01 NOV/2018

福士蒼汰の“優しい生き方”―「怒らない。必要以上に落ち込まない」心の平穏を保つコツは自分を客観視すること

日々優しくありたい、と願ってはいる。だけど、通勤ラッシュのホームで向こうからやってきた人に思い切り肩をぶつけられるたびに、つい舌打ちをしてしまったり。何度も同じミスを繰り返す後輩に「これ、前にも言ったよね?」なんて冷たい口調で叱りつけてしまったり。毎日はイラッとしてしまう出来事の連続で、そのたびにトゲトゲした気持ちがむき出しになる自分が嫌になる。心の均衡を保つのは、想像以上に難しい。

そんなストレスフルな心を優しく洗い流してくれる映画が登場した。それが、『旅猫リポート』(10月26日(金)公開)だ。主人公は、心優しき青年・悟。愛猫・ナナと離ればなれで暮らすことが決まった悟は、新しい飼い主を探すため、ナナと一緒に最後の旅に出る。

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

福士蒼汰(ふくし・そうた)
1993年生まれ。東京都出身。11年、ドラマ『美咲ナンバーワン!!』で俳優デビュー。ドラマ『仮面ライダーフォーゼ』でテレビドラマ初主演。13年、連続テレビ小説『あまちゃん』で脚光を浴び、第38回エランドール新人賞を受賞。映画『好きっていいなよ。』『イン・ザ・ヒーロー』『神さまの言うとおり』で第38回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。以降、数々の作品に出演。最新作に映画『BLEACH』(2018)『ザ・ファブル』(2019公開予定)など
■公式インスタアカウント:fukushi_sota_official

1人と1匹の旅は温かな空気に包まれていて、心地良い。どうしたら私たちは悟のように心穏やかに生きられるのだろうか。悟役を演じた俳優・福士蒼汰さんと一緒に、悲しみやマイナスな状況に呑みこまれない、幸せな生き方、心の保ち方を考えてみた。

「何があっても幸せと感じられるのは、拠り所になるものがあるから」

切れ長の瞳は、笑うと、綺麗な弧状になる。人の心をほっと和ませる、柔らかい笑顔だ。まだ25歳ということが信じられないほど福士蒼汰さんは落ち着いていて、語り口も温かい。

今回演じた悟も、そんな福士さんの上品な笑顔が映える、柔和な青年だ。だが、悟はただ優しいだけの男性ではない。その優しさは、さまざまな悲しみを土壌にしている。

「確かに悟はトゲがなくて何に対してもフラットに見えますが、それはどこかで人と距離を取る性格だからなのかなと思ったんです。優しさと同時に、ある意味で悲しさを持った青年。それは彼の過去とか境遇が作用している部分で、悟を演じるときはいつもそこを忘れないように意識していました」

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

そう福士さんは話す。誰といても、どこかで一線を引いている。そんな悟が唯一、本心を見せられた相手が、猫のナナだった。

「ナナは家族であり、唯一心を開けた存在。人と距離を測って、敵をつくらない反面、依存することもしない悟にとって、ナナは心の拠り所だったんだと思います」

そんな大切なナナとの別れのための旅。悟は、ナナの引き取り手を求めて、旧友のもとを訪ね歩く。

「ナナを手放さなくちゃいけないんですが、悟も本心では離れたくなくて。結局、引き取り手がなかなか見つからないのも、何だかんだ言ってナナをもらわれたくないという悟の本心が勝ってしまっている部分があるからじゃないかなという気がします。そして同時にこの旅は、悟がこれまでの人生を振り返る旅でもある。そのパートナーは、やっぱりナナしかいなかったんだと思うんです」

福士 蒼汰(ふくし・そうた) 1993年生まれ。東京都出身。11年、ドラマ『美咲ナンバーワン!!』で俳優デビュー。ドラマ『仮面ライダーフォーゼ』でテレビドラマ初主演。13年、連続テレビ小説『あまちゃん』で脚光を浴び、第38回エランドール新人賞を受賞。映画『好きっていいなよ。』『イン・ザ・ヒーロー』『神さまの言うとおり』で第38回日本アカデミー賞新人俳優賞受賞。以降、数々の作品に出演。最新作に映画『BLEACH』(2018)『ザ・ファブル』(2019公開予定)など

