02 SEP/2019

【犬山紙子】“自分らしさ”を押し殺していた20代を振り返る「自虐・思考停止をやめたら私らしい未来が見えた」

これから進む道、20代でどう決める?
「私の未来」の見つけ方

今、女性の働き方・生き方は多種多様。何でも自由に選べるって素敵だけど、だからこそ、何を選択し、どこに進めばいいのか悩んでしまう。「私らしい未来」は一体、どの道の先にあるんだろう……?
そこで今回Woman type編集部では、さまざまな女性たちに聞いてみました。「私らしい未来」、みんなはどうやって見つけたの!?

今回お話を伺ったのは、イラストエッセイストの犬山紙子さん

犬山さんの20代は、ちょっと特殊だ。親の介護を理由に勤めていた出版社を退職し、6年間のニート生活がスタート。「書くことを仕事にしたい」という希望を胸に、東京と地元仙台を往復しながら自身のブログ更新を続けていた。

犬山紙子

イラストエッセイスト
犬山紙子さん

1981年生まれ。仙台市の出版社でファッション誌の編集を経験した後、家庭の事情にて退職。6年間、東京でニート生活を送りながら書いたイラスト・エッセイのブログがきっかけとなり、2011年、『負け美女 ルックスが仇あだになる』(マガジンハウス)を出版。現在、TV、ラジオ、雑誌、Webなどで活躍中。『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)、『アドバイスかと思ったら呪いだった。』(ポプラ社)など話題作多数

同世代に親の介護をしている人は一人もいない。周りを見渡せば、楽しそうにキラキラしながら働く友人たちの姿が目に映り込む。そんな中、「私は自分らしさを押し殺して20代を過ごしていた」と犬山さんは過去を振り返る。

そんな彼女は今、38歳。仕事に、夫婦生活に、子育てに、遊びだってしっかり楽しんでいる。「母親だからって、仕事と家庭の両立だけっていうのは変じゃない?」と問い掛ける彼女が、今のベストバランスを見つけられたのはなぜだろう? “私らしい生き方”に辿り着いた経緯を聞いた。

今この瞬間を生きることに精一杯。
30代の自分なんて、想像もできなかった

私にとって20代は、母の介護に専念していた時期でした。1カ月のうち3週間は仙台の実家で介護生活。1日のうちの自由な時間は、ヘルパーさんがまとめて来てくれる夕方の3時間でした。あとは、母の食事の世話、オムツの交換、トイレの付き添いなどをしていて、寝不足の日も多かった。

私には姉と弟がいて交代で介護をやっていたので、1週間はまるっと介護を休むかたちをとっていました。これは私にとってすごく特別な1週間。東京で借りているアパートにやって来て、誰にも邪魔されずに大好きなマンガを読んだりゲームをしたり。女友だちの家に集まっては、朝まで飲み明かしたり、漫画家を目指して漫画を描いたり。

すごく派手なワンピースにめちゃくちゃでかいサングラスをして、ドラァグクイーンの友人のお店に遊びに行ったりもしていました。普段自分を抑圧しまくっていたから、弾け方がすごかったです。あの場所のおかげでなんとかやれたのかなとも思います。

犬山紙子

介護して、遊んで、仙台に戻って、東京に出てきて……っていうのを繰り返していたその頃は、先がまったく見えませんでした。「文章や絵で食べていけるようになりたい」という気持ちはあったけれど、今この瞬間を生きることだけで精一杯。だから、将来のことなんて全然考えられなかったし、30代の自分がどう働いているかなんて想像すらできなかったんです。

そんな不安定だった私を支えてくれていたのが、「ブログを書くこと」でした。ふつふつと湧いてくる「表現したい」という欲求を、ブログに全部ぶつけていたんです。

すると、いつの間にかそれがたくさんの方に読んでいただけるようになって、『負け美女』という書籍の出版につながって。それが、29歳の時。それからは段々と仕事の量も増え生活できるようになりました。

仕事を再度始めたことで生活に占める介護のバランスも見直すことに。そのころはもうヘルパーさんがずっと母の側にいてくれていたこともあり、30代は仕事に打ち込んでいます。そうやって、自分が背負いこんでいたものを少しずつ軽くしていって、やりたいことをやって、自分らしい人生を歩めるようになりました。

「仕事と家庭の両立」ってよく聞くけど、「遊び」はどこへいった!?

