23 JUL/2018

50歳・初めての転職「視点を変えれば“人と違う”は怖くない」【先輩2:カルビー・武田雅子さん】

人生100年時代はチャレンジの連続!
『教えて、先輩。』

人生100年時代。これまで言われてきたような「歳相応」の生き方なんて、これからの未来を生きる私たちにはまったく当てはまらない。そこでこの連載では常識に縛られず、チャレンジを続ける先輩女性にフォーカス! 彼女たちの生き方を覗かせてもらいます。

「転職するなら若い方がいい」「30歳を過ぎたら応募書類がなかなか通らない」。人生100年時代と言われ、定年はなくなるという説も現実味を帯びてきた現代においても、年齢を重ねたら転職は不利というイメージは健在だ。40代、50代の先輩女性から転職経験談を耳にする機会も少なく、そもそも“ベテランの転職”なんて想像もつかないという人も多いだろう。

そこで今回は、今年5月にカルビー株式会社に転職した武田雅子さんを訪ねた。株式会社クレディセゾンで約30年間勤めた後、50歳にして初めての転職を経験。彼女のこれまでのキャリアや決断の背景には、20~30代の女性の背中を押すヒントが詰まっていた。

カルビー 武田さん

カルビー株式会社
執行役員人事総務本部長
武田 雅子さん

1989年、株式会社クレディセゾン入社。セゾンカウンターに配属後、全国5拠点にてショップマスターを経験の後、営業推進部トレーニング課長、戦略人事部長などを経て2016年に取締役就任。2018年3月に同社を退職し、同年5月よりカルビー株式会社に執行役員人事総務本部長に就任。04年、36歳で乳がんに罹患。現在はがん患者の就労を考える一般社団法人CSRプロジェクトで理事、がんと就労の両立が実現できる社会を目指す民間プロジェクト『がんアライ部』で発起人を務める

「まだ50歳」この先にもっと変化があってもいいのかも

今年の3月、30年間勤めたクレディセゾンを退職しました。外部の人事の方と交流を持つ中で、カルビーの人事担当者とたまたま出会ったことが、転職を考えた最初のきっかけ。去年の秋に社長の伊藤と会う機会を設けてもらったのですが、人事やマネジメントの価値観がぴったり合って、共感してしまって。「この人の手伝いがしてみたい」って、強く思ったのです。

とはいえ、前職のクレディセゾンもビジネスのフェーズとして、すごく面白い時期だったんですよね。フィンテックが話題になっていますが、カード事業も日々変化がある。その中で営業の事業部長として、1800人のメンバーをマネジメントしている自分がすごく好きだったんです。仕事の進め方はよく分かっているし、私のことを知ってくれている人もたくさんいる。楽に仕事ができるし、居心地もすごくよかった。

カルビー 武田さん

ただ、「このままでいいの?」っていう気持ちは常にあって。当時の私は取締役。先のキャリアは限られているし、一緒に仕事をするメンバーもさほど変わらない。前職では営業14年、人事14年、最後に営業の事業部長を2年経験したのですが、最後の2年間がキャリアの総仕上げのような感覚もあったんです。営業と人事の経験から学んだことを生かして、組織をうまく動かして数字を上げることができた。大きな自信になったし、年齢だってまだ50歳。この先にもっと変化があってもいいのかもしれないって思えたんです。

ありがたいことに「武田さんがいなくなったら困る」って言ってくれるメンバーもいたけれど、私がいなくなることでプラスの影響もあるんじゃないかって気持ちもありました。これまで皆をトレーニングしてきた自負もあったし、後のことは心配ない。慣れ親しんだ環境から離れる不安やさみしさがないって言ったら嘘になるけれど、それ以上に「外で自分の力を試してみたい」というワクワクする気持ちが勝ちました。振り返って考えても、ベストなタイミングの転職だったと思っています。

大嫌いだった人事の仕事が好きになったのは
自分の“なんちゃってポケット”に気付けたから

カルビーは会長兼CEOだった松本が退任し、今は全社の戦略が変わる時です。それに伴い、人事戦略がどう変わるのか。この先の新しいカルビーをつくるために、自分の能力をどれだけ役立てられるのかを考えながら、人事周りの全てを担当しています。

入社してまずやったことは、本部長以上の役職者へのインタビューでした。私は前職で約30年間勤めたわけですが、長く在籍した最大のメリットは、歴史を語れることだと思っています。サービスの成り立ちや仕事の進め方など、これまでの変遷や背景が分かる。一緒に働く上で、マネジメントをする上で、それぞれの過去をリスペクトすることはすごく大事なことです。その視点がないままでは、浅い仕事しかできない。勤めた年数が全てではないけれど、短期間に転職を繰り返しているうちは、仕事の厚みはなかなか出ない気がします。

そうして1つの会社に根差しながら、20代は自分の向き・不向きを決めつけずに、いろんなことにチャレンジする期間にできるといいですよね。ジョブローテーションはダメだっていう意見も最近ではありますが、私は個人の可能性を広げてくれる、温かいシステムだと思うんです。「意外とこんなことができるんだ」という発見は、想定外の出来事からしか得られませんから。

