最高峰の接客スキルが磨かれるフレグランスアドバイザーとは? “香りのプロ”が見せた仕事への本気度
コスメ業界で、接客・販売の仕事を長く続けていくのは難しい――。
販売職の仕事にそんなイメージを持っている人は多いかもしれない。だが、そんな固定観念を覆すのが、香水をはじめとする各種ファッションアイテムの輸入・販売を行う株式会社ブルーベル・ジャパンのフレグランスアドバイザーだ。店頭に置かれる100種類以上の香水の中から、来店者一人一人の好み、気分、用途に合わせた香りの提案を行っている。
同社フィールドコーチの朴(パク)さんは、「フレグランスアドバイザーは、長期キャリア形成に欠かせない確かなビジネススキルが身につく仕事です」と言い切る。実際、同社で働くフレグランスアドバイザーの9割は女性だが、産休・育休を経て職場に復帰するスタッフも多い。
ライフステージの変化とともに販売の仕事から放れてしまう女性は少なくないが、なぜ同社のフレグランスアドバイザーは違うのか。ブルーベル・ジャパンで働く新田さん、朴さんの二人に話を聞いてみた。
学びが尽きることはない
香水の奥深い世界に魅了された
高校卒業後、歯科助手として働いていた新田さん。自身の知見を広げるため、3年前に転職を決意。心機一転で選んだ仕事が、ブルーベル・ジャパンのフレグランスアドバイザーだった。香水にはもともと興味があったものの、ラグジュアリーブランドを扱った経験はなく、本格的な販売の仕事をするのも初めて。入社時の研修では数百種類の香水を目の当たりにし、商品知識を身につける難しさに圧倒されたという。
一方で、商品について学べば学ぶほど、香水の“奥深い世界”に魅了されていった。
「特に感動したのは、一つ一つの香水に『物語』があると知った時です。天真爛漫でチャーミングな女性像を表現したものや、知性的で品のある女性を表現したもの、芯の強いタフな女性を表現したものなど、各ブランドがどんな世界観を香りで表現しようとしているのか、もっと知りたいと感じるようになりました」
それと同時に、新田さんが直面したのは、香りという「目に見えないもの」を言語化し、来店者に伝える難しさだった。
「どんな香りをお探しですか? とお客さまに突然伺ったところで、明確な回答が得られることはほぼありません。香りを言葉で表すのは難しいことですから当然です。それに、どんな香りを良いと感じるかは、天候や体調にも左右されてしまいます。そんな中、ご満足いただける1本を見つけて差し上げるのが、難しさでもありやりがいでもありますね」
さわやかな香りが好きか、甘い香りが好きか。甘い香りであれば、お菓子のような甘さが好きか、フルーティーな甘さが好きか。好みを大きく分けるところから始まり、少しずつ具体的な質問を重ねていくのが新田さんの販売スタイルだ。
店頭に並ぶフレグランスは、ボディークリームやボディーソープなども含めて常時100種類以上あるが、「ほぼ全ての商品を自分で実際に使っている」というのも、新田さんならではのこだわり。新作が入れば必ず自分で使って、使用感や香りの変化をチェックし、提案に生かす。
「マニュアルに書かれていることを覚えて『この商品は、こういう香りだそうです』とお伝えするよりも、『私はこの商品を使ってみて、こう感じました』とお客さまに伝えて差し上げる方が説得力がありますよね。だから、ありとあらゆる商品を自分で試す手間は惜しみません」
今後は、「その道のプロとしてさらに知識を深めていきたい」と新田さん。「フレグランスアドバイザーは私の天職。これからも長く続けていきたい」と意欲を語った。
「スキルアップ環境」「心理的安全性」
女性が長く働ける会社、2つの条件
「香りのプロ」の育成を担うのが、同社フィールドコーチの朴さんだ。前述の通り、フレグランスアドバイザーは、目に見えず言葉にしづらい商品を扱うからこそ、「販売職としての高いスキルが問われる」と話す。そのため、新作商品が入れば勉強会を開いて情報共有をしたり、時には提案スキルを向上させるための研修を行ったり、学びの機会を多数設けるようにしているという。
「多くのアドバイザーがぶつかるのが、語彙力の壁です。『セクシー』という言葉も、つやっぽい、色っぽいなど、いろいろな表現に置き換えることができ、それぞれ与える印象に違いがありますよね。微妙な香りの違いをも適切な言葉でお客さまに伝えられるよう、自分の中に表現のバリエーションを増やす鍛錬が欠かせません。私が実践して役に立ったのは、飲食店などに行った時にワインリストなどに目を通すこと。味わいや香りの特徴について、非常に豊かな表現で書かれていて参考になります」
そう言って穏やかに微笑む朴さんの胸には、ブルーベル・ジャパンが設けた独自資格である『パルファムソムリエール』のバッジが光っている。
さらに、フレグランスアドバイザーが長期的にキャリアを築いていく上で欠かせないことは、職場に心理的安全性が感じられることだと朴さんは話す。
「1日約8時間、家族よりも長い時間を過ごすのが、職場の同僚たち。仕事に来るのが楽しみ、職場の仲間が大好き、そう感じてくれる人を一人でも多く増やしたいです」
店舗には頻繁に足を運び、フレグランスアドバイザーとコミュニケーションを取る。一人一人の個性を把握し、悩み相談にのるなど、適切なケアを心掛けているそうだ。
同社に入社する前から大の香水好きだったという朴さんは、いま、仕事を通じて「成し遂げたい夢がある」と目を輝かせる。それは、日本において、香りを楽しむ文化をもっと根付かせることだという。
「海外と比べて、日本ではまだ日常的に香水を楽しむ方はそう多くないのが現状です。でも、自分が好きな香りをまとうだけで、気分が良くなったり、自分に自信が持てたり、変化を味わうことができます。そんな体験をしてくれる人が、一人でも増えるように。この、伸び代しかない領域で、新しいカルチャーをつくっていきたいですね」
今後ますます伸びていくことが予想される、フレグランスのマーケット。成長するビジネスの現場に身を置きながら、信頼できる仲間と一緒に最高レベルの接客・販売技術を磨き、専門知識を深めていく。販売職として活躍し続けていきたい人にとっては、新たな可能性を感じられる現場だと言えるだろう。
取材・文/中村英里 栗原千明(編集部) 撮影/洞澤佐智子(CROSSOVER)