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DEC/2018

パニック障害、父親のゲイビデオ出演、バイセクシャル。漫画家・トミムラコタが「全部描いちゃえ」と思った理由

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立ち直る、立ち上がれる、何度でも。
再生する女たち

人生100年時代。長い長い人生は、楽しいことばかりではない。時には「もう無理」と嘆きたくなるような、つらい時期もあるかもしれない。でも、私たちは必ず、立ち直ることができる――。それを証明してくれる、女性たちの姿を紹介しよう

イラストレーター・漫画家のトミムラコタさん。ゲイビデオに出演したという父親からの告白を描いた『実録!父さん伝説』(イースト・プレス)で漫画家としてデビューし、現在は『週刊ヤングマガジン』(講談社)で『ギャルと恐竜』を連載中。そんな彼女のこれまでをキーワードで羅列すると、とんでもなく波乱万丈に思える。

「父親がゲイビデオに出演」
「親が自己破産して東京に出稼ぎ引っ越し」
「新卒で入社した会社が倒産寸前」
「20歳で結婚・出産、25歳で離婚をしてシングルマザー、28歳で再婚」
「産後にパニック障害になり引きこもり生活」
「バイセクシュアル」
……etc

「さぞ苦労したでしょう?」と人から言われることは多いというが、「挫折とか、苦しいとか、そんなにないんですよ」と本人はあっけらかんとしている。“悲劇を悲劇と思わない”コタさんのこの飄々としたスタンスは、どのように確立されていったのだろうか。

トミムラコタ
イラストレーター・漫画家
トミムラコタさん

1990年生まれ。沖縄出身。東京都立工芸高等学校デザイン科卒後、デザイン事務所、Web制作会社を経て、現在はフリーで活動中。ゲイビデオに出演したという父親からの告白を描いた漫画がTwitterで話題になり、『実録!父さん伝説』(イースト・プレス)で漫画家デビュー。現在はふんわりジャンプで『ぼくたちLGBT』、『週刊ヤングマガジン』で『ギャルと恐竜』を連載中
トミムラコタHP
■Twitter:@cota0572

「外出するのがこわい」産後のパニック障害で引きこもりに

「21歳で出産して25歳で離婚」とか、「親が自己破産して東京に出稼ぎに来た」とか、それぞれのポイントで私なりに悩んではいたと思うんです。でも、父親が借金で苦しんでいた姿も見ているし、それと比べれば自分の問題なんて大したことじゃないって思っているのかもしれません。

強いて言えば、20歳の時に結婚した元夫の家族と同居をしていた時期はつらかったかな。娘を出産する少し前から同居を始めたのですが、いろいろと環境が変わったこともあって、産後にパニック障害になってしまいました。お義父さんもお義母さんもすごくいい人だったし、今も仲が良いんですけど、当時は自分のバランスが崩れちゃったというか。いい人たちの仲間に入れてもらったからこそ、その中でちゃんとできない自分に自己嫌悪だったんですよね。

思い切って引っ越しをして元夫と娘との3人暮らしになってからも、日々てんやわんや。フリーランスでイラストを描いていましたが、子どもは保育園に入れないし、夫は会社員で家にほぼいないし、自分はパニック障害だし、ますます切羽詰まっていきました。

症状が大きく出るようになると、「死ぬんじゃないか」って思うぐらいの息苦しさが10分ぐらい続くようになりました。それが頻繁に起こるようになったら、「もし外出中にこうなったらどうしよう」って思う癖がついちゃって。電車に乗れないし人混みにも行けないし、1年間くらい家に引きこもっていた時期もありました。家の中では元気なんですけどね。

当時は病気に対する知識がなかったので、何となく病院に行かなかったんです。ネットには「精神科の薬はやばいぞ」みたいな不確かな情報が多いし、心療内科に漠然と怖いイメージを持っていたんですよ。でも、ふと思い立って近くの病院で薬をもらったら、私の場合はすぐ症状が軽くなりました。「なんだ、全然外出られるじゃん!」ってそれで気付いて。ちゃんとお医者さんで処方されたものを飲めば、パニック障害は改善するんだって思いました。当時の自分には、「一刻も早く病院に行け!」ってアドバイスしたいですね(笑)

離婚=失敗とは限らない。世間の目も気にならなかった

その後、25歳で元夫とは離婚しました。バンドでよくある、「音楽の方向性の違いで解散」みたいな、からっとした雰囲気の離婚でした。お互いちょっと違うのかもなぁと思っていたので、それなら「若いうちにそれぞれの道歩んじゃおうぜ!」っていう。当時、大きなイラストの仕事が入ってまとまった収入も見込めていたので、「これなら私の稼ぎで子どもを育てられる」って思えたことも離婚を後押ししてくれました。

もちろん、当時3歳だった娘のことはすごく考えました。経済的には問題なくても、やはり父親と離れて過ごすことがどう影響するのか分からなかったので。でも、その時ちょうど、私の両親と兄夫婦が住んでいる一軒家に引っ越すことに。元夫は仕事が忙しくてほとんど家にいない人だったのですが、今は私の父や兄が娘をあやしてくれています。時には、お風呂上りに全裸で登場して娘を笑わせてくれることも(笑)。前よりも賑やかな環境になったので、そういう意味でこの選択は良かったのかなと思います。

世の中では、一度離婚した人のことをバツイチって呼んだり、「失敗」みたいな言われ方をすることが多いですよね。でも、それってどうなんでしょうね? 私は沖縄出身なのですが、沖縄って全国的に見ても離婚率がすごく高いらしくて、私の親戚にも離婚している人は普通にいます。「離婚なんてよくあること」くらいのイメージだったから、他の人の目は気になりませんでした。

