桐谷美玲が見せた“ごく普通”な等身大の女性像――「自信も野心もまるでないんです」

今回本連載に登場するのは、女優の桐谷美玲さん。2年ぶりの主演映画『リベンジgirl』では、失恋をきっかけに総理大臣を目指すゴーイングマイウェイなヒロイン・美輝を演じている。

「この役そのものが、私にとって新しい挑戦でした」と語る桐谷さん。その話を聞いていると、画面越しに私たちが築いていた“桐谷美玲”像とはまったく違う、ごく普通の28歳の素顔が見えてきた。

桐谷美玲さん

桐谷 美玲(きりたに・みれい)
1989年12月16日生まれ。千葉県出身。06年、映画『春の居場所』でデビュー。女優、モデル、キャスターとしてマルチに活躍。主な代表作に映画『ヒロイン失格』、ドラマ『好きなひとがいること』『人は見た目が100パーセント』などがある

「私、このままでいいの?」28歳、仕事・キャリアの悩みは尽きない

東大首席卒業、ミスキャンパス・グランプリ。頭脳も美貌も手に入れたパーフェクトガールの美輝。しかし、その欠点は高飛車過ぎる性格。自信家の美輝を、桐谷さんはコミカル&パワフルに演じている。決め台詞は「私を誰だと思ってるの? 宝石美輝よ」。まるで可愛げのない性格なのに、スクリーンの中の美輝を見ていると不思議と愛おしくなってくる。

「美輝は何でも平気でズケズケ言ってしまうけど、それは決して嫌味なわけでも相手を蹴落としたいわけでもなくて、単に性格が正直でまっすぐなだけ。そこが美輝の悪いところでもあり、可愛いところでもある(笑)。そういう一見すれば短所と思える部分が逆に愛らしく映ればいいなって思いながら演じました」

この美輝というキャラクター、桐谷さんは自分自身とは「真反対」と即答する。

「私は美輝と違って自分に自信が全くないタイプ。女優の仕事には本当に向いてないと思います(笑)。それはもうこの仕事を始めたときからずっとそうで、今も全然ないままなんです」

桐谷さんの完璧なビジュアルは誰もが認めるところ。モデル、女優、キャスターと、“仕事も絶好調”な彼女の口から出た「自信がない」という言葉は何だか意外だ。その理由は、キャリアの出発点にあると言う。

桐谷美玲さん

「デビューのきっかけはスカウト。今の仕事を『どうしてもやりたい』と思ったことは一度もなかったんです。でも、ありがたいことにいろいろなお仕事に恵まれてここまで来られました。一方で、私自身は『このままでいいのかな』と悩むことはよくありました」

「この仕事は、自分が本当にやりたい仕事だったのか」という問いは、多くの人が抱えているものではないだろうか。一生懸命就活したところで、皆が第一志望の会社に入れるわけじゃない。仮に本命の会社に入社できても希望通りの配属が決定するとも限らない。「この仕事でいいの?」そんなモヤモヤを抱えながら日々パソコンに向き合い、上司の小言を我慢している女性たちは、きっと少なくはない。

だが、「前向きにチャレンジしてみると、それぞれの場所にそれぞれの楽しさは隠されている」と桐谷さんは語る。

「最初に『仕事が楽しい』と思えたのは、『Seventeen』のモデルをしたとき。もともとファッションやメイクは大好きだったから、好きなものに囲まれて、それが仕事につながる瞬間はすごく楽しかった。『Seventeen』があったおかげで、今もこうしてこのお仕事を続けられているんだと思います」

「野心は1ミリもない」周囲と比べず、マイペースに進む

それでも次々と降りかかってくる“新しい挑戦”に戸惑うことの方が多かった。今ではすっかり板についたキャスター業も、最初は不安で仕方なかった。

桐谷美玲さん

「やるしかないっていう状況だったから、何とかチャレンジできたというのが本当のところかもしれないですね。怖気づいていても何も変わらないし、どうなるか分からないけど腹をくくって『えい!』って飛び込んでみました」

