「子どもは絶対2人欲しい!」――強い想いが2回の復職・時間管理・育児の悩みを乗り越える原動力になる【「成功する復職」15のメソッド part3】

「出産しても働きたい!」そう思っていたけれど、実際その状況になってみると思いも寄らないところでぶつかる“ワーキングマザーデビュー”への壁。事前に知っておけば心の準備ができたり、対策が打てるものもあるはず。そこで、3人の先輩ワーキングマザーに復職のリアル・ストーリーをインタビュー。彼女たちから「成功する復職」のコツを学ぼう!

矢野 美紀子さん(38歳)

樋口裕子さん(36歳)


株式会社ディー・エヌ・エー
EC事業本部 ショッピング統括部 マーケティンググループ
2003年にDeNAへ中途で入社。EC事業部でカスタマーサポートを担当し、産休・育休取得後はショッピングモール『ビッダーズ』(現『DeNAショッピング』)のCS部門に復職。顧客対応やマーケティングのほか、新潟カスタマーサポートセンターの立ち上げにも携わる。2006年に長女、2009年に長男を出産し、時短勤務を続けて現在に至る
【Working mother’s data】
■妊娠時の年齢:第一子29歳、第二子32歳
■転職経験:2003年に、結婚を機にDeNAへ転職
■復職までの期間:1人目、2人目ともに1年3カ月ほど

3人目のインタビューは、DeNAでベテランワーキングマザーとして仕事をこなす樋口裕子さん。「子どもを産んでも仕事を続ける」、そんなライフプランを練っていた樋口さんは、結婚を機にそれまで勤めていた会社を退職し転職。「もともと2人欲しいと思っていました」という念願叶って子宝に恵まれ、現在は6歳女児、4歳男児の母として奮闘中。2人の子どもを持つワーキングマザーならではの復職ストーリーを聞いた。

「成功する復職」15のメソッド

転職後、2年は仕事を頑張ってから産休取得へ

夫と事前に緊急時の休み方を相談しておく

頭を使う仕事は自宅で済ませ、オフィスでは手を動かす仕事に集中

ママ友は心の友! 本音で相談できる関係に

育児のマイルールを設定し、一日の流れを崩さない

子どもの急な病気に翻弄されたワーキングマザーデビュー
夫とのバトンリレーで臨機応変に対応

「成功する復職」15のメソッド

27歳で結婚、夢は子どもを2人持って仕事も続けること。前職では個人顧客を相手にした営業職だったので土日はすべて出勤、体力的にもハードな職場だったため、子育てと両立するには難しいと考え、結婚を機に転職をした。

前職で得た営業経験を活かせる仕事を探し、インターネットでのサービスを提供したいとDeNAに入社。インターネットオークションやショッピングモールの運営・ユーザー対応をするEC事業本部へ配属となった。

「社内でも認められるようまず最初の2年はしっかり仕事を頑張ろうと。当時からDeNAは個人が大きな裁量をもって業務にあたっていましたから、とにかく必死でしたね。そんな大忙しの日々が続く中、入社して3年目に妊娠しました。入社したときから『将来、子どもを持っても働き続けたい』と伝えていたので、後任もすぐに決まり、引き継ぎはスムーズでしたね」

育児休暇中、復職に向けて一番不安だったのは「子どもの病気」だった。育児雑誌や書籍でいろいろ知識を付けるうちに、心配は大きくなったという。

「わたしも夫も実家が遠いので、緊急の時に面倒を見てくれる身内がいません。保育園に入ると病気しがちになると言うし、当時は病児保育も近くになかったので、もし復職してから子どもが病気にかかったらどうするか、夫と話し合って、交互に休むなど事前に決めておきました」

1年3カ月の産休・育休を終え、復帰。復職後はEC事業部の中でもスタッフの業務管理をする部門で管理業務をメインとしながら、新たなカスタマーサポートセンター立ち上げに携わった。

しかし、不安に思っていたことが的中し、復職した1カ月後に子どもが水疱瘡にかかってしまう。治るまで合計1週間ほどかかり、その間は夫と2日ずつ交互に仕事を休んだ。

お互いの協力もあり、復職1年目でも有給休暇を使い切ることなく乗り越えられた。

「もともと夫も、わたしに働いてほしいという意向だったので、協力してくれやすい環境ではあります。夫の仕事が開発職で時間的には調整しやすい職種だったのも幸いしていました。子どもが風邪を引いたときに、わたしが午前休を取って病院に連れて行き、午後休を取った夫と地元の駅で子どもを引き渡して出勤、なんて荒業をしたこともありましたね」

2人いた方が実は楽できる?
予定通り第二子を出産

そして、第一子の誕生から3年後、2人目を妊娠。

「センター立ち上げもひと段落していましたし、産休への入りづらさは感じなかったです。2人目だから大変だったことって特になくて、経験がある分、復職もあまり緊張しませんでした。ラッキーなことに上の子と同じ保育園に入ることができ、『保育園はお姉ちゃんが行く楽しいところ』というイメージがあったのか、初日から泣かずに楽しそうに通ってくれました」

