【忽那汐里】“仕事は楽しむものじゃない”そう思っていた過去と決別できたワケ――「キャリア10年目。あのリセット期間が私を変えた」

ポッキーのCMで弾けるような笑顔とダンスを見せ、ブレイク。大ヒットドラマ『家政婦のミタ』(日本テレビ系)の長女役でも知られる忽那汐里さん。生まれ育ったオーストラリアの大地を連想させる健康的な明るさが印象的だった彼女も25歳。最近では海外映画に活躍の場を広げ、クールな魅力を世界に向けて振りまく。
絶賛公開中の映画『デッドプール2』では、初のハリウッド映画に進出を果たす。国際派女優としての道を着々と歩み続ける忽那さんの挑戦し続ける姿を追った。

忽那 汐里(くつな・しおり)
1992年12月22日生まれ。13歳までオーストラリアで過ごす。2006年8月、第11回全日本国民的美少女コンテストで審査員特別賞を受賞。07年、ドラマ『3年B組金八先生』で女優デビュー。以降、数々の映画やドラマに出演。近作に『黒衣の刺客』『海難1890』『女が眠る時』『キセキ -あの日のソビト-』『ねこあつめの家』『アウトサイダー』『オー・ルーシー!』などがある
■インスタグラム
超大作の現場でも“緊張”はなし。「強心臓」の秘密は、積み重ねた経験と自信
全世界同時配信されたNetflixオリジナル映画『アウトサイダー』、日米合作映画『オー・ルーシー!』、そしてこの『デッドプール2』と今年の出演作だけ見ても、忽那さんがいかにグローバルに活躍しているかは一目瞭然。13歳までオーストラリアで育った国際派の忽那さんは、近年、世界をベースに自身のキャリアを築いている。
「こうやって海外の作品に出させていただけるようになったのも、自然な流れの中でというのが正直なところで。何となく視野にはありましたけど、だからと言ってじゃあどうすれば海外の作品に出られるかなんて全然分からなかったし。最初のうちは、自分から海外に行くぞと決めて積極的に挑戦していったというわけではなかったんです」
ここ数年の環境の変化について、そうオープンに答える忽那さん。海外進出の兆しが見えはじめたのは、2015年頃から。台湾・中国・香港合作映画『黒衣の刺客』、そして日本・トルコ合作映画『海難1890』と立て続けに海外のクリエイターたちと作品をつくる機会に恵まれ、日本とは違う空気感や姿勢に刺激を受けた。

「ちょうどその頃、女優の仕事を始めて10年が経って。今思えば、すごく悩んでいた時期でした。自分が今までやってきたことを一度消化した上で、じゃあこれからどんな道へ進んでいきたいのか考えていたんですけど、なかなか明確なものが見えてこない。そんなタイミングで(ヒロインを務めた映画『女が眠る時』の)ウェイン・ワン監督と出会ったのが、一つのきっかけでした。
ずっとアメリカで育った監督が『海外でやってみたら?』と後押しをしてくださって。それでアメリカで挑戦してみようという気持ちになれた。昔から世界を目指していたというよりも、いろんな面白い出会いや現場に触発されて行動し続けていくうちに、今につながったという感じなんです」
今はとにかく条件に合う作品があれば片っ端からオーディションを受け、チャンスを探る日々。そんながむしゃらなチャレンジの中で掴んだのが、この『デッドプール2』のユキオ役だった。
公開された83カ国(6/4時点)全てで初登場1位を記録しているほど、スケール感も注目度も過去に類を見ないほど大きい。撮影現場ではさぞプレッシャーとの戦いだったろうと思いきや、忽那さんは意外にもフラット。時折笑顔も織り交ぜながら、落ち着いた口調で当時のことを振り返る。

「プレッシャーみたいなものは不思議となくて。私も最初はどんな様子なんだろうと少し身構えた気持ちで撮影地のバンクーバーに入ったんですけど、結局、カメラの前に立てばやることは同じ。私は与えられたユキオという役を演じればいい。そう考えると不思議なくらいリラックスできて、緊張せずに済みました」
それだけ力まずにいられたのも、10年以上に及ぶキャリアの中で築いてきた経験があったから、と忽那さんは分析する。
「海外の現場では、立ち位置や細かい段取りをいちいち説明してくれる人は誰もいない。きっと何の経験値もない自分がそこに放り込まれたら、何もできなくて、ただ立ち尽くしているだけだったと思う。でも、私の中には今までいろんな現場を経験してきた中で培ったものがある。だから、どんなに環境が違う場所でも、焦らず慌てず、自然体でいられたのかもしれません」
未知の環境に身を置くことで得た発見。ハリウッドスターが見せた超自然体な現場の過ごし方
むしろ未知なる場所で忽那さんが出会ったのは、プレッシャーではなく、発見だった。
「ハリウッドは撮影の手法が日本とは全然違います。たったワンシーンを撮るのに数日かけることもあって。それだけ時間をとって、一つのシーンを撮れるのはすごく贅沢だなと驚きました」
朝に現場に入り、夕方までただひたすら撮影開始を待つことも多かった。そうすると、当然、現場の居方にも違いが出る。

