10 JAN/2018

俳優・鈴木裕樹が舞台に心惹かれる理由――「ながら見」できない。圧倒的な没入感が演劇の面白さ【OFFICE SHIKA PRODUCE『おたまじゃくし』】

NO残業デーは劇場で“非日常”な体験を。
ふらり~女の夕べ

プレミアムフライデーに、NO残業デー。働き方改革が進み、プライベートタイムは増えたけど、一体その時間に何をする……? 会社を追われ、行き場をなくし街を彷徨うふらり~女たちへ、演劇コンシェルジュ横川良明がいま旬の演目をご紹介します。奥深き、演劇の世界に一歩足を踏み入れてみませんか?

横川良明

演劇ライター・演劇コンシェルジュ 横川良明
1983年生まれ。関西大学社会学部卒業。ダメ営業マンを経て、2011年、フリーライターに転身。取材対象は上場企業の会長からごく普通の会社員、小劇場の俳優にYouTuberまで多種多彩。年間観劇数はおよそ120本。『ゲキオシ!』編集長


新しい趣味を探したい。だけど、これと言ってやりたいものが見つからない。そんなふらり〜女のみなさんにもっと演劇の面白さを知っていただくために、現在舞台を中心に活躍中の若手俳優にクローズアップ。彼らの言葉を通じて、観劇のきっかけをご提案します。

今回ご登場いただくのは、俳優の鈴木裕樹さん。ドラマ『警視庁・捜査一課長』など映像でも活躍中の鈴木さんが思う演劇の魅力とは……?

※記事の後半に、鈴木さんのサイン入りチェキプレゼント企画があります。最後までお楽しみに!

鈴木裕樹さん

鈴木 裕樹(すずき・ひろき)
1983年10月3日生まれ。岩手県出身。04年7月、D-BOYSオーディションに合格し、同年12月、ミュージカル『テニスの王子様』の大石秀一郎役でデビュー。D-BOYSのメンバーとなる。舞台『関数ドミノ』や『引退屋リリー』などに出演する他、ドラマ『家売るオンナ』や映画『ハピネス』など映像分野でもジャンルレスに活躍

舞台は、演者とお客さんが一緒になってつくるものだと思う

今や多数の実力派を擁する若手俳優集団・D-BOYS。その黎明期を支えたひとりであり、ミュージカル『テニスの王子様』でデビューして以来、一心に俳優人生を歩んできた鈴木裕樹さん。これまで数々の舞台に立ってきた鈴木さんは、演劇は「何が起こるかわからないからこそ面白い」と語る。

「映像は、ドラマにせよ映画にせよ、完成したものを観ると思うんですね。でも、舞台はお客さんが入って初めて完成するもの。どれだけ僕たちが稽古をしても、本番でお客さんのリアクションが入ると、作品の空気感がまったく違ってくるんです。演者とお客さんが一緒になって作品をつくる。そこが舞台ならではの面白さだと思います」

一方で、劇場に通うことに馴染みのない人からすると、演劇はどこか堅苦しいイメージがある。携帯電話の電源を切ること。飲食はしないこと。私語は慎むこと。周りの集中を妨げるような物音を立てないこと。こうしたマナーを列挙すれば、それだけで窮屈に感じる人もいるかもしれない。だが、そうした制限が舞台の面白さを増幅させるというのが、鈴木さんの考えだ。

鈴木 裕樹

「家の中は、自分だけの空間。だからテレビを観るにしても、ながら見したって別に構わないと思うんです。でも、劇場は違う。知らない人たちが、約2時間、ひとつの作品をじっくり観ます。隣の人のちょっとした物音が気になることだってあるし、緊迫した場面では咳ひとつするのもためらわれる。すごく特別な空間ですよね」

今や娯楽はますますインスタントに消費される時代だ。スマホがあれば面白い動画がいっぱい観られるし、つまらなければ指一本で次の動画にスキップできる。そう考えると、演劇の不自由さはまるで時代に逆行しているかのようにも見える。

