「必要悪だからでは絶対に済まされない」“矛盾に満ちた国”日本の女性差別に私たちは怒っていい【弁護士・打越さく良さん】
2018年8月、東京医科大学が入学試験で得点を操作していたことが明らかになった。減点の対象となったのは3浪以上の浪人生と女性。特に女性は、「結婚や出産で医師をやめるケースが多い」という背景から、生徒数を制限するために一律で減点されていたという。
差別された女性や浪人生に対して何かサポートはできないか。
女性差別をなくすために何かできることはないだろうか。
そんな想いで結成されたのが、「医学部入試における女性差別対策弁護団」だ。弁護団の元にはどのような声が届いているのか。そして、こうした動きを通じてどのような社会を実現したいと思っているのか。共同代表の弁護士・打越さく良さんにお話を伺った。

弁護士
打越さく良さん
1968年北海道生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程中途退学。2000年弁護士登録(第二東京弁護士会)。日弁連「両性の平等」委員、都内の児童相談所の非常勤嘱託弁護士、文京区男女平等参画推進会議委員、女子高生サポートセンターColabo監事。「医学部入試における女性差別対策弁護団」では共同代表を務める
「受験は実力勝負」という大前提が覆った衝撃
東京医科大学が女性と浪人生に対し、入試の点数を減点していたことが明らかになりました。女性であることを理由にあからさまな差別があることにも、21世紀にもなってまだこんなことが起きることにも、本当に驚きました。
就職時をはじめ、さまざまな場面で女性差別が全くないだなんて認識はなかった。弁護士の世界でも、「女性を採用したら妊娠して辞められてしまうかもしれない」といった意識はまだまだあります。
でも、少なくとも資格を取得するところまでは平等だと思っていました。入試のような性別や年齢といった属性ではなく、点数で判断する場面では平等性は保たれている。
実力社会だから、一生懸命努力して勉強すれば、女性であることは関係がない。そう思っていた前提が覆されたことに、大きな衝撃を受けました。
もしも司法試験で同じようなことがあったとしたら……。そう考えると、今回の件は私にとっても決して人ごとではありません。
同じような想いを持った弁護士が、有志で集まって結成されたのが、「医学部入試における女性差別対策弁護団」です。弁護士の間で「自分に何かできることはないか」と口コミで動きが広がり、8月21日に結成。現時点で61人が参加しています。
8月22日に行われた会見の様子(ANNnewsCHより)
8月25日からスタートしたホットラインには、8月末時点で電話が55件、メールでの問い合わせは100件を超えました。そのうち、電話は39件、メールは65件が本人や親など、女性受験者関連の方からです。
「何年も受験して不合格だったので、医者になるのを諦めて今は別の仕事をしている。自分の能力が足りなかったとずっと思っていた。それが、このような得点操作によるものだったかもしれないと分かり、本当に悔しい。今からでも入学させてほしい」(元受験生)
「娘が本当に勉強を頑張っていたし、不合格で落ち込んでいたのを見ていたので、親として絶対に許せない。娘の人生をなんだと思っているのか」(元受験生の母親)
自分の実力が足りないから不合格だったと思って納得していたのに……。そんな声がたくさん届きました。点数が公開されていない今は、本当に実力不足だったのかどうかすら分からない状態ですから、「本当のことを知りたい」という声が非常に多いです。
大学側には協議をしたいと通知を出していますが、まだ連絡はありません。
点数を確認する作業も、本当は合格していたはずの人をどうやって救済するのかも、とても難しい問題です。簡単ではないけれど、でも早く対応を考えなければ、来年の入試が始まってしまう。
意見交換をして、大学側がどう思っているのか、率直なところを聞きたいと思っています。
就活でも女性はまだ不利?
法的に裁くことは難しくても「私たちは怒っていい」