それは会社員だって同じだろう。若手のうちから「やりたい」仕事だけを選べる人なんていないに等しい。まずは与えられた場所で、ちゃんと花を咲かせる経験を積むこと。それが、未来につながっている。

かと言って、桐谷さんは「野心」に燃えるタイプでは決してないと言う。

「仕事で大成功してやろう、みたいな野心が1ミリもないんです(笑)。本当はもっとのし上がっていこうとか、絶対にこの役がやりたいっていう強い目標があった方がいいんだろうなって思うんですけど、なかなかそういう気持ちにはなれなかった。今はもう、『仕事はマイペースでいい』ってふっ切れています。同世代の女優さんを見て何か焦ったり、羨ましく思ったりというのも全然ないですね」

自分の「やりたいこと」だけが人を成長させるわけじゃない

誰もが仕事で大きなことを成し遂げなくてもいいし、やりがい溢れる仕事をして“キラキラ”していなくちゃいけないなんてことはない。マイペースに自分なりの幸せにむかって生きている桐谷さんは、実はごくごく普通の28歳の女性なのかもしれない。

「私にとって仕事は仕事。“桐谷美玲”は芸名だし、仕事に入ると自然と気持ちが切り替わりますね。ぴしっと制服を着るようなイメージです。普段の私と“桐谷美玲”は全然違っていて、少なくとも素の私は皆さんが思っているほどしっかりしていません(笑)」

そういたずらっぽく笑った。思いがけず始めた仕事。与えられた場所で何とか踏ん張ってきたら、自分を必要としてくれる人たちが増えてきた。

桐谷美玲さん

「自分の道は、本当にこちらで正しいのだろうか」「私が本当にやりたいことは何だろうか」20代らしい悩みを抱えつつも、それでも一つ一つの現場で桐谷さんは自分のできることを精一杯やってきた。決して意図していたわけではない仕事でベストを更新し続けられた理由は、とてもシンプルだ。

「たぶん根が真面目だから(笑)。結局、仕事って責任感が全てだなと思います。やりたいとかやりたくないじゃなく、やらなければいけないことはちゃんとやる。そうやって続けていったら、自然と次の道につながっていたという感じです」

28歳、見栄も飾りもない、等身大の言葉が、そこにあった。

「ただ、自分がやってみたかったわけではないことも、やってみたらすごく良かったということはいっぱいあります。例えば、キャスターのお仕事もその一つ。あのとき、やる・やらないの選択を選べる自由が私にあったら、“やらない道”を選んでいたかもしれない。でも、やってみたら今までとは全く違う扉が開いて、今はキャスターの仕事も楽しいと思えるようになった。思い込みで道を閉ざすのは、本当にもったいないことなんだって実感しましたね。自分のやりたいことばかりが、人を成長させるわけじゃない。思ってもみなかったチャレンジが、自分の世界を広げてくれることもあると思います」

桐谷美玲さん

ちょうど28歳の誕生日を迎えたばかりの桐谷さん。いよいよ30代へのカウントダウンが始まったが、当面の目標は「もっと人間的に大人になること」。自分の内面を磨くためにチャレンジしてみたいことは「運動不足なので、何か運動を……(笑)」と、どこまでも等身大だ。

「自分の限界を超える」とか、「大きな夢を持つ」とか、ビジネス書を開けば勇ましい言葉がいっぱい溢れている。しかし、何もそんな肩の力が入った挑戦ばかりが私たちに必要なわけではない。

与えられたものに、まずは100%で応えること。
自分の希望とは全く違うことにも、ひとまず飛び込んでみること。

そんなささやかなAnother Actionが、人生を豊かにしていく。

桐谷美玲さん

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太


映画『リベンジgirl』
■監督:三木康一郎(『植物図鑑 運命の恋、ひろいました』『覆面系ノイズ』)
■出演者:桐谷美玲 鈴木伸之 清原翔 馬場ふみか /竹内愛紗/佐津川愛美/大和田伸也
■配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント
■公式HP:http://revengegirl-movie.jp/ 
(C)2017 『リベンジgirl』製作委員会