「心身ともに健康であれば、仕事もうまくいく」PwCのWellbeingに見る、働き方改革を実現するためのヒント
働き方改革が注目されるようになって数年がたつが、まだまだ長時間働くことが是とされる会社もある。時代は変わろうとしているのに、なかなか変わらない社会にため息をつきたくなる人もいるかもしれない。
一方で、働く個人である私たち自身が「働き方改革=社会や会社がなんとかしてくれるもの」と思ってはいないだろうか。働き方を変えていくためには、個人の意識改革もきっと必要だ。そのヒントを、長年、人事の第一線でさまざまな働き方を見てきたPwC Japanグループで人事部門のディレクターを務める福井泰光さんのお話から探る。
デジタルツールを活用して「自分への投資」の時間を生み出す
人事ディレクターとして長年さまざまな企業の取り組みを見てきた福井さん。PwC Japanグループ(
以下PwC)では、オフィス環境とテクノロジーの整備、そしてさまざまな制度を通じて、多様なライフスタイルを可能にする働き方改革の推進に携わっている。例えば、テクノロジー面では、各オフィスで Google の機能を生かせるインフラの整備、スマートフォンへのさまざまな機能の搭載などにより、業務のデジタル化を推進。また、制度面では、時短勤務、コアなしフレックス、リモートワークなど柔軟な働き方を支援する制度や施策を導入。より働きやすい環境の整備に尽力してきた。
「働き方改革に関連する制度については、特にコーポレート部門(バックオフィス)のスタッフは積極的に利用しており、従業員満足度も格段に上がっています。フロント業務に携わるプロフェッショナルスタッフについては、規模や収益性、アサインされるスタッフの成長につながるかなどを総合的に見極め、プライオリティの高い案件に人的リソースを集中させることで、個々の労働時間を短縮できるよう配慮しています」
次のステップとして現在取り組んでいるのは、デジタルツールを活用して「社員一人一人の時間を生み出す」こと。PwCでは、Google が提供するグループウェアサービス『G Suite』を導入し、職員間のコラボレーションを促進している。場所を問わずミーティングを行うことができるようになった結果として生まれた時間を「自分への投資に使ってほしい」と福井さんは話す。
「デジタルツールを使いこなせれば効率的に働くことができるようになり、新たな時間が生まれます。こうした良いサイクルをつくり、非生産的な時間を、生産的な時間に転換したい。デジタルツールの活用推進を目的に、PwCがグローバル全体で取り組んでいるのが、『Digital Fitness』というアプリ の活用です。今注目のAIやロボティクス、VR・ARなど、約500のコンテンツが用意されていて、スマートフォンでいつでも学ぶことができます」
新しいものは難しくない。変化はチャンスと捉えよう
一方で、会社が制度やツールをいくら用意したとしても、個人が「新しいことは怖いから」「デジタルは苦手で」と拒否反応を示しては、働き方も社会も変わっていくことはできない。
「これから先はもっと変化が激しくなり、5年先がどうなるのかもわからなくなる。そんな世の中で大切なのは、変化に対応するマインドセットを持つことです。新しいものはなんとなく難しそうだと思われがちですが、実はそんなことはありません。慣れていないだけなんですよ。最初は拒否感があるかもしれませんが、変化はチャンスと捉えて積極的に触れていけば、いずれ違和感はなくなります」
変化が激しくなれば、「世の中から正解がなくなり、個人が自分なりの正解を見い出していかなければならなくなる」と福井さん。そんな中で、変化に順応することと同時に重要性が増していくのが、「インテグリティ(誠実性)」だ。
「法律やルールだって絶対ではないし、時代の変化に応じて変わっていくもの。共通のルールやスタンダードが失われていくからこそ、『周囲にポジティブな影響を与えること』『人の強みにフォーカスすること』『高い基準を設けて仕事をすること』など、人として倫理的な行動を取ることがより大切になってきます。これからの時代は、インテグリティのある人が成長し、成功していくのではないでしょうか」
本当の意味での働き方改革は、人生の満足度を高めること
スタンダードがなくなり、「正解は自分が決めればいい」時代になる。そうなった時、インテグリティとともに必要となるのが、自分なりの価値観の軸だ。他の人からの見え方ではなく、自分が満足できる生き方を選択するための軸を持つこと。そのために重要なのが、社会との関わりだ。
「仕事一辺倒だった日本の社会にワークライフバランスという言葉が浸透し、プライベートも大切にしようという風潮になってきた。これからは、そこに“社会との関わり”という3つ目の要素が加わると個人的には思っています。社会といっても大きな話ではなく、友達とのつながりや、地域の人とのつながりといった身近なことでいいんです。会社や仕事以外の人と交流をすることで視野が広がり、自分の存在意義やどうありたいかも確認できる。その中で、価値観の軸が生まれてくるはずです」
「プライベートや社会と関わる余暇の時間が増えれば、結果として仕事もうまくいく」と福井さんは続ける。
「『仕事、プライベート、社会とのつながり』の3つは、相互作用で高まっていくもの。仕事のやり方や働き方の変化に順応するには、新しいものを受け入れる土台が必要です。その土台は社会と関わり、視野を広げることで作られていくもので、社会と関わるためにはプライベートの時間を持つことが不可欠。つまり、仕事以外の2つの満足度を高めることで、確固たる価値観や生き方の軸ができ、結果的に“良い仕事”として還元されるのです」
“Be well, work well”(心身ともに健康であれば、仕事もうまくいく)。これは、PwCのWellbeing(心身の幸福)のベースとなる考えだ。そのためにも、「従業員一人一人が心身とも健康で、高いモチベーションで仕事に取り組めるような環境づくりを今後もしていきたい」と福井さんは語る。
「デジタルツールを活用し、新たな時間を生み出すことで、『仕事、プライベート、社会とのつながり』を積極的に持てるような環境を作りだす。そうしてそれらの相互作用を高め、人生の満足度を高めることが、本当の意味での働き方改革なのだと思います」
取材・文/石川香苗子 編集・構成/天野夏海 撮影/赤松洋太
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