犬山紙子×新居日南恵×ハヤカワ五味が語る「仕事と子育ての両立への不安」への対処法
女性が出産後も働くことが当たり前の社会になってきたとはいえ、仕事と子育ての両立への不安は未だ絶えない。
「実家が遠くて頼れる人が近くにいない」
「パートナーはどのくらい協力してくれるんだろう」
「不安な気持ちを誰に相談していいの?」
“いつかは子供を”と思っていても、なかなか踏み切れない働く女性は少なくない。そんな、出産の不安を解消するヒントとなるトークセッションが、認定NPO法人フローレンスとFASHION CHARITY PROJECT主催のチャリティーイベント『the Gift』で1月27日に行われた。

写真左:株式会社ウツワ 代表取締役
ハヤカワ五味さん
高校時代から創作活動を始め、大学生になって立ち上げた胸の小さな女性のためのランジェリーブランド「feast by GOMI HAYAKAWA」は「品乳ブラ」として一躍有名に。2015年に株式会社ウツワを興し、代表取締役に就任
写真中央:株式会社manma 代表取締役社長
新居日南恵さん
2014年「manma」を設立。15年より学生が子育て家庭の日常生活に1日同行し、生き方のロールモデル出会う体験プログラム「家族留学」を開始。内閣府「結婚の希望を叶える環境整備に向けた企業・団体等の取り組みに関する検討会」構成員。日本国政府主催WAW!(国際女性会議)2016/2017 アドバイザー。NewsPicksプロピッカー
写真右:イラストエッセイスト
犬山紙子さん
1981年生まれ。仙台市の出版社でファッション誌の編集を経験した後、家庭の事情にて退職。6年間、東京でニート生活を送りながら書いたイラスト・エッセイのブログがきっかけとなり、2011年、『負け美女 ルックスが仇あだになる』(マガジンハウス)を出版。現在、TV、ラジオ、雑誌、Webなどで活躍中。最新著『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)が話題
登壇者は、著書『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)が話題を呼んだイラストエッセイストの犬山紙子さん、「家族留学」を通じて生き方のロールモデルを学ぶ機会を提供する株式会社manma代表取締役社長の新居日南恵さん、シンデレラバスト向けランジェリーブランド『feast』で知られる株式会社ウツワ代表取締役のハヤカワ五味さん。3人が語った、出産、育児、家族、仕事への向き合い方とは。
「仕事と子供の世話」は思った以上に切り離せない。 “家族留学”を経験して知った両立家庭の現実
犬山紙子さん(以下、犬山):まずは「manma」で行っている家族留学について新居さんにお話を伺ってもいいですか?
新居日南恵さん(以下、新居):家族留学は大学生から社会人3年目ぐらいまでの「これから結婚したい」「子供を産みたい」と思っている人に向けたプログラムです。実際に子育てと仕事を両立している家庭での1日体験を通じて、両立への不安を解消することを目的としています。

犬山:仕事と子育ての両立に不安を感じている人はたくさんいるし、私も出産前はめちゃくちゃ不安に思っていました。先に疑似体験できるのはすごくいいことですね。
ハヤカワ五味さん(以下、五味):私は実際に家族留学を体験してみました。自社のスタッフから出産報告があったんですが、私自身結婚も出産も経験がなかったので、彼女たちのために何をしていいか分からなかったんです。それなら「自分が体験してみよう」と思って、2つの共働き家庭に伺ってみたんです。
「行かないと分からないことはこんなにあるんだ」っていうのが、体験後の率直な感想。何となく仕事と子供の世話は切り離せるでしょ? って思っていたんですけど、実際は家事をしていても仕事をしていても、子供は話し掛けてくるし廊下を走り回っている。いい意味でも悪い意味でも、自分の想像とは全然違う生活がそこにあることに気づけました。
新居:受け入れ家庭の多くは、結婚や出産を目前にした時、誰に不安なことを相談していいか分からないという経験をした方が多いです。「私たちもこういう機会が欲しかったから受け入れます」っておっしゃってくださる方が多いですね。
“出産後のパートナー嫌い”は、「自分主語」の対話で解決
犬山:私は妊娠前にいろいろな本を読んだり直接人に話を聞いたりして自分の不安を何とか解消しようとしたんですよ。結果的に、「夫との関係性がめっちゃ大事」ってことを実感しました。
いろいろな人にヒアリングしていくと、「夫が嫌い」っていう声が女性たちからめちゃくちゃ挙がるんですよ(笑)。育児にどれだけ携わって、家事をどれだけ分担できているかが大切なんですよね。
二人の子なのに、育児は女性任せで全然助けてくれない夫だったら、そりゃあ嫌いになっちゃう。
だから、結婚前の段階で「将来子供を持ったときに家事と育児をどういう形でするのがフェアか」っていう話をしておくことが夫を嫌いにならずに済むコツですね。
それはもちろん、子育て不安の解消にも繋がります。心強い協力者がいれば大丈夫って。
五味:あと、夫側は「オレだって家事やってるじゃん」って意識があるけど、その「やってあげてる感」が嫌っていう妻側の話もよく聞きますよね。やって当然のことなのに、「十分“手伝ってる”」って言われてもっていう。
犬山:お互い口に出さずに、「察してよ」と思っていることも多いのかもしれない。でも、しっかり言葉にしないと分からないっていうのはすごく感じていて。
以前、『子どもが生まれても夫を憎まずにすむ方法』(太田出版)っていう本で読んだんですけど、「何でやってくれないの!?」って怒りをぶつけるんじゃなくて、「私はこういうことをしてくれると嬉しいよ」という感じで、自分を主語にして話をする方が状況改善には効果的だというのを読んでなるほどなと思いました。

