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AUG/2018

長期的な目標は役に立たない。でも「やりたいこと」は必要だ【変わる時代の、変わらないリスク】

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働き方改革が声高に叫ばれ、人生100年時代と言われる今、個人のキャリアや生き方は急激な変化にさらされている。副業解禁の動きが広まり、リカレント教育が推奨され、パラレルキャリアやフリーランスなどの働き方が注目を集める中で、私たちの目の前には多様な選択肢が広がっている。これまでの常識が通用しなくなりつつある状況で、自分にとって最適な選択をするためにはどうしたらいいのだろう。

2018年8月10日に行われた、One HR主催するイベント『変わる時代の変わらないリスク。ちがう明日を生きるための「仕事2.0」』で行われた、NewsPicks編集部副編集長・佐藤留美さん、一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会 代表理事・平田麻莉さん、法政大学大学院 政策創造研究科教授・石山恒貴さん、フリーアナウンサー楪 望さんによるパネルディスカッションの中から、そのヒントを探る。

『変わる時代の変わらないリスク。ちがう明日を生きるための「仕事2.0」』
『変わる時代の変わらないリスク。ちがう明日を生きるための「仕事2.0」』当日のイベント会場にて。パネラーと参加者で記念撮影

せっかく自己分析して就職したのに、
入社後は人事の言いなりでいいの?

佐藤:今日のパネルディスカッションのテーマは「変身」です。どのような要因が、個人の変身をはばんでいると思いますか?

楪:会社の雰囲気が気になるという人は多いですよね。「上司が残っているから帰れない」というのもそうですが、根強く残っている空気の中で動けずにいる人は少なくないと思います。

石山:私が勤める大学院に通う社会人の半分くらいは、学校に通っていることを会社に内緒にしています。「他の人は仕事をしているのに……」という雰囲気や、「転職するの?」といった詮索が面倒なんですって。一部の企業は副業を解禁したり学び直しを推奨したりしているものの、当事者は“隠れキリシタン”状態になってしまっているのが実態です。

平田:
社会制度の問題もあると思います。日本は戦後の経済復興の中で、会社員を是とし、会社員優遇の制度設計をしてきました。それがうまくいったおかげで高度経済成長があったけれど、今の時代には合わなくなっている部分も多々あります。例えばフリーランスには産育休がなかったり、金融機関でローンが組めなかったりと、会社員に比べて制度の面で不利になってしまう。こういった現状が新しい働き方にチャレンジしたい人をはばむ要因になっているのを感じています。

楪:あとは「変わりたい」とか「こうなりたい」という目標を持たなくなっていくようにも思いますね。会社員だと給料は黙っていても入ってきますし、安定に流れていく面もあるのではないでしょうか。

佐藤:私自身は長期的な目標を立てることがストレスになってしまうのですが、そもそも目標は持たなければいけないものなんですか?

石山:難しいところですね。昔のキャリア理論では長期的な目標を立てることがいいと言われていましたが、変化が激しい今、長期的な目標は成り立たなくなってきています。ただ、自分が大事にしている価値観や「これをやっていると楽しい」という“やりたいこと”があるのは大事です。マーク・L・サビカスという学者は「6歳ぐらい時に憧れていた人のことを考えると、自分のやりたいことが分かる」と言っていますね。

平田:多くの会社では「何をやりたいのか」を聞かれる機会があまりないんですよね。むしろ本人のやりたいことは押さえ込んで、盲目的に与えられた仕事をやる人が重宝されるような文化を作り上げてしまっている。大学生のころは就活に備えて自己分析をするのに、入社した途端に人生を人事部に丸投げしてしまう人はとても多いと思います。高度経済成長によって大企業がたくさんできたことの弊害とも言えますが、“会社を作る”ではなく“作られた会社に入る”というメンタリティの人が増えているのを感じています。

