愛ゆえの不器用な行動かも? 「帰り際に部下を呼び止める上司」の胸の内

堂園稚子
上司に対する「何で? どうして?」をズバっと解説
堂園姐さんの「上司のキモチ」翻訳講座

上司に対して日々感じている「なんでそんなこと言うの?」「どうしてそういうことするの?」という不満や疑念。それを直接上司にぶつけたいと思っても、「余計に怒られるんじゃないか」「印象が悪くなるんじゃないか」とモヤモヤしたまま自己完結してしまっている女性も多いのでは? そんな働く女性たちの疑問に、最強ワーキングマザー・堂薗稚子さんが、上司の立場からズバッと解説! 上司って、ホントはすごくあなたのことを考えてるのかも!?

堂薗稚子(どうぞの・わかこ)
株式会社ACT3代表取締役。1969年生まれ。1992年上智大学文学部卒業後、リクルート入社。営業として数々の表彰を受ける。「リクルートブック」「就職ジャーナル」副編集長などを経験。2004年に第1子出産を経て翌年復職。07年に当時組織で最年少、女性唯一のカンパニーオフィサーに任用される。その後、第2子出産後はダイバーシティ推進マネジャーとして、ワーキングマザーで構成された営業組織を立ち上げ、女性の活躍を現場で強く推進。経営とともに真の女性活躍を推進したいという思いを強くし、13年に退職し、株式会社ACT3設立。現在は、女性活躍をテーマに、講演や執筆、企業向けにコンサルティングなどを行う
愛ゆえの不器用な行動かも? 「帰り際に部下を呼び止める上司」の胸の内

皆さま、こんにちは。堂薗です。

前回は、「私たちが残業しているのに、どうしてとっとと帰るわけ?」と腹立たしくなる上司について書きました。今回は残業繋がりで、逆に「仕事を終えて帰ろうとすると、急に呼び止めてくる!」「帰り際に仕事を振らないで!」と思っちゃう上司について、考えてみようと思います。

予定があることを言えない部下と
全てを知りたい上司

話がずれてしまうようですが、私の体験を聞いてください。会社員時代のことです。ある時、別の課の男性メンバーから「進退について相談したい」、と言われたことがあったんです。私に相談してしようとしてくれているのだけれど、自分の直属の上司には知られたくない、外でごはんを食べながら相談したい、と言われて、私は誰にも言わずに日程を調整しました。でもその日、約束の時間になっても彼は全くお店に現れません。電話も通じなくて、心配しつつも1時間ほど待っていると、ようやくやってきました。一人で1時間がぶがぶ飲んでいて既に出来上がっていた私は、「ちょっと! さすがに失礼なんじゃない? 連絡もなく1時間も待たせるなんてどういうこと?」と声を荒げました。すると、彼はうなだれながら、「帰ろうとしたら、上司に呼び止められてしまって……」と言うのです。「予定があるって言えばいいじゃない?」と返すと、「とても言えないです。明日のアポの資料の細かいところ、ずっと修正されていました……」との答え。酔っ払ってしまっていたので相談ごとはまともに聞いてあげられなかったですし、彼も1時間私を待たせてひやひやし続けていただろうに叱ってしまって。本当に散々な夜になり、彼には可哀想なことをしてしまいました。

彼の上司は私もよく知っている人でしたが、その人にとっては、部下は家族同然であり、自分は「課長」ならぬ「家長」になろうとしていたのだと思います。その当時、その人にとってやや不遇な人事が続いていたのもあってか、少し意固地になって自分の組織をお城のように大切にし、部下がそこから出ることを許さないような雰囲気がありました。だから、その男性メンバーは、「オレじゃなくて、なぜアイツに相談する?」と責められることを恐れていたし、上司の知らない予定があることさえ言うことができなかった。また、上司の方も自分の知らない予定が部下にあるのを知って、わざと呼び止め、彼の「優先順位」をテストしたのかもしれません。言うまでもなく、組織は逆にまとまりがなくなり、メンバーは疲弊してしまっていました。だからこそ、彼も私に相談しようとしたのかもしれない、と今になって思います。

部下のことを知りたい上司は
声を掛けるタイミングを伺っている

これはとても極端なケースだけれど、実は、こういう子供っぽい歪んだ愛は、多くの上司が部下に持っているのではないかと私は思います。でも大抵は、このケースの上司のように、強引な行動には出られません。自分の若いころとは時代が違い、上司に呼ばれたからと言って何を置いても「ハイ!」と自分を優先するはずもない、と分かっています。自分に何の相談もなくもっと偉い人と営業に出掛けた、とか、結婚の報告が先に同僚にされていた、とか、そんな些細なことが、なんだか不快に感じられてしまう。部下のことをみんな把握できていないと自分の存在が否定されてしまうような。「ちっちゃい!」と自分をあざけりながら、やっぱり気にする、みたいな気持ちです。

