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MAR/2018

エッセイスト酒井順子さんに“裏日本”の魅力を聞いたら、幸せの本質が見えた――「私たちはもっとマイペースでいい。足るを知りましょう」

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ずっと“東京が最強”だと思っていた。話題の映画やイベントにすぐアクセスでき、街を歩けばメディアで紹介されたお店がズラリ。チャンスに溢れ、出会いも多い。もっと稼いで素敵な家に住みたい、もっと良い服が欲しい、もっと刺激溢れる毎日が送りたい、もっともっと欲しい……。東京にいると、「増やす」欲望が膨らんでいくばかりだ。

だが、そんな価値観とは真逆の「ミニマルな愉しみ」を提案するのが、エッセイストの酒井順子さんだ。鉄道好きとしても知られる酒井さんは、自著『裏が、幸せ。』(小学館)を通じて、かつて“裏日本”と呼ばれた日本海側の地域の魅力を説いている。

酒井順子
エッセイスト
酒井 順子(さかい・じゅんこ)さん

1966年生まれ。東京都出身。高校時代より雑誌「オリーブ」に寄稿し、大学卒業後、広告会社勤務を経てエッセイ執筆に専念。2003年に刊行した『負け犬の遠吠え』はべストセラーとなり、講談社エッセイ賞、婦人公論文芸賞を受賞。三十代以上・未婚・子ナシ女性を指す「負け犬」は流行語にもなった。他の著書に『枕草子REMIX』『都と京』『女流阿房列車』『紫式部の欲望』『ユーミンの罪』『地震と独身』『子の無い人生』『「来ちゃった!」』など多数

明るく発展的なイメージを持つ太平洋側に対し、どこか日陰の印象が強い日本海側。東京生まれ東京育ちの酒井さんは、そんな“裏日本”の「何もなさ」に無性に心落ち着くのだと言う。物質過剰な現代社会において、時に私たちは何でもあり過ぎる暮らしに自家中毒を起こしがち。酒井さんの語る“裏日本”の豊かさと共に、「幸せな生き方」について改めて考え直してみたい。

「何かしなきゃ」なんて思わないで。
ただ、ぼーっとして過ごす時間を大事に

私はザ・バブル世代の女。若い頃は散々海外に行ったりショッピングをしたり。20代の頃は“裏日本”になんて全く興味を示さず、派手で華やかなものにばかり目が向いていました。それが、徐々に“裏日本”に惹かれるようになったのは、30代を過ぎた頃から。特に心境の変化があったつもりはないのだけど、鉄道関係のエッセイを書く傍ら、よく日本海側の地域を訪ねるようになって。静かで何もない日本海側の空気に心の休息を覚えるようになったんです。

40代以降は、人の多いところがますます煩わしくなって、すっかり“裏日本”の虜に。時間さえあれば、列車に乗って、“裏日本”の街々を訪ねるようになりました。

酒井順子

“裏日本”の何がいいって、それはもう何にもないところ。インスタ映え? そんなの一切ありません。人はいないし、うるさくない。テーマパークも少ないし、華やかな観光施設はないけれど、その代わりに心休まる安寧の時間が流れている。私自身がひと通りいろいろな場所に行き尽くしたというのもあるんでしょうね。“裏日本”に足を運ぶ度に、「本当の豊かさ」とはこういうことなのではないかとしみじみ感じるのです。

若い女性たちからすれば、“裏日本”は地味かもしれない。でも一度、山陰本線に乗って“裏日本”に出かけてみてほしい。楽しみ方は人それぞれでいいけれど、私がオススメしたいのは、列車に乗って、ぼーっと窓の向こうに流れる景色を見て過ごすこと。せわしない現代人からすれば、何もしないことこそとても贅沢なひとときになります。「何かしなきゃ」って気持ちを脇に置いて、ただぼーっとする。それって、すごく大切なことですよ。

日本海側地域の人の幸福度が高いのはナゼ?

2016年版都道府県幸福度ランキングによると、1位は福井県。その後も富山、石川、島根、鳥取と日本海側の地域が上位に顔を並べています。どうして“裏日本”の人たちの幸福度が高いのか。私なりの意見は、きっと彼らは自分が幸せだなんて外にアピールをする気がさらさらないから。そして、他の人と張り合ったりせず、「自分は自分」を貫いているからじゃないかなと思います。いい意味で、すごくマイペースなわけです。

酒井順子

大都市の人たちに羨ましがられるために生きているわけじゃない。ふと足元を見れば、おいしいお水とお米とお酒があって、綺麗な空気と広い家がある。それで十分だって充足している感じがする。ガツガツしていないというか、必要以上に「もっともっと」と望まないというのが私に見える“裏日本”の人たちの生き方。その背景には、地域的に豪雪地帯であることや、日常的に何かと我慢を強いられる場面が多くて、辛抱強い気質が備わっているというのもあるんでしょうけど。

