“社内結婚”は働きやすい? 推進派企業に聞くメリット、非推進派企業に見るデメリット

社内結婚カップルが何組もいるという会社も珍しくない。会社側は実際どう思っているのだろう?働きにくくなる可能性ってないの……?

社内結婚カップルが何組もいるという会社も珍しくない。会社側は実際どう思っているのだろう?働きにくくなる可能性ってないの……?

社内結婚を応援・推奨する企業のニュースが度々話題となっている。例えば、トヨタ自動車では労働組合が社内婚活パーティーを企画し、大手半導体メーカーのロームでは独身社員の交流を深めるイベントを開催しているという。

企業で働く独身女性なら、社内恋愛中でなくとも、女性社員100%という会社でない限り、社内結婚をする可能性はゼロではない。

ニュースで目にする“社内結婚”は、その幸せムード満載の響きから、とかく好印象を抱きがちだが実際のどころどうなのだろう?

現実にするかどうかはさて置き、女性にとって決して縁遠い存在ではない社内結婚。そのメリット・デメリットを見てみよう。

日本食研の社内結婚カップルは累計554組!
約30年前から社内結婚を応援

「約30年前から社内結婚を応援する風土作りをしてきた」と話すのは、日本食研ホールディングス・経営企画部の龍田美依さん。

「恋愛や結婚などで社員同士が仲良くなれば、企業の団結力が高まり、生産性の向上にもつながるという、創業者であり現在の会長である大沢一彦の考えからなるものです。夫婦仲良く働いてもらうためにも、ここ数年はさらに女性社員の働きやすさ、活躍できる環境作りに力を入れています」

同社では、これまでに554組の社内結婚カップルが誕生している(2013年5月31日現在)。現在は、約2030人の既婚社員のうち、約508人が社内結婚者。実に、4人に1人が社内結婚をしている計算だ。社内結婚カップルには、毎月『社内結婚ハッピー手当』が支給されるというユニークな制度もある。

また、社内結婚した後も長く働き続けてほしいと、育児休業取得者だけでなく、管理職側の理解も深めるために『妊娠から復職までのガイドブック』を作成。現在では、早期に妊娠報告をしてもらい、本人と上司をサポートしていく体制を取っている。

さらに、男性社員の育児休業取得もバックアップ。社内イントラや社内報に男性社員の育児休業の様子や仕組みを紹介している。これまでに9名の男性社員が育休を取得しているという。

“育休後コンサルタント”として企業の女性社員活躍推進に携わる、山口理栄さんは、社内結婚トレンドについてこう語る。

「かつては、女性事務員を社員の結婚相手としてもふさわしい人かどうかを意識して採用する会社も多く、社内結婚して女性側が寿退社するのはよくあることでした。でも、個人主義が流行して社内のイベントも減少し、社内結婚は一時期より随分少なくなったのではないでしょうか。昨今、社内結婚を推奨している企業がニュースになり、目立っていますが、世の中全般で主流になってきているというほどではないように思います。日本食研ホールディングスさんのように、社内結婚に理解ある風土のおかげで、結果的に社内結婚が増えるということは納得できます。企業文化次第といえるでしょうね」

社内結婚の最大のメリットは
「パートナーの理解」

社内結婚における最大のメリットは、社内の人間関係や仕事の状況を夫婦で共有できるところにある。

「社内結婚ですと、会社のことはもちろん、日ごろどんな仕事をしているか、繁忙期にどんな状況になるのかも、夫婦がお互いに理解できますよね。たとえ残業続きの日々を送ったとしても、パートナーから疑惑や不満を持たれることはないので、仕事の効率アップ、モチベーションアップにつながっていると思います」(龍田さん)

また、子どもが病気になった時などには、社内イントラで互いのスケジュールを確認できたり、仕事の状況が把握できるので協力体制を整えやすい。たとえ、家庭や仕事の事情でどちらかが長く休まざるを得ない場合でも、パートナーに職場の同僚との間の情報伝達をしてもらえるなど、多くの利点がある。

その一方、社内結婚にはこんなデメリットもあると指摘する山口さん。

「結婚生活がうまくいかなくなった時、互いの職場が近くて異動もできないケースでは、どちらかが退職しない限り、顔を合わせないわけにはいかず、本人たちだけでなく周りも気を遣いますよね」

日本食研ホールディングスのような社内結婚に肯定的な企業は、異動や転勤の際にもできる限り家庭単位での生活を考慮している。同じ支社内、もしくは同じ住居から通える距離にある別々の支社へ夫婦そろって転勤を命じるのだという。

ところが、社内結婚を特に推進していない企業では、どちらか一方に転勤を指示することもあれば、逆に異動を見送るケースも。支社の状況や人員の関係で、夫婦そろっての勤務地変更ができない環境にある企業も当然多い。しかし、その異動が、もしも大事な出世コースのステップの一つだったとしたら、出世の妨げになってしまう可能性も。

「とはいえ、社内結婚をすれば、会社と家庭の両方で理解を得やすいのは事実。社内結婚をした女性の中には、仕事を辞めずに管理職までステップアップしている人も少なくありません。夫婦の仲が良い限りは、プラス面の方が大きいでしょう」(山口さん)

社内恋愛・結婚をタブー視する企業も存在する。社内結婚のメリットを享受できるのは、企業サイドの理解あってこそ。それがない企業では逆に働きにくい環境を自ら作ってしまう危険もあることを肝に銘じておこう。

育休後コンサルタント 山口理栄さん

育休後コンサルタント 山口理栄さん

1984年、筑波大学情報学類(情報科学専攻)を卒業し、総合電機メーカーに入社。ソフトウェア開発部門にて基幹系ソフトウェア製品の開発・設計・企画に従事。2006年より2年間、女性活躍推進プロジェクトリーダーを務める。その後、コンサルティングファーム勤務を経て、2010年に「育休後コンサルタント」として独立。著書に『さあ、育休後からはじめよう ~働くママへの応援歌~』(労働調査会刊)がある

取材・文/上野真理子