会社の方針に納得できない! 「意見の異なる人」と上手に付き合うためのシンプルな心掛け
代表取締役社長兼COO 岩瀬大輔さん
1976年埼玉県生まれ、幼少期を英国で過ごす。1998年、東京大学法学部を卒業後、ボストン・コンサルティング・グループ、リップルウッド・ジャパン(現RHJインターナショナル)を経て、ハーバード大学経営大学院に留学。同校を日本人では4人目となる上位5%の成績で修了。2008年、副社長としてライフネット生命保険を立ち上げる。2013年6月より現職。『ネットで生保を売ろう!』(文藝春秋)、『入社1年目の教科書』(ダイヤモンド社)、『直感を信じる力 人生のレールは自分で描こう』(新潮社)など著書多数
「会社の方針や上からの指示に納得がいきません」(入社3年目/26歳)
納得できない方針にも、何らかの背景がある
おそらく会社勤めをしている人であれば、女性でも男性でも、若手でもキャリアを積んだ人でも、似たような思いを抱いたことがあるのではないでしょうか。
僕たち経営者からしても、常に気に掛かる問題です。チームの全員が心から納得した上で、同じ方向を向いて頑張っていければ理想的ですが、なかなかそうはいかないのが悩ましいところです。
一つの原因は、トップも含めたマネジメント層が言葉足らずだからでしょう。会社の方針や戦略を分かりやすく伝えるのは、上司の役割です。メンバーが「納得いかない」と言うのなら、それはマネジャーの責任ですし、マネジャーが理解していないのであれば、経営陣やトップの責任です。「君たちは分かっていない!」などと部下を責める前に、上司は言葉を尽くして、時間を掛けて、部下に分かってもらえるように説明する義務があります。
でも、一つ言えるのは、会社が決めた方向性や戦略というものは、それなりに考え抜いた上で出したものだということ。一見「理不尽だ」と思うようなことでも、よくよく紐解いてみると、何らかの理由があるものです。理不尽なことをしていたら、会社そのものが社会に受け入れてもらえませんから、会社がまったく合理性のない方針を打ち出すことはないはずです。
「分からない」なら、直接トップに聞いてみよう
今回のお悩みに「上司の責任です」と答えるのは簡単ですが、納得できないまま働き続けるのはあなたもつらいはずです。ならば、あなたの方から上司はなぜこのような指示を出すのか、理由を探ってみてはいかがでしょうか。
会社の中にはいろいろな役割があります。例えば当社のような保険会社であれば、「入院したので給付金を払ってください」というような個々のお客さまのお問い合わせを受ける立場と、経営者として「会社の将来的な発展のために何をするのか」と国内外の株主・投資家からの質問を受ける立場とでは、見えている世界はまったく違います。
さらに、トップから経営層、マネジャー、メンバーへと伝言ゲームをしていくたびに、少しずつ理解がずれてしまうこともあります。
もし僕があなたの会社の社長だったら、直接聞いてきてくれたらうれしいですね。一対一だと気が引けてしまうかもしれませんが、例えば「社長と若手のランチ会」という名目で、若手社員を数名集めてみる。巨大な企業グループで、社長と直接会うことが物理的に難しい場合は、事業部のトップである本部長とのランチでもいいでしょう。
目をキラキラ輝かせた将来を担う若手と話ができる時間は、トップにとっても貴重ですし、何よりも楽しいはず。「私が若手社員を8名集めるので、失礼を承知で率直に話をさせてください」と提案されれば、相手はきっと喜ぶと思いますよ。
そして欲を言えば、そういったランチ会を定例化できる仕組みが作れれば理想的です。回を重ねるごとに、それが会社の理念や文化や今の方針を直接伝える場になりますから、トップが断る理由はありません。
あなたにとっても、なぜ会社がこの方針を選んだか、背景を理解することは貴重な財産になると思います。
“価値観”と“感情論”は切り分けて
その上で自分の価値観と合わないと思うのであれば、長い人生を豊かに生きるためにも、自分が共感できる会社を探せばいい。将来的に自ら起業する選択肢もあります。
ただし、個人的な感情の話とは切り分けて考えてください。組織で働く限りいろいろな人と関わらざるを得ないですし、経営トップでさえ自分の好き放題できるわけではありません。
仕事とは、突き詰めればイレギュラー処理だと思います。うまくいっているときは流れに任せればいいけれど、「何て失礼な態度だ」「そうじゃないだろ」と思うようなことに対応するのも仕事です。
どこに転職しても、起業しても、ちょっととっつきにくい人とも付き合わなくてはいけないし、よく分からないことにも向き合わざるを得ない。
そこで大切なのは、自分と異なる主張に出会ったときにどうするかです。
往々にして「この人は全然分かっていない」と感情的に相手を否定しがちですが、「なぜこの人はこう考えるのだろう」と好奇心を持って根掘り葉掘り聞いてみると、「なるほど、そういうことか」と理解できることがあるものです。好き嫌いを超えて、何が違うのかがつかめれば、コミュニケーションの取りようもあるし、説得材料も見つかるでしょう。少し想像力を発揮してみれば、これまで見えなかった世界が見えてくるはずです。
僕がマネジメントの立場に就いて痛感したのは、片方が一方的に間違っていて、片方が一方的に正しいことはないのだな、ということでした。双方の言い分を聞いてみると、どちらも正しく、どちらも間違っている。正しさは半々、差が付いてもせいぜい45%対55%程度です。
これから新しい時代をつくっていく上で、現時点での絶対的な正解などありません。特に今のように混沌とした時代には、自分と異なる考え方を頭から否定せず、理解してみようとする姿勢はとても大切だと感じています。
この人には、この世界がどんなふうに見えているのだろう。ぜひあなたには、想像力を働かせて、相手を分かろうとする努力を続けてほしいと願っています。
取材・文/瀬戸友子