:ドラマ『僕だけがいない街』製作委員会