「続けなければ分からなかった」女優という仕事からもらった“ギフト”【今月のAnother Action Starter vol.8 女優・中嶋朋子さん】

中嶋朋子

中嶋朋子(なかじま・ともこ)

1971年、東京都出身。「劇団ひまわり」に入り、5歳でデビュー。テレビドラマ「北の国から」で22年にわたり主人公の娘、蛍役を務める。90年に映画「つぐみ」に出演し、ブルーリボン賞助演女優賞など数多くの賞を受賞。98年に結婚し、長男を出産。以後、映画、舞台などで活躍し、実力派女優として高い評価を得る一方で、朗読や執筆、講演、ラジオドラマなどでも独特の感性を発揮している。また、エコロジストとしてのライフスタイルも注目を集めている。

女優としてのテクニックではなく
ひとりの人間として改めて教えられたこと

2013年1月19日(土)より公開される、山田洋次監督の『東京家族』。世界中の映画監督から絶賛されている小津安二郎監督の『東京物語』をモチーフにした、現代の家族の物語だ。

その家族のひとりで、美容院を経営する長女の「滋子」役を演じた中嶋朋子さん。長女らしい仕切りの良さや気の強さ、きつめの口調の端々に隠れている家族への愛情、そして、日常の忙しさから生まれてしまう両親との心の溝を見事に表現している。

「脚本を読み解くというのも大切ですが、お芝居には役柄からにじみ出てくる雰囲気が欠かせません。滋子の場合、美容院の経営というお仕事に対してどんな気持ちを抱いているのか、どういう価値観を持っているのかといったバックグラウンドを固めるために、美容に携わっている人にお話を聞いたり、実際に仕事をお手伝いしながら役を作りました」

役作りは楽器のチューニングに似ていると、中嶋さんは話す。役柄に近づくために、少しずつ自分をチューニングし、その人と自分の人生を重ねていく。たとえば今回の滋子の場合、「話す速度や生活のリズムはもちろん、心拍数まで早くなったかも」とのこと。役作りに入っている時期は、普段の中嶋さんとの違いを敏感に感じとった息子さんに「今度はどんな役をやってるの?」と聞かれることもあるという。

こうしてじっくりと役を育んでいく作業が好きな中嶋さんにとって、3カ月もの時間をかけて丁寧に撮影をしていく“山田組”のお仕事は、とても幸せな時間だった。

「山田洋次監督は、イントネーション1つをとても大切になさる方です。『あぁ』という一言でも、『それだと突き放し過ぎです』などと微細なニュアンスにまでこだわられて。そんな山田組のお仕事を通じて、女優としてのテクニック的な学びだけではなく、ひとりの人間として、他人や自分、空間などと丁寧に真摯に向き合っていく意味を改めて教えられた気がします」

準備し過ぎると固定されてしまうから
ホールドしない姿勢で取り組む

中嶋朋子

「これだけ長く仕事をしていても、役作りって迷うことばかりなんですよ」と、中嶋さんは続ける。

「演技に正解なんてありません。だから、お仕事を終えて『やったね!』なんて満足することはないんです。それどころか、3年ぐらい経って急に『あの役はこうすれば良かった』と気付くこともあります。数年経って似たシチュエーションに巡り合うと、これはあの時のあの役だってひらめくんです。思い出すシチュエーションは、お芝居だったり、何気なく見た映画だったり、母との些細な会話だったり。乗り越えられなかった心残りなことって、引きずっているわけじゃないけど常にどこかに引っかかっているものなんですね。でも思い出したときには、当時の課題についてはクリアになるけど、同時に次の課題が見えてくる。きりがないけれど、それが演技という仕事の面白いところでもあるんです」

人間を演じるからこそ悩む、役柄の在り方。「役」と「演じる女優」は違う人格であるはずだけど、役には必ず、女優その人の生きざまや信念が反映される。そんな女優生活を長く続けてきた中嶋さんは、あるときふと、役作りのアプローチを変えてみようと思った。

「演じるには綿密な準備をしなければならないけれど、し過ぎると不自由になってしまうんです。準備を重ねて結論を固めてしまうと、そのレール上に無いモノが現れたときに、もろくも崩れてしまうんですよね。だから、結論はどこかに任せて、柔軟に受け入れられる余白を残しておく。例えるなら、手を“グー”に握っておくのでなく、“パー”に開いて構える、ホールドしない姿勢が重要なんです。そのことに気付けたのは、長い年月を経たからこそ。続けてきたことで得られた、仕事からもらったギフトだなと思っています」

それまでは、「石橋を叩いて、叩き過ぎて壊してしまうタイプ」だったと笑う中嶋さん。女優としての役作りだけではなく、人間関係も親子関係も、頭で考えがちな完璧主義者だったという。

そんな中嶋さんを変えたのは、息子さんの存在だった。

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