「そうした制限があることに対して肩が凝ると思う方もいるかもしれません。だけど、集中して観る分、没入感はすごいし、観終わった後の充実感はめちゃくちゃ気持ちいい。何でも手軽に消費できる今の時代だからこそ、これだけいろんな制限を受けながら観る娯楽というのも、貴重なんじゃないかなという気がします」

演じるのは、「精子無力症」の男。何も分からないからこそ、やれることは全部やるしかない

そんな鈴木さんの次回作は、OFFICE SHIKA PRODUCEの『おたまじゃくし』だ。作・演出は、人間の生き様を熱く泥臭く描く作風で人気を集める劇団鹿殺しの丸尾丸一郎さん。鈴木さんが演じるのは、「精子無力症」を抱える主人公・小森憲一だ。妊活や不妊といったキーワードがメディアでも多く特集を組まれる昨今、極めてデリケートな題材にチャレンジすることとなる。

「難しい題材だからこそ、ひたすら向き合うしかないのかなって。僕自身も、知らないだけでそうした症状を抱えているのかもしれません。でも少なくとも今の僕には経験のないことなので、ショックなことはわかるけど、どれくらいショックなのかとか、自分が精子無力症だと知ったらどうなるかとかまったくわからない。ただひたすら勉強して、想像して、やれることは全部やっていくしかないのかな、というのが今の気持ちです」

鈴木 裕樹

「精子無力症」であることを妻にも言えずに抱え込んでいた憲一。彼の前に、自分の息子だと名乗る少年が現れたことからドラマは動き出していく。

「僕自身、子どもは好きですし、漠然とではありますけれど、いずれ父親になりたいなという気持ちはあります。でも、まだ全然明確なイメージは沸かないし、父親の心情もわかるとは言えない。だからこそ、息子役の宮崎(秋人)と、奥さん役の鷺沼(恵美子)さんとの関係性を大事にしていきたいですね。息子だと名乗る宮崎の顔を見て何を思うのか。10年間子どもができずに悩んでいた奥さんのそばにいて何を感じるのか。そこから浮かび上がってきたものが、小森憲一という男を形成する上で大きな要素になる気がします」

不妊は、Woman type世代にとっても関心が高いテーマのひとつだ。

「扱っているテーマは重いですが、きっと何かプラスに転じるものをお届けできる作品になると思う。ぜひ働く女性のみなさんにも観に来てほしいですね」

30歳前後で差しかかった人生の転機。一度離れてみることで、プロとしての覚悟が芽生えた

鈴木さんは現在34歳。04年の初舞台以来、着々とキャリアを固めているが、若手の頃は俳優業について「仕事という意識はすごく薄かった」と明かす。仕事への覚悟に目覚めたのは、30歳前後のこと。そこには、人知れぬ迷いがあった。

「あんまり喋るような話ではないんですが、一度だけこの仕事を離れようかなと考えた時期があったんです」

そう努めて明るく当時の心境を振り返った。

「もともと好きだからやっていたはずなのに、どうしてもこの仕事が好きだと思えない時期が2~3年続いて。これはもうダメかなって気がして、事務所の社長にも相談させてもらったんです。ただ、この仕事を辞めたところで次にやりたいことが何か明確にあったわけでもなくて。だったらもう少し考えてみなさいということで、半年くらいかな、お仕事をお休みさせていただいた時期がありました」

鈴木 裕樹

30歳前後は誰しもが人生を見つめ直す時期。若さというガソリンだけで走っていた道を、本当にこれでいいのかと思い悩む人は多い。一度立ち止まった鈴木さんは、その間、別の視点からこの仕事についてアプローチする機会に恵まれた。

「その間、舞台の演出助手に就いたり、イベントの企画から入ったり、裏方のお仕事をいろいろとやらせてもらったんですね。そうやって普段とは別の角度からこの仕事について向き合ったおかげで、自然と思えるようになったんです、やっぱり僕はこの仕事が好きなんだって」

そこから仕事への姿勢にも変化が見えはじめた。

「それまでは『好きでやっていることだから』っていう言葉を盾にして、好きじゃない仕事から逃げてたんですね。何なら自分の好きじゃないことをやるなんて、遠回りだとさえ思ってました。でも、仕事だからこそ『たとえ好きじゃないことでも、全力で取り組むことが大事なんだ』って思えるようになった。自分はこれで飯を食べていくんだっていうプロとしての覚悟がやっとできた感じでした」