今、私は夫と娘(2歳)と三人で暮らしています。子育ては大変なこともあるけれど、大好きな二人と過ごす毎日はすごく楽しい。「私らしく生きる」ということも、今が一番実感できているかもしれません。

犬山紙子

介護とはまた違うけれど、母親になったら子育てと仕事だけの生活で、“自分らしい生き方なんて二の次なのでは?” にはしたくなかった。母親が追い詰められるよりは、自分らしく生きていて、幸せそうであることの方が子どもにとっても良いことだと思いますし、母親も人間なので楽しい時間は絶対に必要。だから、どうすれば自分が“私らしく、良い状態”でいられるか、妊娠中に考えてみることにしたんです。

そこから導き出されたのは、「仕事と育児」に加え、「遊びと睡眠」の時間も大切にするということ。趣味にかける時間も、たっぷり眠れることも、私が元気で生きていくには絶対欠かせません。それは、20代の介護の経験の中から分かったことでした。

そこで、夫と私たちのベストバランスを子供が生まれる前に話し合って決めました。育児や家事の分担とか、お金を使って家事を一部アウトソースすることとか、いろいろ議題に上げて。赤字覚悟で子どもが小さい間は家事育児をアウトソースしています。その間のメンタルが健康である方を重要視しました。

ただ、ベストバランスはその時々で変わるので、決めたことをアップデートする必要は常にあり、失敗と見直しを繰り返しているところです。

20代女性は自ら“呪い”にかかりにいかないで

ただ、日本には「女なんだから」とか「お母さんなんだから」とか、そういう考え方がまだまだ根深くて、女性たちは日々の暮らしの中で自分らしさを見失いがち。さっきも申し上げましたけど、「趣味とか睡眠が大事」とか言っていると、「お母さんなんだから、遊びより子育てしろよ」とか横槍を入れてくる人もいます。 でも、そんなの無視でいいと思います。

犬山紙子

それから、「劣化」とか「女の価値」みたいな言葉も全部無視していい。あれは、世の中の男性が女性を吟味するためにかけている呪いです。

今、私は38歳ですけど、私が20代後半だった頃は、「女は若い方がいい」とかそういう社会圧がもっと強かった時代です。だから、そこから逃れるためには自虐するしかなかった。要は、道化となることで、傷つくことから自分を守ってきたんです。

だけど、「アラサーなのに独身の私ってやばくないですか~?」って、自虐で周りを笑わせているうちに、自分のことをどんどん嫌いになっていくし、自信も失っていく。そして、その価値観を周りに振りまいて同じ立場の人も傷つける……。同じような事例をたくさん見てきて、そこから脱却したいと思いました。

「最後は自分でちゃんと考える」
思考停止していては、明るい未来はやってこない

こういう自虐の呪いって、今の時代もまだありますよね。それに抗うのって難しいとは思うんですけど、呪いから解き放たれるために大事なのは、自分自身の視野を広げることです。子育てだって一人一人やり方が違うし、いろいろな人の事例を知り、思考することで自分らしさも見えてくると思います。尊敬できる人、面白い人にとにかく会う。そして多種多様な価値観や思想をインストールしてみてください。

実際、私自身も子どもを産む前に、そういう時間を過ごしました。すると、自分はなんて「井の中の蛙」だったんだと打ちのめされて。それからというもの、人と会って気付いたことを徹底的にノートに書き連ねて、「私ってどういう人間なんだろう」ということを整理しています。尊敬できる人の言葉って大げさでなく自分の可能性を一つ増やしてくれるんです

犬山紙子

じゃあ、生き方の参考になるような人とはどこで出会えるのか。職場、友人、周りを見てもあまり参考になる人がいないと思うなら、「趣味」でつながる人を参考にするのも一つの手です。私の場合はゲームが好きで、ゲーム友達がいるんですが、そういうところに自分とは全く違う人生を送ってきた人との出会いがありました。そして、彼・彼女たちからたくさんの情報や知恵をもらい、自分の視野を広げることができたと感じます。

でも、やみくもに人との出会いを増やせばいいかというとそうじゃなくて。自分らしい生き方を知り、描いていくためには、やっぱりちゃんと、自分の頭で考えていかなければいけません。「思考停止」したままでは、明るい未来はやってこない

人と出会い、視野を広げ、「自分らしさとは何か」を自分の頭でしっかり考えてみる。その繰り返しの中で“私らしい未来”はつくられていくんだと思います。

取材・文/石川 香苗子 撮影/赤松洋太 企画・編集/栗原千明(編集部)

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