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JUN/2018

20年勤めたマガジンハウスを辞め、私が学生になったワケ――「自分の幸せシナリオ、描けていますか?」【先輩1:池田美樹さん】

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人生100年時代はチャレンジの連続!
『教えて、先輩。』

人生100年時代。これまで言われてきたような「歳相応」の生き方なんて、これからの未来を生きる私たちにはまったく当てはまらない。そこでこの連載では常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性にフォーカス! 彼女たちの生き方を覗かせてもらいます。

近頃、社会人の“学び直し”が注目を集めている。生涯にわたって「働く」と「学ぶ」を交互に行う、「リカレント教育」という言葉を聞いたことがある人も多いのではないだろうか。大学卒業後は就職して、そこから先は定年まで働き続ける。そんな従来の“当たり前”は変わりつつある。

25年間の会社員生活を経て、大学院生になった池田美樹さん。20年勤めたマガジンハウスを昨年退社し、現在は慶應義塾大学大学院に通っている。キャリアチェンジを果たすなら、転職や独立といったカタチもあったはずだが、なぜ大学院への進学を選んだのだろうか。学生に戻った先輩女性の声に耳を傾けてみよう。

池田美樹 学び直し
池田美樹さん
1967年熊本生まれ。熊本大学文学部仏語仏文コース卒業後、地域情報紙『タウン情報クマモト』の編集に携わる。上京後は株式会社マガジンハウスに入社し、『Olive』『anan』『Hanako』『クロワッサン』など、10代から60代までの年代にわたる女性誌、Webの編集者を歴任。2017年4月より、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科修士在学中。同年7月に株式会社マガジンハウスを退社

経験や勘で、今の仕事は何でもこなせる。でも、本当にそれでいいの?

私が大学院に通い始めたのは、昨年の4月から。今51歳なので、大学を卒業して以来、約30年ぶりの学生生活です。会社で積んだキャリアは、外に出ると通用しないって文脈があるじゃないですか。それを私も感じていて、経験や勘で何でもこなせるような年齢になったけど、本当にそれでいいの? って疑問があった。キャリアだけでは自信にならない気がしたんです。

世の中がどんどん変わっているから、そんな中で自分がどう生きていくのか、客観的に見てみたかったのかな。これまでの自分のキャリアを棚卸して、再構築して、後半の人生に備えようと思った。きっと、足元を固めたかったんでしょうね。

その方法として大学院という選択肢にたどり着いたきっかけは2つあります。一つは会社員時代にお世話になった、産業カウンセラーさんとのカウンセリング。「池田さんの話していることは、学問に近いよね」って言われて、興味を持って調べるうちに、大学院の情報に行き当たった。

池田美樹 学び直し

もう一つは、島根県の温泉への取材でした。60代の女将の名刺に、「島根大学博士課程」と書いてあったんです。「温泉が体にどういいのかを、ちゃんと科学的に実証したいから大学院に通っている」と教えてくれて、すごくかっこいい!って思った。当時私は49歳でしたが、60代になっても大学院に行き、学ぶ選択肢があるのか、と目から鱗。この2つの出来事が、パチンとはまったんです。

最初は、会社員をしながら大学院に通うことにしました。でも結局、入学した3カ月後には退職することに。私が在籍している学科は、3分の2が社会人で、自分と違う生き方をしてきた人がたくさんいます。今までメディアの仕事を通じてさまざまな人に会ってきたつもりだったけれど、それはほんの一部に過ぎなかった。大学院でいろいろな人の価値観に触れたり、学問の刺激にさらされたりしているうちに、「後半の人生への助走のために通うんだから、両立なんて言っている場合じゃない!」って思うようになって。2年間は学問一筋で打ち込もうと決心して、仕事を辞めました。

家族をつくる選択肢もありだけど、私は仲間や友人と共に歩む人生を選んだ

今は、女性のエンパワーメントをテーマに研究をしています。まだまだ「女性だから」というステレオタイプにとらわれている人は、女性の中にもたくさんいる。それに、「女性だから」っていう甘えは、私の中にも少なからずあります。幼い頃から染み付いた価値観を変えるのは難しいけれど、その時の自分が気持ちいいことを、正直にやるのが一番なんじゃないかな。ガッツリおしゃれをしてモテたければそうすればいいし、それが疲れたら、ヒールを脱ぎ捨てたっていい。

今日は撮影があるからワンピースを着てきましたが、学校に来る時はいつもワンマイルウェアです。だって、おしゃれする必要がないんだもの(笑)。素敵なネイルも靴も、学問の世界では評価されない。これまであんなにおしゃれを頑張ってきたのに、それが全く意味を成さない場所に自分がいることがすごく新鮮。何だか、鎧を脱ぎ捨てた感じがします。

