20 JUN/2018

日本人最年少で世界7大陸最高峰を制覇! 冒険家・南谷真鈴を“命がけ”の挑戦へと向かわせる原動力

冒険家の世界に「エクスプローラーズ・グランドスラム」という言葉がある。七大陸最高峰登頂、そして北極点・南極点到達という冒険家なら誰もが憧れる大偉業だが、これを世界最年少の20歳112日で達成した日本人女性がいる。それが、南谷真鈴さんだ。

現在21歳、早稲田大学の学生でもある南谷さんは、これまでも数々の最年少記録を塗り替えながら、今なお新しい目標に向かって進み続けている。その尽きないエネルギーの秘密は何なのか。世界が注目する21歳の人生哲学に迫る。

南谷真鈴

南谷 真鈴(みなみや・まりん)さん
1996年12月20日生まれ。神奈川県出身。2016年5月23日に、エベレストに日本人最年少登頂。前年10月にはマナスルの登頂に成功し、日本人最年少の8000メートル峰登頂と女性世界最年少の同山登頂を達成。さらに16年7月4日に、デナリの登頂に成功し、七大陸最高峰制覇を達成。七大陸最高峰日本人最年少登頂記録を更新した。17年4月13日に北極点到達に成功し、「エクスプローラーズ・グランドスラム」を世界最年少の20歳112日で達成
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チャレンジし続けることで、夢がどんどん大きくなっていった

私は別に、小さい頃から「登山家」になりたかったわけではありませんでした。初めて山に登ろうと思ったのは、13歳のとき。親の仕事の都合で小さい頃からいろいろな国を転々としてきた私は、「一体自分は何者なのか」と自分のアイデンティティーを常に模索していました。

13歳の頃に住んでいたのは香港。空を見上げてもビルしか見えないようなコンクリートジャングルで、私は自分というものを見失いかけていました。そんな時、学校行事で初めて山に登る機会があったんです。そこで気が付いたのは、いかに自分がちっぽけで無力であるかということ。大自然を肌で感じ、地球の偉大さを知って、自分が悩んでいることから解放されたような気持ちになりました。

そこから山に本格的に興味を持ちはじめて、ボランティアも兼ねてネパールのベースキャンプまでトレッキングに行ったんです。その時、初めてエベレストをこの目で見ました。私の心の中にあるモヤモヤも、この壮大な山の頂に立つことができたら晴れるんじゃないだろうか。見えなかった「自分」というものを、やっと見つけることができるんじゃないだろうか……。そう直感的に思いました。それが、私がエベレストを目指すようになったきっかけです。

南谷真鈴

そうしてエベレスト登頂に向けてトレーニングを積んでいくうちに、世界の7大陸の半分くらいを登頂していることに気づきました。だったら、7大陸をすべて制覇しようと途中で夢が大きくなって。さらに、南極大陸最高峰の登頂を終えたときに、せっかく南極にいるんだからと南極点までスキーで行ってみたら、今度はじゃあ北極点にも行ってグランドスラムも達成しようと、また夢が大きくなった。そして今は海という新しい冒険の場を目指し、準備を進めているところです。

7大陸最高峰登頂も、エクスプローラーズ・グランドスラムも、最初から思い描いていたわけじゃない。目の前に挑みたい山があって、それを登っているうちに、また新しい景色が見えて、挑戦したい目標ができた。チャレンジし続けることで、夢がどんどんスケールアップしたという感じです。

「君になんかできるわけない」そんなわけないって、絶対に証明してやる

よく、「どうしてそんなにいろんなことにチャレンジできるんですか?」って聞かれるんですけど、私からすると何かしたいことがあるのにトライせず、ただ朝起きて学校や会社に行って、家に帰ってテレビを観て寝るだけの毎日を送る方がもったいない。

私にとって、生きるということは、「自分だけの絨毯」をつくることです。その模様は人それぞれ。自分がどう生きるかで、色や柄が決まっていく。だったら私は自分だけのとびきりカラフルな絨毯がつくりたい。そのためには、「今これをやらなければいけない」という枠の中で生きるのではなく、「今この瞬間に自分は何がしたいのか」、その一点に忠実に生きていかないと。最初からできないと決めつけていたら何も始まりません。

南谷真鈴

と言うのも、私自身、かつてある人たちから「君みたいな女の子がエベレストに登ろうなんて」と頭ごなしに否定されたことがあったんです。あれはまだ私が17歳のときだったかな。もう「君なんかにできるわけない」「君なんかには無理だ」って延々とその繰り返し(笑)。

でも、実際には19歳でエベレストに登れたし、やってみたらできないことなんて全然なかった。だから、もし他人から「君には無理だ」って言われて何かを諦めようとしていたり、勝手に自分の可能性に蓋をしようとしている人がいたら、これだけは伝えたい。本気でやれば、私たちは何だってできるってことを。私は自分の生き様を通して、それを証明していきたい。