こういう「足るを知る」という考え方は、幸福感を持って生きるためには、とても大切なこと。若いうちほどついつい上ばかり見ては一喜一憂してしまうものだけど、ちゃんと足下を見れば幸せはちゃんとそこにあったりするものです。

「楽なのって、いいですよ」
最短ルートで進む人生が素晴らしいとは限らない

酒井順子
そもそも“裏日本”という言葉自体、今は差別用語とされています。でも、私はこの“裏”にこそ人知れず素晴らしいものが隠されている気がしてならないのです。お茶の世界にも表千家、裏千家とあるでしょう。その裏千家の方が「裏というのは、大切なものが置かれるところだ」という話をされていて。まさしくその通りだと思います。つい日の当たる場所こそが素晴らしいと思いがちだけど、燦々と日に照らされることで色褪せたり傷んだり消耗してしまうものって、きっとある。本当に大切なものほど日陰にこっそりとしまっておいた方が長持ちするというのは真実かもしれません。

でも東京のような人も情報も多いところで暮らしていたら、人知れず素晴らしいものなんて言っても、他のいろんなものに紛れて気づけない。そんなときこそ、生きるリズムを周りと一拍ずらしてみてはいかがでしょうか?

例えば交差点の信号待ち。青信号になった途端に一目散に飛び出していくのではなく、ひと呼吸置いて、皆が動き出すのを待ってみてください。そうしたら、同じ交差点でもあなたの目に映る景色は全く別のものになる。あくせくと駆けていく他の人たちの後ろ姿を見ていたら、新しく気づくものがあるかもしれません。

人生は、誰よりも速く“向こう岸”に到達することを競うゲームじゃない。人より早くゴールを目指す生き方をやめたら、きっとあなたの心はもっと楽になれるはず。楽っていいものですよ。楽でいられる場所こそが、幸せのありかです。

ジタバタしながら、自分なりの幸せを探しましょう

ありきたりな答えになりますが、人と比べないことが日々を楽しく生きるための第一歩。私の若い頃と違って、今はネットがあるから、皆さんの方がよほど大変だと思いますけどね。放っておいても、知りたくもない友人の近況があれこれ目に入って、気持ちが乱されてしまいます。でもそんな時代だからこそ、「虫の目」を持つことが大事なんじゃないかしら。余計なものは一切視界に入れず、ただ没頭できるものを見つける。自分なりに幸せを感じられるものが一つあれば、人との比べ合いなんてどうでも良くなるはず。

酒井順子

では、没頭できるものとは何か。自分が没頭できているかどうかの基準は、「根性を出している自分にうっとりできること」なんていうのが分かりやすいかもしれません。

私は意外に頑張り屋の性格で、何にでも一応、根気強く取り組んではみたのです。そこから気づいたのは、人って結局、得意なものにしか根性が出せない生き物だということ。「根性を出すことができる分野」こそが「向いてる分野」、と言うことができるのではないでしょうか。 没頭できるものが何か分からない人は、いろんなことにチャレンジしてみて、その中から一番「根性を出している自分」に惚れ惚れできるものを探したらいいと思います。

あとは、こうすれば必ず幸せになれるなんて絶対的な対処法はない、ということは心得ておくべきでしょうね。「人生が変わる一言」なんてないし、人生をより良くする特効薬なんてない。他人の編み出した手法に頼るのではなく、自分の幸せは自分でジタバタしながら見つけるしかないのだと思います。その過程は、山あり谷ありかもしれません。でも、決して不幸になってはいけないわけではありません。長い人生、誰しも落ち込む時やつらい時がある。そういう自分を恥じたり、焦ったりする必要はないですよ。

落ち込んだら落ち込んだで、そんな自分を受け止めて、緩急をつけて進んでいけばいい。そうやって試行錯誤しながら見つけたものが、あなただけの幸せな生き方なんだと思います。

取材・文/横川良明 撮影/吉永和久


酒井順子 裏が、幸せ
『裏が、幸せ。』 (酒井順子著/小学館文庫)
常に時代を先取りする話題作を刊行してきた酒井順子氏が、”控え目だけれども鋭い光を放つ”日本海側の魅力を存分に伝えるエッセイ。都道府県別幸福度ランキングでは、トップ3は福井、富山、石川の北陸三県。富山にある世界一のスタバ、日本海が必須の演歌、美人が多い秘密、谷崎潤一郎、水上勉、泉鏡花、川端康成が描いた「裏」、顔を隠す盆踊り、金箔のほとんどを生産する金沢…などなど 「裏日本」の宝ものが次々と紹介されます。「裏の幸せ」を求めて旅に出たくなる一冊。>>Amazonで購入する

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