池田美樹 学び直し

結婚や出産も同じこと。自分が気持ちいい選択をすればいい。私は過去に結婚していたことがあるけれど、その当時も「子供が欲しい」とは思わなかった。それは今も同じかな。家族をつくる人生もありだったかもしれないけれど、私は仲間や友人と共に歩む人生を選んだっていうことだと思います。ただ、出産にはリミットもあるから、子どもが欲しいかどうかについてはよく考えて結論を出した方がいいと思います。

そういう意味で、私は自分の選択に後悔はありません。でもきっと、20代、30代女性の中には、シングルライフを楽しむ一方で、ふとした時に、たまらなく将来が不安になる人もいるんじゃないでしょうか。そんな女性たちのために私は研究をしていますが、一つ言えるのは、「もっとシンプルでいいんじゃない?」ってこと。そんなに思い悩まなくていいですよ。不安になったら、楽しそうに生きている先輩の姿を見たり、小説を読んだり映画を見たりして、いろいろな人の人生を知るといいかもしれない。「どんな生き方したっていいじゃん!」って思えるようになってきます。

大事なのは、自分のために使う時間。
「100%で仕事をしないズルさ」だって、女には必要です

性別や年齢にとらわれずに生きていくためのアドバイスを20代、30代の女性たちにするとしたら、「100%の力で仕事をしなくていいよ」ってことかな。女性には頑張り過ぎちゃう人が多いけど、100%の力を仕事に注いで、自分が枯渇したら何にもなりません。70~80%くらいで仕事して、その中で全力を出し切る。そして、残りの30%を自分のために使うこと。これが大事です。

私も20代のころは仕事が楽しかったのもあって、100%の力を使い切っては枯渇するというのを繰り返していました。でも、会社を辞めた今、そこまで会社に尽くす必要はなかったのかもと思います。自分のために使う時間をもっと持てたら、別のところで開けた未来もあっただろうから。余力は大事だから、少しくらいズルさを持つといいですよ。

池田美樹 学び直し

その上で、何でもチャレンジしてほしいなと思います。特に20代は、まだ自分が何者なのかが固まっていない時期。いろいろトライして、面白いと思えることや、苦手なことを見つける期間と捉えましょう。興味のない仕事であっても、やってみたら自分が気づいていない得意分野が隠れているかもしれません。逆に、「これだけは無理だ」と思うようなことに出会えるのもまた発見の一つ。目の前のことを実直にやって、ちょっとずつ自分の足元を固めていく過程を楽しめるといいですよね。専門性を磨いてキャリアを絞っていくのは、30代からで十分です。

年齢を重ねるごとに、新しく見えるものもあります。ただ、自分の進みたい方向は、なるべく早いうちからぼんやりとでも意識しておくことをお勧めします。今までやってきたことの延長線上にしか、あなたの道はないからです。明確にやりたいことがある人は少ないかもしれない。でも、今やっている仕事や、今いる会社、業界を選んだ理由は何かしらあるはず。ぼんやりとでも、「何が好きでこの仕事に就いたんだっけ?」を思い出して、自分の最終的な「幸せシナリオ」を考えてみてください。

大学院では、「あなたの研究がうまくいったとき、どんなふうに世の中が良くなるんですか?」って、教授に聞かれるんですよ。シナリオが描けていないとゴールにたどり着けないのは、研究も仕事も同じだなって思います。シナリオは見失いがちだけど、それがあれば大抵のことは乗り越えていける気がします。

修士課程が終わった後は? また会社に入るのもいいし、3つぐらい仕事をするのもいいな

早くも大学院に通い始めて2年目になりました。今まで25年間会社員として仕事をしてきたけど、全く違う脳を使うんですよ。最初は苦しくて、もう死ぬかと思った(笑)。でも、学生生活は楽しいです。

池田美樹 学び直し

会社にいると、会社の中のことしか見えないじゃないですか。そこから離れてみて、まだまだ自分の周りに無限の世界が広がっていたことに、50代で改めて気がつきました。

これから先は、若い世代の人たちの役に立てるようなことをしていきたい。これまでは自分のために生きてきたけど、この歳になると不思議なもので、自然とそんなふうに思うんですよね(笑)。

エリクソンという学者が提唱した「ジェネラティビティ」は、「世代継承性」と訳されますが、この概念を持たないと良い老年期は迎えられないと言われています。子供を持たない私に何ができるのかっていうと、やっぱり世の中の若い人たちに価値ある情報を伝えること。それが後半の人生で、自分がよりよくあるための方法なのかなと思っています。

とはいえ、卒業後のことは、まだ具体的には考えていません。また会社に入るのもいいし、3つぐらいの仕事をするのもいいなって思う。焦りや不安な気持ちはないんです。「なるようになるさ」と思ってね。修士課程を修了する頃になったら、また何か思うことがあるでしょう。これからの自分がどうなるのか、分からないことが楽しみです。

取材・文/天野夏海 撮影/栗原千明(編集部)

連載『教えて、先輩!』の過去記事一覧はこちら

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