【ハヤカワ五味】「なぜ可愛いナプキン使うしかないんだろう」生理用品開発に乗り出した理由

ハヤカワ五味さんが今、生理用品の開発を進めている。ハヤカワさんは株式会社ウツワの代表取締役として、これまでランジェリーブランド『feast』やワンピースブランド『ダブルチャカ』などを手掛けてきた。そんな彼女が、なぜ今、生理用品なのだろう。その根底には「生理のカルチャーを変えたい」という志があった。

ハヤカワ五味

株式会社ウツワ 
代表取締役社長
ハヤカワ五味さん

1995生まれ。東京出身、多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。“キュ~トでクレバ〜な経営者”。高校時代からアクセサリー類の製作を始め、プリントタイツ類のデザイン、販売を受験の傍ら行う。大学生になって立ち上げた胸の小さな女性のためのランジェリーブランド『feast by GOMI HAYAKAWA』は「品乳ブラ」として一躍有名に。2015年に株式会社ウツワを興し、代表取締役に就任。2017年にはワンピースブランド《ダブルチャカ》を立ち上げる。複数回に渡るポップアップショップの後、2018年にはラフォーレ原宿に常設直営店舗《LAVISHOP》を出店。AbemaTV『Abema Prime』、『モーニングCROSS』、TOKYO MX『モーニングCROSS』などの番組にも出演中
■Twitter:@hayakawagomi  ■YouTubeブログ

生理も生理用品も、時代は変わっているのにアップデートされていない

ずっと生理用品には課題を感じていて、漠然と商品開発をしたいと思っていました。日本全体としても生理用品に対する熱量が上がっていますし、また、自分としても一番自分の力を発揮しながら社会に還元できる働き方を考えていたところなので、良い機会だと思っています。そんな中で、本格的に取り掛かり始めたのが昨年末のことですね。

私が変えたいと思っているのは、生理のカルチャー。フラットなデザインの生理用品を作って、生理を恥ずかしいと思ったり、話しづらく感じたりするカルチャーを変えていきたいんです。生理も生理用品も、時代は変わっているのに文化的側面だと大きくアップデートされていません。

今は、使い捨てナプキンの他に、布ナプキンやタンポン、月経カップ、新型生理用品、関連するところでピルなど、それぞれの商品化の可能性を検討している段階。新型生理用品に関しては今年の秋くらいまでにはリリースできそうな見込みが立ってきましたが、既存業者の強い使い捨てナプキンやタンポンに関しては工場が見つからなかったり、取引を断られてしまったり、心が折れそうになるぐらい高い壁があることを日々痛感しています。

ハヤカワ五味

とはいえ、ワーワー騒いで「また女性が感情的になって何かやってるよ」みたいな感じになってしまったら、結局は「女性はヒステリック」というバイアスを強くすることの繰り返しになってしまう。提携したい企業や工場に動いてもらうためには、皆が理解できるように、「なぜ今、生理のカルチャーを変えなければいけないのか」を冷静に伝えることが必要です。そのために、生理に関する歴史や文化、宗教などの背景を理解すべく、一通り勉強をしました。

そうして分かったことは、 まず「生理=恥ずかしいこと」という文化の背景。歴史を辿れば、ある意味必然性があったということです。たとえば、多くの宗教で生理は穢れとされてきました。というのも、医療が発展していない時代の認識は、「血が出る=怪我」だったんですよ。突然体内から血が出ることはすごく不思議だっただろうし、「血=病気を媒介するもの」として避けようとする生物的な本能も働くので、怖くて危ないものだった。穢れとして避けようとする判断には、必然性があったと思います。

ハヤカワ五味

ただ、これだけ医療が発展して生理や血液の仕組みが分かってきた今、その価値観だけが形骸化し残り、変わっていないのはしんどいですよね。

また、昔は女性の寿命が短い一方、出産回数が多かったため、生涯の生理の回数は今より少なかったんです。明治時代の女性が生涯で生理になる回数は推定50回程度と言われていて、そう頻繁に起こることではなかった。最初のナプキンが日本国内で発売されたのは1960年頃と、国内での生理用品の歴史は意外と浅いんですけど、その背景には生理になる回数の違いがあります。今ほど生理用品を使う頻度は多くなかったし、必需品ではなかったわけです。

一方で現代の女性は、子どもを産む回数は減って、寿命は長くなって、さらに初経は早く、閉経は遅くなっている。生涯の生理の回数は約450回と大幅に増えて、毎月1/4ぐらいは生理期間なわけです。つまり今この瞬間、単純計算で“生理がある人”のうち、25%は生理中。そういう事実があまり認知されていないと感じます。