今回の弁護団はボランティアです。若い人が頑張って勉強している時に、性別で差別される。
「全ての国民は法の下に平等であって、性別等により差別されない。」という憲法14条1項や、「すべて国民は、ひとしく、その能力に応じた教育を受ける機会を与えられなければならず、性別等によって、教育上差別されない。」とする教育基本法4条1項に照らし、絶対にあってはならないことです。
「医師が過労死寸前なんだからしょうがない」なんて言っている人もいたけれど、そもそも男性医師を過労死寸前の状態で働かせていいのかっていう話です。「必要悪だから仕方がない」で済ませていいことではありません。
就職活動の選考過程でも、女性であることを理由に不利になっている場面は現状あると思います。
法律的に差別を追求できるかというと、選考過程はいくらでもごまかせますから、違法性を立証して損害賠償請求するにはハードルが高い場合もあるかもしれない。でも、少なくとも私たちは怒っていいんですよ。
前提として、今は女性が能力を発揮できる状況にないんですよね。
国会議員や管理職などの一定数を女性に割り当てるクオータ制は逆差別と言われることもありますが、下駄を履かせてもらうどころか、そもそも女性は靴すら履いていないんですよ。男性以上の下駄を履かせてくれっていうことではなくて、せめてスタートラインを揃えましょうっていう話です。
差別をなくしてほしいだけなんですよ。
これは昔話になってしまうのですが、私が司法修習生だった2000年当時、司法修習のクラスの中で、検察になれる女性は1人だけという暗黙の決まりがありました。通称「女性枠」です。
「今後は医学の世界で生きていきたいのに、東京医科大の件に対して声をあげて大丈夫?」と心配する当事者もいると思うのですが、当時の私も全く同じことを考えました。
これから法律家として差別や人権侵害に立ち向かおうとする法律家の卵として恥ずかしいことに、まだ最終試験が残っている段階で、検察の女性枠に対して「おかしい」と指摘するのは怖かったんです。
でも、法律家になるのに、黙っているだなんておかしい。そこで「検察の女性枠を考える会」という集まりをつくって、法務省に是正を申し入れました。
そうしたら、打って変わって「女性枠なんてない」と言われたんです。翌年には検察の女性が3人出て、「ほら、女性枠なんてなかったでしょ?」って。「私たちが抗議したからじゃん!」って思いましたけど、言ってよかったですよね。
自分で声を上げることが難しければ、援護射撃だって力になる

今回の東京医科大の得点操作のようなニュースを耳にすると、もう嫌になってしまうし、諦めたくなってしまう人もいると思います。
こんな不公平なルールのもとで女性活躍を謳い、「子どもを産まないから生産性がない」と国会議員が発言する一方で妊娠したら税金を取る。本当に矛盾だらけのおかしな社会だと思います。
でも諦めてしまうと、女性であるがゆえに悔しい思いをする人達を放置することになってしまう。女性だから何かを諦めなければいけない社会が、心地の良い社会なわけがありません。
だから女性たちにはぜひ、黙らないでほしいと思います。
声を上げればいろいろと言われもします。Twitterでよく分からないことを私もしょっちゅう言われるんです。でも、本来相手にすべきはそういう人ではないはず。私は「老眼だから見えませーん」と誹謗中傷は全部スルーしています(笑)
声を上げることが難しければ、援護射撃をしてください。SNSで「いいね」やシェアをしてもらえるとうれしいし、励まされるんですよ。
当弁護団にも名前も知らない人たちがカンパをしてくれて、たくさんの人が応援してくれています。
記者会見にもたくさんの方が来てくださったし、こうやって取材を受けたり、メールでご意見をいただいたり、好意的な反響をいただいています。海外でもニュースになったみたいで、海外メディアからも取材を受けました。
今回の件に関しては、成績の開示や受験料の返還、得点操作がなければ合格していた人に入学資格を認めるなど、東京医科大学に対して求めていく予定です。
全員がタフに頑張るのは難しいけれど、共感したり一緒に怒ったり、そういうことはできるはず。被害にあった人に寄り添い、声を上げている人を応援する。
そうすることでこの社会に対して「おかしい」と考える人を増やし、女性差別はダメだという認識を広げていく。そういう動きが、明るい未来につながっていくと信じています。
取材・文・撮影/天野夏海