ハリウッド映画界が誇る名女優、メリル・ストリープから日本の働く女性たちへのメッセージ――「深く呼吸をして。時代の変化を感じて」
今をときめく彼・彼女たちの仕事は、 なぜこんなにも私たちの胸を打つんだろう――。この連載では、各界のプロとして活躍する著名人にフォーカス。 多くの人の心を掴み、時代を動かす“一流の仕事”は、どんなこだわりによって生まれているのかに迫ります。
アカデミー賞にノミネートされること19回。ゴールデングローブ賞を8回受賞。これらの記録は、いずれも史上最多記録。
およそ40年にわたって映画界でキャリアを積み、今なお輝きを増し続ける名女優、メリル・ストリープさんは、まさに世界を舞台に一流の仕事を残してきたプロフェッショナルの1人。Woman type世代の中には、『プラダを着た悪魔』で鬼編集長・ミランダを演じた彼女に魅了された人も多いのではないだろうか。
そんな彼女が今回、映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』(2016年12月1日(木)、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー)の公開にあたり来日。日本の働く女性たちへのメッセージとともに、本作の主人公フローレンス・フォスター・ジェンキンス(以下、フローレンス)を演じるにあたって感じたことや、自身の仕事への取り組み方について教えてくれた。
コップの水は「もう半分?」「まだ半分?」
伝説のソプラノ歌手を演じて学んだ“楽観主義”の大切さ
今回メリルさんが演じたフローレンスは、演劇や音楽を学ぶ者の中では名の知れた“伝説の女性”。彼女は超がつくほどの音痴だったにも関わらず、“型破りな歌いぶり”で大衆の人気を集め、1944年にはマンハッタンにあるコンサートホール『カーネギー・ホール』を満員にしたことがある、実在したソプラノ歌手だ。
© 2016 Pathé Productions Limited. All Rights Reserved.
「この映画に出演するにあたって、フローレンスの声域を習得するのにはかなり苦労したのよ。 だって、彼女は音痴というだけではなくて、リズムや感情の込め方も含めて、全く予測できない歌い方をするの(笑)。それに、周囲に自分がどう見られているかということにも無頓着だし、生き方自体も自由そのもの。私自身は周囲にいつもアンテナを張っていて、他の人からの視線や評価をいつも気にするタイプだから、フローレンスのように“自分が見たいものしか見ない”無邪気さのある人にすごく魅力を感じたわね」(メリルさん)
上手くいかないことにも諦めずに立ち向かっていくフローレンスの人柄から、メリルさん自身も影響を受けることが多かったそうだ。
「彼女はいつも物事の捉え方が明るいの。例えば、コップに水が半分入っているとして、それを『半分しかない』と思うか『まだ半分もある』と思うかは人それぞれだけど、フローレンスは絶対に後者の人間よ。常に楽観的だからこそ、めげずにチャレンジし続けられるの。仕事に置き換えてみても、『面白そう』と思ってやるか、『嫌だなあ』と思ってやるかは自分次第! 私も、難しいチャレンジを恐れてしまうことはあるけれど、そういう時こそ楽しみながら取り組まなきゃって思えるようになったわ」
「自分の心にウソはつかないで」
40年間、仕事に対する情熱を保ち続けてこられたワケ
一方、「フローレンスと私にも、共通することが1つあるのよ」とメリルさん。それは、自分の“好き”な気持ちを大切にし続けてきたところだという。
「映画の世界で働き始めてもう40年。同世代の女優たちはもう引退している人の方が多いけれど、私がこんなに長く仕事を続けることができたのは、やっぱりこの仕事が好きだからなのよね。『仕事は仕事』って割り切っている女性も多いかもしれないけれど、もし長く働き続けたいという意思があるなら、自分の素直な気持ちにウソはつかない方がいいと思う。私はね、演じることで『自分ではない誰かになり切る瞬間』がたまらなく楽しいの。“好き”とか“楽しい”とか、とてもシンプルだけど、その気持ちに素直でいることが、仕事に対する情熱を絶やさない秘訣よ」
さらにメリルさんは、自身が仕事の世界で長きにわたって第一線を走り続けることができた理由を、次のように分析した。
「人々が必要とするものや見たいものは、時代と一緒に変わっていくもの。だから私は、変化していく“WANT”に自分をずっと合わせてきた。来るもの拒まず、時代が必要とする芝居を続けてきただけなの。“私という人間はこうでなきゃダメ”と決め付けることなくね」
時代の変化をいち早くキャッチアップする方法を問うと、「すごく感覚的なことだから言葉で説明するのは難しいのだけれど」と前置きした上で、メリルさんは優しく微笑み、次のように答えた。
「深く呼吸をして。頭をクリアにして、周囲を見渡してみて。目の前のことばかりに捉われずに、時には冷静に世の中のことを観察するクセをつけることかしら」
皆が「偉大な夢」を追いかける必要はない!
