「まさか私がドライバーになるなんて」転職経験3回、事務職志望だった私が見つけた“最高の職場”は、男性だらけの職場だった
女性が働きやすい職場って、一体どんな環境?
そう聞くと、「女性がたくさんいる職場」をイメージする人は多いはず。
でも、「働きやすい」の基準は人それぞれ違うもの。
もっと視野を広げてみると、自分に合う会社、仕事と出会えるかもしれない。
かつて児童福祉の仕事に携わっていた上田桃花さん(仮名)のキャリアが、それを証明している。東京りんかい交通株式会社に転職し、現在、数少ない女性タクシードライバーとして活躍している上田さん。女性中心の職場から一転、男性が8割を占める職場に身を置くことになった彼女は、「自分がドライバーになるなんて夢にも思っていなかったけれど、今、すごく楽しい」と目を輝かせる。

東京りんかい交通株式会社
タクシードライバー
上田桃花さん(仮名)
学校卒業後、アミューズメント会社で接客サービスの仕事を5年経験し、携帯電話キャリアの販売職に転身。その後、障害児童の一時預かり所を運営する会社に転職し、約1年勤務。2018年、東京りんかい交通に入社し、ドライバー職。数少ない女性ドライバーの一人として活躍中
転職経験はこれまでに3回。「ついに自分にピッタリな仕事を見つけた」という上田さんに、「働きやすい職場とは?」という問いをぶつけてみた。
座り仕事で給料も高い、働き方はフレキシブル
「事務職よりずっと私向きの仕事かも!」
前職では児童福祉の仕事に携わっていました。子どもは好きだったし、同世代の女性が多い職場だったので、安定して働けるかなと思ったことが入社したきっかけです。実際のところ、子供たちはかわいかったし仕事のやりがいもあったけれど、職場は慢性的な人手不足に悩まされていました。当時私は現場リーダーを任されていたので必死に踏ん張っていたのですが、無理が祟って体調を崩すようになってしまって。「まずは自分が健康でいなければ、いい仕事はできない」、そう考えて3回目の転職をする決意を固めました。
次こそ失敗したくない。
長く働き続けたい。
そんな強い思いがあったので、職場選びはかなり慎重でした。それに、「体に負担のかからない仕事を」と考えていたので、最初は事務職の求人ばかり見ていました。
そんな私が、東京りんかい交通を知ったのは、転職イベントに参加したことがきっかけです。人事担当の方が会場で偶然声をかけてくれて、お話を聞いてみることにしました。繰り返しますが、当時は自分がタクシードライバーになるなんて、全く考えていませんでしたよ(笑)。

でも、よく考えたらドライバーも事務職と同じ座り仕事。働き方についていろいろ質問したら、社員の皆さんがすごく親身になって話をしてくれました。それで、ドライバーに対する印象が大きく変わったんです。「夜勤必須なのかな」というイメージがあったのですが、フレックス制なので働き方はとてもフレキシブル。昼間だけの勤務も選べるし、残業も少ない。運転技術については「運転慣れしている人より、運転に臆病な人の方がいい」と言われました。命をお運びする仕事だからこそ、危険予知ができる人の方が向いているというわけです。研修もしっかりあると聞き、「これは自分に向いている仕事かも」とはっとさせられました。
また、「お給料の高さ」も入社を後押しする決め手に。一般的な事務職の求人とは比較にならないほど、基本給が高かったんです。それに、成果をあげればその分だけお給料も上がるし、スキルも身に付けられるから、頑張りがいがある。しっかり稼いで自立している先輩女性ドライバーの姿が、すごくかっこよく見えました。
先輩たちの中には、子育てと仕事を両立している人もいます。タクシードライバーは「手に職」ですから、産育休で2~3年お休みしたとしても、出産前と同じ待遇で、元の職場に復帰しやすいんです。
“長く働ける職場”選びで肝心なのは、「安心感」があるかどうか
入社後は、日々の業務の中でいろいろなお客さまとの出会いに刺激をもらっています。「新人ですがよろしいでしょうか?」とお伝えすると、丁寧に道を教えてくれたり、「頑張って」と温かい声をかけてくださる方も。観光で日本にいらした外国人のお客さまを乗せることも多く、英語力を活かせる楽しさもあります。

また、春は桜・秋は紅葉と移り変わる街の風景を味わい尽くせるところも、この仕事の醍醐味。私は普段、東京駅から丸の内近辺を中心に走っていますが、皇居周辺は緑がいっぱいでキレイですし、銀座のビル街は見ているだけでも楽しい。春には桜並木の下を通り抜けていく気持ち良さを感じました。この木も桜だったんだと、改めて気付くぐらい都内は桜が多いんですよ。
やってみて分かったことは、やっぱり仕事の向き不向きに性別は全く関係ないということですね。入社前のイメージ通り、体への負荷もほとんどなく、ストレスフリーで働けています。また、今はまだ女性ドライバーが貴重ということで、「あら、女性の運転手さんなのね!」と喜ばれるお客さまも。女性であることそれ自体が強みになっちゃうこともあるんです。
外回りを終えたら事務所に戻って売上の清算をするのが私たちドライバーの日課。その時間も、私にとっては「癒し」の時間です。職員の皆さんが「おかえり」と温かく迎えてくれて、「今日はどうだった?」とか、いろいろ話し掛けてくれるんですよ。そういう、お互いを気遣う人間関係がここにはあるんですよね。
職場で過ごす時間に癒されるなんて、前職ではありえなかった(笑)。女性が多いとか、男性が多いとか、そんなことは働きやすさに全く関係ない。肝心なのは、「安心感」が職場にあるかどうかだと痛感しています。
自分に合う職場が分からない人は、一度「思い込み」を捨て、自分の可能性を広げて
かつての私のように、なかなか自分に合う職場が見つからず、焦りや不安を感じている女性はきっといると思います。でも、諦めないでほしい。私も失敗を経て、いろいろな環境で経験を積み、自分に合う職場が段々と分かるようになったからです。
「自分に合う仕事が分からない」という方は、一度自身の“思い込み”をとっぱらってみてはいかがでしょうか? 私も最初は「男性の多い職場はどうなのかな」とか「働きやすい仕事といえば事務職でしょ?」と思っていましたが、視野を広げてみたら、自分にしっくりくる職場に出会えました。

時には、他の人からもらった客観的なアドバイスを鵜呑みにしてみるのもいいと思います。自分の可能性をもっと広げてみてください。「夢にも思っていない仕事」に就いた私は今、余計なことにストレスを感じたりすることもなく、仕事に集中できています。
「長く働ける職場を見つける」この目標を達成した今、次に目指すのは「外国語接遇ドライバー」の資格取得!これは、空港の国際線専用レーンで外国人旅行者の方をお迎えできる資格です。これからますます海外からのお客さまが増えてくるので、世の中のニーズが高まっているんですよ。
視野を広く持てば、まったく予想もしなかった場所で、自分の力を存分に生かせる日が来るかもしれない。
新しい可能性にまっすぐに向かっていく毎日は、すごく清々しいですよ。
取材・文/上野真理子 撮影/竹井俊晴