石山:全く同感で、日本はエンゲージメント(※)が非常に低いと言われています。139カ国中132番目という調査もありますが、その理由は上司が部下の強みを伸ばすことをやっていないから。日本企業の社員は53~55歳で役職定年するまで、「役員や部長に昇進できるかも」という希望を持ててしまう。だから上司からのフィードバックがなくても暗黙のうちに頑張ってしまうし、専門外の部署への異動を命じられても仕方がないと思ってしまうんですよね。

※社員の会社に対する「愛着心」や「思い入れ」を表す用語。

20代の87.3%が終身雇用を支持し
8割の会社は兼業や副業に否定的

『変わる時代の変わらないリスク。ちがう明日を生きるための「仕事2.0」』
佐藤:一方で、今の世の中にはどのような変化があるのでしょうか?

石山:働く人への意識調査によると、全体の87.9%、年代別では20代87.3%、30代88.4%が終身雇用を支持しています。年功序列についても全体の約7割が支持している。一方の企業側を見ると、フリーランスと仕事をしている会社は18.9%で、約8割の会社は兼業や副業に否定的なのが現況です。安全性に対する懸念もありますが、要するに忠誠を尽くさない人が嫌いなんですよね。

佐藤:浮気されたくないんですよね。当社は副業・兼業OKですが、自社以外の仕事をしている社員を見ると「その時間をこっちに使ってよ」と思ってしまうこともある。私自身これまで副業をしていた経験もあるのに、老害みたいになっている自分に気が付くことがあります。

平田:忠誠心は必ずしも一つの場所に捧げなくても、同時に持つことができると思います。私自身はフリーランスの広報としていろいろな会社の名刺を持って仕事をしていますが、「フリーランスだから」「自社のプロジェクトではないから」という理由で所属意識がないわけではなく、私にとっては全部が自分の居場所なんです。

楪:すごくよく分かります。私はAbema TVのニュースチャンネル『AbemaNews』のキャスターを務めながらフリーランスとしても活動しているのですが、フリーランスとして携わったプロジェクトが終わっても、一緒に仕事をした方々とのお付き合いはその後の仕事につながっていく実感があります。会社員でいながら副業・兼業を認めてくれるというのは、数年前まではなかったことで、いい変化だと思いますね。

つらくてしんどい「変身」の先には、大きな達成感がある

佐藤:働き方や仕事をアップデートしていった先には、どのような未来があると思いますか?

平田:ITの進化によって、どこにいても誰とでも仕事ができるようになった。その結果、組織の壁は融解しつつあると思います。例えば私が代表理事を務めているフリーランス協会に、実は社員は一人もいないんです。報酬をもらっている人も会員サポートの数名だけで、基本的にはプロボノの集団なんですね。会社に雇用されている人たちで何かを生み出すのとは全く違う形で、バイネームでプロジェクトに参加するようになってきている。そうした動きについていけない会社は新陳代謝されていくと思っています。

楪:企業が変わらないままでは、個人がその会社から羽ばたいていけない。気がつけば窓際族になっていたりリストラ対象になってしまったり、鳥かご状態になる方が増えないかは心配ですね。「この人みたいになれば自分も成功する」というのが成り立たなくなっていく気がしていて、歯車になるのではなく、歯車を作って動かせる人になる必要があるのを感じています。

『変わる時代の変わらないリスク。ちがう明日を生きるための「仕事2.0」』

石山:日経新聞に「日本の長期雇用自体は悪いわけじゃない。多様性や新しい考え方を受け入れないことが悪いんだ」という趣旨の記事がありました。僕も長期雇用自体はすごくいいと思うんですよ。ただ心理的安全性がすごく大事で、「チームの生産性で一番大事なのは心理的安全性」というGoogleの調査結果が出ています。失敗できて、それが言えることが大事なんですよね。だから生産性の高いチームはミスが多いんですよ。なぜならば「失敗した」って言えるから。Amazonも「世界で一番失敗できる会社だ」と言っていますが、これからは心理的安全性が高くてどんどん失敗できる会社が増える、明るい未来があるのではと思います。