日本の生理用品の性能はすばらしい。ただ、あまりにも多様性がなさ過ぎる

こうした変化があっても、今や生理用品は必需品ですから、時代に合わせて進化せずとも売れてしまうんですよね。日本の生理用品の性能の高さはすばらしいですが、既存の生理用品にはあまり多様性がない。そこに課題を感じています。

まずはデザイン。ランドセルの色が自由に選べるようになった今の時代にも、生理用品は女性へのステレオタイプが固定化されています。生理用品を買うことが恥ずかしいと思う人が多いのも、もしかしたらデザインが助長しているかもしれない。花やハートを押し付けられてしまうのは、今の時代には適していないのではないでしょうか。

ハヤカワ五味

とはいえ、既存の生理用品を否定したいわけではありません。課題を感じているのは、あくまでも選択肢の少なさです。ガーリーな生理用品に元気づけられている人がいる一方で、トランスジェンダーのように、体は女性だけれど、心は女性じゃない人もいる。生理になる人が必ずしも「女性」だけじゃないっていうのは、今考えるべきことなのかなと思います。

こういう話がどうして生理用品を出している既存企業から出てこないのかというと、決裁権を持っている人が男性であることが大きいと思っています。下着業界もそうだったんですけど、「女性はピンクが好きだろう」「生理が来るのは女性のみに決まっている」など、男性がイメージする女性像で製品が作られてしまっているところがある。デザインを通じてお客さまとどういうコミュニケーションを取るのかという視点が抜けているように感じます。

生理用品の種類という点でも、ほとんどの女性にナプキン以外の選択肢がありません。たとえばタンポンの使用率は、アメリカが30~40%なのに対して、日本は8%程度。私はタンポンユーザーなんですけど、「めっちゃ楽だよ」って友達に話しても、「よく分からないから使ったことがない」っていう子が多いんです。

嫌だから使わないのは一つの自由ですけど、よく分からないから怖いと感じている人が踏み出せるような選択肢は準備しておきたい。そう思って、情報発信をするための土壌として最近YouTubeを始めました。

今後はそれぞれの生理用品の特徴や利点なども発信していって、もう少しフレキシブルに生理用品が選べるような状況にしていけたらと思っています。

女性の中でも「それぞれの生理が違う」ことが理解されていない

生理への考え方は、人それぞれ違います。正解はないはずなんですよ。だから今回開発中の生理用品をきっかけに、議論が巻き起こるといいなと思います。意見交換がなされて、それぞれの人が「何が最適なのか」を考えることができたら、社内の人やパートナーとの関係も良くなるんじゃないかな。

もちろん生理のことを話さない自由もあって、全員がオープンにすべきだとは思いません。話したい人が話せるようになればいいと思うんですよ。

たとえば生理を恥ずかしいことだと思っていなくても、職場で「生理がつらいから休みます」って伝えられない人はいる。止むを得ず嘘をついて、「あの子また休んでる」みたいに言われちゃうような、そういう状況はなくしたいなと思います。

ハヤカワ五味

生理の女性を気遣いたいものの、どうしていいか分からない男性もたくさんいます。女性にも同じことが言えますが、そもそも生理の仕組みを知らない人はとても多い。これまでは男性と女性でキャリアも分けてきたけれど、今は混ざっているわけじゃないですか。それなら男女がお互いの体の仕組みを当たり前に知れた方がいいですよね。

今は過渡期で、女性の中でも「それぞれの生理が違う」ことが理解されていないように思うんです。実は私は生理が軽くて、波もない方で。だから仕事ができているなって思う部分も正直あって、とはいえ会社にはしんどい思いをしている女性もいます。

私みたいな人は、生理で会社を休むなんて理解できないし、「薬飲めばいいじゃん」って思っちゃう。でもそういう人が上司だと、生理が重いメンバーはすごくつらいですよね。「私はできているんだから」っていう、女性同士のマウンティングみたいなものが今はある気がするんですけど、それでは誰かが不幸になってしまう。

「生理はこういうもの」って一括りにせず、一個人の特性という扱いになっていけばいいし、そうやって性別によって選択肢が減るようなことは、男女共になくしていきたい。

大きく言えばそういうところも含めて、開発中の生理用品が現状を変えるムーブメントの初っ端を担えたらいいですね。じわじわと「生理のことを話すのは嫌だな」っていうカルチャー自体を変えていって、私よりも下の世代が風邪のことを話すくらいの感じで、当たり前のように生理のことが話せるようになるといいなと思います。

取材・文・構成/天野夏海  撮影/洞澤 佐智子(CROSSOVER)