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JUN/2018

【夏木マリ】「できないことを死ぬまで探し続けたい」くすぶっていた若手時代、数々の失敗から得たぶれないポリシー

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一流の仕事人には、譲れないこだわりがある!
プロフェッショナルのTheory

今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります

女が惚れる女、夏木マリ。芯があって、流されない強さに、多くの女性が憧れる。皆がほしいと願いながら、なかなか見出すことができない「自分らしさ」。演技や音楽、ファッションなど、表現者として幅広く活動する夏木さんの根底にある“夏木マリらしさ”は、どのように確立されたのだろうか。

夏木マリ
夏木マリ
21歳で歌手デビュー。「絹の靴下」の大ヒット後、多数の人気テレビドラマや映画に出演を重ねながら、1980年以降は演劇に進出。数々の舞台で実績を積み、84年に芸術選奨文部科学大臣新人賞を受賞。93年には自らの演出によるコンセプチュアルアートシアター「印象派」シリーズを手掛ける。2008年には自身が主宰のカンパニー「Mari Natsuki Terroir」を発足。「印象派NÉO」としてさらに進化を遂げ、通算12作品を発表。また、毎年秋には京都・清水寺にて奉納パフォーマンス「PLAY×PRAY」を文化奉納。独創性や芸術性に溢れるパフォーマンスで演出家、クリエイターとしても手腕を振るう。著作の出版やラジオパーソナリティー、声優としては『千と千尋の神隠し』の湯婆婆役やディズニー映画『モアナと伝説の海』、ウェス・アンダーソン最新作『犬ケ島』など、マルチに活躍中
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演じるのではなく、そこで生きる。
撮影の約2週間前から山に入り、アキとして過ごした

夏木マリ
白い肌に真っ赤な口紅をひき、金色の髪にきらびやかなガウンを身にまとう。目の前の夏木さんは、うっとりするほど美しい。

だが、ひとたび役に入れば、全く別人のような顔を見せる。

河瀬直美監督の最新作『Vision』で夏木さんが演じたアキは、不思議な力を持つ盲目の女性。スクリーンに映る夏木さんに、普段の艶やかさはまるでない。撮影したテープを見たスタッフが、夏木さんを本当に奈良県吉野の山に住んでいる女性だと勘違いしたほど、アキという役柄に入り込んだ。

「役作りのために、撮影の約2週間前から山の中でアキとして過ごしました。彼女はきっと動物性のものは食べないだろうから、毎日お粥を食べて。そうやって山の中で生きているところにカメラが来て、撮影をされたような感覚でした。誤解を恐れずに言えば、演じることを禁じられているし、アドリブも多くて台本通りには進行しない。試写会で全編を見て、『こういう話だったのね』って初めて分かりました」

「Vision」の謎を唯一知っているアキを演じるため、山の中で長い時間を過ごした夏木さん。作中にも登場するよもぎ団子を自らの手で作るため、よもぎを摘みに行くところから経験。住んでいる家から1時間かけたところにあるお地蔵さんのところまで山道を歩いて行き、花と水を替えるというアキの習慣を続けたという。

夏木マリ

自分らしさは“削ぎ落とす”作業から生まれる

表現者として、圧倒的な存在感を放つ夏木さん。ベースにあるのは、コンセプチュアルアートシアターと銘打つ、舞台『印象派』だ。1993年にスタートして以来、自身が演出を手掛けている。

「大げさではなく、今の私があるのは『印象派』で鍛えられたからです。自分の人生に必要なものは何か、あるいは、いらないものは何か。取捨選択のきっかけになったから、いろいろな物を捨てることができたし、同時に数多くの発見もできました。『印象派』を創り上げることによって思考が整理されて、自分を知ることができたんです」

自分を知ることは、自分らしさを見つけること。夏木さんは日々、“できること”ではなく、“できないこと”を模索している。

夏木マリ

「今はね、仕事のオファーは感覚的に『やりたい』と思えるものだけ受けています。中にはやってみたら『向いてなかった』って思うことや『楽しくない』ことだってあるけれど、できないことが何か見つかるだけでも儲けもの。そうしたら、それを次から削ぎ落としていけばいいんですから。

私自身が自分らしくあるために、『何ができないんだろう』『何がいらないんだろう』っていうことを、死ぬまで探し続けているような気がします。でもやっぱり、『いらないもの』を見つけるためには、いろいろ挑戦してみるしかないんですね」

