女優・門脇麦が明かすモチベーションコントロール術「好きな仕事を好きでい続けるために。いつもフラットでいたい」

いつも自分をさらけ出すような、一筋縄ではいかない役が多い。強い光の宿った瞳を見ていると、さまざまな監督や演出家が、門脇麦さんにそんな挑戦をさせたくなる気持ちが分かる。2017年9月23日に公開となる映画『ナミヤ雑貨店の奇蹟』では、物語のキーとなる曲を歌う人気シンガー役を熱演。透き通るような印象的な歌声を、映画の中で初めて披露した。

門脇 麦(かどわき・むぎ)
1992年8月10日生まれ、東京都出身。2011年ドラマでデビュー。映画『愛の渦』、『闇金ウシジマくんPart2』などで、第88回キネマ旬報ベスト・テン新人女優賞などを受賞。今後は、17年12月16日公開予定の映画『花筐』などを控えている
仕事のプレッシャーを乗り越えるコツは「腹をくくって、不完全な自分を受け入れること」
今回、スクリーンの中で歌声を届けるという仕事は、門脇さんにとって特別なチャレンジだったという。
「撮影前に歌のトレーニングはしっかり受けたはずだったんですが、何度やっても納得いかなくて、歌が上手い人と自分を比較しては落ち込んだりもしていました。でも、プロの歌手ではない自分がすべきことは、“うまく歌うこと”じゃないって気付いた瞬間があって。そこからは“言葉を届けるための歌”を歌おうと思いました。映画の中でも重要な意味を持つ曲のメッセージが伝わるよう、話すように歌うことを心掛けたんです」
“伝える”という目的に思考を転換できた途端、これまでに芝居で積んできた経験が充分にアドバンテージとなった。山下達郎さんが書き下ろした楽曲に門脇さんの魂が乗り、その歌声が観る者の胸を打つ。

「完璧を目指すことは大事だけど、プレッシャーで不安ばかり大きくなってしまったら元も子もないと思います。だから、いつもやれる限りのことをやった後は『今の自分はこんな感じです!』って、ある意味で腹をくくるんです。“不完全な自分”をさらけ出すのは恥ずかしいけど、その時の最大値を自分で受け入れる潔さって、実は大切なんじゃないかなって」
自分の内面を丁寧に探るかのように、一つ一つの言葉を選んで答える門脇さん。強いメッセージとは裏腹に、彼女の声はとても優しくて、静かだ。
夢が現実になると「好き」だけではやっていけない
「性欲を持てあます女子大生」、「尾行にのめり込む大学院生」、「引きこもりのオタク女子」……門脇さんがこれまでに演じてきた役は、印象的な役が多い。女優になることは、門脇さん自身が選んで進んだ道。だが、演じる役にも強いこだわりがあるのだろうか。

「実は、どんな役を演じるかに強いこだわりは無いんです。自分で選ぶと、結局自分ができる範囲のものになってしまいがちだから。それよりも『こんな役どう?』って、人が客観的に勧めてくれたものの方が、自分の世界を広げてくれることが多い。それに、冷めているように聞こえちゃうかもしれないですが、『これがやりたい』って期待を持ち過ぎると、そうじゃない仕事と比べたとき、熱量に差が出てしまう気がして。だから、今はあまり期待したり身構えたりしないで、どんな役に対してもフラットでいたいんです」
門脇さんは「女優の仕事が大好き」だと語る。しかし、夢が現実になると「好き」だけではやっていけない部分も出てくる。それは、会社員の仕事であっても同じだろう。
「好きで始めた仕事だから、ずっと熱量を持って取り組みたい。でも、仕事にかける想いが強いだけに、理想と現実のギャップに苦しむこともあるし、好きでい続けることが余計に難しくなってくる。そこで思い付いたのが、全ての役にフラットでいられるよう自分をコントロールすることだったんです。でも、それは今この瞬間の考え方。だから1年後、2年後には、またスタンスが変わっているかもしれません」
そう言って、いたずらっぽく笑う。好きな仕事を好きなまま、熱い気持ちで続けていくこと。女優に限らず「好き」をきっかけに今の仕事を選んだ人にとっては、ごく身近な課題だろう。自分らしい解決方法を見つけられた門脇さんの姿は、実にまぶしい。
挑戦のチャンスが開かれるのは、過去の自分の仕事が評価されたとき
仕事に対する自分なりのモチベーションコントロール術を習得し、肩の力が抜けたことで、「ぐっと仕事がしやすくなった」と門脇さん。

「自分に余裕が生まれたら、全ての作品にしっかりと愛がそそげます。でこぼこな道にエネルギーをそそぎこんでもうまく流れなかったけれど、今は道が整ったから、勢いよく流れていくような感じ。何だか、心がすっと軽くなった感じです」
舞い降りたチャンスを掴み取ることに、彼女は貪欲だ。難しそうに思える仕事のオファーに対しても、自信を持って取り組む。
「思いも寄らない役のオファーがいただけたときって、過去の自分の仕事が誰かから評価された証だと思うんです。それは、今の自分に自信を持っていいということだし、これからの自分に期待してもいいということ。自分をストレッチさせてくれるような仕事に取り組むと、生きてるっていう実感が持てます」
もちろん、超えなければいけない壁が高くそびえ立ち、途中で思わずひるんでしまうときもある。自分の演技に納得がいかず、涙したことも一度ではない。
「うまくできないことがあるのってすごく悔しい。でも、それはとても健全なことだなとも思います。だって、“できていない”って分かってるなら、努力して前に進まざるを得ないですから。できてないのに、“できてる”って勘違いしちゃうことの方がよっぽどこわいです」
「絶好調な日は1年間で3日」大人は誰でも“苦しい”がベース
プライベートでは「飽き性」だという門脇さん。プレッシャーの大きな仕事から逃げ出したくなることはないのだろうか。

「どんな仕事をしているにせよ、働くっていうことからはずっと逃げられないですからね。つらいな、とか、不安だな、とか、モヤモヤしたときは、もう諦めてとことんモヤモヤし続けます(笑)。ある人に聞いたんですが、普通の人って『絶好調な日』って1年間で3日くらいしかないんですって。それを聞いてから、何だかうまくいかない日も『完璧なコンディションの日ってレアなんだから仕方ないよね』って考えて、すっきりしない自分と素直に向き合えるようになりました。
20代って、子どもから大人になっていく、まさに中間のタイミング。子ども時代は“楽しい”がベースだから、たまに苦しいことがあると投げ出したくなっちゃうけれど、大人は“苦しい”がベース。大人はいつも苦しいものなんだって思ったら、たまの楽しみのために頑張れたりします。コンディションの考え方と同じように、そういう小さな発想の転換をしてみるだけで、少し楽になれたりするものです」
ハードな役柄ばかりが思い浮かぶけれど、目の前で仕事へのスタンスを語る門脇さんはとてもほがらかだ。自分の芯をしっかり持っているからこそ、常にフラットな状態でいられる。そんな魅力が、また新しい仕事を引き寄せる。彼女自身も想像していない次の“Another Action”が、きっとすぐそばまで来ているだろう。

取材・文/菅原さくら 撮影/赤松洋太
『ナミヤ雑貨店の奇蹟』2017年9月23日(土)全国公開
KADOKAWA/松竹 (共同配給)
(C)2017「ナミヤ雑貨店の奇蹟」製作委員会
https://movies.shochiku.co.jp/namiya-movie/
『Another Action Starter』の過去記事一覧はこちら
>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/rolemodel/anotheraction/をクリック