カルビー 武田さん

私はよく女性のスーツに飾りで付いている“なんちゃってポケット”で例えるのですが、ふとした拍子に、実はしつけ糸がついていただけで、実際に使えるポケットだったことに気付くことってありませんか? 個人のポテンシャルもそれと同じ。自分が気付いていないだけで、本当は使える“なんちゃってポケット”はたくさんあるはずなんです。

というのも実は私、自分が人事になる前まで、人事の仕事が大嫌いだったんです(笑)。でもやってみたら、広報にマーケティング、プレゼンにクロージングと、人事には“仕事の全て”が詰まっている。しかも全部門を巻き込めるんですよ。「もしかしてこの仕事、面白いんじゃない?」って徐々に思うようになって。結果的に今も人事をやっているわけで、こうやって流されるキャリアのつくり方もあるんですよね。

今は就活の時から「何がしたいか」が問われるけれど、そんなの経験値が少ないうちは分からなくて当たり前。やりたいことがあるならそれはそれでいいけれど、周りが自分に求めている“must”に一度身を委ねてみると、思わぬところですごい能力を発揮することもある。

「個人のキャリアの8割は予想外の出来事によって形成される」って考え方のキャリア論もあります。実際にトップパフォーマーに成果が出せた理由を尋ねると、大半の人の答えは「たまたま」です。食わず嫌いはせずに、人の言う事は聞いてみるもの。そうやって“can”を増やしていって、腰を据えるのは40歳過ぎてからで十分です。人生は長いですからね。

“皆と同じ”は幻想。否定されるのが怖いのなら、視点を変えてみて

私は50歳で初めての転職をしたけれど、年齢については特に考えていなかったんですよね。
「今日の自分が一番若い」って言うし、年上の人事仲間が転職する姿も見ていたから、全然気にならなかった。

カルビー 武田さん

年齢や性別を気にする人って、結局は人の目を気にしているんだと思うんです。「女性らしく」とか「年相応」とか、そういう枠組みから外れて人と同じでなくなることが怖い。でも、そもそも同じ人なんていないじゃないですか。“皆と同じ”は幻想ですよ。

他者からのフィードバックをどう受け止めるかだって、結局は自分次第です。納得のいく選択をしていれば多少何か言われても気にならないし、もし否定されて傷つくのが怖いのであれば、視点を変えればいい。“居酒屋ルール”って言っているんですけど、カウンターに並んで、壁に貼ってあるメニューなんかを見ながら会話をすると話しやすいですよね。同じように、相手と自分の視点をお互いに向けるのではなく、同じ絵を見ているイメージを持ってみてください。

例えば営業施策を提案するときに「私はこうしたい」っていうのと、「お客さまにとってメリットがあるからこうしたい」って話し方をするのでは、後者の方が否定されても傷付かない気がしませんか? 主語を自分にすると視点がお互いに向いてしまうけれど、主語を別のところに置けば、相手の意見が直接自分に向かない分、適度に距離が取れるはずです。

少し話はズレるけれど、「隣の芝が青い」っていうのも同じことなんですよ。私はよくメンバーに「先輩じゃなくて、先輩がやっていることを見なさい」と言うのですが、その人自身ではなく、その人が見ている視線の先に目を向ける。そうすれば自分のやりたいことが見えてくるし、何よりもつらい気持ちにならずに済みます。上司部下、恋人、夫婦、友達、親子と、あらゆる関係性で意識すると、少し楽になりますよ。

働くことは、未来をつくること。全員にスポットライトが当たるような社会を実現したい

そしてぜひ、自分をよく観察してみてください。毎日忙しくしていると、自分の内側のことは意外と見ていないもの。大きなライフイベントが起こらない限り、自分を見つめ直したり、人生を振り返ったりすることはなかなかありません。私自身、自分を意識的に観察するようになったのは、36歳の時に乳がんになったことが大きく影響しています。

自分のことって、意外と分かっていないんです。得意なことや苦手なことは何なのか、緊張したりリラックスできたりするのはどんな場面なのか。もう一人の自分が上から見ているようなイメージで、決めつけを一旦外してクールに観察してみてください。自分への理解が深まれば、今よりもっと自分を信じられるし、感情に引っ張られずにフラットでいられると思います。

カルビー 武田さん

働くことはつらいことだって捉えている人は残念ながら少なくないですが、仕事は楽しいものだし、就活や転職は楽しいことを見つけるためにするんだから、もっと気楽に考えていいはず。会社の中では年長の社員ほど未来を語りたがるけれど、私は未来を語るのは若者の役割だと思っています。私たち上の世代ができることは、若者が未来を作っていくために必要な知恵を過去から持ってくること。そして、仕事の面白さを伝えることです。

これは私のライフテーマでもあるのですが、楽しく働く人を増やしたいんですよ。働き方が多様になって、キャリアの選択肢は増えたけれど、自分の強みを発揮することでイキイキと働くことができるというベースは変わりません。私にとって働くことは、未来を作ること。一部の積極的な人だけが頑張るのではなく、全員にスポットライトが当たるような社会を実現するために、まずはカルビーを全員が活躍できる会社にしたい。そうして一人でも多く、楽しく働く大人を増やしていきたいなと思っています。

取材・文・撮影/天野夏海