悲しみを背負って歩んできた悟。だけど、決して彼は不幸せには見えない。

「きっとそれはナナという拠り所があったからだと思います。何があっても幸せと感じられるのは、拠り所になるものがあるから。自分で言えば、今は家族が一番の拠り所です。家族の前では肩肘張らずに素の状態でいられる。子どもの頃の自分に戻れる場所なんです」

どんなに辛いことがあっても、ネガティブな感情に心が覆われそうになっても、拠り所があれば、人は悲しみに負けない。私たちが、幸せを感じながら生きていくために必要なものは何か。この映画を通じて福士さんが見つけた答えは、とてもシンプルなものだった。

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

「自分はこの映画を通じて、大切だと思う人をちゃんと大切にすることの大事さを学びました。もちろん悟とナナは人間と猫という関係で、動物が本当は何を考えているのかは、人間には分からないのかもしれません。でも、少なくとも悟は心からナナを信頼している。それが大事なのかもしれないと。こちらが心から信頼すれば、相手にも伝わって、信頼してくれるようになる。そうやって築き上げた信頼関係は、一生モノだと思います」

感情に振り回されないコツは“主観”で物事を見るのをやめること

悟は、どんな悲しみにも心を惑わされることなく、いつもフラットだ。マイナスな事態に直面したとき、どうそれを受け止め、自分をコントロールするかは、心穏やかに生きていくためには必要なこと。福士さん自身は、ネガティブな状況や心の平穏を乱される局面に対して、どう処しているのだろうか。

「そこは悟と似ているなと思うところです。自分もあまり人に当たったりすることはありません。まず怒ることもないですし、必要以上に落ち込んだりもしないんです」

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

ストレスやプレッシャーに晒されることが多い現代社会。なるべくニュートラルでいたいとは思うものの、そうはいかないのが現実だ。心の均衡を保つために、福士さんが意識していることは何だろう。

「主観で物事を見るのではなく、常に客観的な自分を持っていることでしょうか。何か問題が目の前にあったとき、それをどう捉えるかで認識は変わると思うんです。相手の目線に立ってみてもいいですし、第三者の視点から見てみてもいい。見方を変えるだけで、自分が問題だと思っていたことが問題じゃなかったり、意外と大したことじゃなかったりすることがあるんです。目の前のことを多面的かつ客観的に見ることは大事だと思います」

視野が狭くなると、つい物事を過敏に受け取ったり、被害者意識に陥りがち。まずは一度深く息を吐く。その上で、少し引いた視点から自分の状況を観察する。それが、制御不能な感情の波に呑みこまれないようにするための、福士さん流のメンタル術だ。

だが、そんな聡明さもさることながら、何より福士さんらしいと思ったのは、どうしてフラットでいようとするのか、その根底にある心がけの部分だった。

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

「そうやって気持ちに振り回されずにいた方が、周りも気持ちがいいと思うんです。露骨に嫌な顔をしたり、不機嫌な態度を見せても周囲に気を遣わせるだけですから。常にフラットな自分でいた方が、周りも気持ちいいでしょうし、仕事もしやすいと思います」

そう控えめに話す姿に、福士さんがこれだけ多くの監督や現場から求められる理由のひとつが見えた気がした。自分の感情に振り回されず、常に周りのことを考え、行動する。ストレスやモチベーションに左右されないフラット思考が、信頼につながり、次のいい仕事へとつながっていく。

福士 蒼汰(ふくし・そうた)

取材・文/横川良明 撮影/赤松洋太 協力:ZOO動物プロ


【映画情報】
映画『旅猫リポート』2018年10月26日(金) 全国公開

■原作:有川浩 『旅猫リポート』(講談社文庫)
■出演:福士蒼汰、高畑充希(声の出演) ナナ
広瀬アリス 大野拓朗 山本涼介
前野朋哉 田口翔大 二宮慶多 中村靖日/戸田菜穂
橋本じゅん 木村多江 田中壮太郎 笛木優子
竹内結子
■監督:三木康一郎
■脚本:有川浩、平松恵美子
■音楽:コトリンゴ
■企画・配給:松竹
>>公式サイト
©2018「旅猫リポート」製作委員会 ©有川浩/講談社