最後に幸せになるのは“自分らしく”生きた女性
最後に、日本の働く女性たちに向けてメッセージを送ってくれたメリルさん。誰もが認める“大スター”のイメージとは裏腹に、そのコメントは驚くほど謙虚だ。
「私は誰かにアドバイスなんてできるような人じゃないんだけど、あえて日本の働く女性たちに伝えるとすれば、『あなたたちには夢を叶える力がある』ということね。『夢』といっても、一人一人、違ったものでいいのよ? 世界を変えるような大きな仕事を成し遂げたいという人もいれば、お母さんになって温かい家庭を築きたいという人もいていいし、みんなが一様に偉大な夢を追いかけなくたっていいの。でも、大切なのは、どんな夢でもそれを実現するためにできる努力をすることよ。『私には無理』と何もしないうちから夢を諦めてしまうことだけはしないでほしい」
また、幸せに働き、生きていくために最も重要なことは「自分を偽らないことね」とメリルさんは穏やかな口調で続けた。
「シンプルな人生、複雑な人生……どんな人生を送るかを決めることは難しいことだけど、誰かに決めてもらおうとしたり、何となく周囲の意見にまどわされて決めてしまってはダメ。納得感を持って自分の人生を生きていくためには、あとで後悔したり言い分けしたりしないように、全部自分で決めなくちゃ。そのためにも、あなた自身の内なる声をしっかり聞いて。自分らしく、『こう生きたい』と思うように生きていけばいいのよ」
忙しい毎日の中で“自分らしさ”を見失っている女性は多いかもしれない。
そんな時は、目を閉じて、深呼吸を――。
今回メリルさんが教えてくれたマインドセットを、思い出してみてほしい。
映画『マダム・フローレンス! 夢見るふたり』
2016年12月1日(木)、TOHOシネマズ 日劇ほか全国ロードショー!
監督:スティーヴン・フリアーズ『クィーン』『あなたを抱きしめる日まで』
出演:メリル・ストリープ『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』、ヒュー・グラント『ラブ・アクチュアリー』、サイモン・ヘルバーグ、レベッカ・ファーガソン『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』
配給:ギャガ
公式サイト:http://gaga.ne.jp/florence
© 2016 Pathé Productions Limited. All Rights Reserved.
取材・文/栗原千明(編集部) 撮影/YOSHIKO YODA
・この国で、女性たちが心地よく働くには?――「誰かの期待に応えながら生きなくていい」首相夫人・安倍昭恵さんインタビュー【前編】
・「周囲と自分を比較するのは不毛でしかない。不完全な自身を楽しむ余裕を持って」/首相夫人・安倍昭恵さんインタビュー【後編】
・「男性をおだてても女性が消耗するだけ」――働く女性が幸せに生きるために必要な“パートナー”と“覚悟”って?/男性学・田中俊之さん
・ハリウッド映画界が誇る名女優、メリル・ストリープから日本の働く女性たちへのメッセージ――「深く呼吸をして。時代の変化を感じて」
・フランスではシングルマザーこそ男性にモテる!? 海外との比較で見る日本の働く女性たちの生きづらさ/少子化ジャーナリスト・白河桃子さん
『プロフェッショナルのTheory』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/work/professional/をクリック