ひたすら「君なんかには無理だ」と言われ続けていたあのとき、私の中で湧き上がってきたのは、「なぜ人の可能性を潰そうとする大人がいるのか」という違和感と、「自分にできないことはない」と絶対に証明してみせるという反骨精神。これだけ散々言いたい放題言われて、このまま「分かりました。じゃあ諦めます」って引き下がったら、私は本当に何もできない人間になってしまう気がした。

きっとこれから先も、こうやっていろんな人が足を引っ張るようなことを言ってくるんだろうけど、負けてはいられない。他人の意見に従って、どんどん自分が小さくなってしまうような、最悪の未来だけは描きたくない。絶対に、絶対に嫌です。

ずっとぬるま湯に浸かっていると、何が正しく、何が幸せかも分からなくなってしまう

南谷真鈴

自分は今、「ありたい自分」でいることができているだろうか。

そんな問いが、私を山に向かわせた。
そして、山を登り、挑戦を続けることが、納得いく自分のあり方を証明する手段になった。

でも、日本のような平和で恵まれた環境にいたら、そう簡単にリスクを犯してチャレンジに踏み出すことなんてできないというのも分かります。人間は、自然と怠ける生き物です。ぬるま湯に浸かっていたら、何が正しくて何が正しくないのか、何が幸せで何が幸せじゃないのか、段々と分からなくなります。だからこそ、日常の小さな場面からでいい。自分をリスクにさらしたり、コンフォートゾーンの外に出てみるといいと思います。

簡単なのは、何でもいいのでちょっとした負荷を自分にかけてみることじゃないでしょうか。「できそうにないな」と思う仕事でも、「やってみます」って思い切って言ってみるとか。先輩がやっている仕事を「私にもやらせてください」って言ってチャレンジしてみるとか。自分にとって“ちょっとだけ難しいこと”に関わっていくようにすると、これまでとは違った景色が見えるようになります。

そんなことを私が考えるようになったきっかけは、山を登ることを通じて、命の危険や死の恐怖を感じる経験をしたから。一度、長野県の阿弥陀岳で約250mの滑落事故に遭ったことがあります。幸い奇跡的に無傷で済みましたが、その日は雪に穴を掘って一晩過ごすことに。一睡もできなかったし、もう帰れないかもしれないという不安が何度も頭をよぎりました。救助隊の皆さんのおかげで翌日の正午頃には救助されましたが、あの日から一層1日1日のありがたみを感じるようになったのも確か。そして、いつ死ぬか分からないからこそ、後悔のないように生きたいと強く思うようになりました。

南谷真鈴

私が今、皆さんに伝えたいことは、どうか「心のコンパスに従って生きてほしい」ということ。人生で一番大事かつ贅沢なものは、「時間」だと思います。いかに自分の時間をしっかりと持ち、それを自分のやりたいことや自分を高めることに使えるかが、人生の豊かさを決める。休むときは休んで、本気で何かに取り組むときは集中して取り組む。私も休みと決めた日は一切トレーニングはしません。そうやって「心のコンパス」の向くままに生きていく人生こそが、一番幸せな生き方だと思うんです。

もしも「心のコンパス」に従うのが苦手な人がいたら、その筋トレとして、まずは美味しいものを食べたら「美味しい」って声に出して言ってみてください。よく晴れた空を見たら「今日は天気がいいなあ」「空が青いなあ」とちゃんと口にしてみてください。そうやって自分の感情を言葉にして、素直に受け止めることが、「心のコンパス」に従って生きるための第一歩。最初はぎこちなくてもいい。続けていると、本当に気持ちまで楽しくなって、今よりもずっと正直で、前向きな自分になれるはず。

南谷真鈴

誰かが「こちらに進みなさい」と立てた標識に従う必要は一切ありません。
私たちは皆、一人一人の「心のコンパス」を信じて、自分の進む道を決めていくことができるんですから。

取材・文/横川良明 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)


映画情報『クレイジー・フォー・マウンテン
7月21日より東京・新宿武蔵野館ほか全国で順次公開。

クレイジーフォーマウンテン

世界の名峰に挑む登山家らに迫ったドキュメンタリー『クレイジー・フォー・マウンテン』。5月28日には東京・スペースFS汐留で映画に関するトークショーが行われ、同映画の監督であるジェニファー・ピードンさんと、日本人最年少で世界7大陸最高峰を制覇した南谷真鈴さんが登壇。

南谷さんは、「私も登山を通して死を間近に感じたことがあります。ですが、人は山に挑み続ける。哲学的で普遍的な、“なぜ人は山に登るのか”という問いが本作では描かれていて、今までで一番惹かれる山映画でした」と絶賛した。