平田:一方の個人に関しては、会社員やフリーランスという垣根がなくなって、混じり合っていくと思うんですよね。会社員であっても副業ができたり、週2回の出社でOKになったりと、“フリーランス的な考え方”になっていく。フリーランスも会社員と社会保障の格差がなくなって、自分のライフイベントに合わせて心地のいいスタイルを行ったり来たりできるようになっていくんじゃないかと思います。自分をアップデートしながらいろいろなことをやっていくと、自分を表す変数が増えていく。経験やスキル、特定のテーマでも何でもいいのですが、変数が増えると掛け算で自分の希少性が高まりますし、分散することによってリスクヘッジになる。その分自由になれるし、選択肢も増えていきますよね。

佐藤: 今日は「変身」がテーマでしたが、変身はつらくてしんどいこと。楽しいことではないと思うんです。私は紙媒体を10年経験して、そこからNewsPicksに移りました。スマホと紙媒体では読む人の感覚が大きく違って、最初は成果が全然出なかったんですよ。紙媒体をやっていた時の成功体験は全部捨てなければならず、過去を否定するのは本当につらかった。でも変身した先には大きな達成感があるもの。そういう気持ちを皆が感じられる社会になったらいいですよね。



NewsPicks編集部副編集長 佐藤留美さん
青山学院大学文学部卒業後、出版社、人材関連会社勤務を経て、2005年編集企画会社ブックシェルフ設立。「週刊東洋経済」「PRESIDENT」「日経WOMAN」「プレジデントウーマン」などに人事、人材、労働、キャリア関連の記事を多数執筆。14年7月からNewsPicks編集部に参画、15年1月副編集長に。専門は雇用、労働、キャリアなど。最新著書は「仕事2.0 人生100年時代の変身力」(NewsPicks Book)。

一般社団法人プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会
代表理事
平田麻莉さん

慶應義塾大学在学中にPR会社ビルコムの創業期に参画。人材企業や組織開発コンサルティング企業の広報経験を通じて企業と個人の関係性に対する関心を深める。ノースウェスタン大学ケロッグ経営大学院への交換留学を経て、11年に慶應義塾大学大学院経営管理研究科修了。同大学ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く(出産を機に退学)。専業主婦を経て、現在はフリーランスPRプランナーや、ケースメソッド教材のケースライターとして活動。17年1月にプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。日本ビジネススクール・ケース・コンペティション(JBCC)発起人。パワーママプロジェクト「ワーママ・オブ・ザ・イヤー2015」受賞。

法政大学大学院
政策創造研究科教授
石山恒貴さん

一橋大学社会学部卒業、産業能率大学大学院経営情報学研究科経営情報学専攻修士課程修了、法政大学大学院政策創造研究科政策創造専攻博士後期課程修了、博士(政策学)。 一橋大学卒業後、NEC、GE、米系ライフサイエンス会社を経て、現職。越境的学習、キャリア開発、人的資源管理等が研究領域。人材育成学会理事、NPOキャリア権推進ネットワーク授業開発委員長、一般社団法人ソーシャリスト21st理事。主な著書に『越境的学習のメカニズム』(福村出版)、『パラレルキャリアを始めよう!』(ダイヤモンド社)

フリーアナウンサー・広島県観光特使
楪 望さん

1986年生まれ、広島県出身。 横浜国立大学 教育人間科学部卒。大学卒業後は、広島ホームテレビとテレビ大阪に在籍。局アナを4年間経験した後、フリーに転身。 地上波からネットまで様々なメディアで活動。現在は、AbemaNewsでのフィールドキャスター業がメイン。 政治、経済、スポーツ、芸能とニュースを追い掛け、報道分野を駆け回る日々を送る。また、広島県出身として、原爆問題も追求。 2016年には国連加盟60周年の記念シンポジウムでパネリストとして登壇

取材・文/天野夏海

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