それから3年が経ち、28歳になった今年、再婚をしました。今回の結婚には、「今度こそ大丈夫だ」っていう確信がありました。離婚を経験して自分が夫や家族に求める価値観も明確になっていたから、「間違いない」って思えたんです。小さいころから母親に「結婚は勢いだ!」って言われていたこともあって、最初の結婚はフィーリング重視でしちゃったんですけど。まぁ、やっぱり20歳の判断でした(笑)

例えば、「フリーランスとして、もっと仕事を頑張りたい」って言った時、元夫は「応援してるよ」って言ってくれたんです。でもそれは「頑張れ!」って言うだけの応援だった。つまり、「君が家のことを全部ちゃんとやった上で、自分の仕事も頑張ってね」ってことだったんです。それは元夫が悪いわけではなくて、事前にお互いの価値観を確認しておかなかった二人に問題があったと思います。

一方で今の夫とは、家事の分担やお互いの仕事の助け合いができています。これが本当の応援だよなぁって。そういうのが見極められるようになったような気がします。

父親のゲイビデオ出演、バイセクシャル
あれもこれも、全部描いてしまえ!

父がAVに出ていたことを漫画にしてTwitterに載せたのも、自分がバイセクシャルであることを公言するようになったのも、ちょうど離婚をしたころのことです。

トミムラコタ 父の告白
出典:『実録!父さん伝説』(イースト・プレス)

もともと私は、自分のことや家族の話を人にするのが大好きだったんですよ。恥ずかしい話だったとしても、誰かが笑ってくれるなら、どんどん話したいタイプ。父がゲイビデオに出たっていうのも高校生の時に聞いたんですけど、次の日学校ですぐに友達に話しました。だって、すごく面白かったんです(笑)。うちの家族はみんなすごくお喋りなんですけど、このことだけは「私が18歳になるまで内緒にしよう」と決めていたらしくて。こんなビッグニュースを言わずに我慢していたかと思うと何だか可笑しくて。漫画にも描いたんですけど、父の告白の仕方もちょっともったいぶった感じで、めっちゃウケるなと思って(笑)。

飲み会でも父のことはネタとしてよく話していたんですけど、そこで知人の編集者さんに「コタさんそれ漫画にした方がいい」って言われて。離婚前は元夫の家族のことが気になって描けなかったんですけど、離婚したら「描いちゃえ」って思えた。

バイセクシュアルであることもそうです。付き合った割合は男性の方が多かったから公言する必要もなかったし、気恥ずかしさもあった。でも、エッセイ漫画は自分に向いているのかもって感じていたので、「じゃあ描いてしまえ」っていう感じ。

トミムラコタ 僕たちLGBT
出典:『ぼくたちLGBT

振り返ってみると、「何でもやろう」って思えるようになったのは離婚がきっかけだったかもしれません。「周囲に迷惑掛けちゃうかな」とか気にすることがなくなって、前向きになったというか。小学生のころから漫画家になりたいという思いはあったけど、それはあくまで「夢」でしかなかった。離婚したタイミングで思い切って漫画を描き始めたからこそ、今があります。

他人からすれば私はモブに過ぎない。だから自分をさらけ出せる

漫画に描くことで、自分のことをいろいろさらけ出してみて分かったことがあります。それは、何かをカミングアウトしたところで、人は他人のことなんてそんなに気にしていないということ。他人からすれば、私はその人の世界の中の“モブ”に過ぎない。モブのキャラクターが何をしたところで、関係ないんです。

私にとっては激やばだった父親からの告白をTwitterに載せたって、他人からすれば流れていくタイムラインの中の一つに過ぎません。もし気になったとしても、1週間後には忘れているんじゃないかな。投稿した人についてずっと考えているなんて、まずないじゃないですか。せいぜい、「へー面白い人がいるな」くらいで終わるはず。

ありがたいことに、私の漫画にはプラスのコメントを寄せてくれる人も多いです。「笑えました」って感想をもらえるのは、本当にうれしい。こういう仕事をしていると、たまには落ち込むような批判コメントが来ることもあるんですけどね。そういうときは、自分が尊敬しているエッセイ漫画家の方の2ちゃんねるのスレッドを見に行きます。そこにも、びっくりするくらいひどいコメントが付いているんですけど、「こんなに面白い人でも、これだけ言われる世界なんだから、仕方ないよな」って、思えるので(笑)。誹謗中傷も大して気にならなくなります。

今の夫のご両親は、初めて会った時から私のエッセイ漫画を全部読んでくれていました。あんなに下ネタいっぱいの漫画を……っていう恥ずかしさはあるものの、まぁいいかって。これが私だし。もう怖いものもない。何を描いても大丈夫だなっていうスタンスなので、気楽ですね。

今年の秋には昔から読んでいた『週刊ヤングマガジン』で連載ができるようになりました。

トミムラコタ 僕たちLGBT
出典:『ギャルと恐竜』(講談社)

昔からの夢だった漫画家に、ようやくなれたんだって実感しているところ。自分の漫画を雑誌で見ると、やっぱり嬉しくなりますね。

今後も引き続き、大好きな家族と仲良く過ごして、自宅でマイペースに仕事をしていくのが私の理想。家族は相変わらずめちゃくちゃおしゃべりだし、しばらくネタには困ることはなさそうです(笑)

取材・文・構成/天野夏海 

『特集:再生する女たち』の過去記事一覧はこちら

>> http://woman-type.jp/wt/feature/category/saiseiをクリック

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