「向こうの役者さんを見ていると切り替えがすごくしっかりされているんですね。カメラが回れば集中するけど、それ以外の時間はリラックスしていて、合間にお喋りをしたりふざけ合ったり、ものすごく自然。そのコントラストに最初はビックリしました」
日本の現場では、黙々と集中を高めて本番に備えるタイプの俳優が多いと言う。
「私もそんな先輩方をずっと尊敬してやってきたので、最初のうちはずっと構えていたところがあったんですね。だけど、これくらい長時間撮影が続く現場であれば、どこかで息抜きが必要。どちらが良いとか悪いとかではなく、それぞれの現場や作品に合った現場の過ごし方があるんだなっていうことを、今までと全然違う環境に身を置いてみることで発見しました」
今、仕事が一番楽しい。一度リセットしたことで辿り着いたナチュラルな仕事観
本作に限らず、何人もの外国人監督とタッグを組み、日本人女性を演じている忽那さん。国籍も文化も異なる者同士、一緒に仕事をすると、どうしても齟齬が生まれるときはある。

「例えば日本の文化の表現の仕方とかを見ていても、これは違うなって思うときはある。そのときは、私自身は必ず監督に伝えるようにしています。違う国の者同士、感覚が合わなかったり、折り合いがつかなくなったりすることは、ある意味必然。だけど、黙っていたら何も伝わらない。ちゃんと言い合わないと分かり合うことなんてできないですから。
大事なのは、お互いにリスペクトし合うこと。あとは、固定観念に縛られず広い心で相手の言動を受け止めること。その2つさえ大事にしていれば、どんなに意見がぶつかっても、物事は必ず良い方向に向かうと思っています」
もちろん見知った者同士、居心地のいいホームで仕事をしていれば、そんなディスコミュニケーションやストレスを感じる必要はないのかもしれない。でも、敢えてアウェイを選んだからこそ得たものがあることを、忽那さん自身が誰よりも証明している。
「日本にいたら身の回りのことをマネージャーさんが全部お世話してくれて、それをつい当たり前のように思ってしまう。でも、一人で海外に行けば全部自分でやらなくちゃいけない。最初は自分にできるのかなという怖さもあったけれど、やってみたら意外とできた(笑)。自分でもできるんだと思えるようになったこと、チャレンジすることを不安に思わなくなったこと。それが、海外に出てみて感じた一番の成長かもしれません」
そう笑う表情は、10代の頃に見せた元気印の笑顔とはまた違う。大人っぽくて、それでいてナチュラル。かつてインタビューで「仕事は楽しむものではないっていう固定観念があった」と答えていたが、25歳になった忽那さんはどんなふうに仕事を捉えているのだろうか。

「今はあの頃と全然違いますね。きっと当時もその瞬間瞬間を楽しんでいたとは思うんですけど、現場を楽しいと思う感覚はなかなか持てなかった。でも今はすごく楽しい。今が一番楽しいです」
何が忽那さんを変えたのか。その転機は、やはり仕事を始めて10年というタイミングにあった。
「あのとき、少し自分をリセットしようと思って、お休みを増やしてもらったんですね。おかげで自分自身を見つめ直す時間もつくれたし、たくさんの人と会って話をすることもできた。そこで周りのいろんな方が私のために言葉をくれて。その一つ一つに素直に耳を傾けているうちに、今までの視野が狭かった自分の考え方にもったいないなって気づけたんです。それが一番大きいかな。今の私はすごくナチュラル。純粋に目の前のことを楽しめている自分がいます」
25歳という若さで、誰も挑んだことのないフィールドを果敢に開拓し続ける忽那さん。でも、そこには肩肘張った様子はまるでなかった。あるのは、自分がやりたいと思うことを楽しむピュアな気持ちだけ。「チャレンジすることは楽しいこと」というシンプルな事実を、忽那さんが教えてくれた。
取材・文/横川良明 撮影/竹井俊晴
『デッドプール2』日本公開/2018年6月1日(金)全国公開!
監督/デヴィッド・リーチ
出演/ライアン・レイノルズ、ジョシュ・ブローリン、モリーナ・バッカリン、ジュリアン・デニソン、ザジー・ビーツ、T・J・ミラー、ブリアナ・ヒルデブランド、ジャック・ケーシー
配給/20世紀フォックス映画
>>公式サイト
『Another Action Starter』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/anotheraction/をクリック