新居:今は家事分担を可視化するツールが出てきていますよね。あとは記入していけばお金や将来のことを一通り考えられるようになっているノートもあります。
会社でも一つの組織でトラブルがないことはまずないじゃないですか。同じように家庭を会社のような「組織」だと捉えるような考え方が広がってきていると感じています。
犬山:家事分担の可視化、すっごい大事だと思う! 「私はこんなにやってる」「俺はこれだけやってる」っていう感覚が、妻と夫でいかに違うかっていうね(笑)。
話し合いすらできない夫婦も多いから、そういうツールを使うことできっかけがつくれると話しやすいですよね。
新居:これは弊社の事例ですが、最近はカップルで家族留学をする人が増えてきて、そのうち2組が婚約したんですよ。
それぞれ育ってきた家庭は違うから、家庭へのイメージってバラバラじゃないですか。
でもカップルで一つの家庭を体験したら、「〇〇さんの家のここが良かった」っていう風に、お互いの目指したい家族像が共有できたみたいなんです。そういう共通イメージが持てれば、パートナーを嫌いにならずに済むのかも、と思います。
犬山:確かに、「うちのおかんはこうだった!」みたいな一方的な価値観を押し付けるような話はケンカになりがちですよね(笑)
子育ては「人に頼らないとできない」という前提でOK
新居:家族留学の受け入れ家庭の方がよくおっしゃるのが、「今は全部自分たちでやらなくていい時代」ということ。
全て自分がやらなきゃいけないと思っている方は多いですが、ベビーシッターをお願いするとか、家事を外注するとか、手段はいろいろある。
こういうサービスにお世話になってもいいんだ!って思ったら、気が楽になるという話をしてくださるご家庭は多いです。
犬山:「家事のためにお金払うの?」って思うかもしれないですけど、それ以上のリターンがあるんですよね。
私の場合は空いた時間で美容院に行ったり、ゲームができたり、自分のための時間を確保します。それに部屋がキレイになっているとすごく気持ちが良くて、本当にリフレッシュできるんですよ。
お母さんに心の余裕があると、家族だって得られるメリットは大きいはず。

五味:家事をアウトソースするっていう選択肢があることを出産前から知っていれば、気が楽になるなと思いました。仕事を頑張りたくなったときの選択肢はいろいろありますね。
犬山:子どもが小さいときは実家の側に住んだ方がいいのか、出産前に結構悩んだんですよ。でも、調べてみると便利なサービスはたくさんあるんですよね。
そういうものを使って、案外両立できているなっていう自信が持てた。
社会はまだまだ「あなた、お母さんなんだから……」って母親を責める仕組みになってしまっていると感じますが、子育ては「人に頼らないとできない」っていう前提でいいと思うんですよね。
仕事と両立するならなおさらです。
「この子を自分が幸せにしなければ」っていう、ものすごいプレッシャーを多くのお母さんたちが抱えています。それなのに、自分一人で何でも完璧にやろうとしたら、パンクしちゃいますよ。
さっきの夫の話もそうだけど、情報さえ知っていれば、パートナーを嫌いにならずに済んだっていうこともあるかもしれない。インターネットで情報収集するもよし、先輩夫婦に生の声を聞きに行くもよし。自分から情報を取りにいくことって、本当に大事だなと思います。
取材・文・撮影/天野夏海