とはいえ、2人いるとさぞかし大変だろうと思うが・・・。

「1人だとどうしても親が相手をしなくてはなりませんが、2人いると、子どもたちだけで遊んでくれるのでむしろ助かります。今では、小1の長女が子育ての“戦力”になっているほど。また、4歳の息子が病気などで休むときは会社を休んで付きっ切りになりますが、長女はもう軽い風邪くらいなら、仕事を持ち帰って家で進められますから、あまり動じなくなりましたね」

「自分で全てやらなくちゃ」を卒業
上手に役割分担して一人で仕事を抱え込まない

「成功する復職」15のメソッド

時短勤務を始めたばかりの頃は、これまでの仕事量を全うできないというジレンマが付きまとっていた。当時、他に時短勤務をしている女性はごくわずかで、それまで自分で何でもやることが当たり前だったので、人に任せる部分と自分がやる部分のバランスが難しかったのだ。

カスタマーサポート業務はどうしても時間外に対応せざるを得ない業務や突発的に発生する業務があるため、自分しか分からない状況を作り出してしまったことで、周りに迷惑をかけたこともあったという。

「自分では『もっとやりたいのに・・・』という思いがあり、無理して残業したことも。ですが、その結果、子どもに負担を掛けてしまったのか体調を崩してしまうこともあって、自分の無理は子どもに良くないんだと気付き、反省しました」

それからは、限られた時間の中で最大限の成果を出すように工夫した。

“考える仕事”は、通勤時間や家でやるようにし、スマートフォンにアイディアを書き留めて、パソコンにメールで送って整理したり、子どもたちを寝かしつけてから資料を作成したり、そのやり方はさまざま。勤務中も「自分にしかできない仕事」を優先して、チームで分担できる部分はお願いする、時間外に発生した業務についてはわかりやすく引き継ぎをお願いし、メールや電話で自宅からフォローするなど“頼り上手”になったことで効率良く作業ができているという。

そうは言っても普通よりも短い勤務時間、業務が立て込んだ時期は、夫に苦労が伝わらず、夫婦間で“摩擦”が起きたこともあったとか。

「夫は育児に協力的ではありますが、無意識に『時短勤務だから少し楽なのでは?』と思っていたのではないかな、と。何気ない一言に傷ついてしまい、『こっちは短い時間で根詰めて働いているのに、飲み会に行くなんて!』と爆発したことも(笑)。でもそうやって何度かケンカして、少しずつ分かってもらえるようになりました。今ではわたしの繁忙期には夫が育児時間を多めにするなど、双方が自然にバランスを取れるようになりました。職場でも家庭でも1人で抱え込むのはよくないですよね」

普段の生活にも徐々に余裕が生まれ、良い意味で切り替えにメリハリが付けられるように。今では社内でもベテランワーキングマザーとして、育休から復帰したばかりの新人ワーキングマザーたちの良き相談相手になっている。

「お迎えだけは絶対に時間通りに行く」
一日の流れを崩さない育児のマイルール

“ママ友”と言うと、育児の悩みを共有し合う仲間と思いがちだが、樋口さんの場合、もっと深いつながりがあるのだという。

「職場の同僚や、保育園のママ、定期健診でたまたま一緒になって知り合ったママ友など、さまざまな立場の人がいます。同じように働いている人とは、仕事と育児の両立の仕方で悩んでいるときに相談し合ったり励まし合ったりしています。子どもが大きくなった今では、夫に子どもを預けてママ友同士で飲みに行くこともあるんです」

家族だけでなくママ友に悩みを相談するのは、精神的なバランスを保つ上で大切にしていることだ。同じワーキングマザーとして、母として同様の悩みを持つママ友たちとの交流の中で、自分らしい育児のスタイルが出来上がってくる。

樋口さんに育児のこだわりを聞いてみると、「マイルール」があると教えてくれた。

「どんなに忙しくても、お迎えの時間は守るというのが自分の中のルールなんです。これを崩してしまうと、子どもが寝るのが遅くなって、次の日体調を崩してしまうなど、生活のペースが乱れることによって結果的に休まなければならなくなってしまうから。自然とそのラインを仕事と育児の切り替えスイッチにするようになりました。子育てと仕事、子どもの人生とわたしの人生、いろいろな要素が影響し合っていると感じるのは事実。でも、それによって今、相乗効果が生まれていると感じています。例えば、専業主婦では教えられない仕事の楽しさをワーキングマザーだったら身をもって教えてあげられる。今後はもっと仕事の幅を広げていきたいですね」

取材・文/栃尾江美(アバンギャルド) 撮影/柴田ひろあき