「上司のキモチ、よく分からない!」という連載なのに変な話ですが、上司にとっても「部下の本音が分からない」と思うことがよくあります。若い部下を持つ、ということは、思春期の子供の親になる、というのに似ているところがあります。子供のことが分かっているようで分かっていない、分かりたいのにどう接していいか分からずに恐る恐るコミュニケーションを取ってしまう、といったのと同じような感覚です。まあ、めちゃくちゃ乱暴な言い方してしまうと、上司は若い部下に、いつもものすごくびびってしまう、ということなんです。何か声を掛けたいと思っているのだけれど、ついつい若い部下の顔色を見ながらチャンスをうかがっている内に、微妙なタイミングになってしまうんですよね。感情が表れにくい部下だったりすると、仕事中よりランチに出掛けるときや帰り際などの方が会話の糸口がつかみやすいような気がしてしまって、部下が一人で帰ろうと支度をしている時なんかに「今だ!」とばかりに、「あれ、今日は早いね。誰とごはん?」なんてセクハラまがいの発言をしてしまう。親が「今日は誰と一緒に遊ぶの?」「何時に帰るの?」といちいち聞くのと同じように、部下と会話したい、うまくコミュニケーションを取りたい、という気持ちから、ついつい、です。余計に反発されることなんてよく分かっているから、冷たい反応を返された後は、一人でものすごく凹む(笑)。

また、すごく寂しがり屋の上司で、「えー、帰っちゃうの? 今夜、メシに誘おうと思ってたのに~」という自分勝手な理由で急に仕事を振ってくる人もいますが、こういう人は、「それ明日でいいよ、メシ行こうよ」と勝手に仕事を切り上げさせたりもします。愛すべきキャラならば「困った人」で済んだり、付き合ってあげたりもできますが、そうでないタイプの場合はかなり鬱陶しい。一度付き合ってあげたら嬉しくなって繰り返すので、とっつきにくい雰囲気を作っておく方がバリアになるかもしれませんね。

上司のタイプを見極めつつ
自分の仕事の完成度を見直そう

一方で、「切り上げて帰れるレベルには達していない内容だ」ということで、声を掛けるケースもあります。明らかに翌日以降に響いてしまいそうだったり、他の人の仕事に影響がありそうだったりする場合は、帰り際に声を掛けざるを得ないこともあるのです。予定がありそうだと察していても、心を鬼にして声を掛ける。どんな見通しで修正するか聞いておかねばならないと判断すれば、帰したとしても後から電話やメールで報告させるなどの要望も出すでしょう。上司として当然のことで、決して何か悪意があってやっていることではないはずです。
いろいろなタイプがいて、一概に対応方法があるわけではありませんが、上司自身のタイプを見極めると同時に、「先に帰る自分の仕事はきちんと完成しているか」「それを確認したか」を振り返る事も大事かもしれません。上司にも言い分があることも多いと思いますよ。その上で、ちゃんと仕事を終え、報告もしているのに、帰ろうとすると声を掛けてきたり仕事を振ってきたりする上司は、わがままだったり寂しがり屋だったり、単なる意地悪だったり、キャラクターによるものが大きい。ですから、ちゃんと顔を見て、「今夜は予定がありますので、お先に失礼させてください」とはっきり、なるだけ可愛く言っておけばいいと思います。

でも、実は一番意地悪なのは、「お疲れさま」と言って送り出したくせに、「もう帰っちゃったけど、周囲の事も考えてもらいたいよね」とか「あの内容だけで帰るなんて困ったものだ」などと、いないところでぶつぶつ言う上司だと思うんですよねえ。同僚でもこういうことを言う人がいますが、上司って「そういうことを言うもんじゃない」「きちんと自分の仕事は終えて帰ったよ」と、そういう発言を叱らねばならない立場です。なのに、自らこの手の発言をしてしまう上司は、一番タチが悪い。皆さんは、「そうですよねえ」などと同調したりせずに、聞こえていないフリをしましょう。そして、「コイツはあかん」と用心してください。呼び止めて仕事の確認をしてくれる上司の方が、よっぽど信頼できる、ということもあると思いますよ。

堂園稚子

【著書紹介】

『「元・リクルート最強の母」の仕事も家庭も100%の働き方』(堂薗 稚子/1,404 円/KADOKAWA/角川書店)
「仕事も子育ても両立したい! 」と思っても現実はなかなか難しいもの。それにも負けず、子どもを育てながらてカンパニーオフィサーになった著者の働き方を紹介 >>Amazon