「結婚=安定」なんてウソでしょう!? 自分の人生はおろか、他人の人生はもっと思い通りになりません

何でもやってみようと行動すれば、失敗もする。夏木さんは20~30代の女性たちに、「たくさん失敗することをお勧めします」と助言する。

夏木マリ

「皆さんに見ていただいている私は、全て成功例です。でも、その裏にはものすごい数の失敗があります。20代の頃はメディアに出る機会がほとんど無くて、ふてくされていた時期が8年くらいありました。30代は舞台に打ち込むあまり、友達を大事にできなくて、気付けば孤立していたりもした。でも、自分を知る過程に失敗は付き物。それに、30代くらいまでの失敗だったら、いくらでも取り返せます」

インタビューを実施したこの日は、映画『Vision』の完成披露試写会。別のある日はBlue Note Tokyoで歌い、また別の日は途上国の子供たちを支援する『One of Loveプロジェクト』や、清水寺でのパフォーマンス『PLAY×PRAY』の活動をする。仕事の幅は広く見えるが、これらは全て“できないこと”を削ぎ落としてきた結果だ。

「大事なのは、“考える”のではなく、“知る”こと。自分のことを考えている人は多いけれど、それでは前に進まないんです。私たちは動物だから、動いてみないと分からないの。一歩で行けると思ったのに、いざ足を踏み出してみたら、二歩必要な道だってある。だからこそ、とにかくやってみること。自分のことを“知る”っていう努力を、行動と一緒にしてみましょう」

それと同時に、「人生のイメージを持つといい」と夏木さんは続ける。

夏木マリ

「私の人生のイメージは、『浮遊』かな。一つのところに安定していたくないんです。そんなの面白くないじゃない? 私にとっては、結婚も不安定を象徴するものの一つでした。結婚に安定を求める女性も多いと聞くけれど、私にはそれがどういうことなのか分からない。はっきり言えば、そんなの間違いですよ。だって、一人の方が楽だもの。相手がいたら自分のペースが乱れるし、相手の人生に何かあれば、自分の人生に大きな影響が出ます。自分の人生はある程度コントロールできるけど、他人の人生を思い通りにするなんて到底無理なんだから、こんな不安定なことはない。でも、その不安定さを楽しめる自分でありたいから、私は最終的に結婚するというカタチを選んだんですけどね」

世の中に影響されるのではなく、自分が世の中に影響を与えたい

世の中にはびこる旧来的な常識を跳ね除け、「年齢はただの記号に過ぎない」と言い切る夏木さん。彼女がこんなにも堂々と、自身の哲学を貫き通せるのはなぜなのだろう。

「私も若い頃は人の目や周囲の意見を気にしていたこともあったけれど、最近は気にならなくなりました。自分を知れば自信を持てるし、自信を持てれば周りのことは気にしなくなる。それに近年は、世の中に影響されるのではなくて、自分が世の中に影響を与えたいと思って仕事をしています。自信を持って仕事をすることは素晴らしいし、人間としての誇りじゃない?」

夏木さんにとっての仕事とは、「人のために動くこと」。自分のやりたいことをやった結果、人のためになっているのが一番の理想だと語る。

夏木マリ

「私は表現という手段で、誰かの役に立ちたいという夢を持って仕事をしています。例えば私たちがライブをやると、SNSで『元気をもらいました』って言ってもらえる。そうやって誰かの気持ちが少し動いたことも、人のために動いたっていうことですよね」

自身を“プレイヤー”と称する夏木さん。その言葉には、自身の仕事への姿勢が込められている。

「子供が初めておもちゃを見た時に、新鮮な気持ちで、本気で遊ぶじゃない? 遊び感覚がありながらも本気っていう姿勢で仕事に向き合いたいの」

「答えなどない そこにはない 机の上には」

斉藤和義さんが夏木さんに書き下ろした楽曲『Player』のフレーズが物語るように、個性も天職も、じっと考え込んでいては見つからない。試行錯誤を重ね、もがき苦しみながら獲得するからこそ、自分らしさを確立している人は尊い。女が惚れる女、夏木マリ。目の前で微笑む女性に、皆が憧れる理由を見た。

夏木マリ

取材・文/天野夏海 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)


映画『Vision
2018年6月8日(金)全国ロードショー
出演:ジュリエット・ビノシュ、永瀬正敏、岩田剛典、美波、森山未來、コウ、白川和子、ジジ・ぶぅ、田中泯(特別出演)・夏木マリ 
監督・脚本:河瀬直美 
配給:LDH PICTURES 
(c)2018 “Vision” LDH JAPAN, SLOT MACHINE, KUMIE INC.

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