裏方のお仕事を経験してみることで、周囲への感謝も改めて自覚するようになったのだとか。

「僕らはいつも当然のように舞台の上に立っているけど、その裏でどれだけのスタッフさんが苦労して支えてくださっているかとか、そういう当たり前のことに気づけたのも、その時期でした。おかげで、それからはひとつの仕事に取り組むにあたっても、自分のことだけ考えるんじゃなく、いろんな視点で物事を見て、いろんなことを感じられるようになりましたね」

鈴木 裕樹

そんな鈴木さんだからこそ、応援してくれる人への言葉も自然と溢れてくる。

「この仕事は、応援してくださるみなさんがいるからできる仕事。面と向かって言うのは恥ずかしいからなかなか言えないんですけど、いつも忙しい中、舞台を観に来てくれる人たちには本当に感謝しています」

そう前置きした上で、悩める仕事女子たちに、同じように思い悩んだ経験を持つ鈴木さんだからこそ伝えられるエールをもらった。

「僕は偉そうに言えるような人間じゃないんですけど、仕事をしていれば悩む瞬間は必ずある。だからこそ、悩んでいる自分とちゃんと向き合ってほしいなと思います。僕は一度半分投げ出すような感じになって、そこからまたこの仕事に戻ってきたけど、あのときそうしていなければきっと何も気づけないままだったと思うんです。本当に悩んでいるのであれば、どんなことでもいいから何かアクションを起こすことが大事。その形は人それぞれでいいと思うんです。友達に話を聞いてもらうのだって、ひとつの方法ですよね。そうやって自分なりの向き合い方を探って見つけていくプロセスそのものが、自分の人生をより豊かにしてくれるんじゃないかなと思います」

鈴木 裕樹

プロとしての覚悟。言葉にすると、それは何だか重々しくて、自分はとても言えそうにない気もする。でも、どんな仕事もそれぞれがプロであり、それぞれの覚悟がある。それを手に入れるために必要なのは、今抱えている悩みに本気で向き合ってみることなのかもしれない。散々悩み尽くしたその先には、きっと進むべき道が見えてくる。あとは、自分が踏み出せるかどうか。勇気を持って踏み出したその第一歩が、プロへのスタートラインだ。

取材・文/横川良明 撮影/岩田えり


公演詳細

OFFICE SHIKA PRODUCE『おたまじゃくし』

鈴木 裕樹

■あらすじ
ヘヴィメタルを愛する小森憲一は「精子無力症」である。バンドは鳴かず飛ばずで、日雇いバイトをする日々、結婚10年目になる妻・彩子に悩みのことは言い出せない。高額な治療費がかかる不妊治療、夫として、男として失格のレッテルを貼られるのが怖いのだ。ある日、父・昭が癌で亡くなった。昭は母・里美を追い出した過去を持つ。それが許せない憲一は高校卒業と共に家を飛び出し、以来、父とは疎遠であった。しかし、実家である文化住宅「栄荘」の取り壊しが決まり、仕方なく遺品整理にやって来た。
「今日、排卵日。子供が出来やすい日」と言う彩子に対し、遺品整理が終わっていないから実家に泊まると答える憲一。
直面する問題からいつも目を背けてしまう。 彩子は怒って神戸へ帰り、憲一は栄荘に滞在することになる。その夜、栄荘にやって来たのは「息子」だと名乗る青年・アキノリであった。
この物語は、「文化住宅」という無くなりつつある文化を舞台に、男三代の命の受け渡しを描く、タイムトリップ物語である―。

■作・演出

丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)

■出演
鈴木裕樹、宮崎秋人/近藤茶、有田杏子、メガマスミ/石川万奈恵、衣笠友裕、啓豪、中島幸一、ブル、古堅裕貴、前田隆成、前原健一郎、渡邉素弘/鷺沼恵美子

■日程・会場
2018年2月1日(木)~12日(月・祝)
東京都 座・高円寺1

2018年2月15日(木)~18日(日)
大阪府 ABCホール

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プレゼント情報

鈴木 裕樹

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